孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア・メローニ政権、救助船受け入れ拒否 改めて露呈した移民・難民対応の困難さ

2022-11-20 23:12:37 | 難民・移民
(地中海中央部、イタリア半島と仏領コルシカ島の間の海域ティレニア海を航行中の移民救助船「オーシャン・バイキング」船上で、矢印の上に「フランス」と書かれた段ボール箱からのぞく子どもの指(2022年11月10日撮影)【11月20日 AFP】)

【まずまず安心出来るスタートを切ったイタリア・メローニ首相】
イタリアでは10月、極右政党とも評される「イタリアの同胞」を率いるジョルジャ・メローニ氏が首相に就任し、新たな右派内閣を組閣しました。

メローニ首相のムッソリーニへに関するかつての言及や、連立政権のパートナーである「同盟」のサルヴィーニ氏や「フォルツァ・イタリア」のベルルスコーニ元首相が親ロシア的な言動を行ってきたことなどで、イタリア新政権によってウクライナ支援などにEUの結束が乱れるのでは・・・とも危惧されていました。

ただ、ウクライナ問題に関しては、メローニ氏自身がこれまでもウクライナ支援を明言してきたこともあって、現段階では問題は出ていません。その他の経済問題などについても「無難」なスタートを切ったとも評されています。

****イタリア右派メローニ政権まずまずの船出と課題****
イタリアでは総選挙の結果を受け、右派FdI(イタリアの同胞)のジョルジャ・メローニが首相となった。Economist誌11月5日号の社説は、メローニ政権は閣僚人事および政策の面で比較的安心出来るスタートを切ったが、難題をメローニ首相がどのように克服して行けるかは明らかでない、と論じている。主要点は次の通り。

・メローニ政権は予想より長く持つかもしれない。メローニは三つの安心材料を提供している。

・第一に、ウクライナについての彼女の態度は確固たるものである。彼女はプーチンを略奪者と見ている。彼女は議会における最初の演説で「主権国家の領土的一体性の侵害は受け入れられないだけでなく、我々の国益を守る最善の道である」としてウクライナに対するイタリアの支持を強調した。

連立政権のパートナーである「同盟」のサルヴィーニとFI(フォルツァ・イタリア)のベルルスコーニにはプーチンにおべっかを使った前歴があるが、連立政権におけるFdIの立場は圧倒的だ。

また、前任のドラギがエネルギー供給の多様化を巧みに進めたお陰で、プーチンが欧州を凍えさせようとしても、イタリアが「弱い環」にはならないように見える。

・第二に、多くの人がメローニをビクトル・オルバン(ハンガリー首相)の女性版のように見て来たが、メローニが欧州連合(EU)と喧嘩したがっているようには見えない。外相には欧州議会元議長のアントニオ・タヤーニを起用した。彼女はドラギとEUの間で合意された経済改革計画を多少手直しして維持するようだ。

・第三に、財務相として、中央銀行の経歴を有する尊敬される人材を起用できなかったのは残念だが、「同盟」の副党首でプロ・ビジネスの一派に属するジャンカルロ・ジョルジエッティ(ドラギ政権では経済開発相)が起用されたのは妥当だ。

・以上の通り、これまでのところ、比較的安心させられる。しかし、ユーロ圏が恐らく不況に向かうにつれ、イタリアはEU内で最も心配の種になる。

メローニはイタリア経済を成長に転じさせる興味あるアイディアをまだ示していない。多くの観測筋はドラギが推進した改革のプロセスが今や遅延し、あるいは国家主義と保護主義に逆転すると心配している。

イタリアの巨額の債務(2兆7000億ユーロ、国内総生産(GDP)比150%)は金利が更に上昇すれば耐え難いものになる。メローニの政治的経験の浅さも懸念材料だろう。

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(中略)以上を要するに、メローニの政権は西側にとってまずまず安心出来るスタートを切ったということである。しかし、最も大きな不確実性は財政運営であろう。(後略)【11月17日 WEDGE】
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【救助船受入れ拒否でフランスと対立】
“まずまず安心出来るスタート”“EUと喧嘩したがっているようには見えない”・・・とは言いつつも、問題が生じていない訳でもありません。それは難民問題です。

アフリカ・中東から押し寄せる難民・移民に関しては、イタリアはその「玄関口」の位置にあることから、これまでもフランスなどとは対立してきました。

難民・移民に厳しいスタンスをとる「右派政権」となったことで、その対立が更に先鋭化することも危惧されます。

****メローニ伊右派政権、移民救助船の受け入れ拒否 仏が受け入れ 両国対立****
イタリアで先月発足したメローニ首相の右派政権が、約230人を乗せた移民救助船の受け入れを拒否した。船は3週間近く漂流し、フランス政府が10日、人道的見地から受け入れを発表した。イタリア政府を強く批判し、両国の外交問題に発展している。

移民救助船は、ドイツで発足した人道支援団体が地中海で運営している。今回乗っていたのは、リビア沖で10月に救助されたアフリカからの移民や難民。イタリアが受け入れを拒否した後、船内は病人が出るなど衛生環境が悪化していた。

国際法では、遭難者の救助が義務付けられているが、イタリア政府は「乗船しているのは遭難者ではなく、移民だ」として受け入れ拒否を正当化してきた。メローニ首相や右派与党は9月の総選挙で、移民流入の阻止を公約にした。

フランスのダルマナン内相は10日の記者会見で、「イタリア政府が、欧州の責任ある国家として行動しないのは遺憾」「理解しがたい」と不満を示し、救助船受け入れは例外措置によるものだと主張した。

これに対し、イタリアのサルビーニ副首相は「イタリアには今年、9万人も流入したのに、フランスはこのうち38人、欧州連合(EU)で117人しか受け入れていない」とツイッターで発信し、EUの移民政策を批判した。

EUは地中海岸のイタリアやギリシャの負担を軽減するため、有志国が移民や難民受け入れを分担する仕組み作りを目指すが、実現は難航している。【11月11日 産経】
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イタリア側の説明では、今年1月からイタリアに上陸した移民は9万人。フランスを含むEUの複数の加盟国がそのうち計8千人を分担して受け入れると約束しているが、実際に受け入れられたのは117人にととどまる・・・ということでは、イタリアの不満もわかります。「どうしてイタリアだけが・・・フランスが受け入れればいいじゃないか」といったところでしょう。

イタリア、ギリシャ、キプロス、マルタの欧州4ヶ国は、これ以上の難民を受け入れることができないとする共同声明を出しています。

****地中海沿岸欧州4ヶ国、これ以上の難民を受け入れ不能****
地中海経由の流入難民の受け入れに関する、イタリアとフランスの間の対立が激化している中、地中海に面するイタリア、ギリシャ、キプロス、マルタの欧州4ヶ国が共同声明を発表し、これ以上の難民を受け入れることができない、としました。(中略)

今年の第一四半期にEU圏に入った難民や移民の数は、2016年以来最多数を記録しています.

ユーロニュースのインターネットサイトによりますと、今年1月から3月までの間に、4万人以上の難民がEU諸国に入っており、前年比で57%の増を示しています。

ヨーロッパへの違法難民の大量流入の主な原因としてウクライナ危機、一部の国の混乱した経済状況や旱魃などが挙げられます【11月13日 Pars Today】
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上記4ヶ国は、加盟国の任意とされているEUの流入移民管理の在り方を批判。イタリアに到着した移民をEUの全加盟国に強制的に割り振るよう欧州委員会に呼び掛けています。

今回の救助船は、国際NGO「SOSメディテラネ(地中海)」が運航する「オーシャン・バイキング」で、リビア沖で10月に救助された230人の移民や難民を乗せており、そのうち約60人は子どもでした。

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今回上陸した難民234人は、人数の多い順にバングラデシュ人が54人、次いでエリトリア人が39人、シリア人が32人、エジプト人が27人、マリ人が25人、その他ギニア、スーダンなど、戦争や悲惨な状況、抑圧から逃れてきた計11国籍の人々であった。

しかしながら234人のうちパスポートを所持していたのはわずか25人だったといい、ほとんどが18歳〜30歳もしくは未成年の若者で、うち10人ほどが2005年1月1日という同じ生年月日を申告していたという。

なおフランス政府は現在のところ、234人のうち44名の強制送還を発表している(正確な理由は不明)。【11月17日 Design Stories】
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“今回(フランス)トゥーロンで下船した移民のうち、フランスとドイツがそれぞれ3分の1程度を引き受け、残る3分の1についてはブルガリア、クロアチア、フィンランド、アイルランド、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニアが引き受けに同意している。”【11月20日 AFP】

【フランス 労働力不足で移民政策の転換か】
フランスも今回受入れにあたって、議会で揉め事も起きています。

****黒人議員演説中に「アフリカに帰れ」 仏極右議員、登院停止に****
フランスの国民議会(下院)は4日、黒人議員の演説中に「アフリカに帰れ」と議場でやじを飛ばした極右「国民連合」所属の議員に対し、15日間の登院停止と議員報酬半減という異例の処罰を賛成多数で決定した。発言は超党派で非難を呼んでいた。

左派「不屈のフランス」所属のカルロス・マルテン・ビロンゴ議員が3日、仏NGO「SOSメディテラネ」が海上で234人の移民を救助した船の寄港先を確保するよう求めていることを受け、代表質問を行っていたところ、「アフリカに帰れ!」と国民連合の新人議員グレゴワール・ドフルナス氏がやじを飛ばし、議場は騒然とした。

ドフルナス氏は、特定の個人への人種差別ではなく、地中海で救助される不法移民に対する発言だったと弁明した。

今回の処罰は、議場での議員の言論の自由を広く認める議会規則の中では最も重い。1958年に当時のシャルル・ドゴール首相が樹立した第五共和制史上、議員がこうした処罰を受けるのは2度目。

ドフルナス氏の発言は誰を対象にしたか明確ではないが、ヤエル・ブロンピベ議長は採決後、「人種差別は、その対象が何であれ、議会でわれわれを一つにしている共和国の価値観に反している」と述べた。 【11月5日 AFP】
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なお、今回の救助船受入れは別にしても、フランスは現在、移民政策の転換期にあるとの指摘も。理由は労働者不足です。

****フランス、移民政策転換期か?『オーシャン・バイキング号』を巡って議論が活発化****
(中略)
移民と難民では定義が異なるが、彼らと長く対峙してきたフランスは、今まさに移民政策の転換期を迎えているのかもしれない。

というのも、オーシャン・バイキング号の問題とは別に、フランス政府が外国人労働者を今後さらに受け入れる考えがあるため。

これは、2023年前半に予定されている亡命・移民法草案の一環として、過去2年間に爆発的に増えたフランス国内の人材不足(レストラン従事者、ホテル業務、農業、建設業など)を緩和するために計画されているものだ。

内容は主に、こうした仕事への就労を望む者に対し1年間有効の特別滞在許可証を発行し、かつ亡命者がフランスに入国してから6ヶ月間働くことができない期間を取りやめるというもの(犯罪歴がないことなどが前提条件)。

労働力不足の解決の糸口になるとされているが、極右政党からは当然のように反対の声が上がっており、今後の行方に注目が集まっている。

パリで12歳の少女が不法滞在者によって殺害された「ローラ事件」に始まり、オーシャン・バイキング号、イギリス海峡における英仏協定、そして外国人労働者の拡大問題と、今のフランスは移民政策に関する話題で持ちきりだ。

他のヨーロッパ諸国は右傾化するところもあるが、フランスがどう舵をとっていくのか、これからの動きに着目したい。【11月17日 Design Stories】
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なお、移民・難民に関する欧州各国の対応について以前から指摘されているのは、ウクライナ難民とアフリカ・中東からの難民・移民に対する扱いが“二重基準”ではないかということ。

【ウクライナ難民の対応と差 “二重基準”】
****欧州、ウクライナ・アフリカ難民対応で「二重基準」 IFRC会長****
国際赤十字・赤新月社連盟のフランチェスコ・ロッカ会長は16日、欧州の難民対応には「ダブルスタンダード(二重基準)が存在する」と指摘し、アフリカ出身とウクライナ出身で著しく扱いが異なると非難した。(中略)

ロッカ氏は記者会見で、ウクライナ東部ドンバス地方から逃れる人と、ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムによる暴力から逃れる人の間に違いはないと訴えた。

欧州社会が短期間にウクライナ難民数百万人を受け入れた点を称賛する一方、主に地中海経由で欧州入りしているアフリカ難民を数千人しか受け入れていない点を惜しんだ。

さらに「暴力から逃れる人、庇護希望者は平等に扱われるべきだ」として、「民族や国籍に基づいて命を救うかを決めるべきではない」と主張した。

さまざまなリスクがあり、虐待されることもあると分かっているにもかからわず、アフリカから欧州を目指す難民は後を絶たない。国連の統計によると、昨年は3万1000人以上が危険で命を落とすことも多い地中海ルートでリビアからイタリアに渡った。

一方、2月末にロシア軍が侵攻を開始して以降、ウクライナから国外に逃れた難民は600万人以上となっている。 【5月17日 AFP】
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「巨大な墓場」地中海を渡る移民・難民に目を向けると、国際移住機関(IOM)によると、今年1~10月に地中海で死亡・行方不明になったのは1912人。2014年以来、この海域で消息を絶った人々はわかっているだけでも2万5千人を超えるとのこと。

犠牲者の多くはコートジボワールやスーダン、マリなどアフリカの国々で、紛争や貧困から逃れるために危険を冒して欧州を目指す人が絶えません。

****地中海で船が転覆 移民ら89人の死亡確認 行方不明者の捜索続く****
(中略)多くの移民や難民がよりよい生活を求めてヨーロッパを目指す中、地中海で命を落とすケースが後を絶ちません。
シリアの国営通信などによりますと、シリア沖の地中海で22日、移民らを乗せた船が転覆し、およそ20人が救助されましたが、これまでに89人の死亡が確認され、現在も行方不明者の捜索が続いているということです。

救助された人たちなどの話によりますと、船にはおよそ150人が乗っていて、地中海にある島国のキプロスを目指して中東のレバノンを今月20日に出港しましたが、シリア沖で転覆したということです。

レバノン当局は事態を受けて、国内で移民の密航に関わったブローカーの摘発などに乗り出しましたが、経済危機が深刻化するレバノンではよりよい生活を求めてヨーロッパを目指す移民が後を絶ちません。

また北アフリカなどからも移民や難民が地中海を渡ってヨーロッパを目指していますが、船が転覆するケースが相次いでいて、IOM=国際移住機関によりますと、ことしに入ってこれまでに1600人以上が命を落としているということです。【9月25日 NHK】
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【ローマ法王 「困っている人にドアを開けないのは犯罪である」】
フランシスコ・ローマ法王は「困っている人にドアを開けないのは犯罪である」と語っています。

****国連、リビアでの「凶悪な虐殺」を非難****
(中略)ローマ法王フランシスコは移民を熱心に擁護し、彼らを排除する行為を「恥ずべき、嫌悪すべき、罪深い」と形容した。その結果、イタリアの次期右派政権と衝突することになった。

フランシスコ法王は、「移民の父」として知られる19世紀の司教と、アルゼンチンで病人に奉仕した20世紀の人物を列聖する際、自らのコメントを残した。

移民支援を教皇職の主要課題としてきたフランシスコ法王は、サンピエトロ広場に集まった5万人の人々の前で式典を司会した。

その際、「移民の排除は恥ずべき行為だ。実際、移民の排除は犯罪的行為である。彼ら移民を私たちの目の前で死なせてしまうのだ」と同法王は述べた。

さらに、「そして今日、地中海は世界最大の墓地となっている」とし、欧州に到達しようとして溺死した何千人もの人々に言及した。

「移民を排除するのは嫌悪すべきことであり、罪深いことだ。困っている人にドアを開けないのは犯罪である」。同法王はこう付言した。【10月10日 ARAB NEWS】
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ひとは生まれる国を選べない「国ガチャ」、国によっては紛争・貧困など個人の努力では如何ともし難い問題が。

確かに移民・難民を受け入れることで、経済・治安などで問題も起きます。
ただ、その問題の多くは、受け入れ側の本気でない対応、厄介者扱いする対応によって生じているのではないかと考えています。

難民・移民の問題でいつも思うのは、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」・・・と言う話は何度も書いているので今回はパス。
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