孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  厳戒態勢の正月、騒乱から1年、動乱から50年

2009-03-05 12:38:15 | 国際情勢

(チベットの若きリーダーと目されるカルパマ17世 なかなかハンサムなのもカリスマ性を高めているようで “flickr”より By Salva [Om Qui Voyage]
http://www.flickr.com/photos/smagaz/2763361881/)

【凍る正月】
昨日取り上げたミャンマーの軍事政権と並んで、アジアの大きな人権問題のひとつが中国のチベット弾圧問題です。
先月25日はチベット暦の正月でしたが、当局の弾圧に抗議する市民や僧侶らが恒例の祝賀を拒否。
地元政府は花火を打ち上げ、「ともにチベット正月を祝おう」と融和を呼びかけたようですが、町にはデモ再発を警戒する多数の警察や軍が配備され、殺伐とした空気に包まれたそうです。
更に今月は昨年のチベット騒乱から1年という節目の時期にあたり、中国当局の警戒態勢は一層はりつめたものとなっているようです。

****チベット、凍る正月 まもなく騒乱1年、強まる監視****
2月25日はチベット暦の正月。中国のチベット族居住地域は、祝賀ムードとはほど遠い張りつめた空気が支配した。昨年3月の騒乱から1周年を目前に控え、当局が警戒態勢を敷いている。

四川省甘孜(カンゼ)チベット族自治州の州都・康定(ダルツェンド)の中心街では、例年なら鳴る爆竹の音は聞こえず、広場の人影はまばら。大通りでは約100人の治安部隊が「おう! おう! おう!」とかけ声を発して行進。あちこちに停車したパトカーから警官が目を光らせていた。広場で20代のチベット族の男性に声をかけた。昨年の騒乱の影響を尋ねると、急に表情が固まり「何も知らない」と足早に去った。
ホテル従業員によると、1週間ほど前から携帯電話のメール機能が使えなくなった。チベット族が連絡を取り合うのを警戒して当局が規制したとみられる。
甘粛省甘南チベット族自治州瑪曲(マチュ)でも「24日に大勢の武装警察が増派された。ずっと警察車両が巡回している」(漢族の住民)。
甘孜自治州内に住むあるチベット族男性は「平日と同じように過ごす。私たちはひたすら読経するだけ。理由は聞かなくてもわかるだろ」と、昨年の騒乱の犠牲者を追悼する意思を示した。

当局は正月気分を盛り上げようと懸命だ。地元テレビは24日夜、新年を祝う特別番組を放送。チベット族と漢族の男性2人がチベット語と中国語で掛け合う漫才を披露し、融和ムードをことさらに強調した。
人民日報は25日、1ページのチベット特集を掲載。チベット族が愛飲する塩辛い茶を引き合いに「茶と塩のように親しみ合う」の見出しで、民族間の団結を印象づけた。【2月26日 朝日】
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チベット亡命政府のあるインド北部ダラムサラでは、ダライ・ラマが24日、新年に寄せて声明を発表。
「昨年は数百人の命が犠牲となり、数千人が拘束、拷問された。内外のチベット人の新年を祝わない決意をたたえる」「外出して自らの希望をわずかに示唆しただけで、拷問と拘束に直面する。挑発に乗って命を犠牲にしないように、辛抱強い行動を」と呼びかけています。【同上】

【動乱から50年】
また、今月3月10日は、1959年のチベット動乱から50年を迎えます。

****チベット「民主改革」で白書=暗黒から光明への50年-中国
中国国務院新聞弁公室は2日、チベット動乱50年(10日)を前に「チベット民主改革50年」と題する白書を発表した。白書は動乱平定後の改革により、チベットに繁栄がもたらされ、現在「史上最良の発展時期」にあると強調している。
共産党政権の統治を正当化するのが狙いで、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世に「分裂活動の中止と愛国的立場への回帰」を呼び掛けた。
約2万字に上る白書は動乱前の「封建農奴制社会」の実態を詳しく叙述。中国側から見た1959年3月の動乱の経緯を述べた上で、その後の農奴解放、土地改革、政教分離などを説明した。
白書は過去50年を「暗黒から光明へ、貧窮から富裕へ、独裁から民主への輝かしい道程だった」と総括し、チベットの人権・宗教抑圧や伝統文化軽視といった「ダライ・ラマ集団がまき散らす偽り」に反論した。【3月2日 時事】
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中国当局は治安部隊による強硬策と同時に、これまでにない多額の投資を教育や衛生など市民生活改善にあてるなどの懐柔策も行っていることも報じられています。

【焼身自殺、抗議デモ】
そうした緊張下で、抗議の焼身自殺をはかったチベット人僧侶に治安部隊が発砲したという、詳細がよくわからない事件も報じられています。
また、四川省アバ県ではチベット人僧侶らによる抗議活動があったとも。

****チベット人僧侶らの抗議活動うけ厳戒態勢、中国四川省*****
前週、チベット人僧侶らによる抗議活動があった中国・四川省アバ県では、1959年3月の「チベット動乱」から50年を迎えるのを前に、寺院周辺に厳重な警戒態勢が敷かれている。チベット支援団体などが2日、明らかにした。

米国を拠点とする「チベットのための国際キャンペーン」(ICT)が現地からの情報として伝えたところによると、数百人の僧侶が1日、仏教の祈祷を行う伝統行事を当局から禁じられたことに抗議してデモ行進を行ったという。僧侶らは、当局に拘束されているチベット人の解放も要求した。
ICTによるとデモ行進を終えた僧侶らは寺院に戻ったが、その後は武装警察が寺院を包囲し、僧侶らはほぼ軟禁状態にあるという。しかし、詳細は明らかになっていない。

この抗議活動については、米ニューヨークを拠点とする学生による支援組織「自由チベット学生運動」も報告している。これによると、僧侶らは寺院から外に向かおうとしたが、兵士300人から400人に押しとどめられたという。現在寺院は封鎖され、主な道路には多数の兵士の姿が見られるという。【3月3日 AFP】
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外国メディアの取材が制限されていますので、よくわかりませんが、緊張した状況にあることは間違いないようです。

ミャンマーに対する国際世論も無力ですが、中国に対しては一層難しいところがあります。
中国の現在の経済的影響を考えると、国の立場でその人権問題を批判して国家間の軋轢を生むことは、正直なところ覚悟のいる判断です。
また政治的にも、強く批判して国際的に孤立させるよりは、大国として国際ルールに沿った行動をとる方向に引っ張り出すほうが、ミャンマー・北朝鮮あるいはスーダンといった諸問題においてもメリットがあります。
そんな事情で、中国に圧力をかけて人権問題の改善を促すというのは難しい問題です。

しかし、国際社会との軋轢を望まないのは世界経済との結びつきを強める中国も同様ですので、国際的に批判を浴びるような極端な行為は中国も取りづらいところでしょう。
現地での緊張が暴発しない限り、大きく改善もしないかわりに極端な悪化もない、今のような緊張関係がしばらく続くようにも思えます。

【次代のリーダー カルパマ17世】
長期的にみると、高齢のダライ・ラマが亡くなったときチベットの民族運動を誰が率いるのか?という問題がチベット側にはあります。
中国側は、その状況を待っているとも言われます。

3月4日号のNewsweekに“チベットを担う若きリーダー”として、ダライ・ラマを慕って14歳で亡命し、現在はダラムサラのダライ・ラマのもとにいる23歳の活仏、カルパマ17世が紹介されています。
ダライ・ラマはチベット仏教の最大宗派であるゲルク派の指導者ですが、カルパマ17世は宗派的にはライバル関係にあるカギュ派の活仏です。

ダライ・ラマの後継者(まだ死んでいない生前にあっても、その生まれ変わりを探すことはできるそうです。)をこれから探すにしても、成長してリーダーに育つまで二十年ほどの時間が必要です。
そこで、カギュ派の活仏カルパマ17世が摂政として、その間の実質的リーダーを担うという考えがあるそうです。

若く、人望・カリスマ性もあって、ダライ・ラマ亡き後のリーダーとも目されているカルパマ17世ですが、何ぶん最大宗派ゲルク派にすれば、他宗派の指導者を仰ぐ形となりますので、そこのところがどうなるか・・・という問題があるようです。



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