孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  ムガベ政権時代に農園を接収した白人農家への補償金支払い、あるいは農地返還を提案

2020-09-03 22:56:08 | アフリカ

(【2017年11月25日  共同】 2017年11月 大統領就任の宣誓式の後、支持者に手を振るムナンガグワ大統領 “クロコダイル”とも呼ばれ、“ムガベと瓜二つ”とも)

 

【“ムガベと瓜二つ”ムナンガグワ政権において真の民主主義が実現するかは不透明】

ムガベ独裁・天文学的数字のハイパーインフレーションで悪評が高かったアフリカ・ジンバブエでは2017年11月15日の国防軍による事実上のクーデターによりムガベ氏は大統領の座を追われました。

 

その後は、一時はムガベ氏によって第一副大統領の座を追われたムナンガグワ氏が国防軍の後ろ盾もあって大統領の座にあります。

 

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自宅軟禁下に置かれたムガベはチウェンガと大統領府にて会談し、その中で(国防軍トップの)チウェンガがムナンガグワへの権限委譲を求めたものの、ムガベは拒否した。

 

11月19日に(与党)ZANU-PFはムガベを党首から解任し、ムナンガグワを後継とした。11月21日にムガベは大統領からの辞任を表明し、次期大統領への就任が確実視されたムナンガグワは22日までに(亡命先から)ジンバブエに帰国。

 

首都ハラレでは群衆の前で「新たな民主主義が生まれつつある」と述べたほか、経済成長、平和の希求、雇用の創出などを訴えた。

 

また、大統領就任式における演説ではムガベを「建国の父」と称賛し、旧政権の支持者への配慮も見せた。

 

しかし、前述の通りムナンガグワ自身がムガベ政権で政権幹部を務めたことや、独裁体質はムガベと瓜二つという報道もあり、ムナンガグワ政権において真の民主主義が実現するかは不透明である。

 

その一方で、外資の導入を進めるなど前政権と比較して改革開放的な経済政策をとっている。

 

なお、クーデターには当初からムナンガグワの逃亡先だったともされる中国の関与も報じられており]、2018年4月にムナンガグワは大統領就任後初のアフリカ以外の外遊で中国を訪れた。

 

2018年7月30日投開票の大統領選挙では50.8%の票を獲得し再選。しかし得票率44.3%で敗れたネルソン・チャミサ属する民主変革運動は選挙結果を認めず裁判所に提訴する意向を表明している。【ウィキペディア】

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ムナンガグワ大統領の人物評としては“政治的な抜け目のなさ、興味のないふりをしながら獲物を虎視眈々と狙い、逃さないことからワニ、クロコダイルといったあだ名が付けられている【同上】”ということで、これまた“ムナンガグワ政権において真の民主主義が実現するかは不透明である”という懸念にもつながっています。

 

【ムガベ政権時代に農園を接収した白人農家への補償金支払い、あるいは農地返還を提案】

そんなジンバブエから、ちょっと目を引くニュースが。

 

****ジンバブエ、前政権が農地接収した白人農家に補償金****

ジンバブエ政府は29日、2000年に当時のロバート・ムガベ大統領政権によって農地を接収された白人の農業経営者らに対し、米ドルで補償金35億ドル(約3700億円)を支払うことで合意した。

 

ムガベ前大統領は、白人の大規模農業経営者4500人から4000か所超の農場を強制収用し、土地を所有していない黒人の人々に再分配した。

 

今回の合意に基づき、接収された農場の家屋やかんがい装置といった建造物が補償の対象となる。ただ、ジンバブエ政府は財政難で補償金を支払う資金がないため、農家と寄付者でつくる委員会が資金調達を担うという。

 

ムガベ政権が2000年に導入した土地改革は、物議を醸した。この改革に基づき、与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線の活動家と、1970年代の独立運動に参加した元戦闘員らが大規模な農地接収を実施。ムガベ氏は、黒人から強制的に奪われた土地を取り戻し、歴史の過ちを正す方法だと主張して、接収を正当化した。

 

だが、この土地改革によってジンバブエの主要産業である農業は大混乱に陥ったとの批判もある。農地接収後、ジンバブエの経済生産は半減し、景気は今も低迷が続いている。 【7月30日 AFP】

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****前政権接収の農地、白人経営者らに返還へ ジンバブエ政府提案****

ジンバブエ政府は先月31日、白人の元農業経営者らに対し、20年前の土地改革で接収された農地を返還すると提案した。(中略)

 

ジンバブエのムトゥリ・ヌーベ財務相とアンクシャス・マスカ土地相は31日、農地を失ったジンバブエ国民と外国人は「再分配のために強制収用された農地の所有権の返還」を申請できると発表した。

 

この共同発表によると、「土地が返還可能な状態ならば、政府は返還申請を承諾する」という。

 

両大臣は、元所有者らが土地の「所有権を取り戻す」ために、政府は現在農場を所有する黒人農家への再分配の申し出を取り消し、「ほかの場所で代わりとなる土地を提供する」と発表した。

 

政府はまた、「元農業経営者が接収された農地の所有権を取り戻すか、政府による土地返還の申し出を受け入れる場合、これは完全かつ最終的な解決となる」と述べた。 【9月1日 AFP】

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白人経営の農園を強制接収し黒人へ再配分する黒人化政策は、ムガベ時代の経済混乱の元凶となった政策として国際的には評判が悪いものですが(イギリスなどは接収された白人側という立場の違いもありますが)、植民地時代の経済格差が今も色濃く残るアフリカにおいては国内外で大衆的に支持されている側面もあります。

 

そういうなかで、ムナンガグワ政権が白人農家への補償金支払い、あるいは農地返還を提案しているということで、順調に進めば「国民融和」に向けた前進と評価すべきものでしょう。

 

ただ、前述のように“ムナンガグワ政権において真の民主主義が実現するかは不透明である”ということを考えたとき、ことが額面どおり進むのか・・・疑問も。

 

【インフレ進行、コロナ禍、強権政治】

ムガベ失脚後のジンバブエに関するニュースはあまり多くありませんが、インフレーションがまた悪化しているようです。

 

****ジンバブエのインフレ率、840%近くに 政府は危機を否定****

ジンバブエ国家統計庁は15日、7月の物価上昇率(インフレ率)が年率840%近くまで上昇したと発表した。だが政府は、高まる危機感を認めようとせず、経済の苦境が一段と深まっている。

 

同国は、2017年に軍事クーデターで失脚したロバート・ムガベ前大統領の下での経済の失政が招いた10年超にわたるハイパーインフレへの対応に追われている。

 

同国の人々はその多くが、貯蓄が消え去っていくのを目にし、今も砂糖や主食のトウモロコシ粉といった生活必需品を手に入れるのに苦労を強いられている。

 

統計庁がツイッターに投稿した発表によると、7月は837.53%に上昇。6月は737.3%だった。

 

今回の数値が発表される直前、同国政府はエマーソン・ムナンガグワ大統領が「堅調な経済」をもたらす政策を実施し、国を「立派に安定させている」とのコメントを発表し、危機的状況を否定した。 【8月16日 AFP】

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ムガベ時代に天文学的数字のハイパーインフレーションを経験し、その記憶がまだ薄れていないだけに、一度火が付くと通貨は国民の信用を失い、ハイパーインフレーションへと加速することも想像されます。

 

新型コロナに関しても、他国同様に感染が拡大し、国内医療体制に混乱も起きています。

 

****防護服不足で看護師らストライキ、赤ちゃん7人が死産…ジンバブエ****

英BBCによると、アフリカ南部ジンバブエの首都ハラレの病院で、看護師らが新型コロナウイルス対策用防護服の不足などを理由にストライキを起こした影響で、出産を迎えた8人の赤ちゃんのうち7人が死産となった。

 

病院の医師が先月28日、この事実をツイッターに投稿した。閉塞性分娩で必要な手術の実施が遅れたという。

 

ジンバブエでは独裁的なロバート・ムガベ前大統領が2017年に退陣した後も経済危機が続き、物価上昇率は年700%を超える。医療器具が慢性的に不足し、医療従事者の労働組合がストを頻繁に行っている。

 

米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、ジンバブエで新型コロナウイルスの累計感染者数は3日時点で約3900人。感染者が50万人を超える隣国の南アフリカとの間で密出入国する国民が多く、検査態勢も不十分で、実際の感染者はもっと多いとみられている。

 

医療施設関係者のストは南アフリカの一部でも起きている。洗濯や清掃を担う労働者の組合が防護服不足などを理由に職場を放棄し、血液や医療廃棄物が散乱するなど不衛生な病院もあると報じられている。【8月3日 読売】

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政治状況全般に関しても、“独裁体質はムガベと瓜二つ”という ムナンガグワ大統領の評価を想起させる芳しくない報道があります。

 

*****ジンバブエにおける政権批判の締めつけ*****

エマーソン・ムナンガグワを大統領とするジンバブエ政権が、コロナウイルス対策を理由としながら、政権批判に対する締め付けを強めている。

 

8月22日付のアルジャジーラは、政権に対して異議を唱えていた野党議員ジョブ・シクハラ氏の逮捕を報じた。国内最大野党の副議長であるシクハラ氏は、7月31日の抗議集会の計画を理由に警察の指名手配リストに載った後、姿を隠していた。

 

これは、同じ抗議集会を計画し、大衆の暴力を煽動したとして7月下旬に逮捕された、国際的に活躍するフリーランスのジャーナリスト、ホプウェル・チノノ氏や野党政治家ジェイコブ・ンガリヴフメ氏と、その他20人から60以上と言われる関係者の逮捕に続くものである。

 

ジャーナリストのチノノ氏は、コロナ対策のための防護具や検査器具の契約をめぐって保健省内で大規模な汚職が行われていたことを報道していた。そのため、アムネスティ・インターナショナルはチノノ氏の逮捕をジャーナリストが社会的関心の高い報道をすることに対する威圧であり警告だであるとして非難している。

 

ジンバブエではハイパーインフレや経済的危機が続き、3年前にムガベ政権が退任に追い込まれた際に約束された経済的回復をムナンガグワ政権が実現していないと不満が溜まっていた。

 

今回のコロナウイルスの流行により、更なる失業者の増加、物価の向上、食料の不足などが起こっている。また、医療施設に必要な防護具が行き渡っていないため医療者によるストライキなども行われている。

 

しかし、ムナンガグワ大統領は政権を批判する人々を、「外国の中傷者と手を組んだ社会主義者」として非難し、コロナウイルス対策を謳う治安部隊がデモなどを暴力的に弾圧している。

 

このような事態に対してSNSを通した「#ZimbabweanLivesMatter(ジンバブエ人の命は大事だ)」運動が高まり、南アの政治家や通称AKAとして知られるラッパー、ケルナン・フォーブスなどの有名人なども積極的に参加しグローバルな広がりを得ている(BBCニュース8月6日付)。

 

また、ジンバブエのカトリック司教会議も、政府の汚職や権力の濫用について批判する声明を出した(BBCニュース8月16日付)。

 

しかし政権は依然反政権勢力を非難し、カトリック司教たちが「危機を捏造している」として批判を拒絶している。締め付けの方向は収まる気配はない。【8月26日 現代アフリカ地域研究センター】

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ムナンガグワ大統領の資質に加えて、コロナ惨禍という“非常時”が政治の強権化をもたらしやすいという側面もあってのことでしょう。

 

そのあたりは8月21日ブログ“新型コロナ感染拡大がもたらす変化  国際政治の強権化 在宅勤務拡大による格差助長”でも取り上げたところです。

 

上記のような政治・経済・社会状況があるだけに、冒頭の白人農家への補償金支払い、あるいは農地返還の提案をどのように評価していいものか迷うところです。

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