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イタリア  短命内閣・きめられない政治の元凶とも指摘される上院の改革で、改憲を問う国民投票へ

2016-04-16 22:29:14 | 欧州情勢

(イタリア上院 【2015年 10月 15日 ロイター】)

【「上院は下院と一致するなら無用であり、下院に反対するなら有害である」か?】
日本をはじめ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダなど先進国の多くは二院制を採用しているます。

一般的には、二院制(両院制)の意義は「多角的な民意の反映」にあるとされています。

****多様な民意の反映と下院の過誤の修正****
二度の審議を行うことで、下院の決定に過誤があった際に改めることが期待されている。すなわち、司法における三審制と同様、人間が過ちを犯しうることから慎重に手続きを進めることを意図しているものである。

したがって、選挙方法および選挙時期を下院と異なるものにすることが望まれる。例えば参議院の選挙制度は当初衆議院の中選挙区制との差別化を図り、全国区と地方区に分けた選挙制度をとっていた。

「両院制」の意義は「多角的な民意の反映」というのが本来の趣旨である。
これは双方異なった方法で選出されて構成される議院が存在することによって、様々な角度からの意見が反映されていくことでより深い議論が出来るというものである。

加えて、下院のみでは代表され得ない国民の意思を国政に反映させ、国民の意思を問う回数を増やすという意義もあるとされる。

下院に相当する議院は基本的には、社会の多勢を占める中産階級の利害を代表している。
政治が異なる利害の調節を行なう作業である以上、中産階級で代表されるものとは別の視点からの利害を何らかの形で反映するメカニズムが存在しなければならない。

それは少数民族であったり、各地方の利害であったりする。社会が複数の民族から構成される場合や、異なる言語集団から構成される場合は特に重要となる。

現代においては、両院の力が対等であることは少ない。立法に関しては下院に優越がある場合が多く、上院に法案を否決する権利が無い、あるいは制限されていることが多い。

行政に関しては、予算や条約の承認などで、どちらかの院にのみ決定権を与えている国が多い。両院の異なる選出メカニズムをふまえ、その民意を適切に反映させるために役割分担がなされるのである。【ウィキペディア】
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ただ、現実問題としては、「ねじれ」などで上院と下院の意見が異なる場合、議会決定が極端に遅延して「決められない政治」になってしまったり、逆に、上院が下院と全く同じ傾向を持つ場合は、その存在意義が問われたすることにもなります。

****両院制の課題****
フランスの政治家シエイエスは「上院は下院と一致するなら無用であり、下院に反対するなら有害である」と述べている。

ただし、シエイエスらがフランス革命期に作った一院制の議会である国民公会は暴走を起こし、政敵である少数派を次々に死刑にする恐怖政治を引き起こしている。

恐怖政治はテルミドールのクーデターにより終結させられ、一院制の国民公会はわずか3年でなくなり、その後できた共和暦3年憲法では、恐怖政治への反省から、二院制の議会が作られている。

日本の参議院については衆議院と全く同じ意思を示すと「カーボンコピー」と揶揄され、衆議院と正反対の意思を示すと「決められない政治」と言われる難しい存在であるという指摘がある【ウィキペディア】
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上院は短命内閣・政治不安定・きめられない政治の元凶
こうした課題は日本でも常々問題にされて、改革(特に「カーボンコピー」化した参議院の改革)が議論されるところですが、イタリアでも同じような問題があります。

特に、イタリアの場合は上院は下院と全く対等の権利を持ち、首相が決まるには両院の信任が必要で、上院にも政府の不信任を決議する権利があります。

“ (イタリアは)かつては「おはよう、今日の総理は誰?」というジョークが広められたほど、首相の交代が頻繁な国として名高く、今もその傾向はおさまっていないが、1990年1月-2013年4月現在の間での首相は9人(延べ13人)と、日本の15人(延べ16人)に抜かれている。”【ウィキペディア】といった現象の背景に、こうした二院制の問題があるとされています。

このため、以前から上院改革が議論されてきましたが、2013年2月の総選挙では上下両院の選挙制度の違いもあって、下院で過半数を制した中道左派が上院では過半数を得られず、約2か月組閣ができない政治空白を生むことになり、改めて二院制の問題が意識されることにもなりました。

****イタリア、改憲へ機運 新政権、ねじれ克服狙う 二院制見直し・大統領公選制審議へ****
イタリアで憲法改正を見据えた国会の議論が29日に始まる。最大の狙いは「ねじれ国会」が生じやすい今の仕組みを変え、政治態勢を安定させることだ。4月に発足した新政権は、長く対立してきた中道左派と中道右派による大連立で、実現への機運は高まっている。

イタリアでは「安定した政治」が長年の課題だ。

戦後は、平均寿命が1年に満たない「短命内閣」の時期が長く続いた。1990年代からはベルルスコーニ氏率いる中道右派と、旧共産党が軸の中道左派の2大会派が競う構図だが、比較的短い期間での政権交代が続いている。

国会では、ともに比例代表制の上院(定数315)と下院(同630)が、全く対等の権利を持つ。首相が決まるには両院の信任が必要で、上院にも政府の不信任を決議する権利がある。

このため、政党や政党連合は両院で過半数を占めなければ、政権は作れない。国会の論戦は、両院ともに政策論争よりも対立陣営を切り崩すことが優先されがちだ。

上下院選が同時に行われた2月の選挙の後には、中道左派が最大会派となったものの、上院では過半数に達することができず、組閣に失敗。金融危機の再燃が懸念される中、「政治空白」が約2カ月続いた。

下院は全国単位で得票率が1位となった政党・政党連合に定数の54%の議席が配分される。一方、上院では20の州ごとに各州定数の55%がトップの政党・政党連合に配分される。この違いが「ねじれ」を生む要因となった。

こうした状況下、大連立を背景に4月に就任したレッタ首相は、施政方針演説で「現在の二院制は限界だ」「1年半以内に、改憲によって国のしくみを変える」と表明した。

ドイツのように上院を各州の代表者による議会に変える一方、国民が直接選挙で選ぶ下院が内閣信任などで優位を持つ仕組みへの移行を目指す。

同時に、中道右派の実力者ベルルスコーニ元首相が自らの権力強化を狙って主張してきたフランス型の「大統領公選制」についても審議される見通しだ。

 ■国民合意、ハードル高く
イタリア共和国憲法は二院制や両院の対等を定めている。またファシズムの台頭を許した戦前の反省から大統領や首相の権限は限定的だ。一連の制度改正には大幅な改憲が必要になる。

1948年1月に施行された現憲法は、これまで15回改正されてきた。だが欧州連合(EU)で決まった財政規律の導入や、すべての犯罪での死刑の廃止、旧王家の帰国を認めるなど、政治対立が生じない個別の条文改正に限られ、「国のかたち」を大きく変える大幅改憲は実現していない。
改憲には国民の幅広い合意が必要な手続きとなっているためだ。

大幅改憲の動きがなかったわけではない。安定した政権運営には「政治主導」が必要だとして、83年、92年、97年の3回、与野党の上下両院議員による「憲法改正委員会」が設けられた。だが与野党の対立で実現は阻まれた。また2006年には、国民投票まで至ったが否決だった。

今回も、委員会がつくられる見通しだ。大連立政権の下で、これまでよりは議論がスムーズに進む可能性がある。ただ波乱要素は、政治を私物化してきたベルルスコーニ氏が委員会の委員長就任に意欲を示していることだ。左派からは「改憲を私物化しかねない」と、反対の声がすでに上がっている。【2013年5月28日 朝日】
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“お騒がせ政治家”ベルルスコーニ元首相率いる中道右派との大連立政権をスタートさせたレッタ首相でしたが、ベルルスコーニ氏に振り回された感もあって、改革も進みませんでした。

その後、脱税で実刑が確定していたベルルスコーニ元首相の上院議員資格剥奪が上院本会議で中道左派などの賛成多数で決まる見通しとなったことに抗議して、中道右派は連立を離脱。

一方、中道左派与党・民主党の若手のレンツィ書記長が、レッタ首相の頭越しにベルルスコーニ氏と選挙制度改革で話をつけ、連立解消で政権基盤が弱体化したレッタ首相を引きずり下ろす形で2014年2月に政権をもぎとり、イタリア史上最年少の首相に就任しました。

****イタリア:新首相に39歳レンツィ氏 あだ名は「壊し屋****
 ◇剛腕、旧態の政治体制の解体できるか
イタリアのレッタ首相(47)が(2014年2月)14日、辞任したのを受けて、イタリアの新首相に就任するのは中道左派・民主党のマッテオ・レンツィ書記長(39)。

旧態依然としたイタリア政治体制の解体を叫び、あだ名は「壊し屋」。敬愛する政治家は英労働党を「ニューレーバー」に立て直したブレア元英首相と、「変革」を訴えてホワイトハウスの主となったオバマ米大統領だ。

イタリア北部の古都フィレンツェの生まれ。子どもの頃から「リーダーになって勝つこと」に執着、幼なじみは「広場のサッカーでも仕切りたがった」と語る。

国政経験はないが、たぐいまれなカリスマ性と巧みな弁舌で昨年12月、民主党書記長(党首)に就任した。タブーはない。中道右派のベルルスコーニ元首相の懐に飛び込んで選挙制度改革案をまとめ、「民主党で話ができる男が見つかった」と度量を買われた。

目指すのは、国家・行政機構のぜい肉をそぎ落とす政治。日常生活も“普段着”だ。ジーンズに白シャツ姿で自転車にまたがる。レッタ首相に退陣を迫った会談には青色の超小型車で乗り付けた。

欧州債務危機後の景気後退が長引き、若者の就職難が深刻化するイタリアに「希望を与える」と約束する。経済成長や競争力の足を引っ張っている旧弊を「壊す」ことができるか、腕力が問われる。

高校教諭のアニェーゼ夫人との間に2男1女。【2014年02月14日 毎日】
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国民投票で結論を
“レンツィ氏は新政権の「若さ」を武器に、政治改革(2月)、労働市場改革(3月)、行政改革(4月)、税制改革(5月)と矢継ぎ早に構造改革案を提示すると約束している。”【2014年02月22日 毎日】

その「政治改革」の柱が上院の地方代表議院への改組です。
レンツィ首相の「壊し屋」(日本にもそんな方がいらっしゃいますが)とも言われる剛腕もあってか、上院改革がようやく議会承認を得ましたが、国民投票を必要とすることにもなっています。

****イタリア、改憲へ分かれ道 首相、「政治の安定」狙い上院の権限縮小****
イタリアの政権が、第2次大戦後に制定された憲法を大幅に書き換えようとしている。

旗振り役のレンツィ首相(41)は「首相が次々に代わって政治が安定せず、議会でも大事なことが素早く決められない」という問題に対応するためだ、とアピールする。一方、野党は「民主主義の破壊だ」と猛反発している。

最後の関門となる国民投票は今秋にも行われる。

イタリア下院は12日、上院の権限を大幅に縮小する憲法改正案を可決。議会通過が決まった。

現在のイタリア共和国憲法は1947年に公布された。大戦期のファシズムへの反省から、首相の権限は抑制されている。

上下両院は全く同じ権限を持ち、信任や組閣には両院の過半数の賛成が必要だ。両院のどちらかで与党が過半数を割れば、首相は退陣を余儀なくされる。

イタリア政治の特徴である「短命内閣」の原因と指摘されてきた。2013年の総選挙では、下院で第1党の民主党が上院では過半数に至らず、約2カ月にわたって組閣できなかった。

また法案は修正のたびに両院を行ったり来たりする。11年のユーロ危機の際には「決められない政治」として、金融界や外国メディアの批判を浴びた。

今回の改憲案は、「改革断行」を掲げ、2年前に歴代最年少の39歳で就任したレンツィ首相が提案した。上院の定数を現在の315人から100人に削減する。

上院議員は選挙で選ぶのではなく、地方議会の代表者などで構成。内閣信任・不信任の権限も持たなくなる。議決権を下院にほぼ集中して、「一院制」に近づけるというものだ。

イタリアの憲法改正は、まず上下両院でそれぞれ3カ月以上あけて2度ずつ可決することが求められる。

今回は14年4月の改憲案提出後に修正が加えられ、12日で両院合わせて6度目の採決だった。ベルルスコーニ元首相が代表を務める「フォルツァ・イタリア」や市民勢力「五つ星運動」などの野党は採決をボイコット。下院(630議席)で賛成361、反対7だった。ただ議会だけで改憲を決められる3分の2以上の賛成は得られなかった。

この場合、反対派が求める国民投票によって投票者の過半数が反対すれば成立しない。今回は与党も同意していて、国民投票をすることが事実上決まっている。

レンツィ首相は、国民投票で改憲案が否定されれば辞任すると公言している。【4月14日 朝日】
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レンツィ首相がどうやって改革される自党内上院議員の賛同を維持したのかは知りません。
“レンツィ氏は使い古された言い回しを政治表現に仕立てて見せた。七面鳥(今の場合は上院)がクリスマスに賛成した、と言うのだ。つまり上院は自ら不利になる定数削減と権限縮小に同意した。もっともこれは全面的に利他的な行動というわけではない。もしも上院改革が阻止されれば早期選挙実施の可能性が高く、その場合はやはり自分たちの地位を失いかねない。”【2015年 10月 15日 ロイター】

ベルルスコーニ元首相に代わる強力なリーダーがいない中道右派「フォルツァ・イタリア」や、勢力を失ったモンティ元首相が率いた「市民の選択」などの所属議員がレンツィ首相に吸い寄せられたといったこともあったのかも。

冒頭の二院制の意義や課題の話にも戻りますが、レンツィ首相の進める改革案の是非については意見も多々あるところでしょう。

「カーボンコピー」とも揶揄される参議院でも、衆議院多数党の暴走に歯止めをかける機能をはたしているとも言えなくもありませんが、問題が多いことも事実です。

イタリアの改革はひとつの参考になるかと思います。

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