孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  首都で武装勢力が対峙 6月の議会選挙で混乱に拍車の恐れも

2014-05-24 22:55:22 | 北アフリカ

(首都トリポリの制憲議会周辺に展開した軍事評議会の部隊 ただ、3月3日撮影とありますので、今回の議会襲撃の写真ではないようです。【5月19日 AFP】)

収まらない政治混乱
フランス・イギリスなどNATOの軍事介入もあって、激しい内戦の末にカダフィ独裁政権が崩壊したリビアでは、内戦を主導した民兵組織の武装解除ができないことや東西間の地域対立もあって、新たな政治体制を確立できないまま政治混乱が続いています。

そのあたりの話は、5月4日ブログ「回帰するエジプト 混乱のリビア 進展を見せるチュニジアも経済に不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140504)でも少し取り上げました。

昨年10月には、リビア暫定政府のジダン首相(当時)が、約100台の車でホテルを包囲した武装勢力によって一時拘束されるという事件がありました。

そのシダン氏は指導力不足への批判が高まり解任。
今年4月、サニ氏が新首相に指名されましたが、サニ新首相は「家族や自身が襲撃されたため」という理由で組閣を断念しました。

4月29日には、サニ氏の後任首相を選出する投票が行われていた首都トリポリの議会に、突然武装集団が押し入り銃を乱射する騒ぎがありました。

そんな無政府状態をも思わせる混乱のなかで、5月7日、ミティグ氏が新首相に指名されました。カダフィ政権崩壊後5人目の首相です。

****リビア制憲議会、新首相にミティグ氏指名****
リビアの制憲議会は5日、イスラム系勢力が支援する実業家アフメド・ミティグ氏(42)を新首相に指名した。新首相の人選をめぐっては、前日の4日に同議会で行われた信任投票の集計結果に大きな混乱が生じていた。

ミティグ氏は、2011年の民衆蜂起によってムアマル・カダフィ大佐による長期独裁政権が崩壊して以降のリビアで5人目にして最も若い首相となる。(中略)

しかし、エゼディン・アワミ第1副議長や一部議員らはミティグ氏の首相選出を認めない意向を示しており、これにより生じた政治的、法的な論争がこれで収まるかどうかは不明だ。【5月7日 AFP】
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べンガジで衝突、トリポリでは国会襲撃
しかし、事態は収拾する方向ではなく、混乱が拡大する方向に向かっているようです。

****武装勢力衝突で79人死亡=リビア政府、クーデター警戒****
リビア東部のベンガジで16日、元軍将校のハフタル氏率いる非正規部隊が、過激派「アンサール・シャリア」などイスラム武装勢力と衝突した。

リビア当局者は17日、この衝突で少なくとも79人が死亡、141人が負傷したことを明らかにした。AFP通信などが伝えた。

ハフタル氏は、2011年のカダフィ独裁政権打倒で中心的な役割を果たした。リビア政府は、クーデターを起こす恐れがあるとみて、イスラム武装勢力よりもハフタル氏への警戒を強めている。【5月18日 時事】 
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ベンガジの衝突では、政府の命令に反する形で一部の軍ヘリコプターなどがハフタル氏側について戦闘に参加したとみられており、政府が軍を掌握できていない実情も浮き彫りとなった。

ハフタル氏はカダフィ旧政権下で軍将官だったが、2011年の内戦では政権を離反し反カダフィ派に参加。内戦後は民兵を率いて勢力を維持してきた。

内戦後のリビアではこうした民兵組織が各地で軍閥化。特に内戦時に反カダフィ派拠点だったベンガジにはイスラム過激派を含む多くの組織が割拠し、治安悪化が深刻化している。【5月20日 産経】
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ミティグ首相について“イスラム系勢力が支援する”【前出AFP】とあるように、制憲議会はイスラム系政党が主導権を握っていますので、イスラム武装勢力と衝突するハフタル氏を警戒しているようです。

政府は16日の衝突発生後、ハフタル氏を「ならず者」と非難、ハフタル氏がクーデターを企てているとする非難声明を発表。

ハフタル氏側はこれに態度を硬化させ、18日議会を襲撃して議会の機能停止を求める実力行使に出ています。
ハフタル氏側は「イスラム過激派を支援する議員らを政治から排除するため」だと主張しています。

****リビア:反政府組織が国会を襲撃…議会機能停止を要求****
リビアの首都トリポリで18日、イスラム政党に反対する民兵組織が制憲議会(国会)議事堂を襲撃し、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、少なくとも2人が死亡、55人が負傷した。

民兵側は18日夜までに撤退したが、議会の機能停止を要求。政府は拒絶したが、民兵組織の武力は政府軍よりも強く、混乱が拡大する恐れもある。

AP通信などによると、民兵組織は、東部ベンガジを拠点にイスラム武装勢力と対立する武装組織指導者ハフタル氏に同調し、イスラム政党が主導権を握る制憲議会を襲撃した。ロケット弾や対空砲を装備し、治安部隊と激しい銃撃戦となった。議員や政府職員ら約20人が拉致されたとの情報もある。

民兵側は18日に声明を発表し、昨年12月に自らの判断で任期を延長した制憲議会について「正統性がない」と批判。今年2月の選挙で選ばれた憲法起草委員会に権限を移譲するよう要求した。政府は19日の声明で、暴力の即時停止を求めた。

一方、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装勢力は19日、ハフタル氏側に反撃するとの声明を発表した。ベンガジでは17日、ハフタル氏側とイスラム武装勢力の交戦で約70人が死亡した。

リビアでは2011年の内戦でカダフィ独裁政権が崩壊した。だが元軍将校のハフタル氏をはじめ、反カダフィ派の民兵や部族勢力の多くが武装解除に応じず、衝突や誘拐事件が頻発している。

トリポリにも複数の民兵組織が常駐し、政府庁舎を占拠して政府に要求を突きつける事態が相次ぐ。昨年10月には当時のゼイダン首相が武装集団に一時拉致される事件も起きた。【5月19日 毎日】
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議会を襲撃した武装集団は、トリポリ南部を掌握している、2011年にカダフィ政権と戦った元反政府勢力メンバーから成る「ジンタン旅団」の戦闘員だとも報じられています。【5月19日 AFPより】
議会は首都トリポリのホテルに議場を移しましたが、移設先のホテルにも20日に砲弾が打ち込まれています。

現在の制憲議会は今年2月に任期切れを迎えましたが、世俗派とイスラム政党との対立によって憲法制定が遅れているため、任期を今年末まで延長しました。ハフタル氏は任期延長が不当だと批判し、制憲議会の機能停止を要求しています。

首都でふたつの武装勢力が対峙
このイスラム勢力と対立する民兵組織の議会への実力行使に対し、イスラム勢力が支持する国民議会のアブサハミーン議長が19日、イスラム系民兵組織「リビアの盾」に首都への展開を命じました。

「リビアの盾」はトリポリ東部のミスラタを主な拠点としてイスラム系組織の中でも特に強大な勢力を持ち、首都では長年にわたって別の民兵組織と対立していたとされています。【5月20日 CNNより】

この結果、対立する2つの武装勢力が首都に展開する事態となっています。

こうした内戦勃発が懸念される事態に、米軍は大使館からアメリカ人職員を退避させる必要が生じた場合に備え、輸送機「V22オスプレイ」や海兵隊員をイタリアの基地に移動させたとも報じられています。

また、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリアの3カ国は大使館を一時閉鎖し、大使館員を国外避難させています。

議会選挙で混乱に拍車が掛かる恐れも
****来月25日に議会選=政情不安収拾目指す―リビア****
リビア議会は22日、声明を出し、議会選を6月25日に行うと発表した。AFP通信が伝えた。リビアでは18日、政府に反発する武装勢力が議会議事堂を襲撃、議会の機能停止を宣言していた。

リビア当局は、議会の刷新により政情不安収拾を目指す。ただ、治安悪化が進む中、投票を円滑に実施できるかは不透明で、かえって混乱に拍車が掛かる恐れもある。【5月23日 時事】 
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円滑な実施が危ぶまれる選挙としては、世界が注目するウクライナの大統領選挙が明日行われます。
6月14日に行われるアフガニスタンの大統領選挙決選投票もタリバンの妨害が予想されます。
ふたつの武装勢力が首都でにらみ合うなかでのリビアの議会選挙は、ウクライナなどの選挙以上に難しそうです。

それにしても、良くも悪くもカリスマ性があり、国際社会に一定の影響力があった独裁者カダフィを引き摺り下ろすところまでは国際社会は多大な関心を持っていましたが、その後のリビア国内の混乱にはあまり関心が向いていないようにも思えます。リビアの自己責任と言えばそれまでですが。

もっとも、リビアには膨大な石油資源がありますので、リビアの動向に関係国が無関心という訳でもないでしょう。
ただ、この石油が生む利権が国内混乱を助長させている側面もあるでしょう。

****リビアの原油生産が倍増へ、西部の油田などが稼働再開****
リビア西部の油田とパイプラインが12日に稼働を再開し、同国の原油生産量が倍増する見通しとなった。これら施設は8カ月にわたって反対勢力による妨害行為を受けてきた。

反対勢力は政府との合意を受けて占拠を解き、東部にある2つの原油積み出し港からの輸出が再開された。

リビア国営石油公社(NOC)の広報担当者は12日、主要油田である「エルシャララ」、「エルフィール」、「ワファ」、および首都トリポリに近いザウィヤ輸出ターミナルを結ぶパイプラインが稼働を再開したと明らかにした。

これら施設はスペインの石油大手レプソルとイタリアのエニによって運営されており、合計で日量50万バレルの原油を生産している。稼働再開前、リビア全体の産出量は日量25万バレルで、通常の150万バレルを大幅に下回っていた。

複数の報道によると、反対勢力は給水施設向け投資を充実させるという約束を政府から取り付けたため、パイプライン閉鎖を解いたという。

リビア東部では自治権拡大を求める勢力が2つの輸出ターミナルを閉鎖していたが、先月には中央政府との合意を受けて稼働が再開された。

ただ、リビア議会はイスラム系勢力が支援する実業家アフメド・ミティグ氏を新首相に指名。反対勢力はこれを不服とし、これまでの政府合意を撤回すると警告している。【5月13日 WSJ】
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