(サウジアラビアで拘束されている活動家ルージャイ・ハスルール氏。同氏のフェイスブックより。【11月27日 AFP】)
【米国務長官・サウジ皇太子・イスラエル首相の三者会談 その内容は?】
世界に大きな影響力を持つアメリカ大統領の交代、しかも「アメリカ第一」主義から国際協調重視へ、権威主義政権も厭わないポピュリズム政治から人権・リベラル的価値観の重視へと、その政治スタイルが大きく変わるということになると、各国はその変化への対応を迫られます。
11月25日ブログでは、EU内部における西欧主流派と中東欧諸国の対立への影響も取り上げましたが、日本の立ち位置にも関わる米中対立への影響、移民政策をめぐる中米諸国との関係、イラン核合意への復帰はあるのか、EUを離脱するイギリスとの関係、北朝鮮の核開発への対応、ロシアとの核兵器制御の問題等々、影響は多岐にわたります。
そうしたなかで中東。
トランプ政権との親密な関係を梃に、中東世界での存在感を強めていたのがイスラエルとサウジアラビア。
当然にトランプ退陣で大きな影響を受けますが、そうした事情もあってのことでしょう、アメリカ・ポンペオ国務長官がサウジ訪問中に、サウジと国交のないイスラエルのネタニヤフ首相が秘密裏にサウジを訪問し、ポンペオ国務長官、サウジ実力者・ムハンマド皇太子と会談したのでは・・・との報道が。
****イスラエル首相がサウジ訪問か、皇太子や米国務長官と秘密会談 報道****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が22日、サウジアラビアを訪問し、同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子と秘密会談に臨んだと、イスラエルメディアが報じた。イスラエル首相によるサウジ訪問は前例がない。
イスラエル公共放送KANの国際部記者が23日に伝えたところによると、先週同国を訪問していた米国のマイク・ポンペオ国務長官も、この会談に同席したという。
KANはイスラエル政府関係者らの話として、ネタニヤフ首相と対外情報機関モサドのヨッシ・コーヘン長官が「きのう(22日)空路でサウジアラビア入りし、ネオムでポンペオ氏とサルマン皇太子と面会した」としている。
他の複数のイスラエルメディアも同日朝、同様の内容を報じた。イスラエル首相府はこれまでのところ、取材に応じていない。
イスラエルは8月以降、サウジアラビアの同盟国であるアラブ首長国連邦とバーレーンとの国交正常化に合意。ドナルド・トランプ政権が仲介した。
米国とイスラエルの関係者らは、さらに多くのアラブ諸国がイスラエルと国交を結ぶ方針だとの見方を繰り返し示している。
アラブ連盟は数十年にわたって、イスラエル・パレスチナ問題が解決されるまではイスラエルと国交を結ばないとする立場を維持しており、サウジアラビアもこれにならうと公言してきていた。 【11月23日 AFP】
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サウジアラビアのファイサル外相はツイッターで、会談には「米国とサウジの当局者のみが出席した」と述べ、3者会談を否定しているとのことですが、米国務長官がサウジ訪問しているタイミングに、ネタニヤフ首相がプライベートジェット機を使用して往復を含め5時間の日帰り訪問を行ったことを考えると、それはいかにも不自然な感も。
(個人的には、往復含め5時間で会談できる地理的「近さ」に改めて驚きましたが、考えてみれば、日中の首脳も、やろうと思えばその類のこともできる「近さ」にあるのでは・・・と、余計なことを)
当然に三者の話題は、前出【AFP】にもあるイスラエルとサウジの国交樹立に及んだと思われますが、「カショギ氏殺害事件」を抱えるサウジ・ムハンマド皇太子側にはバイデン新政権の人権重視への懸念、その譜面でのイスラエルの助力への期待もあるのではとも。それと、イラン核問題への対応。
****ネタニアフのサウディ訪問(米国の影)****
先日のネタニアフのサウディ訪問については、いったい何を話し合うために態々ネタニアフがサウディまで行ったのか、大いに興味があるところでしたが、矢張り問題はイスラエル、サウディ双方の最大の同盟国、米国の政権交代と新政権の政策に関連するものだった模様です。
al qds al arabi net は、israel today紙が、会談に参加したサウディ高官2名の話として、最大の問題は新政権のサウディ皇太子とその取り巻きに対する立場であると語ったと伝えていると報じています。
米新政権にとって、サウディ皇太子の問題はいろいろとあるのでしょうが、その最大の問題がサウディ人ジャーナリストのハショグジのイスタンブールのサウディ総領事館における殺害事件(彼が総領事館でサウディ官憲により殺害されたことはサウディ政府も認めたが、皇太子等の関与は頑として認めず、サウディ治安機関のrogue eleents ならず者たちの犯行と主張している)で、サウディ皇太子は米新政権がこの事件でサウディに制裁を課し、皇太子及びその取り巻きに対し逮捕状を出すのではないかと危惧しており、皇太子はネタニアフに対して、サウディとしてはこの問題に関するイスラエルの支援を期待していると語った由
(この問題は多くのサウディ批判政府や人権擁護者にとっては、新政権の人権政策に関する重大なリトマス試験紙であり、他方政治的にユダヤロビーが共和、民主両党に対して有する圧倒的な影響力に鑑みれば、サウディ皇太子がネタニアフの助力を要請しに駆け込んだことは十分あり得ることかと思われる。仮に、この要請が実を結べば、ネタニアフはサウディ皇太子と今後のサウディ政府に対し、重大な切り札を得たことになる)
もう一つは、これも米政権がらみの話だが、サウディ政府はバイデンと新政権は、現実にイランとの間の(核兵器禁止)新条約の締結の準備をしていると信じており、その実害を最小とすべく努力している由にて、先の2名によると、サウディとしてはこの問題で欧州、イスラエルを含む統一戦線を樹立すべく努力している由
(こちらも十分あり得る話だが、バイデンは複数の条件が満たされなければ核条約には戻らないと言明しているようで、こちらの方はイスラエルやサウディにとって十分脈のある話ではないか?)【11月26日 「中東の窓」】
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【「改革」進めるムハンマド皇太子のもうひとつの側面】
サウジ国内の「改革」を進めるという面もあるムハンマド皇太子ですが、カショギ氏殺害事件にはムハンマド皇太子のもうひとつの側面、独善性・人権無視・残虐性などが示されています。
そうした「もうひとつの面」に関係するのが、女性の自動車運転を解禁するという世界で大きな話題となった「改革」に先立って、同じような主張をしていた女性活動家を拘束したことが挙げられます。
あくまでも「改革」は、皇太子主導の施しでなければならず、国家の在り方にモノ申すような不埒な輩は許さない・・・ということでしょうか。
驚いたのは、このとき拘束された活動家の拘束はいまだに続いており、しかも長期の実刑判決が言い渡される可能性が高まっているとのこと。
****サウジ女性活動家の裁判、刑事から反テロ裁判所へ移送 家族****
サウジアラビア当局はこのほど、1年以上拘束されている女性活動家ルージャイ・ハスルール氏の裁判を刑事裁判所から反テロ裁判所へ移送した。ハスルール氏の家族が25日、明らかにした。同氏の保釈を求める海外からの圧力にもかかわらず、長期の実刑判決が言い渡される可能性が高まっている。
ハスルール氏は女性の自動車運転解禁を求める活動をしていたが、2018年5月、他の女性活動家10人以上とともに逮捕された。長年禁止されていた女性の自動車運転が解禁されるわずか数週間前だった。
姉妹のリナさんによると、ハスルール氏はここ2週間にわたり拘置所内でハンガーストライキを行っていたため、首都リヤドの刑事裁判所に出廷した際、目に見えて「衰弱」し「震えを抑えられない」状態だったという。この裁判所では、2019年3月からハスルール氏らの裁判が非公開で行われていた。
今回、裁判官が刑事裁判所はハスルール氏らの裁判権を有してないとの判断を下したため、反テロ法廷である特別刑事裁判所への移送が決まったという。
リナさんはツイッターで、「1年8か月もこの件を扱っていた刑事裁判所が、どうやったら今になって裁判権がないなんて気づくのか」と述べている。さらに、事実上の最高権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の下での公正な裁判と司法権の独立とはこういうことだと批判した。
SCCは、テロ関連の事件を扱う目的で2008年に設立されたが、反対派政治家や人権活動家の裁判に一般的に使われている。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今年、SCCがテロとの闘いという名目で、批判的な声を黙らせるために使われていると指摘している。
ハスルール氏ら拘束中の活動家らは、国家の敵の支援や海外メディアや外交官、人権団体との接触といった不透明な罪に問われていると、人権団体らは述べている。 【11月27日 AFP】
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【イラン核科学者暗殺 イスラエルの「駆け込み」?】
一方、イラン核問題では、イランの著名な核科学者が殺害される事件が。
イラン側は、イスラエルが協力的なトランプ政権のうちに、イランに対する敵対行動を強めていると批判しています。
****イラン核科学者の暗殺 イスラエル関与疑惑浮上で中東緊張****
イランの首都テヘラン郊外で27日、乗用車で移動中だった同国の著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かの銃撃に遭い、搬送先の病院で死亡した。中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどが伝えた。
ファクリザデ氏は2000年代初頭にイランの核兵器製造計画を率いた人物とみられており、イランと対立するイスラエルが暗殺した疑惑が浮上している。今後、イランが報復攻撃に出た場合、イスラエルの後ろ盾である米国を巻き込み、対立が激化する恐れもある。
現地からの報道によると、事件はテヘランから東へ約70キロ離れたアブサードで発生。待ち伏せ攻撃をしたのは3〜4人で、ファクリザデ氏のほか、攻撃側も数人が死亡したという。先に別の車1台が爆破されたとの情報もある。イラン外務省は「テロリストによる攻撃」としている。
ファクリザデ氏はイラン革命防衛隊に長く所属し、イランが03年に中止したとされる核兵器製造計画を指揮していたとみられる。弾道ミサイル製造の専門家としても知られ、国防省の研究開発機関のトップを務めていた。
最高指導者ハメネイ師からも全面的な支援を受けていたとされる。ロイター通信によると、同氏はかつて3通のパスポートを保有し、核に関する最新情報を入手するためにアジアを含む世界各地を回っていたという。
イランのザリフ外相はツイッターに「イスラエルが関わった可能性がある。戦争を挑発する卑劣な行為で国際社会は非難すべきだ」と投稿。ハメネイ師の軍事顧問デフガーン氏も「同盟者(トランプ米大統領)の政治生命の終わりが近づく中、シオニストたち(イスラエル政府)はイランへの圧力を強め、戦争を起こそうとしている」とツイートした。
イスラエルは事件についてコメントしていない。だが、米ニューヨーク・タイムズ紙は3人の情報当局者の話を引用し、イスラエルが背後にいると指摘している。イスラエル紙ハーレツによると、イスラエルは約10年前からイランの核科学者を暗殺してきた疑いがある。10〜12年には少なくとも4人の科学者が殺害された。
今回の事件は、イランに経済制裁などの強い圧力をかけてきたトランプ氏が米大統領選で敗北し、対話に前向きなバイデン前副大統領の就任が確実となってから数週間というタイミングで発生した。
このため、イランの盛り返しに危機感を覚えたイスラエルが、来年1月のバイデン氏就任前にイランに打撃を加え、同時に米イラン間の対話機運を失わせる狙いがあるとの見方が米国の専門家などから出ている。
一方、イラン・テヘラン大学のマランディ教授はアルジャジーラに対して「イランの核計画は既に発展しており、若い科学者も大勢いる」としてイランにとって大きな打撃にはならないとの見方を示しつつ、「イラン側は敵対者への対応をより積極的にするだろう」と報復攻撃の可能性を指摘した。
イスラエルに接するシリアやレバノンには親イランの民兵組織がおり、イランはこうした勢力を利用して攻撃に出る恐れもある。一方のイスラエルは既にシリア領内の親イラン民兵への攻撃を強化しており、11月中旬以降、数十人が空爆で殺害されたとみられる。
イランでは20年1月、革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害された。7月には中部ナタンツの核関連施設で爆発が起き、イスラエルや米国の関与が疑われている。【11月28日 毎日】
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真相はわかりませんが、アメリカの政権交代を前に、中東で「駆け込み」的なうごめきが見られるようにも。
【フーシ派の攻撃を防御できないサウジ イギリスが防御部隊展開】
サウジアラビアはイエメンへの軍事介入が続いていますが、またイエメン・フーシ派によって石油施設へのミサイル攻撃を受けたようです。
****フーシ派のミサイル攻撃、国内燃料供給に影響ない=サウジアラムコ****
サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコは24日、同国ジッダの石油製品供給施設がイエメンの反政府武装勢力フーシ派の攻撃を受けたことについて、国内の燃料供給に影響は及んでいないと説明した。同施設は攻撃から3時間後に操業を再開した。
フーシ派は23日、アラムコが操業するノース・ジッダ・バルク・プラントに向けミサイルを発射したと表明。サウジ当局がその後、攻撃の事実を確認した。
アラムコの石油生産・輸出施設の大半は、ジッダから1000キロメートル以上離れたサウジ東部に集中している。
ノース・ジッダの幹部は記者団に対し、ディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料の貯蔵に使われている13基のタンクのうちの一つが現在、機能していないと説明した。【11月25日 ロイター】
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“国内の燃料供給に影響は及んでいない”とのことですが、これが初めてでもなく、今後も攻撃は予想されます。
サウジはアメリカからパトリオットなどのミサイル防衛システムを購入しているはずですが、十分には防御できていないようです。(そのことは、北朝鮮などのミサイルを考えたとき、日本にも関係してきます)
そうしたことで、サウジ石油施設防衛のためにイギリス部隊が展開したとも報じられています。
****英対空部隊のサウディ油田防衛****
やはりサウディは英米等の軍事機構に益々依存しつつあるのでしょうか?
al qods al arabi net は英紙independentが、英国はサウディの油田防衛のために部隊を展開していると報じていますが、al jazeera net は、英国防省が同放送に対し、英部隊の展開を確認したと報じています。
記事の要点次の通りですが、これが事実であれば、度重なるhothy軍のサウディ石油施設に対する攻撃で、これに対処するサウディ軍の能力不足が明らかになったのか、英としては大口兵器輸出先のサウディを英軍を出してでも確保したいと考えたのでしょうか?
・英国防省は27日、al jazeeraに対して、サウディ油田の防衛のために英軍部隊が展開した事を確認したが、秘密作戦のためとして、参加人数や作戦期間は明らかにしていない
国防報道官は、サウディ油田防衛のため英防空部隊が2月から派遣されていると語った
・英軍は対空システム・ジラフを展開したとしている
またその展開は昨年9月の油田に対する攻撃後、同盟国(複数)等と協議してきたところの由。
・英国防省は、サウディの油田は極めて重要なインフラで、ドローンに対する防衛のために第16防空大隊が派遣されたとしている
他方independent 紙は、英軍の展開は2月に始まったが、これは英裁判所が独裁国家に対して兵器類の輸出を禁止した時期とタイミングが一致しているとしている。【11月28日 「中東の窓」】
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