(ヘリコプターから英タンカーに降下するイラン革命防衛隊員の映像=19日、ホルムズ海峡付近(ロイター)【7月21日 産経フォト】)
【イギリス・イランのタンカー拿捕合戦でイランの孤立更に深まる流れも】
イランとイギリスの間でタンカー拿捕合戦がエスカレートしています。
事の起こりは、7月4日のイギリスによるジブラルタル沖でのイランタンカー拿捕
****英海軍、イランのタンカーだ捕 米は歓迎****
イギリス領ジブラルタル沖で、イランのタンカーがだ捕されたことについて、アメリカのボルトン大統領補佐官は4日、「素晴らしいニュースだ」と歓迎した。
ロイター通信によると、ジブラルタルの沖合で4日、イギリス海軍が、イランの原油を積みシリアに向かっていたとみられる大型タンカーをだ捕した。
イランの原油をめぐっては、アメリカが全面禁輸の経済制裁を科しているが、今回のだ捕はEU(=ヨーロッパ連合)がシリア情勢をめぐり科した制裁に違反した疑いによるものだとしている。
これに対しイラン外務省は、イギリス大使を呼び「アメリカの要請でだ捕されたのであれば、即時解放すべきだ」と抗議した。
一方、アメリカのボルトン大統領補佐官は、「素晴らしいニュースだ」と歓迎。「引き続き同盟国と共にイランとシリアの違法な貿易を阻止していく」と述べている。【7月5日 日テレNEWS24】
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一時は、イランとイギリスとの交渉進展をうかがわせるような報道もありました。
****英外相、イランに保証要求 「タンカーはシリア以外へ」*****
英領ジブラルタル当局によるイランの大型タンカー拿捕を巡り、ハント英外相は13日、イランのザリフ外相と電話会談し、「タンカーが(制裁対象の)シリアに向かわないとの十分な保証を得られれば解放を働き掛ける」と伝えた。ハント氏がツイッターで明らかにした。
ハント氏によるとザリフ氏は、対立の激化ではなく問題解決を望んでいるとの意向を示した。両国関係はこのところ急速に悪化しており、イラン側の対応が注目される。
ハント氏は、タンカーに積んでいる石油の出所ではなく、目的地を懸念していると伝えた。会談は「建設的だった」としている。【7月14日 共同】
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しかし、イラン・革命防衛隊は19日、「国際的な航行規則に従わなかったため」という理由で、実質的に報復と思われるによるイギリスタンカー拿捕を行ったことを発表。
*****イラン、「漁船衝突で調査」=英外相「危険な道」―タンカー拿捕****
イランの精鋭部隊「革命防衛隊」が緊張の高まるホルムズ海峡で拿捕(だほ)した英船籍のタンカーについて、地元港湾当局者は20日、「漁船と衝突し、漁船からの救難信号にも応答しなかった」と述べ、調査を開始したことを明らかにした。地元メディアが伝えた。
運航会社によれば、タンカーには船長を含めインド人やフィリピン人、ロシア人ら23人が乗っていた。ホルムズ海峡を望むイラン南部バンダルアバス港沖に停泊し、乗組員は船内待機を指示されているが、健康状態などに問題はないという。
一方、ハント英外相は20日、ツイッターで「イランは違法かつ不安定化を招く振る舞いによって、危険な道を歩んでいる兆候がある」と改めて懸念を表明。「断固とした対応を検討する」と強調した。英メディアによると、同国外務省はこの日、イランの代理大使を召喚した。【7月20日時事】
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拿捕されたイランタンカーに関する交渉の経緯、今回イギリスタンカーの関し、革命防衛隊が拿捕したとしとsいているのに対し、「漁船との衝突」云々の説明・・・・イラン内部における、ことを荒立てずに交渉で対処したい穏健派・ロウハニ政権と、あくまでも実力行使を誇示する強硬派・革命防衛隊との路線対立があるようにも見えます。
イギリス側は、対応を更にエスカレートさせる動きも見せています。
****英、イラン資産凍結検討 タンカー拿捕に制裁、英紙報道****
イラン革命防衛隊による英タンカー拿捕を巡り、英政府がイランへの制裁を検討していると、21日付の英紙サンデー・テレグラフが報じた。
イラン側が英国内に持つ資産の凍結などが案として浮上、ハント外相が22日に下院で公表する見通しという。制裁を実施すればイランの反発は必至で、緊張がさらに高まる可能性がある。
同紙によると、英政府は欧州連合(EU)や国連にも協調を呼び掛け、ホルムズ海峡を通過する船舶の保護をさらに強化するよう努める方針。【7月21日 共同】
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これまでイラン核合意維持の方向で努力してきた独仏もイラン・革命防衛隊によるイギリスタンカー拿捕を強く批判しており、イランは更に国際的孤立を深める状況に追い込まれる懸念があります。
また、イギリスをトランプ大統領主導のイラン包囲網の方向に追いやることにもなります。
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英国はイラン核合意の維持を支持し、米国の制裁を受けるイランに同情的だったが、今回のタンカーの拿捕合戦でイランに敵対する方向に舵を切り、トランプ政権に同調する可能性もある。
そうなれば、辛うじて維持されてきた核合意は完全に崩壊し、イランは自分の首を絞めることになるかもしれない。【7月21日 WEDGE】
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【サウジと協調してきたUAEはイランとの交渉で路線転換の可能性も】
一方、これまでアメリカに同調するサウジアラビアと、イエメン介入などで共同歩調をとってきたUAEには、ホルムズ海峡の緊張高まりを受けてイランとの関係改善を模索する動きも出ています。
*****サウジ・UAE連合に亀裂、転変する緊張のペルシャ湾*****
(中略)
UAEの離反
トランプ政権はこうしたイラン包囲網の一環として、サウジアラビアに16年ぶりに駐留部隊を派遣することで、サウジからの合意を取り付けた。すでにプリンス・スルタン空軍基地には米軍の戦闘機や部隊の一部が到着した。
サウジはメッカなど聖地を抱える「イスラムの守護者」。異教徒の駐留には一部から強い反対がある。
湾岸戦争の際には、王国指導部が米軍の駐留を許したことに反発が広がり、その急先鋒だったオサマ・ビンラディンがサウジを追放され、後に国際テロ組織アルカイダを創設したのはよく知られているところ。
今回の米軍駐留はサウジを牛耳るムハンマド皇太子とトランプ政権との親密な関係の上に実現したが、サウジ国内に新たな火種が生まれたことは確かだ。
こうした米国とサウジアラビアにとって実は深刻な事態が進行中だ。それは対イラン政策でサウジとタッグを組んできたUAEが離反の動きを見せていることだ。
例えば、UAEはムハンマド皇太子主導のイエメン戦争で、5000人の部隊をイエメンに派遣し、戦闘を主導してきた。
そもそもイエメン戦争はイラン支援の武装組織フーシ派がイエメンの実権を握ったことにサウジアラビアが反発して本格的に軍事介入。サウジが主に空爆を担ったのに対し、UAEは“兄貴分”のサウジの求めに応じて空爆の他、地上部隊を派遣して血を流した。
だが、UAEはこの1カ月で部隊の撤収を開始、イエメン派遣部隊を大幅に削減しつつある。「勝利できない戦争に巨額の戦費と兵力を割くことに嫌気が差した」(専門家)とされるが、実際には、ホルムズ海峡の安全航行が不安定になり、石油輸出に影響が出ることを恐れ、イランとの関係改善を図る思惑が背景にあるようだ。
UAEのアブドラ外相は先月、ペルシャ湾で相次いだタンカー攻撃について、「誰がやったかは明確で、確実な証拠が必要だ」として、米国やサウジアラビアが主張するイラン犯行説に大きな疑問を呈した。
レバノン紙によると、UAEはイランに代表団を送って航行の安全やイエメン戦争からの撤退について秘密交渉も行ったとされ、イラン包囲網の一角に穴が開きそうな雲行きだ。【7月21日 WEDGE】
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UAEのイエメンからの撤収はひと月前ほどからの動きですが、今月13日にはUAEタンカーもイラン側に“えい航”されています。
****ホルムズ海峡でタンカー消息絶つ=イラン「支援要請受けえい航」****
米国とイランの緊張が高まる原油輸送の要衝ホルムズ海峡を航行していたアラブ首長国連邦(UAE)の石油タンカー「リア」(全長約60メートル)が現地時間13日深夜、イラン領海内に入った後で消息を絶った。米各メディアが16日報じた。
報道によると、タンカーはUAEのシャルジャに向かう途中で急きょ航路を変更。イラン南部ケシム島沖合を最後に位置情報の送信が途絶えたという。
米メディアは、イランがタンカーを拿捕(だほ)した可能性を指摘。これに対し、イラン外務省報道官は16日、地元メディアに「ペルシャ湾内で技術的問題が起きたタンカーの支援要請を受け、修理のためイラン領海へえい航した」と主張した。ただ、UAEのメディアは当局者の話として、タンカーは救難信号を発していないと伝えた。【7月17日 時事】
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この件に関しても、革命防衛隊は18日に、ホルムズ海峡でイランから燃料100万リットルを密輸しようとした外国のタンカーを14日に拿捕したと発表しており、修理のため云々とするイラン外交当局と見解が異なっています。
こうしたタンカー拿捕が、UAEとイランとの交渉を加速させるのか、あるいは頓挫させるのか・・・・
【サウジのイランタンカー解放は何かのシグナル?】
イランとの対決姿勢を明確にしてきたサウジアラビアについても、下記のような報道が。
****サウジアラビア、イランのタンカー解放=航行中に故障、費用で対立*****
イランのエスラミ道路交通・都市開発相は21日、イランと敵対するサウジアラビア西部ジッダの港に留め置かれていたイランの石油タンカー「ハピネス1」が解放されたと明らかにした。現在イラン船舶にえい航されてペルシャ湾に向けて航行中という。国営イラン通信が報じた。
報道などによると、タンカーは4月下旬、紅海を北上中にエンジンの故障に見舞われ、浸水して航行不能になり、最寄りのジッダに寄港した。サウジが多額の修理費を要求し、イラン側が反発するトラブルが伝えられたが、エスラミ氏は「交渉の末、今月20日に問題は解決した」と述べた。乗員も無事という。
イ
ランのメディアによると、ムサビ外務省報道官は「解放を仲介してくれたスイスとオマーン、必要な措置を講じたサウジの関係者に感謝する」と述べた。イランとサウジは2016年から断交している。【7月21日 時事】
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このイランとの緊張が高まっている時期に、イラン批判の急先鋒に立つサウジによるイランタンカーを解放というのは、何かのサウジ側のイランに対するシグナルでしょうか?
【「米主導の有志連合」に日本は?】
アメリカ・トランプ大統領が「米主導の有志連合」を目指しており、当然に日本も対応を迫られています。
****護衛艦派遣か資金拠出か*****
(中略)こうした中、トランプ大統領は海軍の強襲揚陸艦「ボクサー」が18日、ホルムズ海峡でイランの武装無人機を撃墜したと公表、米国が自国民を防衛する権利を行使したと強調するとともに、「自国の船舶は自ら守るよう」あらためて呼び掛け、米主導の有志連合に参加するよう各国に求めた。
イラン側が米無人機を撃墜した先月の事件では、大統領は直前になって撤回したものの、いったんは報復攻撃を命令した。
しかし、今回は激しい非難を避けた。大統領はこのところ、イランの聖職者支配体制を転覆させるような考えがないと述べるなど融和的な姿勢を示し、イランとトランプ政権の間を調停すると提案したランド・ポール共和党上院議員の仲介工作に期待する考えも見せている。
だが、米国のイランを締め付ける国際包囲網構築の動きは加速している。防衛の公平分担という大統領の持論に基づくペルシャ湾の有志連合構想について、トランプ政権は19日、同盟国ら約60カ国への説明会を開催した。
具体的には護衛艦の派遣や、それができない場合、資金拠出などを検討するよう要請した。25日に2回目の会合を開く予定。
米政府は今回、イランとの対決色ではなく、あくまでも船舶の「航行の自由」を確保することを前面に出している。これは反イランを強調すれば、有志連合の結成が困難になりかねないとの危機感を反映するものだ。
自衛艦の派遣に慎重な日本政府はとりあえず胸をなでおろしているようだが、トランプ大統領自身から個人的に求められた場合、安倍首相はやはり重大な決断を迫られることになるだろう。【7月21日 WEDGE】
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自衛艦派遣の問題に加えて、日本はこれまでイランとも独自の関係をいじしてきた事情もあって、今後のトランプ政権の出方によっては、日本も対応に苦慮しそうです。
当然イランに刺激を与えたくない関係・しかし何れは護衛艦派遣という形で示せねばならないのではないかと思います。