孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東でのタンカー攻撃が示す「影の戦争」 ドローン攻撃がもたらす戦術面の新局面

2021-08-09 23:04:02 | 軍事・兵器
(【8月3日 Croatia News】 ドローン攻撃を受けたとされる石油タンカー「マーサー・ストリート」にあいた穴)

【イラン・イスラエルの「布告なき衝突」、あるいは「影の戦争」】
7月29日と8月3日、中東オマーン沖でイランの関与が疑われるタンカー襲撃が相次ぎました。

****先週のタンカー攻撃、イランがドローン使用の可能性 英が国連に報告****
英国とルーマニア、リベリアは3日、国連安全保障理事会に宛てた書簡で、中東オマーン沖で先週起きたタンカー攻撃はイランが1機かそれ以上のドローンを使って行った可能性が「極めて高い」と指摘した。

ロイターが確認した書簡によると、3カ国は今回の攻撃は「国際海運の安全を脅かすもので、明らかな国際法違反だ」とし、国際社会から糾弾されるべきだと訴えた。また、英国とリベリアは関係国とともに今回の攻撃を徹底的に調査しており、結果を安保理に報告するとした。

先月29日、日本企業が所有し、英国が拠点のイスラエル系運航企業ゾディアック・マリタイムが管理する石油タンカー「マーサー・ストリート」がオマーン沖で攻撃を受け、英国人とルーマニア人の乗組員2人が死亡した。

ブリンケン米国務長官は2日、この攻撃はイランの犯行だと確信していると述べ、「集団的対応」が行われるとの見方を示した。

イラン政府は攻撃への関与を否定している。

外交筋によると、英国はこの事案を数日中に安保理の非公式会議で取り上げる見込みだ。

これとは別に、イスラエルも安保理に対し、国民を守るためにあらゆる措置を講じ続けると表明している。【8月4日 ロイター】
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****タンカー「乗っ取りの可能性」 親イラン勢力が関与か****
英国の海事機関UKMTOは3日、中東アラブ首長国連邦(UAE)沖のオマーン湾を航行していたタンカーが「乗っ取られた可能性がある」と発表した。

ロイター通信は、イランの支援を受けた勢力が関与している可能性が高いと伝えている。

現場はUAE東部フジャイラの東方沖。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡にも近く、同機関は航行する船舶に厳重な警戒を呼びかけている。
 
AP通信によると、乗っ取られたとみられているのはパナマ船籍のアスファルト運搬船「アスファルト・プリンセス号」。ホルムズ海峡に向かう海域を航行中だった。ロイター通信は英当局者の話として、「イランの支援を受けた勢力がタンカーを乗っ取った模様だ」と伝えている。
 
一方、イラン外務省のハティブザデ報道官はツイッターで「報道されている事案は非常に疑わしい」と関与を否定。米ホワイトハウスのサキ報道官は「状況を注視し、英国などと緊密に連携していく」と述べている。
 
オマーン沖では先月29日、日本企業が所有し、イスラエル系企業が運航していた石油タンカーが攻撃される事件が起き、乗組員2人が死亡した。イスラエル政府などが「イランによるドローン攻撃だ」と非難したが、イラン側は否定していた。【8月4日 朝日】
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上記「乗っ取り」に関しては、UKMTOは4日、何者かに乗っ取られた可能性があるとされたタンカーが解放されたと明らかにしています。タンカーは拿捕(だほ)された後、イランに向かうよう指示されたと一部で報じられていましたが、真相はわかりません。

7月29日の「攻撃」はイスラエル系運航企業ということで、「イラン対イスラエル」という構図が浮かびあがりますが、こうした事件は頻発しており「布告なき衝突」とか「影の戦争」とも称されています。

****船舶攻撃急増、2年で20件=イラン・イスラエル、布告なき衝突****
中東海域でイランとイスラエルが相手国の関連船舶を攻撃する事件が急増し、2019年以降、石油タンカーなど双方の商船少なくとも20隻が機雷やドローン、武装したグループによる襲撃を受けたと8日付の英日曜紙サンデー・テレグラフが報じた。
 
イランやサウジアラビア当局筋などの話を基に独自の分析として伝えた。海運や治安関係者は、イランとイスラエルによる布告のない衝突がエスカレートし、海上交通の要衝を抱える同海域が不安定化することに懸念を強めている。【8月9日 時事】 
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この地域の安定は、原油輸入の9割を中東に依存する日本にとっては死活的に重要な問題です。

****イスラエルVSイラン 海上での“影の戦争”*****
(中略)米国のトランプ政権(当時)が18年にイラン核合意から離脱し、対イラン包囲網を築く中で、米・イラン関係は再び悪化した。ホルムズ海峡周辺では軍事的な緊張が高まり、トランプがイランを攻撃することを検討していたことも報じられている。

一方、バイデン政権は核合意への復帰を目指し、欧州連合(EU)の仲介でイランとの交渉を行ってきたが、先に制裁解除を求めるイラン側とウラン濃縮の停止を求める米側で立場の違いがみられる。

イスラエルはバイデン政権がイランとの対話姿勢を示していることに苛立ちを隠しておらず、イランで穏健派のロウハニ大統領から保守強硬派のライシ新大統領に政権が移ったことも不確実性を高めている。

シリアへの原油輸出で続く海での緊張関係
原油輸入の9割を中東に依存する日本にとって、中東海域における航行の安全は極めて重要である。ペルシャ湾とオマーン湾・アラビア海を結ぶホルムズ海峡を通行する日本関係船舶は年間約1700隻、1日平均4〜5隻といわれる。

米国とイランの間で緊張が高まっていた19年6月にも、日本企業の保有するタンカーがオマーン湾でイランによるものとみられる攻撃を受けているが、海上におけるイスラエルとイランの“影の戦争”は、新たな地政学リスクとして世界経済の先行きへの不安を高めている。
 
海上での“影の戦争”は、米欧の制裁に違反してイランがシリアに原油を輸出することをイスラエルが妨害したことをきっかけに始まった。

当時のトランプ政権の制裁によりイランの原油輸出量は19年以降大幅に落ち込んだが、シリアのアサド政権はイランからの原油の輸入を続けている。

イスラエルは、イランがこの原油取引で得た利益をヒズボラなどの支援に回しているとみており、これまでに少なくとも12隻のイラン船舶に対して、紅海やシリア沖の地中海で攻撃を行った。

攻撃には主に吸着機雷が使われたが、喫水線より上に付けられたため、沈没には至ってはいない。攻撃された船はシリア向けの原油だけではなく、ヒズボラに提供する武器を運んでいたとみられる。
 
近年イスラエルが海軍力を増強し、地中海や紅海でイランに対して優位に立つ中、イランは海上においてイスラエルに報復する手段を欠いていた。

しかし、21年2月以降、イランによるものと思われるイスラエル関係船舶への攻撃が始まり、「マーサー・ストリート」に対するものを含めて、これまで少なくとも5回の攻撃が確認されている。

攻撃には吸着機雷か、対艦ミサイルまたはドローンが使われている。20年夏のアブラハム合意でイスラエルと湾岸地域の海上貿易が増加するため、イランはイスラエル関係船舶を自国領土に近いオマーン湾やアラビア海で攻撃することで、イスラエルに対する牽制を強めていると考えられる。
 
イスラエルもイランもこれらの攻撃への関与を公式には認めていないが、双方とも全面的な紛争へ拡大するのを避けるため、人的な被害を出さない方法で報復の応酬を繰り返してきた。

しかし、「マーサー・ストリート」に対する攻撃ではドローンが船橋に命中して人的被害が出ており、意図的に船橋を狙ったとすれば事態の拡大は避けられない。今後イスラエルが行う報復内容によって、中東海域の緊張がさらに高まる可能性もある。

また、トランプ政権は情報提供などを通じてイスラエルを間接的に支援してきたと伝えられている。バイデン政権も、イスラエルが行う革命防衛隊に関係する船舶への攻撃を事前に知っており、少なくとも攻撃に反対する姿勢は示していない。【8月5日 WEDGE】
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【ドローン攻撃が変える戦いの様相】
上記記事にあるように、これまでは“双方とも全面的な紛争へ拡大するのを避けるため、人的な被害を出さない方法”でやりあってきたのに対し(五輪空手で話題になった“寸止め”みたいなものか)、今回は意図的に人のいる船橋を狙ったようにも思われること、結果的に死者が出たことで大きな違いがあります。(空手なら、寸止めではなく、蹴りが命中してダメージを相手に与えたら「コントロール出来ていない技」として反則負け・・・)

最初から“コントロール”する気などなかった・・・・のかどうかという点が、ドローン襲撃という方法と併せて今後の大きな問題となります。“コントロール”する気がなく、ドローンを駆使すれば、これまでにない打撃を相手に与えることが可能になり、戦い方の様相を変えてしまう可能性もあります。

****日本企業所有タンカーにドローンが自爆攻撃 死者2名にとどまらない衝撃とは****
(中略)今回の攻撃では艦橋に自爆ドローンが命中して、船長を死亡させた。つまり、意図的に命中個所を選んだ可能性が高い。これは今後のシーレーン防衛を考える上で頭の痛い問題だ。

注視すべきは攻撃のやり方
今回の攻撃について、中東エリアを管轄する米中央軍司令部はドローン攻撃と認定した。マスメディアの取材に応じた米政府関係者は、「自爆ドローンによる攻撃であり、他のドローン(おそらくは偵察用)も参加していた」と述べた。
 
米海軍のこの地域を管轄する第5艦隊も、記者会見にて爆発物の専門家が「マーサー・ストリート」に乗り込んで調査した上でドローン攻撃と認定し、自爆ドローンによる攻撃だったと事実上認めた。
 
また公開された「マーサー・ストリート」の被弾した画像からも、自爆ドローンであったことが破壊の程度や独特の破孔から推察される。
 
今回の事件を受けてイスラエル政府や英国政府は即座にイランによる攻撃と断定しているが、注視すべきは今回の攻撃のやり方だ。
 
AP通信が報じたところによれば、米政府関係者は「ドローンによる攻撃は、タンカーの艦橋(ブリッジ)の上部から突入し、船長らを殺害した」と匿名を条件に話したという。つまり、自爆ドローンはタンカーのもっとも重要かつ少量の爆薬でも効果が見込める艦橋を意図的に狙った可能性が高い。
 
自爆ドローン自体にもカメラが付属するタイプも多いこと、偵察ドローンも現場にいたこと、イランの支援するフーシ派が民間用の衛星通信を使って自爆ドローンを誘導していた実績があることからも、現実味を帯びている。また、近くに別の船舶がいたとの情報もあり、これが誘導や操作をしていた可能性があることにも注目すべきだ。
 
ドローンによるタンカー攻撃とおぼしき事例は、これまでもこの地域で幾つか散見されていた。しかし、いずれも未遂であったり、被害の程度として船体や甲板が燃えただけであった。さらに、ドローン攻撃であったと断定する証拠に乏しい「未確認情報」にすぎなかった。

安価で確実にシーレーンを攻撃
それでは今回の事件の意味するところは何か。
 
第1に、シーレーン攻撃に安価で確実な手段が増えたということだ。今回の攻撃はイランの関与が疑われているが、どのような自爆ドローンで実施されたかは不明だ。しかし基本的に自爆ドローンはミサイルよりも安価だ。例えばイスラエル製無人攻撃機「ハーピー」は、アメリカの空対地ミサイル「ヘルファイアミサイル」の7割のコストで製造できる。
 
しかも民生部品で構成されているために足が付きにくいことから、サイバー攻撃と同様に政治的にも安価だ。
 
手段としても今回の件で確実性を増したといってよい。とうとう海上目標の特定箇所に命中させる段階まで進んだ可能性が高いからだ。
 
民間船舶の艦橋に向かって自爆ドローンが次々と飛来する事態になれば、運航に支障をきたしてしまう。今回、船長とともに警備員が亡くなったように、この海域では海賊に対抗するための武装した傭兵を乗船させることが一般的になっているが、対ドローンレーダーに加えて対空火器をタンカーに載せることは法的にもコスト的にも難しいだろう。
 
しかも軍艦で護衛しようにも、その数は限られており、あまりに海域は広く、船舶は多い。よしんば護衛できていたとしても、たかが8機のドローンでも迎撃は困難であると米海軍大学院の研究で証明されている。
 
安価で確実にシーレーンを妨害できるようになり、今後の大きな課題になることは間違いない。早急な対策が必要だ。

ドローン対処はイージス艦でも難しい
第2は、軍事的にも大きな問題になる可能性がある。
 
実はイージス艦であってもドローン対処は難しい。例えば、2012年の米海軍大学院における研究「UAVのスウォーム攻撃:駆逐艦の防護システムの選択肢(UAV swarm attack: protection system alternatives for Destroyers)」を見てみよう。

(中略)(対空砲である)CIWSの増設がもっとも効果的であり効率的だと結論付けているが、それでも完全な防御からは程遠いのが実情だ。
 
また、「イージス艦の戦闘システムは高速、レーダー断面の大きい目標と交戦することに特化しており、UAVのような低速、レーダー断面の小さい目標に対しては脆弱である」「レーザーは連射が効かないことから自爆UAVが複数襲来する状況では問題になる」とも指摘している。
 
船体のどうでもよい部位に激突したのであれば、30kg程度の炸薬の自爆ドローンは大した影響はないだろう。しかし、レーダーや発射したミサイルを誘導するイルミネーターに命中すれば、その戦闘能力は喪失してしまう。今回のように艦橋に命中すれば、CICがあるにせよ航行に支障をきたすだろう。

「物理的な破壊だけが小型ドローンのもたらす脅威ではない」
本研究が発表されたのは2012年であり、その後さまざまな対抗手段も発展した。しかし、この9年間でドローン技術はさらに飛躍的に発展している。それは先のアゼルバイジャンとアルメニアの戦争を持ち出すまでもない。
 
実際、今年の初夏にも米海軍は、実験船にドローン探知及び迎撃システムを搭載し、複数のドローンによる同時攻撃に対処する実験を行っている。

そして、この件を軍事専門誌で報じたブレット・ティングリー氏は、「小さなドローンは艦船を沈めることはできないが、重要な箇所を攻撃することで無力化(mission kill)することができる。それが複数やってくればなおさら脅威となる」「物理的な破壊だけが小型ドローンのもたらす脅威ではない。小型ドローンをおとりとして使ったり、防空システムや通信を妨害できる。小型ドローンで集めた情報を元に、他のプラットフォームから攻撃することができる」とも指摘している。
 
今回の事件は非武装かつ対空レーダーもない無防備なタンカーだった。一概に比較することはできないが、今後の海上戦闘においても自爆タイプを含めたドローンの活用が飛躍的に進んでいくことは間違いない。
 
特にドローンを正しく認識することが難しいのは、1年後、数年後、10年後、20年後、30年後の技術の時間軸の把握が必要でありながら、その時間軸がイノベーションによって入れ替わるということだ。極論すれば、10年後の技術が明日実現し、1年後の技術が数年遅れたりもするのだ。

日本は自爆ドローンや攻撃ドローンを未だに1機も保有していない
日本にとっても決して無関係な話ではない。最新技術を絶えず、実際に運用することでノウハウや知見を蓄積し、新たな作戦構想や産業政策を描いていくことが求められている。

日本の防衛省は、最新版の防衛白書にて、ようやくドローンが正規戦においても有効であることを認めた。しかし、自爆ドローンや攻撃ドローンを未だに1機も保有していない現状は変わらない。リースでもかまわないのでまずは調達した上で、早急に検証を行うべきだ。
 
自衛隊のガラパゴス化は疑いようのない事実である。例えば、インドネシアは攻撃用ドローンを開発し、今年初飛行の予定となっている。ハーピーの後継タイプであるハロップは、対艦用タイプが開発されているがアジア某国にすでに販売されたとの報道もされている。
 
日中間で不幸にして戦争が生起した際に、緒戦で水上に遊弋する貨物船や沿岸部に紛れ込んだ工作員が自爆ドローンを放ち、護衛艦隊が半壊状態もしくは対空弾薬を射耗したところに中国艦隊が侵攻してきたのでは防衛はままならない。
 
かつて、米海軍は英軍が航空攻撃によって停泊中の戦艦を撃沈及び大破せしめたタラント空襲の戦訓を軽視し、日本海軍による真珠湾攻撃で大損害を蒙った。その愚行を近い将来に今度は被害者として繰り返してはならない。【8月4日 文春オンライン】
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AIを備えたドローンの戦術的革新性については、7月24日ブログ「ドローンが変える戦争の歴史 AIによる完全自律型、更には互いに連携するドローンの“群れ”も」でも取り上げました。

日本はイージス艦やいずも型空母に執心していますが、かつて巨大戦艦が雲霞のように押し寄せる戦闘機の格好の餌食になった轍を踏まなければいいのですが。

コロナ禍のいろんな場面で露呈したように、かつては最先端技術を誇った日本は、今やIT利用において世界の流れから“周回遅れ”状態にありますので。


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