孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  ホロコースト75年、今また広がるユダヤ人排斥の風潮

2020-01-27 22:14:26 | 欧州情勢

(.ロンドン北部ハムステッドの店先に描かれた反ユダヤ的な落書き【2019年12月31日 BBC】)

【ナチスの犯罪について「この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」(メルケル首相)】
75年前の1945年1月27日、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を象徴するアウシュビッツ強制収容所が解放されました。

ホロコーストによる犠牲者は数百万人とも。亡くなった方、そして生き延びた方を含めて、その苦難を経験した人々と家族にそれぞれの物語があります。

下記は、そうした物語のひとつでしょう。

****母を捜して…ナチス強制収容所の恐怖を捉えたAFPカメラマン****
骸骨のように痩せ細った死体の山、遺体焼却炉へ続く扉、衰弱した人々の顔――1945年の春、AFPのカメラマン、エリック・シュワブ氏は、ナチス・ドイツの強制収容所の戦慄(せんりつ)の様子を記録しながら、収容所に送られた母親を捜していた。
 
シュワブ氏はドイツへ向かう列車から逃げ出し、後にレジスタンス運動に加わった。同氏は1944年8月、パリ解放後にジャーナリストらが再建したAFPで働いた初期カメラマンの一人だった。

進軍する連合軍の従軍記者となったシュワブ氏は、連合軍がナチスの死の収容所を次々と解放する中で、明るみに出た恐怖を目撃することになった。
 
ユダヤ系ドイツ人の母エルスベートさんを見つけたいという思いが、シュワブ氏を突き動かしていた。エルスベートさんは1943年に強制収容所に送られて以来、消息不明になっていた。
 
シュワブ氏の夢は、現在のチェコ・テレジーンにあったテレージエンシュタット強制収容所で現実のものとなった。1945年5月、看護帽をかぶった白髪の弱々しい女性を発見したのだった。母親だった。
 
当時、56歳だったエルスベートさんはなんとか死を免れ、収容所で生き延びた子どもたちの世話をしていた。2人の再会は当然のことながら深い感動に満ちたものとなったが、シュワブ氏は母親の写真は撮らなかった。撮ったのかもしれないが、写真を公にはしていない。
 
戦後、シュワブ氏とエルスベートさんはフランスを去り、1946年から米ニューヨークで暮らした。
シュワブ氏の才能が全面的に認められたのは数年後のことだった。
 
1977年、シュワブ氏は67歳で死去した。 【1月27日 AFP】
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ホロコースト75年の式典には各国首脳が参列しましたが、ドイツのシュタインマイヤー大統領は「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」との苦渋の思いを明らかにしています。

****「私たちが記憶しないと」ホロコースト75年、首脳集う****
ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を象徴するアウシュビッツ強制収容所が解放されてから75年になるのを前に、エルサレムのホロコースト記念館で23日、犠牲者を追悼する式典が開かれた。

ドイツのシュタインマイヤー大統領や米国のペンス副大統領、ロシアのプーチン大統領ら40カ国以上の元首や首脳が集まり、記憶と教訓の継承を誓った。
 
ホロコースト記念館には数百万人に上るホロコーストの犠牲者の名前と写真が記録されている。中でもアウシュビッツ強制収容所の犠牲者は100万人以上に上り、多くはユダヤ人だった。

イスラエルのリブリン大統領は式典冒頭、「1945年1月27日、地獄の扉は開けられた。史上例のない人間虐殺の施設が解放された」と強調した。
 
リブリン氏は反ユダヤ主義や人種差別に対して、国際社会が団結して闘うことが重要だと語り、「ホロコーストと第2次世界大戦の記憶は薄れつつある。私たちは記憶しなければいけないのだ」と訴えた。
 
その後、シュタインマイヤー氏も演説し、「加害者はドイツ人だった。ユダヤ人600万人の産業的大量殺人という、人間の歴史で最悪の犯罪は我が国の人々によって行われた」と述べた上で、「私は歴史的な罪の重荷を背負ってここに立っている」と語った。
 
欧州では排他的な政策を持つ右翼政党の台頭が目立つ。さらに、ドイツなどではユダヤ人を狙った襲撃事件も起きている。
 
シュタインマイヤー氏は「邪悪な精神は、反ユダヤ主義、人種差別、独裁主義といった新たな症状で表れている」と指摘し、「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」と悔やんだ。
 
シュタインマイヤー氏の演説はイスラエルメディアから「心がこもっている」などと評価され、1面で採り上げる地元紙もあった。
 
一方、米国がイランと対立を深めていることを反映し、米国とイスラエルの首脳からはイランを牽制(けんせい)する発言が目立った。

イスラエルのネタニヤフ首相はイランについて、「地球上で最も反ユダヤの体制に(世界が)統一して断固たる姿勢を取れないことを憂慮する」と発言。ペンス氏は「反ユダヤ主義を広める国には強い態度を取る必要がある。世界はイランに強い態度を取らなければならない」と訴えた。
 
またプーチン氏は、米英仏ロ中の国連安全保障理事会の5常任理事国が「世界を守るためにあらゆることをする必要がある」と強調。内戦が終わらないリビアなどの和平実現に取り組むため、5カ国の首脳会議の年内開催を呼びかけた。【1月25日 朝日】
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昨年末には、ドイツ・メルケル首相がアウシュビッツ強制収容所跡を訪問しています。首相はナチスの犯罪について「この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」と断言しています。

****独メルケル首相、アウシュビッツ強制収容所を初訪問****
ドイツのアンゲラ・メルケル首相が(12月)6日、在任中の14年間で初めて、ナチス・ドイツがポーランドに設置したアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所を訪れた。

ドイツが反ユダヤ主義の復活や極右の台頭に立ち向かう中、メルケル氏の今回の訪問は極めて重要な意味を持つ。
 
ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の象徴である同収容所の跡地を訪れたのは、ドイツ首相としてはメルケル氏が3人目。
 
1945年1月27日に同収容所がソ連軍によって解放されてから、来月で75年。これを前にしたメルケル氏による同地訪問は、重要な政治的メッセージと受け止められている。
 
訪問の最中にメルケル首相は、ナチスによる犯罪を「記憶しておくことは…決して終わることのない責任の一つだ。わが国と不可分に結び付いている。この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」と述べた。
 
メルケル氏は訪問前日の5日には、「反ユダヤ主義やあらゆる形の憎悪との闘い」が、自身の政府の優先事項だと語るとともに、ドイツ政府が同日承認した、同収容所の関連財団への新たな寄付金6000万ユーロ(約72億円)を歓迎する姿勢も示していた。 【2019年12月9日 AFP】AFPBB News
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また、オランダのルッテ首相はアムステルダムで開かれたホロコーストの追悼行事に出席、ナチス・ドイツからユダヤ人を守らなかったことを謝罪しました。

****オランダ首相、ナチス虐殺で初めて謝罪 ユダヤ人保護せず****
オランダのマルク・ルッテ首相は26日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツからユダヤ人を守らなかったとして、同国首相として初めて謝罪した。

ナチスによるホロコースト(大虐殺)の犠牲者約600万人のうち、オランダ出身者は約10万2000人に上った。

言われるがままに行動
ルッテ氏は、ポーランド・アウシュビッツ強制収容所の解放から27日で75年となるのを前に、アムステルダムで開かれたホロコーストの追悼行事に出席。

オランダがナチスに占領されていた時期、ナチスに抵抗した政府職員もいたが、大多数は言われるがまま行動したと述べた。

そのうえで、「私たちの国に生存者が残っているうちに、オランダ政府を代表して、当時の政府の行為について謝罪する」と表明。

「どんな言葉もホロコーストほど極悪でひどいことを表現できないとわかったうえで、謝罪する」と付け加えた。

「十分に保護しなかった」
今回の表明は、オランダのユダヤ人コミュニティーが長年、求めてきたものだった。
同国にはホロコースト以前、約14万人のユダヤ人が暮らしていた。しかし、ナチスとオランダ人協力者たちによって、75%近くが殺害された。

オランダ政府はこれまで、強制収容所を生き延びたユダヤ人が帰国した際に受けた扱いについて、謝罪している。

しかし今回ルッテ氏は、オランダ政府がナチス占領下で、ユダヤ人などの迫害に役割を果たしたと初めて認めた。
ルッテ氏は追悼行事で、「私たちは、どうしてこれが起きたのかと自問する」と述べ、こう続けた。
「全体として、私たちがしたことはあまりに少なかった。十分に保護せず、助けず、認識しなかった」【1月27日 BBC】
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【「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」(シュタインマイヤー独大統領)】
しかし、メルケル首相やルッテ首相の思いとは裏腹に、シュタインマイヤー独大統領が懸念するように、ユダヤ人に対する差別・憎悪は今も残存し、近年拡大の傾向も見えます。

“ドイツでは排外主義の拡大を背景に、ユダヤ系住民を狙った暴力や脅迫などの犯罪が急増。10月には武装した極右のドイツ人がシナゴーグ(ユダヤ教会堂)を襲撃し、社会に衝撃を与えた。”【12月6日 日経】

****英ロンドンで反ユダヤの落書き、店舗やカフェに****
ロンドン北部で(12月)28日夜、複数のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)や店舗でユダヤ人差別の落書きが相次いだ。

ユダヤ教徒が光の祝典「ハヌカ」を祝う時期の犯行とあって、ロンドン警視庁は差別を動機とする憎悪犯罪(ヘイトクライム)とみている。同日にはニューヨークでも、ユダヤ教指導者の家に刃物を持った男が押し入り、5人が刺される事件があった。

ロンドン警視庁によると、ロンドン北部のハムステッドやベルサイズ・パークの礼拝所などで、ユダヤ教を象徴する「ダビデの星」のほか、「911」という数字がスプレーペンキで落書きされていた。最初の通報は28日午後11時半だったという。

落書きは、「2001年9月11日の米同時多発テロはユダヤ人が起こしたもの」だという反ユダヤ陰謀論を意味するものの可能性がある。あるいは、1938年11月9日の「水晶の夜」(ナチ党の指令でドイツ各地のユダヤ人居住区が襲撃されたユダヤ人排斥事件)への言及かもしれないという。

ユダヤ人にとって1年で特に大事なお祭り「ハヌカ」の今年の開始から、6日目に起きた事件について、ロンドンのサディク・カーン市長はツイッターで、「ロンドンはもちろん、このようなユダヤ差別はどこにもあってはならない」と書き、被害にあった地区の警察パトロールを強化する方針を示した。

落書き被害にあったサウス・ハムステッド・シナゴーグの広報担当は、「あらゆる立場の人が、あらゆる信仰の人も信仰を持たない人も、団結して立ち上がり、街中だろうがオンラインだろうが、偏見も憎悪も分断も受け入れないと示す時だ」と述べた。

ロンドン警視庁のケヴ・ヘイルズ警部は、「明らかに心配な事件で、我々は深刻に受け止めている。落書きを取り除くため担当者と連携するとともに、何者の犯行か突き止めるため捜査を進めている」と述べた。
さらに、「地元の人たちに安心してもらうため、地域一帯を警官がパトロールする」と話した。【2019年12月31日 BBC】
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ドイツでは、こうしたユダヤ人排斥が広がる風潮を受けて、ドイツからのユダヤ人の「大脱出」が起きる恐れも懸念されています。

****ドイツ外相、ユダヤ人の「大脱出」に警鐘 反ユダヤ主義への対策求める****
ドイツのハイコ・マース外相は26日、反ユダヤ主義の台頭を阻止するための対策を早急に取らなければ、同国からのユダヤ人の「大脱出」が起きる恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
ニュース週刊誌シュピーゲルのアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の解放から75年を迎える前日発売号への寄稿の中で、マース氏は、現実とオンラインで反ユダヤ主義的な言動や攻撃が「日常茶飯事」と化していると指摘。
 
ドイツは長きにわたりナチス・ドイツの過去と向き合う努力をしてきたにもかかわらず、国内のユダヤ人のおよそ2人に1人が国外移住を考えたことがあるという。
 
マース氏は、「そのような考えが苦い現実となり、ユダヤ人のドイツからの大脱出が起きることのないよう早急に対策を取らなければならない」と主張した。
 
マース氏によると、ドイツは反ユダヤ的行為に対する法定刑厳格化を推進し、より多くの欧州連合加盟諸国がホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の否定を犯罪化するよう求めていく。ホロコーストの否定は現在、ドイツやベルギー、イタリアなどEU加盟十数か国で違法とされている。
 
さらに、ソーシャルメディア上での反ユダヤ主義的な憎悪表現(ヘイトスピーチ)と偽情報への対策も強化していくという。
 
マース氏は、「欧州の若者の3分の1は、ホロコーストについてよく分かっていない」とする調査結果をあるとした上で、ナチス・ドイツがユダヤ人600万人を殺害した第2次世界大戦の恐怖について、若者が学ぶことの重要性も強調した。
 
英調査会社ユーガブが26日に公表した世論調査でも、ドイツ人の56%が、学校の社会科見学でのアウシュビッツ訪問を義務化すべきと回答した。 【1月27日 AFP】AFPBB News
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ドイツにおいては、ホロコーストやユダヤ人差別は「過去の歴史」ではなく、今も政治が、国民が、向き合うべき課題と認識されています。

 

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