孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  かつて“中国民主化の一里塚”とも期待された烏坎村で拡大する新たな混乱

2016-06-28 22:58:58 | 中国

(拘束された村長は冤罪(えんざい)だと書いた横断幕を掲げ、抗議デモをする村民ら=21日、広東省烏坎村、延与光貞撮影 【6月27日 朝日】)

【“中国民主化の一里塚”とはならなかった現代版「百姓一揆」】
2012年に中国広東省・烏坎(ウーカン)村で起きた「現代版“百姓一揆”」の成功は、中国民主化の第1歩となるかも・・・ということで世界の注目を集めました。

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「暴動」以前の烏坎村一帯では、長らく不動産開発を狙う企業と地元の村政府が組んで農民から農地の使用権(耕作権および居住権)を安く買い取り、それを転売して巨額の利益を上げるという手法が横行してきた。

怒った農民らは一昨年の2011年9月、数千人で村政府の建物や警察の派出所を包囲、一部は破壊行為に及んだ。

同年12月、再び大規模な衝突が発生、この時、警察に拘束されたリーダーの1人が署内で死亡したことから村民は激昂、村の周囲にバリケードを作って立て籠もり、当局側は逆に村を封鎖して「兵糧攻め」にするという事態にエスカレートした。

一触即発、全面衝突の危惧が高まったところで、突如として広東省政府高官が地元テレビに出演、同村の民衆の訴えに理解を示し、破壊行為に対しても逮捕や処罰しないことを約束した。

前後して市の幹部が村を訪れ、政府の手法に不当なところがあったことを認めて謝罪する一方、過去の土地収容を見直し、交渉に応じる考えを伝えた。

2012年2月には村の幹部を選ぶ選挙(中国では村レベルでは以前から条件付きながら選挙が行われている)が実施され、抗議活動のリーダーが村政のトップに就任、12月の「暴動」で警察に捕まった5人の村民のうちの1人が村の選挙管理委員会の委員に選出された。

さらに警察署内で不審死した男性の娘が高得票で村民代表(村議会議員のようなもの)に選出されるという結果になった。

かくしてこの現代版「百姓一揆」は、政府側の「完敗」で決着、農民との間で土地返還交渉に乗り出すことになった。【2013年03月04日 田中 信彦氏 WISDOM】
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しかし、烏坎村での村民主体の運動、土地返還要求が壁にぶつかっていることは、2014年3月24日「中国 “中国民主化の一里塚”烏坎村の挫折 民主化に不可欠な「民」の自覚」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140324でも取り上げました。その内容は以下のようなものでした。

抗議運動の中心人物で先の選挙で村民委員会副主任(副村長)に選ばれた2人が2014年3月中旬、相次いで当局に拘束されたこと

新たな村指導部は農民が「奪われた」土地の返還もしくは相応の金銭的な補償を求めて交渉を始めたのですが、これがまったく埒があかないこと

事件の民主的な解決を主導したとされている当時の広東省トップの汪洋氏が政治的情勢もあって、関与を控えるように変化していること

村民のなかからも、「民主化」によって開発がストップしたことで、開発で新たに入るはずだった資金や地価上昇の期待、経済成長のチャンスが潰れてしまったことへの不満・批判が出ていること

そもそもが「民主化への第1歩」というようなものではなく、村民も最初は納得して始めた開発なのに、もっとカネが入りそうになってごね始めたにすぎない・・・といった指摘もあることなど

そんなこんなで、2014年3月24日ブログの時点で「挫折」という言葉を使いました。

陳情直前の村長を汚職容疑で拘束 住民は反発して抗議行動
ただ、烏坎村の取り組みはその後も続いていたようです。
続いてはいたのですが、当局側の明確な“抑制”に直面しているようです。

****中国・直接選挙で選ばれた村長、拘束される 陳情の直前*****
5年前、住民の抗議運動で腐敗した共産党幹部を追放し、直接選挙を実現した中国広東省東部の烏坎(ウーカン)村で18日、上級政府に未解決の問題を訴えようとした住民運動のリーダーで村長の林祖恋氏(70)が拘束され、住民が反発している。

村は農村部の民主化の先進例として国内外で注目を集めてきたため、当局が運動の広がりを抑え込もうとしたとの見方が出ている。
 
住民らは、5年前の抗議のきっかけになった土地問題をめぐり、勝手に業者に売り渡された村有地がいまだに返されないことから、陸豊市政府への陳情を計画。19日に村民大会で決議し、21日に陳情に行く予定だった。

5年前から運動を主導し、直接選挙で村長に選ばれた林氏が中心になっていた。林氏は村の党支部書記でもある。
 
ところが、市の公安局は村民大会を翌日に控えた18日早朝、林氏が汚職の容疑で拘束され捜査を受けていると発表。住民側に「一部の不法分子に利用され、過激な行動をとらないように」と警告した。【6月19日 朝日】
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陳情直前にリーダーが拘束されたことに、住民たちは抗議活動を行っています。

****共産党幹部を追放した中国の村 村長拘束に抗議のデモ****
土地問題を解決するため住民が上級政府に陳情しようとした直前、住民側リーダーの村長が拘束された中国広東省の烏坎(ウーカン)村で19日、当局に抗議する集会が開かれた。村民1千人以上が参加し、「リーダーを帰せ」とデモ行進した。
 
烏坎村は5年前に腐敗した共産党幹部を住民らが追放し、直接選挙を実現した村として知られるが、きっかけとなった村有地が村民側にまだ返ってこないことから、19日に村民大会を開き、21日に上級政府に陳情しようとしていた。

その直前の18日に、公安当局が村長で村の党支部書記でもある林祖恋氏(70)を汚職容疑で拘束。「腐敗した政府が住民運動をつぶそうとした」と怒りが広がった。
 
村民らは19日、ドラの音を合図に広場に集まり、国旗を手に「林書記は無罪」「土地を返せ」などとシュプレヒコールを上げた。その後、反政府活動ではないことを示すため「共産党万歳」と叫びながら村内をデモ行進した。途中、警戒する多数の警官の前を通ったが、警官側は静観したままで衝突は起きなかった。
 
集会に参加した主婦(28)は「これだけ時間がかかっても、土地は返ってこない。それなのに腐敗官僚が捕まらず、なぜ私たちのリーダーが捕まえられるのか」と批判した。【6月19日 朝日】
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“現地からの情報によると、治安当局は外国人記者が村に入ることを阻止するために周辺道路を閉鎖し、村は“陸の孤島”になりつつあるという”【6月20日 産経】とも。

当局側は林祖恋氏が汚職を認めたと発表していますが、村民側の反発を招いているようです。

****汚職を認めた」発表に住民反発 中国、村長拘束巡り****
中国広東省の烏坎(ウーカン)村で、土地問題をめぐり住民側と地元政府が対立している問題で、地元政府は21日、住民らが上級政府に陳情する直前に拘束されたリーダーの林祖恋村長(70)が取り調べで汚職容疑を認めたと発表した。だが、住民側は「ありえない」と反発。この日も数千人がデモをして村長の解放を求めた。
 
中国メディアによると、林氏は「法律知識が浅く、巨額のリベートを受け取ってしまった」などと容疑を認める供述をしているという。この日、本人がそう語る映像も公開された。
 
村長宅の近所の男性(32)は「毎日の昼ご飯も自分で買って食べる人が、汚職なんてするはずがない。平和的に解決するといいながら、多くの警察を村に送り込むのは矛盾している」と地元政府の姿勢に不信感を示している。【6月22日 朝日】
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弾圧姿勢を強める習近平政権にあっては、あまり期待もできないような・・・・
当局側も今のところは騒ぎを大きくしたくないと慎重姿勢のようですが、基本的に、習近平政権は国内の民主化運動につながるような動きに対して、従来政権以上に強硬な弾圧姿勢をとっていますので、烏坎村の今後もあまり明るい展開は期待できません。

****中国「民主化」の村、深まる混乱 村長拘束に抗議/弁護士へ圧力****
・・・・当局側は村民の不満をかわそうと手を打つが、かえって裏目に出ている。20日には市政府が「林氏が罪を認めた」と発表し、翌日には自供映像まで公表。

一方で問題解決に向けた専門チームを村に派遣し、「土地問題は法に基づいて解決する」と約束した。住民側の怒りを鎮めようとしたとみられる。
 
だがその後、司法当局が林氏の弁護人らを妨害していたことが発覚。弁護士らによると、林氏の家族が弁護士事務所に振り込んだ依頼費用を返させたり、面会に向かった弁護士の知人や家族にまで圧力をかけて阻止したりしていた。
 
面会を阻止された弁護士はネット上で「いつもテレビや新聞で宣伝している依法治国(法に基づく統治)はどこにいったのか」と無念さをにじませた。

中国メディアはこうした事情を報じないが、村民らはSNSで香港メディアを見ており、当局への不信を募らせている。ある村民は「政府のやっていることは、黒社会(やくざ)と同じだ」と憤った。
 
土地問題が解決できないのは、中国の農村部特有の事情もありそうだ。市政府の説明では、一定の土地は村側に返されているが、隣接する村との境界がはっきりしない部分があり、烏坎村の主張に従えば別の村から不満が出る。
 
しかも、土地が村民に無断で売り払われていたのは烏坎村だけではない。近くの竜頭村の村民らも「事情はうちも同じ」と口をそろえる。「烏坎村の抗議が成功したら、土地を囲い込む」と話す人もおり、処理を誤れば抗議の波は周囲に広がりかねない。
 
当局は村内に多数の警官を配置しながら、デモ自体は許容している。デモが厳しく規制されている中国では異例のことだ。「騒ぎが大きくなれば党人事に影響しかねないため、当局も慎重になっている」(地元紙記者)との見方もある。
 
広東省トップの党委書記は、来年の党大会で次期最高指導部入りが注目される胡春華氏(53)。デモを鎮圧しようとして騒ぎになれば、その評価に影響を与えかねないというわけだ。
村民らは省や中央の政府に解決を求めている。ある村民は「書記が解放され、土地が村民の手に戻るまで戦い続ける」と話した。【6月27日 朝日】

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