(米オレゴン州ポートランドで29日、車両を連ねて移動するトランプ大統領の支持者【8月31日 朝日】 大統領は彼らを「偉大な愛国者」と称賛)
【人種差別をめぐり相次ぐ事件】
アメリカの人種差別問題をめぐる混乱・対立の拡大、そのことへのトランプ大統領やバイデン氏の対応などについては多くの報道があるところですが、その中から目についたものをいくつかピックアップ。
ミネソタ州ミネアポリスで5月25日夕、警察に拘束された際に白人警官に首を地面に押さえ付けられた黒人男性フロイドさんが「息ができない」とうめき声をあげ、死亡。
この事件で火が付いた形の人種差別をめぐる議論・抗議が収まらないなかで、ウィスコンシン州ケノーシャで8月23日夕、警官が黒人男性を背後から複数回銃撃する事件が発生。
この事件に対しては、大坂なおみさんなど米プロスポーツ界も強い抗議を示していました。
8月25日には、ケノーシャで続く抗議行動で、17歳の少年が抗議行動者に向かって軍仕様の半自動ライフルを発砲し、2人を殺害、1人に重傷を負わせたとして起訴されました。
少年のソーシャルメディアからは、殉職警官をたたえる文章や、警官の制服を着た自分の写真などを投稿するなど、数年前から警察に強い関心をもっていたことがうかがえ、事件前には、銃を持っている理由について尋ねた記者に
「市民を守ることも私の仕事の一部だ。誰かが傷つけられたら、自分は危険な現場に急行する」とも語っていました。
また“発砲事件が起きるまでは、武装した民兵らに地元警察が飲料水を提供する姿などが確認された。デモ隊は「黒人が武装していたら警官に射殺されているはずで不公平だ」と警察への不信感を一層強めている。”【9月1日 産経】とも。
【「法と秩序」の維持を掲げ、大統領選挙の争点とする動きが顕著なトランプ大統領】
一方、抗議デモが一部暴徒化したことで、「法と秩序」の維持を掲げるトランプ大統領はこれを強く非難して、大統領選挙の争点とする動きが顕著に。
****トランプ大統領、州兵派遣を表明 黒人銃撃事件のデモ暴徒化****
トランプ米大統領は26日、中西部ウィスコンシン州ケノーシャの警官による黒人男性銃撃事件に対する抗議デモが一部暴徒化したことを受け、現地に州兵などを派遣すると表明した。11月の大統領選に向けて「法と秩序」の維持を掲げて巻き返しを図っており、断固とした対応を示す狙いとみられる。
トランプ氏はツイッターで「略奪、放火、暴力、無法化を見過ごすことはしない」と強調し「ウィスコンシンの法と秩序を回復する!」と書き込んだ。現地ではエバーズ州知事の下で既に州兵が治安維持に当たっており、連邦政府による派遣規模は不明。【8月27日 共同】
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****ペンス副大統領がバイデン氏非難 米黒人銃撃デモに共感****
ペンス米副大統領は26日の共和党大会での演説で、中西部ウィスコンシン州の警官による黒人男性銃撃事件でデモ隊が暴徒化し治安が悪化していると指摘した上で、デモに共感を示す民主党候補バイデン前副大統領を非難した。11月の大統領選でバイデン氏が勝利すれば「米国は安全ではなくなる」と攻撃、トランプ大統領を援護した。
トランプ氏は、5月の白人警官による黒人男性暴行死事件で全米に拡大したデモに強圧的姿勢を取って支持率を落とした。挽回のため、逆に警察支持を鮮明に打ち出し、デモ隊の暴徒化で治安の悪化を懸念する穏健派の取り込みを図っている。【8月27日 共同】
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【大統領の混乱・対立を煽るような言動】
共和党の大統領候補指名受諾の党大会が開催されていたこともあって、これだけでも騒然とした雰囲気ですが、さらに事件が。
西部オレゴン州ポートランドで8月29日、人種差別抗議運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」のデモ参加者とトランプ大統領の支持者が衝突し、極右グループ関係者とされる男性1人が撃たれて死亡。
ただでさえ混乱拡大が懸念される状況で、トランプ大統領には混乱を煽るような言動が顕著です。
****トランプ氏、衝突の地に向かう支持者を「偉大な愛国者」****
米国で人種差別への抗議デモが長期化し、トランプ大統領の支持者との衝突も起きるなか、トランプ氏が挑発的な態度を取っている。30日は、自身の支持者が数百台の車両を連ねてオレゴン州ポートランドへ向かう映像に「偉大な愛国者だ!」とコメントをつけるなど、約90回にわたってツイート。
黒人男性が警官によって銃撃されたウィスコンシン州ケノーシャには、地元首長の反対を押し切って近く訪問する予定だ。
ポートランドでは29日夜、デモ隊とトランプ支持者が衝突する中、男性1人が銃で撃たれて死亡した。男性が死亡した状況ははっきりしていないが、地元の警察当局は、衝突がきっかけとなった可能性があるとの見方を示した。
トランプ氏は30日午前6時前から連続してツイートやリツイートを開始。「ポートランドの人々は安全でないことにもはや我慢できない。市長は『愚か者』だ。州兵を出動させろ!」などと主張し、最後は「法と秩序!」と投稿した。
トランプ氏は9月1日には、抗議デモが続くケノーシャを訪れる予定だ。被害者の黒人男性の家族らに会う予定はなく、警察などの職員と会談し、デモによって破壊・放火された建物などを視察するという。
ただ、ケノーシャではデモ隊の参加者3人が銃撃されて死傷し、「自警団」に参加していたとみられる17歳の少年が訴追されるなど、混乱が続く。
ケノーシャのアンタラミアン市長は30日、米メディアの取材に「現時点ではトランプ氏に来ないで欲しい」と呼びかけた。ウィスコンシン州のエバーズ知事も、トランプ氏に対して「(ケノーシャに来ることが)分断を乗り越え、前へ進もうとする我々の作業を遅らせるだけだと懸念をしている」と手紙を出したという。
ポートランドやケノーシャの市長はいずれも民主党系。トランプ氏は抗議デモの一部が暴徒化していることをとらえて、民主党を激しく攻撃しており、共和党全国大会では「民主党は全ての都市をポートランドのようにしたいのだ」などと主張した。
一方、民主党の大統領候補となったバイデン前副大統領は30日、「左右どちらであれ、私は暴力を非難する」という声明を発表。「トランプ氏は我々の社会の憎悪と分断の炎をあおり続けている」と批判した。【8月31日 朝日】
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差別されれている者に共感を示すか、あるいは、「法と秩序」を重視するか、立ち位置によって主張に差がでることはあるでしょう。
その主張の是非は別にしても、攻撃的なメッセージを約90回にわたってツイートというのは尋常とは思えません。
自分の感情がコントロールできないものと推測されます。
もし、そうした類の人物が周囲にいたら、「あの人なんかおかしいよね。危ない人だね。病院か警察に連絡した方がいいんじゃない」となるようなレベルです。
そういう人物が人類滅亡の危険をもたらす核のボタンを押せる立場にあるというのは、アメリカだけの問題ではありません。
バイデン大統領候補は8月31日、「無力」で「有害」な指導者であるトランプ氏が国内の暴力行為を「あおっている」と非難していますが、トランプ大統領は白人支持者への肩入れを鮮明にしています。
****トランプ米大統領、デモ銃撃を擁護=際立つ白人支持者肩入れ****
トランプ米大統領は8月31日の記者会見で、黒人差別抗議デモの参加者を銃撃して3人を死傷させたトランプ氏支持者の17歳の白人少年について「(相手の暴力から)逃げようとしていた」と擁護した。抗議デモと白人中心のトランプ氏支持者の緊張が高まる中、支持者の肩を持つ姿勢が際立っている。
「自警団」を自称していたこの少年は、黒人男性が白人警官に背中から撃たれる事件のあったウィスコンシン州ケノーシャを同25日に訪問。人種差別抗議デモ参加者ともみ合いの末発砲し、2人を死亡させ、殺人容疑で訴追された。
トランプ氏は会見で、少年がデモ参加者の暴行で「殺されていたかもしれない」と述べ、「自衛目的」だったという認識を示した。少年の弁護人の主張をなぞった発言とみられるが、少年は隣の州からライフル銃を持って現場を訪れており、自衛の主張には疑問が残る。
民主党のバイデン前副大統領は早速、声明を出し「大統領は暴力をとがめなかった」と非難した。
一方、トランプ氏は会見で、黒人差別抗議デモとトランプ氏支持者が衝突したオレゴン州ポートランドの事件についても、死亡した白人男性らが「平和的な抗議を行っていた」と擁護した。【9月1日 時事】
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更に、放火・略奪などの混乱を「左派の市民暴動」と位置づけ、徹底して取り締まる方向を打ち出しています。
****米司法省と国土安保省、「左派の市民暴動」調査へ=トランプ氏****
トランプ米大統領は31日、司法省と国土安全保障省が「左派の市民暴動」について調査するため、共同作業部門を設立すると明らかにした。
トランプ氏は、各地で起きている暴力行為について、民主党のバイデン前副大統領が道徳的支援を与えていると批判している。
各都市で200人以上が逮捕され、オレゴン州ポートランドだけでも100人が逮捕されたと指摘し、警察の暴力行為や人種差別に対する抗議運動が全米各地で起きる中、暴力行為を抑制し、犯罪を厳しく取り締まる姿勢を強調した。
「米国において我々は、決して暴徒による支配に屈服することはない。屈服すれば、民主主義は終りだ」と主張した。【9月1日 ロイター】
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トランプ大統領はこの混乱を政治的に利用して、強い指導者としてのイメージを支持層に広げたい思惑と推測されます。
****騒乱で「政治的利益を得ている」****
トランプ氏の広報戦略にかかわり、政権発足当初は政権の「顔」のひとつとしてマスコミに対して発言を続けたケリーアン・コンウェイ元上級顧問は最近、トランプ氏が国内の騒乱から政治的利益を得ていると発言した。ホワイトハウスは8月31日、事実ではないと否定した。
「より多くの混沌(こんとん)や無政府状態、破壊行為に支配されればされるほど、公共の安全と、法と秩序において誰が最も優れているか、その選択が非常に明確になる」と、コンウェイ氏は先週、米フォックス・ニュースで述べた。
ホワイトハウスのケイリー・マケナニー報道官は、トランプ氏は「これ以上の暴力行為を少しも支持してはいない」とした。【9月1日 BBC】
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ホワイトハウスが否定しても、トランプ大統領の言動からは、白人支持者に肩入れしながら混乱・対立を煽っているとしか思えません。
こうした社会の混乱・分断を煽り、その混乱を収める強い指導者として自身をアピールするというのは、民主主義の禁じ手ではないでしょうか。
かつてユダヤ人差別を煽り、共産党との抗争などの混乱の中で権力を掌握していったナチスを彷彿とさせるものも。
また、トランプ大統領は以前、1989年に中国・北京の天安門広場で行われた民主化運動について、天安門で起きたことを支持していないと強調した上で、「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と発言し、民主化運動を「暴動」と表現したことがありますが、体質的に中国共産党と似通ったものがあるようです。
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