(パキスタン第2の都市ラホールを走る同国初の地下鉄路線「オレンジライン」【7月24日 WSJ】中国“一帯一路”の勝利への第一歩を誇示するはずだったが・・・・)
【中国支援でハブの座目指す中央アジア エチオピアは巨大なファストファッション工場へ】
中国・習近平政権が推し進める“一体一路”に代表される積極的な対外支援で中国の影響力・存在感を強めていくやり方が、相手国にとって利益になっているのか、あるいは、いわゆる“債務の罠”に陥れることになっているのか・・・肯定的・否定的両方の指摘があります。
(中国自身にとっても、そうした積極的“強国路線”での影響力拡大がアメリカを刺激し、抜き差しならない米中貿易摩擦を招く事態になっているとの批判も出ているとの指摘もありますが、その件は今回はパスします)
まず、中国からの支援で国内経済が活気づいている事例。中央アジアとアフリカ・エチオピア。
****中国の尻馬に乗れ。忘れ去られた中央アジアが世界の要衝となる日****
10年前は「大風呂敷」とみなされていた中国の一帯一路構想ですが、「ここにきて着々と実をあげ始めてきている」とするのはジャーナリストの嶌信彦さん。
嶌さんは自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、一帯一路において重要な土地となる中央アジアが、ドバイからハブの座を奪う可能性について言及しています。
ハブの座目指す中央アジア
中国の“一帯一路”構想がだんだん熱を帯びてきた。構想が打ち上げられた時は、中国式の“大風呂敷”とみられ、その実現に耳を貸す国は少なかった。
日本も当初は、中国を利するだけとみて反応は鈍かった。しかし、構想から10年経ったいま、一帯一路は着々と実をあげ始めてきた。すると日本も面白い構想で日本が協力できるところがあるなら乗ってもよい、と姿勢を変化させている。
シルクロード経済圏構想(一帯一路)で進んでいるのは、西アフリカからインド洋を経て東南アジアのミャンマーなどに結ぶ“海のシルクロード”だ。
途中のパキスタン、バングラデシュなどに中国資金で港湾を整備し、西アフリカに中国資本と労働力が投下され鉱産物などを産出。これをインド洋を経てミャンマーなどに陸揚げし、そこから鉄道で中国へ運ぶという計画だ。既に中国資本が西アフリカに入り、西南アジアの港湾建設も始まっているという。
最近注目を浴びてきたのは、陸のシルクロード建設だ。まずは中央アジアのカザフスタン経由で中国とロシア、ヨーロッパ、中東各国につながる道路や鉄道の建設である。
特に現在は北部の中国と国境を接するカザフスタンの東端の都市・ホルゴスに経済特区「国際国境協力センター(ICBC)」を設置した。ここでは商品に関税がかからず、中国側とカザフ側を自由に往来して取引ができるようになった。既にショッピングセンターやホテルが立ち並び、取引をする人達でにぎわっているという。
このホルゴスから西に道路が建設され、オランダと結ぶ計画で着々と工事が進んでいる。中国とヨーロッパへの輸送は船だと40日間かかるが、鉄道やトラックなどの陸送なら20日間で済む。
このほか、ウズベキスタンなどを通る旧シルクロードの鉄道、道路建設も計画されており、これらが完成すれば“陸のシルクロード”は、中国とイラン、トルコなど中東への輸送路も格段に便利となる。(中略)
20世紀の東西を結ぶハブ空港は、アラブ首長国連邦のドバイ国際空港だったが、一帯一路構想が本格的に動きだすと、アジア、中東、欧州、ロシアなどと地政学的にも近い中央アジアが今後10〜20年のうちにハブの座を奪うことになるのではなかろうか。21世紀は物流拠点をもつ国が中心地になりそうだ。【8月9日 MAG2 NEWS】
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中国と欧州を陸路で結ぶ物流は、現在のところは問題が多いにしても、続けていくことで環境が整備されれば、今後の現実的ルートとしての利用価値も高まるということもあるでしょう。
****(チャイナスタンダード)飢餓の国、服飾工場に変えた エチオピアに中国式援助****
(中略)国内では近年アパレル向けの工業団地が計画中も含め約10カ所立ち上がった。スウェーデンの衣料品チェーン「H&M」も進出。米ブルームバーグは「中国がエチオピアを巨大なファストファッション工場に変えつつある」と報じた。
中国の縫製企業に勤めるトゥルセート・アダナ(23)は大卒だが、給料は月1500ブル(約6千円)程度。それでも、「仕事をくれた中国には感謝している」と話した。
政府は国内総生産(GDP)に占める製造業の割合を14年度の4・8%から、25年に18%まで引き上げる目標を掲げる。
後押しするのは中国だ。工業団地周辺の道路や鉄道、送電網などに融資し、建設する。1992年から15年までの投資額も中国がトップだ。中国マネーとともに移住した中国人は6万人とも言われる。
80年代半ばに大干ばつが起き、約100万人が飢餓で亡くなったこの国には、先進国から医療や食料などの援助が寄せられた。だが急成長を始めたのは今世紀に入ってからだ。
米ジョンズ・ホプキンス大学の研究機関によると、中国がエチオピアへの融資を急増させたのは06年以降。15年までに計約130億ドル(約1兆4300億円)をつぎ込んだ。時を同じくして、エチオピアは年10%前後の高い経済成長率を維持するようになった。
エチオピアの人口は50年に現在の倍近くの1億9千万人に達し、世界有数の人口大国になると見込まれている。アフリカ連合(AU)の本部もあり、各国の大使館が集まるアフリカ政治の中心地でもある。中国にとっては、アフリカ全体への影響力を高めるためにうってつけの国と言える。
ただ、危うさも伴う。世界銀行は、エチオピアの対外債務残高が08年の約28億ドル(約3080億円)から、16年に約220億ドル(約2兆4200億円)に増えたと指摘する。中国の借款は欧米や日本より高金利とも言われる。
エチオピア国営企業幹部は「中国指導部に返済期限の変更を頼みたい」と漏らした。ただ、こうも言う。「中国の支援で発展すれば、中国企業ももうかる。ウィンウィンの関係だ」
成長のための資金を欲する国々で、中国の開発協力への依存度が増している。拡大する「中国式援助」は、先進国の援助をも変えつつある。【7月29日 朝日】
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エチオピア側には“債務の罠”への警戒もあるようですが、成長への起爆剤としての中国の役割ははずせないというところでしょう。
「中国式援助」の特徴は、ひとつは“発展途上国を自認する中国の開発協力は、途上国同士の「南南協力」が建前で自国の利益も重視する。内政不干渉が原則で、欧米のように人権や民主化で注文を付けないため、強権体制の国にも歓迎される。”【同上】ということ。
もうひとつは“欧米では援助、投資、貿易は別のものだが、中国は関連していると考える。対象国が発展すれば、そこに市場が生まれ、中国も発展する”【同上】という方式。
【“債務の罠”を警戒するミャンマー、太平洋島しょ国】
ただ、金利は比較的高く、受入国にとって債務の増大は大きな負担ともなります。
そうした“債務の罠”にはまった事例としていつも引き合いにだされるのがスリランカのハンバントタ港の事例。
当初想定したほど港湾の利用が伸びず、債務返済に行き詰まったスリランカ政府は、中国企業に99年間、リースすることで合意しました。
スリランカのような結果的に中国に“身売り”するようなことにもなりかねない“債務の罠”への警戒は多くの国で広がっています。
典型例は、マハティール首相が政権に返り咲いたマレーシアで、前政権と中国が進めてきた鉄道建設事業の見直しに乗り出しています。
(もっとも、マハティール首相は「一帯一路」については、「アジアの国家が共に発展し繁栄することを実現する大きなチャンスであり、積極的に支持する」と積極的に支持することを表明しており、中国との関係にも配慮しています。【8月1日 産経より】)
マレーシア以外にも、ミャンマーや南太平洋のトンガからも中国支援の債務負担を憂慮する動きが報じられています。
****中国マネーに警戒感、ミャンマー港湾開発縮小へ****
ミャンマー政府は目下、ベンガル湾における中国支援の港湾建設プロジェクトの大幅縮小を目指している。持続不可能な債務を背負いかねないとの危機感が当局者の間で広がっているためだ。
関係筋によると、ミャンマー当局は現在、プロジェクトの規模を当初予定の73億ドル(約8100億円)から13億ドル程度まで縮小する方向で、中国中信集団(CITICグループ)が主導するコンソーシアム(企業連合)と協議を進めている。
ミャンマーを巡っては、軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害問題を背景に、欧米諸国からの直接投資が冷え込んでいる。
だがこうした逆風下でも、ミャンマーはプロジェクトの縮小に動いており、中国マネーや習政権への過度な依存は避けたいとの思惑を浮き彫りにする。
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同案件は習近平国家主席が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」の一環で、のどかな港町チャウピューに深海港を建設し、工業地帯を形成して経済特区を設ける青写真を描く。
チャオピュー経済特区のキョウ・アイ・セイン副議長は「借金を抱える状況には陥りたくない」と話す。
チャウピューの開発計画はもともと、ミャンマー前政権が中国と合意していたものだ。中国からの鉄道網により、中国の工場はマラッカ海峡を迂回(うかい)する短縮ルートで、欧州やインド、アフリカへと製品を輸出することが可能になる。
だがミャンマーは足元、必要なら後で拡大できるとして、プロジェクトの大幅縮小を目指している。(後略)【8月16日 WSJ】
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ただ、ロヒンギャ問題で欧米が投資を控える状況で、「でも現実は、欧米諸国による投資は来なかった。残ったのは中国マネーだけだよ」(ミャンマーの大手複合企業を所有するキン・シェ氏)【同上】というのも現実であり、中国との距離についてはスー・チー政権も悩ましいところです。
中国は、習近平国家主席が11月に太平洋諸島諸国サミット(首脳会議)の開催を計画しているなど、近年太平洋島しょ国への関与を強めています。
オーストラリアのシンクタンク「ローウィー研究所」によると、2006〜16年に中国が太平洋島しょ国に行った援助は無利子融資を含めて推定178億ドル(約1兆9800億円)に上るとも。【7月10日 AFP】
こうした中国の存在感拡大に対し、従来この地域に影響力を行使してきたオーストラリア・ニュージーランドが警戒を強めているとも。
その太平洋島しょ国にあっても中国支援の債務負担には大きな警戒感があるようです。
****トンガ、中国に太平洋島しょ国の債務帳消し要請****
南太平洋の島国トンガのアキリシ・ポヒバ首相は、14日掲載された地元紙のインタビューで、中国に対し、南太平洋の国々の債務を帳消しにするよう求める考えを明らかにした。
南太平洋地域では近年中国が援助を急増させているが、大半は国有の中国輸出入銀行からの貸し付けだ。ポヒバ首相は、貧困にあえぐ域内各国にとって債務履行が非常に大きな負担になっていると訴えている。
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所によると、トンガが中国に対して抱える債務は1億米ドル(約110億円)以上。ポヒバ首相は、このままでは返済に苦慮することになると危機感を示している。
地元紙サモア・オブザーバーのインタビューに答えたポヒバ首相は、南太平洋地域の島しょ国ではどこも状況は同じだと指摘。来月ナウルで開く太平洋諸島フォーラムでこの問題について話し合う必要があると語っている。
「全ての太平洋島しょ国はこの提案書に署名し、中国政府に債権の放棄を要請しなければならない」「われわれが債務を果たせないのなら、私の考えでは、前に進める方法はこれしかない」(中略)
中国政府はこれまで、貸し付けを無償援助に切り替えるトンガからの要請を繰り返し拒絶。債務履行の猶予には一度応じている。ポヒバ首相によると、中国はここへきてトンガに貸し付けを返すよう求めているという。(中略)
ポヒバ首相は、返済できなければ中国が建物などトンガの資産を差し押さえる恐れがあるため、「中国政府に債務帳消しを求める提案書に署名するのが唯一の選択肢だ」と述べている。【8月15日 AFP】
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ネパールも昨年11月以降、中国が建設する2カ所の水力発電用ダムの計画を中断しています。
中国の立場からすれば、こうした“債務の罠”への警戒は、「貸して欲しいというから貸してやったのに、今になって中国を悪者のように仕立てて債務帳消し云々は身勝手すぎる」といった話にもなるでしょう。
【一帯一路構想の中核をなすパキスタン 債務増大でIMF支援も検討】
微妙なのは、“一帯一路”の中核ともなっているパキスタンの動向です。
****中国「一帯一路」構想、パキスタンで暗雲 ****
中国による貸し出しを伴う不透明な取引で壁が露呈
米国の強大な影響力に取って代わり、世界の地政学的地図を塗り替えようとする中国にとって、パキスタン初の地下鉄路線「オレンジライン」の建設は、その勝利への第一歩を誇示するはずだった。
中国国営企業が資金を融通し、建設も手掛けるオレンジラインは、同国北東部の都市ラホールを高架で走る路線。
中国はパキスタンで計画する総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ計画の第一弾として、建設費用20億ドルを投じて空調完備の地下鉄を開通させるつもりだ。これによりムガル帝国および大英帝国の植民地支配が残した過去の遺物を一掃し、中国が世界的に展開するインフラ攻勢のショーケースになることが期待された。
だが実際は、中国の目指す現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に、想定外のつまずきが生じていることを示す象徴的事例となった。
中国「一帯一路」構想、パキスタンで暗雲
中国による計画開始から3年、パキスタンは債務危機に近づいている。オレンジラインのような大規模事業のために中国からのローンや輸入が急増したことが一因だ。パキスタン当局はオレンジラインを運営するには政府の補助金が必要になると話す。(中略)
パキスタンは今や、対中債務の増大による財政や政治への副次的影響に悩まされる国々の1つとなった。
パキスタン総選挙の投開票が迫る中、勢いづく野党はオレンジラインをはじめ中国主導のプロジェクトの詳細な資金状況を公表すると約束している。
またパキスタンの経済界は、中国企業が享受する特権をもっと制限するよう訴えている。パキスタン当局は既に、中国の新たな電力プロジェクトに対する支払いを滞納している。
一帯一路構想全体に汚点
今年の秋口にはこうした問題が顕在化する見通しだ。パキスタンの新政権は国際通貨基金(IMF)に2013年以来となる緊急支援を要請する公算が大きい。
救済が行われる場合、借り入れや支出に制限が課されることとなり、一帯一路構想の中核をなす「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」が計画縮小に追い込まれる可能性がある。(中略)
中国・パキスタン関係の専門家、アンドリュー・スモール氏はこう指摘する。「もしここでパキスタンが財政的に行き詰まれば、一帯一路構想全体に大きな汚点を残すことになる」(後略)【7月24日 WSJ】
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選挙前の3月には「赤字垂れ流しの巨大プロジェクトを建設する真の理由はいつも多額のリベートだ」と中国支援・中国依存を批判していたクリケットの元スター選手イムラン・カーン氏ですが、選挙戦勝利後の7月26日には、「中国から汚職、貧困根絶策を学びたい。(両国をつなぐ)中パ経済回廊(CPEC)の成功に向け共に前進したい」と“親中路線”継続をアピールしています。
カーン氏を支援し勝利に導いたパキスタン政治の実権を握る軍部は、インドへの対抗から、中国との緊密な関係を維持するようにカーン氏を動かすのでは・・・とも思われます。
一方、IMF支援となると中心国アメリカの意向が問題になります。
“中国の対パキスタン融資計画の総額は620億ドル規模。ポンペオ氏は「中国への返済のために米国の血税も入ったIMFの資金を使う理屈が立たない」と突き放したが、「テロとの戦い」などで連携する同盟国のパキスタンが債務危機に陥れば南アジア情勢の不安定化につながりかねず、米政権は難しい選択を迫られそうだ。”【8月4日 産経】
欧州に目を転じると、EUはセルビア、モンテネグロについて早ければ2025年に加盟する目標を明示するなどバルカン諸国取り込みを進めていますが、背景にはこの地域での中国支援の高速道路建設など中国の影響力拡大があるともされています。
各国での中国への対応は様々ですが、世界各地で中国の存在感がますます大きなっていることだけは間違いありません。
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