孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チェコ上院議長ら訪台 台湾支持を強めるアメリカの「一つの中国政策」

2020-09-02 23:18:04 | IT AI

(台湾の空港に到着し、台湾の呉釗燮外交部長(右)とあいさつを交わすチェコのビストルチル上院議長=30日【8月30日 毎日】)

 

【チェコ上院議長「私は台湾市民である」 中国は報復示唆】

東欧チェコの上院議長率いる代表団が、中国が自国の領土とする台湾を訪問したことが大きな話題となっています。

 

****チェコ上院議長ら訪台=ビロード革命後最高レベル****

東欧チェコのビストルチル上院議長率いる代表団89人が30日、台湾に到着した。台湾外交部(外務省)は、1989年のビロード革命により、チェコスロバキアの社会主義体制が打倒されて以降、訪台したチェコの代表団としては「最高レベル」と強調。呉※(金ヘンにリットウ)燮外交部長(外相)が空港で一行を出迎える歓迎ぶりとなった。

 

欧州との外交をめぐっては、中国の王毅外相が25日〜9月1日の日程でフランスなど5カ国を歴訪中。台湾が外交関係を結ぶ国はバチカンのみとなる一方、中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」を足掛かりに欧州で影響力を増している。

 

台湾側は外交関係のないチェコ代表団の受け入れをきっかけに、欧州諸国との連携を強化したい考えだ。【8月30日 時事】 

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ビストルチル上院議長は台湾の立法院(議会)で演説を行い、故ジョン・F・ケネディ元米大統領が1963年に西ベルリンで行った演説をなぞらえて、「私は台湾市民である」と述べ、台湾の人々への支持を表明しています。

“チェコ上院議長「私は台湾市民」、立法院で演説 中国の反発必至”【9月1日 ロイター】

 

これをうけて、台湾では「にわかチェコブーム」も起きているとか。

中国の外交攻勢で、台湾との国交を断絶し、中国との関係を持つ国が増加していることや、WHOなどからも中国の反対で締め出されていることなどからすれば、台湾としては外交的に存在を認知されたということで喜ばしいことでしょう。

 

また、おりしも中国の王毅外相がアメリカの対中国包囲網に風穴を開けるべく欧州に向かっている時期に・・・ということでも注目されます。

 

当然ながら、中国は怒っています。

 

****チェコ議長演説に中国猛反発「主権守る意志を見くびるな」****

中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は1日の記者会見で、チェコのビストルチル上院議長が台湾の立法院(国会に相当)で演説したのを受け、「中国の厳正な立場と深刻な懸念を正視し、14億の中国人民による自らの主権と安全を守るという断固たる意志を決して見くびらないよう望む」と猛反発した。華氏は「『一つの中国』原則はチェコの外交政策で、両国関係の政治的な基礎だ」とくぎを刺した。

 

中国外務省は8月31日、秦剛(しん・ごう)外務次官が駐中国チェコ大使に抗議したと発表した。秦氏はビストルチル氏の訪台について「『台湾独立』の分裂勢力と活動を公然と支持して、中国の主権を甚だしく侵害し、中国の内政に乱暴に干渉した」と主張。チェコ側に対して「中国は必ず必要な反応を行い、自らの正当な利益を守るだろう」と報復措置を行うことを示唆した。(後略)【9月1日 産経】

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王毅外相も、「台湾問題で『一つの中国』に戦いを挑むことは、14億人の中国人民を敵に回すこと」だとチェコ上院議員団の訪台に反発。「高い代償を払う」と警告も。

 

こうした中国の報復を示唆するような威圧的な対応には独仏からも批判も出ています。

 

****独仏、中国に「欧州を脅すな」と反論 チェコ上院議員団の訪台で****

中国の王毅国務委員兼外相がチェコ上院議員団の台湾訪問を受けて報復を警告したことに対し、フランス外務省は1日の声明で「欧州連合(EU)の一員に対する脅しは受け入れられない。われわれはチェコと連帯する」と批判した。

 

ドイツのマース外相も同日、「脅迫はふさわしくない」と述べ、フランスと歩調を合わせた。(後略)【9月2日 産経】

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【チェコ国内事情 それぞれ立場が異なる大統領、首相、上院議長】

ここでひとつ留意しておく必要があるのは、今回のビストルチル上院議長の訪台は、チェコ政府としての訪台ではないという点です。ビストルチル上院議長はチェコ国内では野党の立場にあります。

 

****チェコ上院議長ら訪台 政府は冷ややか 中国外交で揺れる欧州小国****

チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が率いる同国政経界の約90人が30日、台湾を訪問する。チェコ政府は訪台団を支持せず、距離を置いたまま。東欧で米中の綱引きが激しさを増す中、小国チェコが中国政策をめぐって分裂している。(中略)

 

中国は強く反発しているが、訪台団の一人、パベル・フィッシャー上院議員は「香港で国家安全維持法を施行した中国に『民主主義への攻撃は許さない』という姿勢を示す意味もある」と息巻く。(中略)

 

8月半ば、チェコを訪問したポンペオ米国務長官は国会演説で、上院の訪台団を激励。1968年、チェコ人がソ連の圧政に抗した「プラハの春」のように、中国共産党の影響力と闘うべきだと訴えた。

 

だが、ゼマン大統領は訪台団を批判。バビシュ首相は沈黙し、首相与党の下院議長は「台湾との関係作りはよいが、訪問は不要」と否定的な立場を示す。大統領、首相、上院議長はそれぞれ立場が異なる。

 

対中政策をめぐる対立は、ゼマン大統領が主導した中国接近の「失敗」が発端だった。東欧での「一帯一路」ブームに乗って、中国から投資を誘致したが、チェコに進出した中国企業が汚職疑惑の中で撤退。投資の約束は白紙になった。

 

今年1月には、訪台を計画していた前上院議長が突然死亡。中国大使が猛烈な抗議圧力をかけていたことが発覚した。中国への反発が広がり、ビストルチル上院議長ら野党側は、大統領の「中国びいき」を批判した。

 

チェコは89年、民主化革命で共産党政権を打破したため、国民には中国による香港や台湾への威圧が、旧ソ連の支配と重なる。

 

ビストルチル上院議長は、民主化革命を主導した勢力から派生した中道右派政党に所属。ゼマン大統領は旧共産党系の左派政党で、ライバル関係にある。

 

一方、バビシュ首相は右派新党を率い、双方の間をうかがう。チェコは来年、下院選を控えており、中国政策が争点に浮上している。

 ◇

チェコのシンクタンク「国際問題協会」のイバナ・カラスコバ研究員の話 「東欧では、中国の『一帯一路』構想による経済効果への期待が高かったが、現在は温度差が鮮明になってきた。

 

ハンガリーやセルビアはインフラ投資を歓迎し、対中接近を続ける一方、米主導の北大西洋条約機構(NATO)に依存するポーランドやスロバキアは中国と距離を置き始めた。

 

チェコには鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾企業が進出し、約2万人以上の雇用を創出している。中国は訪台団派遣に対して、経済報復を警告したが、対チェコ投資は台湾より少なく、大きな打撃はないとみられている」【8月27日 産経】

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【「一つの中国原則」と混同されがちなアメリカの「一つの中国政策」】

「台湾問題」という極めて微妙な問題の渦中にビストルチル上院議長が敢えて飛び込んだ背景には、(チェコにとっては所詮遠いアジアの問題であり、あまり大きな問題意識がないということに加え)国内的に中国政策が争点に浮上していること、さらには上記にもポンペオ米国務長官が激励したとあるように、アメリカ・トランプ政権の意向も反映していると推察されます。

 

アメリカが中国との覇権争いのなかで、台湾・香港・ウイグル・南シナ海・ファーウェイ・TikTokなどの諸問題で中国批判を強めていることは周知のところ。

 

そのなかで台湾に関しては、「一つの中国」という国際的枠組みのなかで、どのように台湾支援を行うのかという微妙な問題があります。

 

もとより「一つの中国」というのは、台湾に関しては異なる立場にある中国と日米などが、中国との関係を正常化させないといけないという現実的要請のなかで、敢えて「玉虫色」的に、双方が都合よく解釈できる余地を残した形で作り上げた外交的枠組みで、非常にわかりづらいものがあります。(下記記事にある「acknowledge(認知する)」という言葉の外交的意味合いなど)

 

更に、「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違いが混乱に惹起していますが、米中双方がそれぞれの思惑で敢えてその混乱を利用するようなところもあって、ますますわかりづらいものになっています。

 

 

****「一つの中国原則」と「一つの中国政策」の違い****

東京外国語大学 小笠原 欣幸氏

 

なぜ混同が生じるのか
中国の「一つの中国原則」とアメリカの「一つの中国政策」は別物である。これは英語文献では ‘One China principle’ と ‘One China’ policy と表記し区別される(引用符がない場合もある)。

 

この用語の使い分けは,米中関係の中核問題である台湾について,米中双方の立場・利害が異なることを示す。しかし,両者を混同させた報道・解説も多々見られる。これは,日本メディアに限らず,米メディア,台湾メディアでも長きにわたって発生している現象である。
 

その原因は,次のように整理することができる。
① 中国の「一つの中国原則」はわかりやすいが,米の「一つの中国政策」は戦略的あいまいさを含むためわかりにくい。

② 新聞などでは字数が制限されるので,説明が簡略化され,その過程で不正確な認識が広がりやすい。また,「一つの中国」が外交上の争点であった1970年代から長い時間が経過し,記者や識者が当時の文脈を知らないまま発信することが少なくない。

③ 中国側は「一つの中国原則」が世界中で受け入れられているという演出をしたいので誤った記事・解説に訂正を求めないし,米の「政策」は中国の「原則」と同じという誤認が広まることは好都合である。一部の台湾メディアにも,このような傾向が見られる。他方,米側は「二枚舌外交」と言われることを警戒し,あえて「政策」と「原則」の違いを強調しない傾向がある。

 

「原則」と「政策」の定義
中国の「一つの中国原則」とは,①「世界で中国はただ一つである」,②「台湾は中国の不可分の一部である」,③「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」という三段論法である(2000年の中国政府の白書「一つの中国原則と台湾問題」)。
 

1970年代,多くの国がこの原則を「承認」した。日本は,③については「承認」,②については中国の立場を「十分理解し尊重する」とした(1972年の「日中共同声明」)。アメリカは,③については「recognize(承認)」,①と②については中国側の立場を「acknowledge(認知する)」とした(1978年の「米中共同声明」)。(中略)

アメリカの「一つの中国政策」は,①「1972年,78年,82年の三つの米中コミュニケ」,②1979年制定の「台湾関係法」,③1982年にレーガン大統領が台湾に対して表明した「六つの保証」から成り立つ。
 

米中国交正常化を規定した1978年の「米中コミュニケ」において,アメリカは「中国は一つだけであり,台湾は中国の一部であるとの中国の立場を認知する」と表明した。

 

同時にアメリカは「台湾関係法」という国内法を制定し,台湾の安全へのコミットメントを法的に確認した。これは,「米中コミュニケ」の中で表明されている中国側の主張と明確に矛盾する。
 

③の「六つの保証」は3番目の「米中コミュニケ」を否定する内容を持つ。ただし,これをどう位置付けるかは米国内でも議論があり,米の政治家・専門家で「六つの保証」に言及しない人もいる。


中国はそもそも「台湾関係法」にも「六つの保証」にも反対しているので,中国側が米の「一つの中国政策」に言及する際には,①の「三つの米中コミュニケ」だけにする事例が多い。特に中国メディアの報道ではそうなっている(専門家の論文では②,③にも言及している)。

 

中国側は常に,米の「一つの中国政策」とは「三つの米中コミュニケ」だけ,と国際社会が認識するように努力を続けていると言える。
 

「一つの中国」をめぐる米中の駆け引きは,中国がアメリカに「一つの中国原則」の受け入れを迫り,アメリカは中国の要求に対しあいまいさを含ませて対応し,中国も反発と妥協を繰り返し今日に至っている。

 

アメリカ政府の態度については,「のらりくらりとかわしてきた」とするか,「ずるずると妥協した」とするか,「巧妙にアメリカの利益を確保してきた」とするか,どう評価するか論者によって異なる。
 

いずれにしても,「アメリカが中国の一つの中国原則を受け入れた」と書くことは不正確であり,また,米の「一つの中国政策」を「中国と台湾がともに中国に属するという一つの中国政策」と書くことも中途半端であり,誤解を招く。

 

少なくとも,「台湾は中国の一部だとする中国の立場に異論を唱えないが,台湾の安全には関与する」というのが米の「一つの中国政策」というような説明が必要である。
 

二つの用語の使い分けは,米中の駆け引きの核心にかかわることであり,今後の米中関係の動向,台湾をめぐる東アジア情勢を判断する上で非常に重要であり,歴史的経緯を踏まえた正確な報道・解説が求められる。(後略)

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上記の小笠原 欣幸氏の指摘は、日本のメディアの「一つの中国」に関する報道の間違いや2017年の習近平・トランプ電話会談の正確な意味合いにおよびますが、長くなるので割愛します。

 

習近平・トランプ会談について言えば、トランプ大統領が「尊重する」と述べたのはアメリカの「一つの中国政策」であって,中国の「一つの中国原則」ではないとのことです。

 

アメリカの「一つの中国政策」は「台湾は中国の一部だとする中国の立場に敢えて異論を唱えないが,台湾の安全には関与する」というもので、歴代の政権によって幅があります。

 

【「トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいる」】

そうした「一つの中国政策」に関して、トランプ政権は台湾支持を強化しています。

 

トランプ支持の記事を多く書かれている古森 義久氏の下記記事は、あたかもトランプ大統領が初めて「一つの中国原則」に異論を唱え始めたようにも思える書き方になっていますが、実際のところは、歴代の政権によっても、ひとつの政権期間中においても揺れ動いてきた部分です。そうした幅があるのがアメリカの「一つの中国政策」です。

 

****台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」****

米国政府の台湾への接近が顕著となってきた。台湾への武器売却、米国政府閣僚の訪問、米台自由貿易構想の前進など、トランプ政権や議会の最近の措置はいずれも中国政府の激しい反発を招いている。

 

米国の一連のこうした動きは、米中関係の基本を長年、規制してきた「一つの中国」の原則を放棄する展望さえもにじませる。米国はついに「一つの中国」原則を切り捨てるのだろうか。

 

「一つの中国」原則に縛られないトランプ政権

米中両国は1979年の国交回復以来、米国は中国側の「一つの中国」原則を支持する立場をとってきた。(中略)

 

しかしトランプ大統領は、就任直前に台湾の蔡英文総統と直接会話した際、「中国が貿易面での合意を守らない以上、米国がなぜ『一つの中国』の原則に縛られねばならないのか」という疑問を呈した。

 

また、それ以降の一連の公式声明でも、トランプ政権は「我々が解釈する『一つの中国』原則」という表現で、同原則に対する米側の解釈は中国側とは必ずしも同一ではないという点を明解にしてきた。

 

実際にトランプ政権の最近の言動は、中国側の唱える「一つの中国」原則に明らかに違反しかねない点が多くなった。たとえば、最近米国は以下のような動きを見せている。いずれも中国政府が反対する動きである。

 

【米国の政府高官が台湾を訪問】米国政府のアレックス・アザー厚生長官は8月に台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。この閣僚訪問は、トランプ大統領が議会の法案可決を受けて施行した「台湾旅行法」の結果でもあった。

 

【台湾に武器を売却】(中略)

【台湾との自由貿易協定に前向きな姿勢】(中略)

【米軍が台湾支援へ】(中略)

【米国政府高官が台湾支援を表明】(中略)

【米国の「台湾防衛」明確化への動き】(中略)

 

以上のような動きは、トランプ政権が議会の了解を得て長年の「一つの中国」原則を放棄する方向へと進む可能性を示しているともいえる。

 

トランプ政権はまだその種の決定的な動きをとってはいない。しかし現在の米国では、とくに中国政府が香港に関する「一国二制度」の国際誓約を破ったことへの非難が高まっている。その動きがトランプ政権の台湾政策変更という可能性を生み出しつつあるというわけだ。

 

米国が実行している「サラミ戦術」

トランプ政権の「一つの中国」原則への現在の態度について、中国の政治動向や米中関係の動きに詳しい「戦略予算評価センター(CSBA)」のトシ・ヨシハラ上級研究員は次のような分析を語っている。

 

「現在、トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいるといえる。その原則の実質を少しずつ切り落として、なくしていこうというわけだ。

 

ただし一気に現行の政策を除去するわけではないので、中国は決定的な対抗措置をとることはできない。しかし米側の除去策は、少しずつにせよ中国側に不満やいらだちを生じさせるに足る動きだといえる。だからこのサラミ戦術はきわめて有効だろう」

 

ヨシハラ氏の以上の見解は、控えめながら、トランプ政権がもはや従来の「一つの中国」政策は守らず、台湾への支援を着実に増していく流れを明示したといえる。米台関係、そして米中関係はそれぞれの根幹部分で決定的に変化していくことになりそうだ。【9月2日 古森 義久氏 JBpress】

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「一つの中国原則」を放棄すれば、中国との関係は断絶します。

トランプ大統領は中国とのビジネスは「しなくてもいい」と米中経済のデカップリング(分断)の可能性にも言及していますが【8月24日 ロイター】、現実問題としてはそれではアメリカも困るでしょう。

 

落としどころをどこにもっていくのか・・・できればそのあたりはトランプ氏以外の次期政権でやってもらいたいものです。

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