孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  内外で苦しい政権運営が続くオバマ大統領

2010-12-14 22:01:22 | 国際情勢

(12月13日、Healthy, Hunger-Free Kids Act(健康で飢えることのない子どもたち法)」に署名するオバマ大統領。同法は小学校などで提供される給食を改善し、子どもたちの飢えや肥満をなくす取り組みに関する法案です。今や食事内容は所得格差を映しだす鏡であり、飢えと同様に大量生産される高カロリー食による肥満も貧困の象徴となっています。“flickr”より By HHSgov http://www.flickr.com/photos/hhsgov/5258061153/

【「オバマ改革」の根幹に違憲判決
中間選挙の歴史的敗北で苦しい政権運営を強いられているアメリカ・オバマ政権ですが、数少ない改革の実績である医療保険改革法についても、法案成立後もすんなりとは行っていないようです。

****国:医療保険改革法、加入義務化は「違憲」…州連邦地裁*****
米バージニア州の連邦地裁は13日、3月に成立した医療保険改革法について、国民に医療保険加入を義務づけ、未加入者に罰金を科す条項を立法権の逸脱と指摘し、この条項が憲法に違反するとの判決を下した。医療保険改革法を違憲として20以上の州が提訴しているが、違憲判決が出たのは初めて。保険加入の義務化は、国民皆保険実現を目指す「オバマ改革」の根幹を成しており、違憲判決は改革法の撤廃や大幅修正を求める共和党を勢いづかせることになりそうだ。
同様の訴訟では、ミシガン州など2カ所の連邦地裁が既に合憲判決を出している。オバマ政権は今回の違憲判決を控訴する方針で、司法省報道官は「最終的に合憲の判断が出そろうと確信している」と語った。
保険加入義務化は14年に始まる。連邦地裁のハドソン判事は、義務化条項を除く改革法そのものには違憲判断を示さず、改革法に基づき段階的に実施されている諸制度には直接影響しない。

今回、違憲判断の根拠となったのは、米国独特の医療保険制度の考え方だ。医療保険は民間保険会社が売る商品であって、日本や欧州のような社会保障制度とはほど遠い。オバマ政権の改革法も保険加入者に補助金を支出し、保険会社への規制を強めることで保険を購入しやすくしようとしている。
ハドソン判事は商品としての側面を重視し、「民間会社から保険を購入するかしないかの個人の決定」を立法措置で縛ることは「憲法上の限界を超える」と判断した。
この論拠は、11月の中間選挙で共和党が主張していたもので、下院のカンター次期共和党院内総務は違憲判決を受けて「違憲の改革法に対して、あらゆる行動を起こさねばならない」と強調した。共和党が多数派となる下院で、医療保険改革法の存廃や進め方を巡りオバマ政権と共和党の攻防が激しくなることが予想される。【12月14日 毎日】
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国民皆保険が当たり前のことのように思われている日本や欧州の常識からすると、皆保険制度を「社会主義的」制度として批判するアメリカの国情というのは、なかなか理解に苦しむところがあります。
銃規制の問題にしても、医療保険制度の問題にしても、国家と個人の関係や個人の自由に関する考え方については、アメリカ独特のものがあります。
医療保険改革法については、多くの専門家は、最終的には最高裁の判断にもつれこむとの見方を示しています。

共和党への妥協を強いられる「ブッシュ減税」「新移民法」】
中間選挙勝利で勢いづく共和党の攻勢にオバマ政権・与党民主党は妥協を強いられています。
オバマ米大統領が「ブッシュ減税」を高額所得者を含む全ての所得層に対し2年間延長することで共和党と合意したことをめぐり、下院民主党からは妥協案へ「譲歩のしすぎ」との不満の声が続出しています。
法案の方は上院での採決を目指して動き出していますが、身内の民主党内からの反対は、オバマ大統領にとって新たな頭痛の種となっています。 

****ブッシュ減税延長法案、最初のハードルをクリア****
オバマ米大統領と共和党指導部が合意したブッシュ減税延長法案は、議会で最初のハードルをクリアした。
上院はこの日、同法案の手続き上の採決を実施。賛成83、反対15の圧倒的賛成多数で可決された。
今後、14日か15日に上院本会議で法案の本採決が行われる見通し。 下院でも今週中の採決が予想されている。

減税延長をめぐっては、民主党内部から共和党に譲歩しすぎだとの批判が相次いでいるが、法案は今週中に上下両院を通過する可能性がある。
オバマ大統領は「妥協とは、各自が大切にしていることを犠牲にして、すべての人にとって重要なことを進めることだ。今の重要課題は、景気拡大と雇用創出だ」と述べた。
アナリストは、ブッシュ減税の延長について、来年の経済成長を最大1%ポイント押し上げる効果があると指摘。来年の経済成長率が4%を超える可能性があるとの見方を示している。
ただ格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスはこの日、減税・失業保険の延長について、米国の格付け見通しを向こう2年以内に「ネガティブ」に引き下げる可能性を高めると指摘。
「信用の視点から、経済成長に対する効果よりも、財政に対するマイナスの影響が大きい可能性がある」との認識を示した。【12月14日 ロイター】
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新移民法についても、不法移民一般に条件つきで合法滞在への道を開く包括的な移民制度改革から、「優良な不法移民」に対象を限定する形で共和党への妥協を強いられており、それでも成立については見通しが立たない状況です。

****優良な不法移民に永住権」 オバマ氏肝いり法案に暗雲****
オバマ米大統領と民主党が進める新移民法案の行く手に暗雲が立ちこめている。「優良な不法移民」に永住権を与える同法案は8日に下院で可決されたが、共和党の反対で上院での可決の見通しは立っていない。中間選挙の結果を反映した来年1月からの議会では、下院の過半数を共和党に奪われる。年内に可決できなければ、オバマ政権下で移民制度改革が実現する可能性はかなり低くなる。 

正式名称の頭文字を取って「DREAM(夢)法」と呼ばれる。対象は16歳までに米国に入り、高卒か同等の学歴を持つ不法移民で、幼少時に親に連れられて入国したなど本人に不法滞在の責任を問えない場合だ。最低2年間、大学に通うか米軍に入隊し、かつ罪を犯さないなど「素行善良」であれば永住権を申請することができる。
下院本会議で8日に可決され、9日に上院で採決されるはずだったが、共和党の反対で可決に必要な票数を確保する見通しが立たず、13日以降に先送りになった。
オバマ氏はもともと、対象を限らず、不法移民一般に条件つきで合法滞在への道を開く包括的な移民制度改革を目指していた。しかし、医療保険制度改革などオバマ氏が手がけた他の政策をめぐって共和党の反オバマ色が濃くなり、手つかずのままに。代わりに「当面の策」として浮上したのが今回の法案だ。

2年前の大統領選でオバマ氏の当選を後押ししたヒスパニック(中南米系)の支持をつなぎとめるため、オバマ氏は2年後の大統領選までに移民問題で一定の成果を上げる必要がある。今回の法案は包括改革と違い「優良な不法移民」だけが対象で、不法移民の取り締まり強化を訴える共和党にも受け入れられやすいとの読みがあった。
オバマ政権は反対派の説得に手を尽くしたが、下院では共和党のほぼ全員が反対に回った。来年1月に始まる新会期では民主党に代わり共和党が下院の過半数を占める。カリフォルニア州で移民問題を専門にするジェシカ・ボバディーヤ弁護士は「年内がこの法律を成立させられる最後の機会だ」と話す。(後略)【12月12日 朝日】
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新START批准も困難
年内に通さないと実現が厳しくなる重要案件に、ロシアと調印した新戦略兵器削減条約(新START)の批准があります。
****米政権 共和党“懐柔”に躍起 新START 「緊急かつ必須****
オバマ米大統領は18日、ロシアと調印した新戦略兵器削減条約(新START)は「米国の安全保障にとって緊急かつ必須なものだ」と述べ、上院での年内批准に向けて野党の共和党に超党派の協力を重ねて呼びかけた。オバマ政権は共和党側の求める核の近代化に追加投資することを決めるなど、切り崩しに全力をあげている。
オバマ大統領が18日、ホワイトハウスで開いた新STARTを協議する会合には、元国務長官のキッシンジャー、オルブライト両氏ら共和、民主両党の元高官が出席した。
米国では民主党が大敗した中間選挙の結果を反映した新議会の会期が来年1月から始まる。上院でも議席を減らしたオバマ政権にとって批准の承認手続きが先延ばしされれば、状況はより困難になるが、共和党の有力議員は過密日程などを理由に「年内は困難」との見通しを示している。
オバマ政権は米国の核兵器の近代化のため、さらに今後5年で41億ドルを上積みすることを発表している。【11月20日 産経】
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新START批准に失敗すれば、ロシアとの「リセット」にも悪影響がでますし、アメリカの威信にも傷がつきます。また、オバマ大統領の掲げた「核兵器なき世界」の看板も引きずりおろされることになります。
オバマ米大統領は11月20日、週末恒例のラジオ・インターネット演説で、米ロ核軍縮条約「新START」の批准に失敗すれば「米国の安全保障を危険な賭けにさらす」と警告、政治的思惑を捨て、超党派で批准を承認するよう上院共和党に迫っています。
ただ、党利党略の立場に立てば、共和党としては敢えて年内批准に協力してオバマ政権に得点をあたえさせる動機はありません。

アフガニスタン・中東でも成果出せず
共和党への妥協、共和党の抵抗で苦しい国内政局だけでなく、外交面においても苦しい状況は同じです。
2011年の米軍撤退という目標を掲げ、5万人を超える米兵を増派したアフガニスタンでの戦争においても、2010年のこれまでに外国軍兵士683人が死亡。これは1日あたり兵士2人が死亡するというペースで、前年の死者数521人を大きく上回って、過去最多の死者数となっています。
そうしたなか、ボスニア内戦を終結させた1995年の和平合意(デイトン合意)の交渉を担当するなど、50年近くにわたり米外交の中心的役割を果たしてきたアフガニスタン・パキスタン担当特別代表のリチャード・ホルブルック氏が13日死去しました。オバマ外交にとっては大きな痛手です。

中東和平交渉についても、イスラエルの説得に失敗。クリントン米国務長官は10日、イスラエルとパレスチナの中東和平直接交渉が頓挫したことを「遺憾だ」と述べ、イスラエルによる占領地での入植活動凍結が最優先課題となっている現状の交渉方針の失敗を認めました。
今後は間接交渉で仕切り直す体制です。“ジョージ・ミッチェル米中東和平担当特使は13日に中東に戻り、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長とそれぞれ会談し、その後アラブ諸国と欧州を歴訪する予定。” 【12月11日 AFP】
ただ、パレスチナ自治政府のアッバス議長が(これが初めてではありませんが)「辞意を漏らしている」とも報じられています。
****パレスチナ議長が辞意」=和平交渉停滞なら暴力再燃も****
アラブ連盟(22カ国・機構)のムーサ事務局長は13日までに、チュニジアの首都チュニスで時事通信との単独インタビューに応じ、米国がイスラエルに対する入植活動凍結の説得を断念したことを受け、パレスチナ自治政府のアッバス議長が「辞意を漏らしている」と指摘した。また、入植活動継続で和平交渉が滞る事態が続けば、パレスチナ自治区で暴力が再燃する恐れがあると警告した。(後略)【12月14日 時事】
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外交面でうまく進んでいるのは、中国の尖閣諸島や南シナ海での強硬姿勢、北朝鮮の暴走によって、結果的に周辺諸国がアメリカを頼りにする形で、アメリカのプレゼンスが高まっていることでしょうか。



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