孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  今年も移民・難民問題への対応に苦慮することが予想される 

2019-01-02 22:52:55 | 難民・移民
【移民・難民はイタリアからスペインへ そのスペインでも受け入れに批判的勢力が台頭】
欧州への移民・難民の数字については、以下のようにも。(出典はアラビア語メディアですが、元データは国連難民高等弁務官事務所の資料のようです)

****海を越えた欧州への難民統計のグラフ****

【https://www.alquds.co.uk/الهجرة-عبر-البحر-الأبيض-المتوسط/】
現在でも地中海を越えて欧州へたどり着こうとする難民(非合法移民を含む)は後を絶たないようですが、国連難民高等弁務官事務所の資料により難民マップです。

右側の上の赤い文字は「陸路又は海路欧州にたどり着いた難民」 2018年は119,336とあります。

赤丸は主要到着場所で、右からギリシャ31,867名、イタリア23,192名、スペイン62,479名です(イタリアが極めて少ないのは、新政府が受け入れを拒否し、多くの難民がスペイン等に向かっているからです)

左下の棒グラフは、毎年の死者及び行方不明者の数です。
その右の折れ線グラフ(左端が2018年と、通常とは逆の表示なので注意)は、毎年海路欧州に到着した難民数の変化です(後略)【12月30日 「中東の窓」】
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イタリアの「同盟・五つ星」連立政権が受け入れに消極的なため、難民船はスペインに向かうことが増え、結果、上記のようにスペインが最大の受け入れ国になっています。

****移民311人乗せた船がスペイン入港、数か国に拒まれクリスマスも洋上で****
リビア沖で救出されたアフリカ・中東出身の移民311人を乗せた救助船が28日、スペインに入港した。移民らは欧州の複数国に入港を拒否され、クリスマスも洋上で過ごしていた。
 
スペインのNGO「プロアクティバ・オープン・アームズ」の救助船「オープン・アームズ」が同国南部の町アルヘシラス近郊の港に入港すると、乗っていた移民らは拍手喝采した。
 
移民らはソマリア、シリア、コートジボワールなど19の国々の出身者で、3分の1以上に当たる139人が未成年。スペインの赤十字社の担当者によると、健康状態は概ね良好だという。
 
移民らは21日、3隻の船に乗っていたところを救助されたが、イタリアとマルタから入港を拒否された。スペイン政府によると、リビア、フランス、チュニジアもプロアクティブ・オープン・アームズからの入港許可要請に応じなかった。
 
スペインは今年8月に慈善団体の救助船の入港と乗船していた移民の入国を認めていたが、受け入れはそれ以来となる。
 
国際移住機関によると、今年に入ってイタリアもしくはマルタに向かっている途中で死亡した移民は1300人以上に上る。欧州を目指す移民にとって地中海の航海は、死の危険と隣り合わせだ。
 
スペインは今年、ギリシャとイタリアに代わり、欧州に入る移民の主要な到着先となった。IOMによれば、今年に入って海路でスペインに到達した移民は5万6000人を超え、その一方で、769人以上が到着前に死亡している。 【12月29日 AFP】AFPBB News
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“乗っていた移民らは拍手喝采した”とのことですが、受け入れ側は人道と政治的影響の間での苦渋の選択でもあります。スペインでも受け入れに反対する新興右翼勢力が拡大しています。

****「反移民」右翼、欧州を席巻 寛容な姿勢のスペインでも****
アフリカから地中海を渡る移民・難民が押し寄せるスペイン南部アンダルシアの州議選(定数109)で2日、「不法移民の取り締まり強化」を掲げる新興右翼政党ボックス(VOX)が同国の州議会で初の議席となる12議席を獲得した。

受け入れに前向きな与党中道左派の社会労働党は大きく後退した。欧州で移民・難民問題をテコに右翼政党が躍進する構図が、いっそう鮮明になっている。

「アンダルシア州の人々は歴史をつくった!」
2日夜、州都セビリア。開票結果が判明して同州議会の12議席獲得が決まると、VOXのサンティアゴ・アバスカル党首(42)は支持者と喜びあった。
 
VOXは2015年の前回同州議選の得票率はわずか0・5%。今回も世論調査に基づく事前予想では5議席程度だったが、その倍以上となる大躍進だ。
 
一方、与党・社会労働党は47議席から33議席に、2大政党の一翼を担う野党・国民党も33議席から26議席に後退し、既成政党の退潮を印象づけた。
 
VOXは13年に設立。「無秩序な不法移民流入反対」を掲げ、欧州議会選、総選挙、州議選を通じて今回初の議席を獲得した。欧州メディアには同党を「極右」と呼ぶところもある。
 
VOXの追い風になったのは移民・難民問題だ。スペインでは今年、地中海を越えて移民・難民5万2千人が上陸。前年同期の3倍以上の増加だ。

背景には今年、イタリアで「反移民」を掲げる政党「同盟」が連立政権に参加した事情がある。同盟党首のサルビーニ副首相は地中海を渡る移民・難民の上陸を繰り返し拒否。移民・難民は行き先をスペインに変えた。
 
モロッコと目と鼻の先のアンダルシア州には、毎日のように移民・難民が小型船で地中海を渡ってくる。社会労働党のサンチェス首相が率いる現政権は前向きに受け入れてきた。
 
これに対し、同州南端アルヘシラス市のホセイグナシオ・ランダルセ市長は朝日新聞の取材に「世論は圧力鍋のようなもの。いずれたまった不満は爆発する。無計画に受け入れを続ければ、移民を拒む右翼が勢いづくだろう」と語った。

「反移民」旗印に連携
フランスの右翼政党「国民連合」(前国民戦線)のルペン党首は2日、VOXの躍進を受けて、ツイッターに「おめでとう、我々の友よ。素晴らしいスコアだ」と投稿した。欧州ではこの1年、「反移民・難民」を掲げる政権の誕生や政党の躍進が目立った。
 
こうした右翼政党は来年5月の欧州議会選に狙いを定め、連携して勢力拡大を目指している。11月16日には欧州各国の右翼政党がブルガリアの首都ソフィアに集まり、欧州議会選に向けた戦略を練った。参加者によると、「反移民・難民」を共通政策に掲げることで合意したという。
 
ルペン氏は会合後、記者会見し、「何百万人もの移民・難民が流入するのを望んでいるのが欧州連合(EU)だ。EUは国境管理ができていない。それが嫌だから英国もEUからの離脱を決めたのだ」と訴えた。(後略)【12月4日 NHK】
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【実効があがらないEUの難民対策 5月の欧州議会選挙では極右勢力躍進の予想】
「何百万人もの移民・難民が流入するのを望んでいるのが欧州連合(EU)だ」(ルペン氏)というのは、明らかなウソ・デマゴーグです。
望んでいる訳ではありませんが、一部差別主義者のように、移民・難民は蹴散らし、海に沈んでもかまわない・・・とも考えていませんので、その対応に苦慮しているだけです。

極右政党台頭・世論の右傾化を受けて、EUも受け入れ厳格化の方向にありますが、実効は上がっていません。

****欧州は受け入れ厳格化****
アフリカの人々が欧州で受け入れられる可能性は年々、狭まっている。

ドイツでは移民・難民の排斥を訴える右翼政党が台頭。メルケル政権は入国審査を厳格化し、強制送還を加速させた。

イタリアでも、右派「同盟」党首のサルビーニ副首相が地中海を渡る人たちを支援するNGOを「人身売買ビジネスの共犯者」と非難し、受け入れを厳格化する法律を成立させた。
 
欧州連合は9月の非公式の首脳会議で、アフリカへの投資を促進して経済状況を良くし、欧州への移民・難民の流入を減らす方針を確認。イタリアが沿岸警備の船を提供するリビアや、チュニジアなどとも連携を深めることで合意した。

また、地中海を渡る前に不法移民と難民を見極める事実上の審査施設をアフリカ側に作るとしたが、施設設置に応じた国はない。【2018年10月28日 朝日】
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今年5月には欧州議会選挙が行われますが、移民・難民に対する厳しい世論を受けて、極右会派が増大することが予想されています。

****5月の欧州議会選挙、極右会派が議席数増加へ****
ロイターが欧州連合(EU)加盟28カ国における最新の国民投票結果や信頼できる世論調査を分析したところによると、2019年5月の欧州議会における極右会派の議席数が増加する見通しだ。

分析によれば、反EUを掲げる英独立党(UKIP)やイタリアの反体制派「五つ星運動」などから成る極右政党の会派「自由と直接民主主義の欧州(EFDD)」は、体制が変わらなければ、45議席から58議席に増加する見通し。
またマリーヌ・ルペン氏が率いるフランスの極右政党「国民戦線」やウィルダース氏が党首を務めるオランダの極右野党「自由党」などが構成している「ヨーロッパ国民戦線(ENF)」は、イタリアにおける極右「同盟」の人気上昇などにより、議席数を35議席から62議席に伸ばすことが想定される。

両極右会派の議席数合計は78議席から119議席に増加。欧州議会の議員定数が751議席から705議席に削減されるため、両極右会派の議席割合は10.4%から16.9%となる。(後略)【2018年9月13日 ロイター】
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こうした極右勢力はEU懐疑派でもあり、EUの存在そのものへの疑問・批判が表面化することになり、難民もんだでも統一的対応を更に困難にすると思われます。

【長期化する難民の問題】
ハンガリーなど欧州各国が受け入れを拒否、あるいは消極化する一方で、欧州での豊かな生活を求めて、密航業者に大金を支払い、命がけで海を渡る人々は途絶えていません。

結果、長期間「滞留」する移民・難民が増加しています。

*****欧州めざす難民・移民、主要ルートが袋小路に 受け入れ遅滞、ギリシャで足止め****
欧州を目指す難民・移民の主要経路だった東地中海のルートが滞っている。欧州側での受け入れが進まず、ギリシャで足止めが長期化。トルコではシリア難民の定住が進んでいる。
 
エーゲ海に面するトルコ西部イズミル県のバーデムリ。(中略)ギリシャのレスボス島がわずか15キロ先にあるため、難民らが渡るルートになっている。

3年前には数日おきに100人を超える姿が見られたが、今は1カ月に1度くらい。1グループは約30人で、複数の子どもを連れた人が多い。こうした「渡し場」がバーデムリに10カ所ほどある。

国際移住機関によると、2014~16年に地中海経由で欧州に渡った難民や移民の3分の2(約104万8千人)がトルコからギリシャを経由した。その半数超がシリア人。遠くアフガニスタンから逃れてくる人もいる。
 
16年3月、欧州連合(EU)とトルコは、ギリシャへの「密航者」をトルコに送還する代わり、同数のシリア難民を欧州がトルコから直接受け入れる、とする流入抑制策で合意した。トルコは沿岸の警戒を強め、このルートを使う人は今年1~9月で約2万3千人にまで減った。
 
イズミルでゴムボートに乗る寸前、荒れた海を見て断念したシリア人男性(33)は「仮にギリシャに到達してもトルコに送還される。密航に命をかける意味はなくなった」と話した。

 ■地元知事「これ以上は限界」
レスボス島に着いた難民が最初に登録するモリアの難民キャンプは、3千人の収容人員を大幅に超える7400人が暮らし、周囲の山肌までテントが広がっている。
 
北エーゲ地域の衛生局が9月に出した報告書は、キャンプ内で食事をする場所やトイレが不衛生で、周辺の環境を悪化させているとして、ギリシャ政府に改善を求めた。同地域のクリスティアーナ・カロギル知事は「これ以上の受け入れは経済的にも社会的にも限界だ」と訴える。
 
トルコが取り締まりを強めたとはいえ密航は後を絶たない。そのうえEU側の受け入れの動きが鈍く、難民申請手続きの遅れから島に滞留する人口は増え続けている。
 
12人でテント暮らしをするパレスチナ・ガザ出身のカメル・ユセフさん(25)は密航業者に1500ドルを払い、7月にたどり着いた。「難民申請手続きの指定日は1年後。待つしかない。ここは戦争はないが食べ物もない。朝食に3時間並んでも、もらえないこともある」とこぼす。
 
冬は零下の寒さになり、積雪もある。キャンプで難民を支援する国際人権団体アムネスティのエイリニ・ガイタヌさんは「土の上のシートに寝ている難民にとっては生命の危機が来る」と心配している。

 ■シリア難民、増えるトルコ定住
トルコではシリア難民が増え続けている。EUとの合意時点で約270万人。2年経った今は359万人まで増えた。ほとんどが市街地で暮らす。
 
トルコ政府は16年、アラビア語によるシリア人生徒向けの教育センターを順次閉鎖し、トルコの教育制度で学ばせる方針を決めた。長期滞在するシリア人の子どもを社会で円滑に受け入れる狙いがあるとされる。
 
シリア北部・アレッポから逃れてきたオメイメ・ガザールさん(13)はイスタンブール近郊で地元中学校に通う。「戦争が終わればシリアに戻りたい」と話すが、シリア人同士の会話もトルコ語になりがちだ。

衣料品の仲買業を営む父モハメドさん(46)は「シリアの治安が安定し、インフラが復旧するのは相当先のことだ。少なくとも今後10年はトルコで暮らす」。
 
アサド政権が優位を固めた内戦状況も帰国を鈍らせている。15年にアレッポから逃れ、イスタンブールで不動産会社に勤めるアハマドさん(26)は「戻れば罰せられる。罰を逃れても徴兵がある。シリアは愛しているが、アサドのシリアで死ぬのはごめんだ」。
 
トルコ政府はシリアの混乱が始まった直後から国境を開き、難民を受け入れてきた。アサド政権が倒れて新政権ができれば難民は帰るとの見込みがあった。
 
だが過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭で国境地帯の治安が悪化。難民も急増したため、16年に国境の厳重管理に転換。それでも後を絶たない密入国や1日約400人生まれる新生児によって、シリア人の人口は増え続けている。
 
トルコ・ドイツ大学(イスタンブール)のムラット・エルドアン教授は、トルコ社会での反発は比較的少ないとしながらも「トルコ人はシリア難民と将来をともにしたいとは思っていない」と指摘する。6月の大統領選挙では与野党いずれも、シリア難民の帰還を促すと約束した。
 
エルドアン教授は「難民の多くを帰せないことはトルコ政府もわかっている。しかし、公式にトルコ社会に統合する政策を採れば、難民の定住に弾みがついてしまうジレンマがある」と話す。【2018年11月27日 朝日】
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こうした長期化する難民の存在は世界各地で見られる現象で、大きな問題を生み出しつつあります。

****長期化する難民1340万人、見えない終わり****
あまり報道されてこなかった、もう一つの難民問題 

アフリカや中東から命をかけて地中海を渡り、ヨーロッパを目指す移民のニュースは近年、大きく報道されている。一方で、ここ数十年の間、これとは異なる、世界的な難民危機が深刻さを増しており、これについてはメディアもほとんど取り上げていない。

現在、1300万人以上の人々が、国連が定義する「長期化する難民状態」に陥っている。「長期化する難民状態」とは、同一国籍の2万5000人以上が、受け入れ国で5年以上暮らしている状態を指す。

そうした難民は中東、アフリカ、アジア、南米に存在し、受け入れ国では、難民の滞在が長期的な危機へと発展している。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、住む場所を追われた人は世界中でおよそ6850万人にのぼり、そのうち2540万人が難民として自国を離れている。彼らのうちほぼ10人に9人は、教育、医療、雇用がすでにひっ迫した発展途上国で暮らしている。

たとえば、200万人を超えるアフガニスタン難民は現在、イランとパキスタンに分かれて滞在しているが、この数字は1979年、ソビエト連邦によるアフガン侵攻をきっかけに発生した難民が今に至ったものだ。
 
エジプトは、世界で最も長期化した難民状態を抱えている国であり、イスラエル・パレスチナ紛争の難民を数十年前から受け入れている。

エジプト、そして世界中にいるそうした難民たちにとって、旅の終わりはまだ見えていない。【12月26日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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問題は多々あって、ここでは取り上げきれませんが、ひとつの見方からすれば、大きく騒がれた欧州への移民・難民は冒頭グラフにもあるように急速に減少しつつあるのも事実です。

極右勢力のように、最初から移民・難民を敵視するような姿勢ではなく、冷静に受け入れ可能な方策を探ろうとすれば、コントロール可能な範囲にも収まりつつあるとも言えます。そうした現実的対応を困難にするのが極右・排外勢力によるネガティブな扇動です。

一定の外からの労働人口流入を必要としているのは、欧州も日本も同じでしょう。

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