孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュで頻発するテロ 社会不満から過激思想へ 貧困と疎外がもたらす「テロの温床」

2015-11-28 21:26:15 | 南アジア(インド)

(バングラデシュの縫製工場で働く女性 【10月9日 DIAMONDonline】)

【「政権側の弾圧で『野党不在』になりつつあり、代わるはけ口としてイスラム勢力が伸びてきている」】
バングラデシュでまたテロが発生、「イスラム国」(IS)の同国支部を名乗る犯行声明が出されています。

****バングラデシュで銃乱射、1人死亡 IS名乗る犯行声明****
バングラデシュ北部ボグラ近郊で26日夕、イスラム教シーア派モスクで男らが銃を乱射して1人が死亡する事件があり、過激派組織「イスラム国」(IS)の同国支部を名乗る犯行声明がネット上に出た。

地元報道によると、3人の男たちがモスクに押し入り銃を乱射。礼拝中だった男性1人が死亡し、3人がけがをした。バングラデシュでの殺人やテロでISを名乗る犯行声明が出たのは、これで4回目。

一方、同国政府は一貫してISの関与を否定し、地元の野党勢力が背後にいるとの見方を示している。【11月28日 朝日】
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バングラデシュでは、北部のロングプールで10月3日に日本人(星邦男さん 66歳)が覆面をした2人の男に至近距離から銃撃されて死亡する事件がありました。
その前、9月28日にもダッカでもイタリア人男性が殺害されています。

星邦男さんの事件も「イスラム国」(IS)を名乗る犯行声明は出ていますが、背後関係はよくわかっていないようです。

最近バングラデシュでは外国人のほか、世俗主義的なブロガーや出版関係者などへの暴力事件も頻発しています。

****バングラデシュで出版関係者ら襲撃される、1人死亡****
バングラデシュの首都ダッカで先月31日、今年2月にイスラム過激派に殺害されたとみられる無神論者作家の発行人が何者かになたで襲われ死亡した。ダッカではこの数時間前にも、世俗派ブロガー2人と発行人1人が襲われ負傷している。

同国では、世俗派の活動家がなたや大型の包丁で襲撃される手口の似た事件が相次いで発生している。警察当局によると、犯人が襲撃後、血だらけの被害者を残して外側から南京錠をかけ立ち去る点も共通しているという。

殺害されたのは、ファイサル・アレフィン・ディパン氏(43)。著名知識人で作家でもある父親のアブル・カシム・ファズルル・ハク氏がAFPに語ったところによると、ディパン氏は、ジャグリティ出版社の経営者で、ダッカ中心部にある建物の3階にあるオフィスで殺害されたという。警察がディパン氏の死亡を確認した。

ハク氏は、ダッカで同日、他の発行人やブロガーが襲撃されたことを聞き、息子を心配していたという。「息子はアビジット・ロイ氏の作品を出版していた。ロイ氏の作品を出版した他の発行人も襲われたが、息子だけが死亡した」

無神論者のブロガーだったロイ氏は、今年2月にブックフェアの外で襲撃されて死亡。バングラデシュで発生した一連の世俗派ライター襲撃事件で初の犠牲者となった。同国では、同様の事件で今年5人が殺害されている。

31日に発生した2事件では、「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」がツイッター(Twitter)で犯行声明を出している。【11月1日 AFP】
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更には、シーア派住民を狙ったテロも起きています。

****イスラム国】ダッカの100人超負傷爆弾テロでも支部名乗るグループが犯行声明 少年死亡、2人逮捕****
バングラデシュの首都ダッカで24日未明、イスラム教シーア派の宗教行事に参加するため2万人以上の住民が集まっていた施設が爆弾テロに遭い、現地の警察当局によると、10代の少年1人が死亡、100人以上が負傷した。

ロイター通信によると、同教スンニ派過激組織「イスラム国」支部を名乗るグループが犯行声明を出した。バングラデシュで少数派のシーア派を狙ったテロは異例とされる。

AP通信によれば、テロ犯は自家製爆弾5個をシーア派の建物に投げ込み、3個が爆発した。当局は2人を逮捕した。(後略)【10月24日 産経】
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いずれの事件でも、「イスラム国」(IS)を名乗るが犯行声明が出されていますが、バングラデシュ政府はISの存在を否定し、野党バングラデシュ民族主義党(BNP)などが関与したとの見方を示しています。

おそらくは、「イスラム国」(IS)が組織的に関与したというよりは、現状への不満から過激な思想に走る者の暴力・テロが噴出しているというものではないでしょうか。

****イスラム過激派の台頭懸念 バングラ邦人殺害、政権はIS説否定****
日本人男性殺害事件で、過激派組織「イスラム国」(IS)を名乗る犯行声明が出たバングラデシュは、人口1億6千万人の9割がイスラム教徒の「イスラム大国」だ。声明の真偽は不明で、政権幹部らは否定的な見方を示した。ただ、最近ではイスラム過激派の活動が目に付いていた。

ISを名乗る声明は、3日の星邦男さん(66)殺害のほか、9月28日にダッカでイタリア人男性が殺された事件でも出ていた。

ハシナ首相は4日、両事件の背後に最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)とイスラム主義野党イスラム協会(JI)がいる可能性を示唆。

カーン内相も「目的は我が国の不安定化だろう。我が国に武装過激派はいない」とISの存在を否定した。発言の背景には、国内外の不安を打ち消し、外国投資などへの影響を防ぎたい思惑もあるとみられている。

これに対し、BNPは関与を否定した。

一方、国内では今年2月から8月にかけ、ネット上でイスラム過激思想に反対する言論活動を続けていた男性4人が、おのなどで殺される事件が続いていた。8月の事件では、国際テロ組織アルカイダの現地支部を名乗る犯行声明が出た。

近年は縫製業などの生産拠点として注目を集め、「ユニクロ」のファーストリテイリングなど外国企業の進出も相次ぐ。だが、2013年度の1人あたり国民総所得は960ドル(約11万5千円)と貧しい。中東などと同様に、貧困や格差、失業など社会への不満からイスラム過激思想に引き寄せられる層が出かねない状況があるとも言える。

また、政権側とBNPの対立が激しく、野党のストと警察による野党関係者の拘束が繰り返されてきた。

在留邦人の間には「政権側の弾圧で『野党不在』になりつつあり、代わるはけ口としてイスラム勢力が伸びてきている」との見方も出ていた。【10月5日 朝日】
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資本主義・グローバル化の光と影
経済活動が活発化して一部にその恩恵を享受する層が出現し始めると、その他の貧困に放置されたままの多くの者の間では社会に対する不満が大きくなります。

バングラデシュは近年では6%の経済成長を維持しており、世界銀行の分類によれば、低所得国から脱却し、中所得国となったとされています。
日本企業の進出も活発化し、重要な生産拠点となることが期待されています。

ただ、多くの労働者が厳しい環境での労働を余儀なくされている現実もあります。
2013年4月24日、首都ダッカ近郊シャバールで、縫製工場などが入居する8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊した事故は、死者1,127人、負傷者2,500人以上の大惨事になりました。

2005年にも縫製工場が崩壊して70人以上が死亡。2012年には工場火災で111人が死亡しています。

****着捨てファッションの犠牲者****
・・・グローバル化がもたらす途上国の貧困問題に取り組む国際NGO(非政府組織)「ウォー・オン・ウォント」は2006年と08年の2回にわたって、バングラデシュにある(2013年崩壊事件の工場に発注していた激安ブランド)プライマークと激安スーパー「テスコ」「アスダ」の縫製工場を調査している。

報告書のタイトルはそのものズバリ「ファッションの犠牲者」だ。

08年時点では、バングラデシュは週48時間労働で残業は12時間までとされており、最高で週60時間労働しか許されていない。しかし実際は、納品の期限を守るため週最大50時間残業や午前3時までの就労を強いられることも珍しくない。

いくつかの工場では労働基準監督署の調査をごまかすため、午後7時以降は裏のタイムシートを使っていた。

プライマークなど3社の最低賃金は月13.97ポンド(2100円)。時給約10円である。月24.37ポンドもらっている従業員もいたが、最低限の暮らしを維持する生活賃金は月44・82ポンドだ。3社から支給される賃金ではとても生計を立てられない。幼子を親元に預けている女性もいた。

職場では言葉での嫌がらせやいじめ、体罰が横行していた。労働者の権利を守る労働組合の組織率はわずか3.5%。出産休暇は認められず、労災もまともに支払われていなかった。

報告書は「ファッションショーで紹介されて6週間後には世界市場に出荷する。消費者は1~2回着たら、次の新作を求める。着ては捨てる激安ファッションが普及している」と激安競争の背景を分析している。(後略)【2013年05月02日 ワフーニュースブログ】
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貧困に留め置かれた者の不満を政治に反映させるチャンネルが不在の場合、不満はテロ・暴力事件として暴発します。

ローマ法王「貧困と失望が恐怖と不信、絶望を生み、それが暴力と衝突、テロの温床となる」】
バングラデシュに限った話ではなく、世界各地に共通して見られる現象です。

****法王訪問中のアフリカ貧困地域にテロ予備軍4100万人****
サハラ砂漠の南側「サヘル」地域の国々では貧困と絶望が蔓延している

アフリカ歴訪中のローマ法王(教皇)フランシスコは、ケニアで宗教指導者と会談し、若者が過激主義に走り「野蛮な攻撃」を行っていると非難した。近年ケニアでは、武装グループによるテロ攻撃が頻発している。

法王のアフリカ歴訪は今回が初めてで、ケニアの他、ウガンダと中央アフリカ共和国も訪問する予定になっている。

ケニアの首都ナイロビで、地元のイスラム教、キリスト教などの宗教指導者と会談した法王は、武装闘争の思想を宗教で正当化しようとするテログループを非難した。「憎しみと暴力を正当化するために神の名を使うことは許されない」と語った。

最近ケニアは、イスラム原理主義を掲げる隣国ソマリアの過激派組織アルシャバブから度重なるテロ攻撃を受けている。

アルカイダとも繋がりがあるアルシャバブは、ソマリアでの同グループの反乱を鎮圧するアフリカ連合の活動にケニアが参加したことから、ケニアでのテロ活動を開始した。今年4月に、ケニア東部のガリッサ大学に過激派が侵入し、学生ら約150人が殺害された事件でも、アルシャバブが犯行声明を出している。

識字率36%、サヘル地域の暗闇
法王がこの後訪問する中央アフリカ共和国でも、イスラム教系とキリスト教系の武装勢力が活動を活発化させている。昨年9月以降、首都バンギでは、両派の散発的な衝突で90人近い死者が出ている。さらに国連機関によると、現在47万人の難民が近隣諸国に逃れている。

ケニアの会談で法王は、若者がしばしば「宗教の名の下に過激化し、対立と恐怖の種を撒き、社会の根幹をズタズタに引き裂く」と語った。

これに同意したケニア・イスラム最高評議会のアブドゥルガフール・エルブサイディ議長は、「世界は無謀な戦争に覆われている。イスラムはますます蛮行の根源と見られている」と語った。

さらに法王は、貧困が人々を暴力と過激派活動に追い込んでいる、とも指摘した。ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領と会談した法王は、「経験則として、貧困と失望が恐怖と不信、絶望を生み、それが暴力と衝突、テロの温床となる」と語った。

アフリカでは、サハラ砂漠の南側に広がるサヘル地域に、最も貧しい国々が連なり、4100万人の若者が過激派に加わるリスクにあると言われている。

国連事務総長サヘル地域特使のイルーテ・ゲブレ・セラシは国連安全保障理事会に対して、サヘル地域の若者が「絶望に直面」し「大規模な移住や、テロ集団や個人の活動への勧誘、訓練の温床」となる危機にあると訴えた。

アフリカ大陸を横断するサヘル地域には、ブルキナファソ、チャド、モーリタニア、ニジェール、マリなどの国々が含まれる。先週末、マリの首都ババコで高級ホテルが襲撃されて外国人客ら約20人が殺害された事件では、アルカイダ系のテロ組織が犯行声明を出している。

セラシ特使によると、サヘル地域の児童の44%が小学校に通っておらず、識字率は36%にとどまっているという。【11月27日 Newsweek】
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この貧困の中で社会から疎外された人々の生活を改善し、その不満を政治に反映させるシステムを構築しない限り、いくら「イスラム国」(IS)やアルカイダを軍事的に制圧したとしても、第2、第3のISやアルカイダが「テロの温床」から生まれるだけの“もぐら叩き”でしかありません。

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