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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダンでジェノサイドの懸念 PKO部隊を守るために武器禁輸に賛成しない日本の“本末転倒”

2016-12-20 22:13:14 | アフリカ

(【12月13日 朝日】)

南スーダンは大量虐殺前夜
これまでも取り上げてきた南スーダンの情勢ですが、ジェノサイド(大量虐殺)も懸念される状態にあります。

****国連事務総長、南スーダンでの大量虐殺に懸念 迅速な行動求める*****
国連の潘基文事務総長は19日、即座に行動を取らない限り、南スーダンでジェノサイド(民族大量虐殺)が始まる可能性があると懸念を表明し、南スーダンに武器禁輸を課すよう国連安全保障理事会に繰り返し求めた。

潘氏は安保理の15の理事国に対し、「行動を起こさなければ、南スーダンは大量虐殺に向かう」とし、「安保理は南スーダンへの武器の流れを止めるために、対策を取る必要がある」と訴えた。

また、ジェノサイド担当のアダマ・ディエン事務総長特別顧問が、ジェノサイドはその進行過程にあると指摘したとした上で、潘氏は「即座に行動を起こさない限り、その過程が始まる」と懸念を示した。

南スーダンは、キール大統領とマシャール前第1副大統領の政治的対立から2013年に内戦状態となった。双方は昨年、和平協定に署名したが戦闘は続き、マシャール氏は7月に国外へ脱出、現在南アフリカに滞在している。

潘氏は、キール大統領派が「ここ数日以内の新たな軍事攻撃を計画」し、マシャール氏などの反政府勢力が「軍事力を強化」していることが報告書で示されたと語った。【12月20日 ロイター】
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南スーダンの武力衝突は民族対立を背景にしたキール大統領派とマシャール前第1副大統領派の対立として語られることが多いですが、冒頭の図のように、実際には多くの武装勢力が存在して複雑なようです。

****多数の武装組織、戦闘員10万人****
多民族国家の南スーダンには、各民族を基盤とした少なくとも10以上の反政府系の武装組織が存在し、計10万人以上の戦闘員がいるとみられる。
 
最大勢力は、マシャル前副大統領率いる「スーダン人民解放軍・反体制派(SPLA―IO)」。キール大統領の出身民族ディンカに次ぐ規模を持つヌエル民族で構成される。

国内北部に主力がいる一方、南東部にも関連組織を持つ。東部にはヌエルの別組織「ホワイトアーミー」がいる。
 
これらの多くは、2011年のスーダンからの分離独立前に起源がある。1983年から22年続いた内戦で、家畜や財産を他民族から守ったり、利権・主導権を争ったりするために武装を進めた。

独立後も独裁的な現政権に反発。民族間での虐殺も起きており、敵意を増幅し合っている。【12月13日 朝日】
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“現場では民族対立をあおる表現やヘイトスピーチ、特定の民族に対する暴力の扇動行為が増えており、地域や政治指導者が抑制に入らなければ、「大量の残虐行為を引き起こす可能性がある」と指摘している。”【11月18日 朝日】”

“人権理(国連人権理事会)のヤスミン・スーカ氏は「複数の地域で集団レイプや村の焼きうちといった民族浄化が確実に進行している」「ルワンダで起きたことが繰り返されようとしている段階だ。国際社会はこれを阻止する義務がある」と訴えた。【12月2日 朝日】”

国民の約4分の1が家を追われ、深刻化する食糧難
そうした危機的状況のなかで、住民は国内外へ避難しようとしており、特に、7月に首都ジュバで大規模戦闘が発生して以降にの数は増加、すでに国民の約4分の1が家を追われています。当然に、食糧難も深刻です。

****<南スーダン>国外脱出40万人超す UNHCR明らかに****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)南スーダン事務所のアフメド・ワルサメ所長は17日までに毎日新聞のインタビューに応じ、7月に首都ジュバで大規模戦闘が発生して以降、40万人超が近隣諸国に逃れたと明らかにした。今も1日2000人が国外に脱出していると指摘、「危機的状況は少なくとも2年は続く」と警告した。
 
UNHCRによると、事実上の内戦に突入した2013年末以降に発生した難民は110万人超で国内避難民も約180万人。総人口約1173万人の約4分の1が家を追われた。食糧危機も拡大し400万人以上に緊急支援が必要だ。
 
ワルサメ氏は政府軍と反政府勢力の戦闘で「援助機関の活動にも深刻な影響が出ている」と指摘。ジュバがある中央エクアトリア州で9月、国連世界食糧計画(WFP)のトラックが襲撃され、UNHCRは一部支援の停止を余儀なくされた。
 
ワルサメ氏は長引く紛争で援助機関の財政が窮迫し、世界の関心が低下することに懸念を表明。日本政府と国民に継続的支援の重要性への理解を求めた。【12月17日 毎日】
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戦闘の激化で農作業ができず、食糧不足が深刻化しています。

****地方でも衝突、農業できず食料危機*****
・・・・・南スーダンのほぼ全土で食料危機が進んでいる。国連世界食糧計画(WFP)によると、人口の約3割にあたる推定約360万人が深刻な食料不足の状態で、前例のない事態だ。ユニセフによると、推定約36万人の5歳未満の子どもが、重度の急性栄養不良になっている。
 
7月に首都ジュバであった政府軍と反政府勢力の大規模な戦闘が全土に飛び火し、9~12月の収穫時期に農作業ができなかったことが原因とみられる。
 
自衛隊が宿営するジュバ中心部の治安は比較的安定している。だが、ジュバ郊外では強奪などが相次ぎ、危険な状態が続く。
 
南部でも状況は悪化。国際人権団体の11月末の報告によると、主要都市イェイでは政府軍兵士による殺人やレイプ、反政府勢力による拉致などが多発。数十万人が逃げ出した。(後略)【12月13日 朝日】
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一方で、武装勢力は子供たちを少年兵として“徴用”しています。

****南スーダン、子ども1万7千人超が徴用・徴兵 内戦以降****
国連児童基金(ユニセフ)は15日、混乱が続く南スーダンで、今年だけでも約1300人の子どもが武装勢力に徴用・徴兵されたと発表した。2013年末に同国が内戦状態に陥って以降では1万7千人を超えたとしている。
 
ユニセフは「紛争が激化する中、紛争当事者が何度も子どもの徴兵をやめると宣言しているにもかかわらず、子どもたちは狙われている」と非難した。(後略)【12月15日 朝日】
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武器禁輸等に関する国連安保理決議に慎重姿勢をとる日本政府
国連は、日本も含めたPKOを現地で実施していますが、このままではジェノサイドになりかねない・・・との危機感から、冒頭記事にもある潘基文事務総長による、南スーダンに武器禁輸を課すよう国連安全保障理事会への繰り返しの要請となっています。

しかし、武器禁輸は中国・ロシアなどの反対もあって実現していません。

****南スーダンのPKO、1年延長 国連安保理採択 武器禁輸は見送り****
国連安全保障理事会は16日、南スーダンで市民保護などに当たる国連平和維持活動(PKO)の国連南スーダン派遣団(UNMISS)の任期を来年12月15日まで延長する決議案を全会一致で採択した。
 
UNMISSは日本の自衛隊が参加する唯一のPKOで、今月中旬から「駆けつけ警護」などの新任務が可能となった。
 
米国は11月、南スーダンに武器禁輸などの制裁を科す草案を各国に提案していたが、中露などは「時期尚早」と反対し、武器禁輸は見送られた。
 
政府軍と反政府勢力の対立が続く南スーダンでは7月に首都ジュバで大規模な戦闘が発生し、昨年8月に双方が署名した和平協定は事実上崩壊した。

対立は激化しているとされ、今月末で退任する潘基文事務総長は16日の最後の会見で、南スーダン情勢について「ジェノサイド(民族・集団の計画的な抹殺)のリスク」があると警告、安保理に対し「懲罰的な措置」を取るよう求めた。【12月17日 産経ニュース】
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上記記事では、“中国・ロシアの反対で・・・”との書き方になっていますが、反対している国の中に日本も含まれています。

****民族大虐殺迫る南スーダン。国連安保理の武器禁輸措置決議に日本はなぜ消極的なのか****
南スーダンで今何が起きているのか
自衛隊の派遣をめぐって、様々な問題が日本国内でも議論されている南スーダン。
 
しかし、これは国内政治の問題ではなく、現地の人々の命が今この瞬間も奪われている事態であり、そして何より今そこにある危機である。

 
1990年代に起きたルワンダの大虐殺、民族浄化、多数の住民が殺され、女性はレイプされるなど、壮絶な悲劇は未だに記憶されている。

南スーダンでの現在の状況は残念ながら、それに近いのではないか、集団虐殺(ジェノサイド)、民族浄化の危険が待ち構えているのではないか、と国連関係者は警告している。(中略)

国連安保理で争点となっている武器禁輸、紛争指導者の資産凍結等
こうしたなか、焦点となっているのが、南スーダンへの武器禁輸、紛争指導者(政府高官、反政府リーダー双方)の資産凍結等の措置である。

率直に言って、国際社会はもっと早く、こうした措置を講じるべきだった。(中略)

しかし、それでも今からでも武器禁輸措置を講ずることは命を救うことになると、現地ジュバの市民社会は声をあげている。「このままではジェノサイドになる可能性がある」と。

こうしたなか、11月30日、アメリカ政府(サマンサ・パワー大使)はニューヨーク国連本部で開催されている安全保障理事会に、武器禁輸等に関する国連安保理決議を提出しようとしたが、断念を余儀なくされた。

なぜかといえば決議採択に必要な国連安保理のなかの9票を得られる見通しが立たなかったからだという。(中略)

なぜ、米国が断念したか、ニューヨークのNGO関係者に聞いてみたところ、ロシア、中国、ベネズエラやアフリカ諸国が乗り気でないだけでなく、日本やマレーシアのような国からも賛成を得られなかったからだという。

フォーリン・ポリシーのコラムに詳しく記載されているが、そこでは、「自衛隊を派遣している日本は南スーダン政府と対立したくない」と分析されている。

私が交流のあるニューヨークの安保理界隈の人々の間では、「自衛隊を派遣している日本にとって、『ジェノサイドの危険性があるなどの深刻な治安状況を確認する決議は避けたいのではないか?』」「自衛隊派遣に対して否定的な影響を避けたいのではないか」「しかし、武器禁輸をしないほうが、自衛隊は危険にさらされるではないか? 」などの憶測と疑問が流れている(日本政府の意図はわからない)。

日本は今こそ、安保理で紛争解決のための強い姿勢に協力すべき
今そこにあるジェノサイドの危機、という国際認識が日本国内には十分に伝わっていない。そして、日本は、危機の拡大・深刻化を防ぐという点で果たして正しい態度をとっているのか。

ひとたび、PKOが派遣されると、自国部隊は人質のようになる。紛争当事国政府を刺激するような外交上の投票行動は取りにくくなる。

しかし、その結果として、紛争を防止・拡大しないための国際社会の行動を無駄にしてしまう役割を果たすこととなったら、結局本末転倒ではないだろうか。(中略)

部隊を派遣しているがゆえに、強力な安保理の措置を求めることを躊躇し、虐殺防止への重要な役割が果たせないこととなければ、それこそ本末転倒である。結局のところ、南スーダンの平和でなく、自己満足のための派遣だと批判されることになるのではないか。(中略)

安保理のパワーバランスのなかで、日本が果たす役割が重く問われることがあるが、安保理の現在の構成を見れば、この問題において日本の果たすべき役割が大きいことはうなづけるだろう。

遅きに失したとはいえ南スーダンの虐殺を止め、紛争拡大を止めるための役割を果たすことができるのか、戦闘シーズンが到来しつつある今、日本政府の外交姿勢が問われている。【12月7日 伊藤和子氏 Newsweek】
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PKOの目的は、派遣すること自体ではなく、現地の平和を守ること
7月の混乱でも政府軍が一方の当事者となっている状況、自衛隊は政府軍相手の戦闘は想定されていない状況で、日本政府としては南スーダン政府を刺激して自衛隊を取り巻く環境を悪化させたくない、万一、自衛隊員に犠牲者が出るような事態にでもなれば国内世論の動向が心配・・・といったところでしょう。

決議案内容の問題も指摘されています。

“決議案の内容を問題視する声もある。今回の決議案には、武器の流入阻止だけでなく、特定の南スーダンの政府指導者の資産凍結や渡航制限といった「ターゲット制裁」が多く含まれており、これが日本などのPKO参加国に二の足を踏ませる結果をもたらしたというのだ。”【12月13日 Newsweek】

日本政府の南スーダン政府との関係を悪化させたいくないという思いはわかりますが、その結果、現地情勢が悪化してジェノサイドが発生し、自衛隊員だけでなく大勢の現地住民の生命が危険にさらされるということであれば、やはり“本末転倒”ではないか、何のための派遣なのか?との批判は避けられないでしょう。

武器禁輸に慎重姿勢をとる日本政府の対応をアメリカが公然と批判するという、異例の事態ともなっています。

****武器禁輸制裁決議案に慎重姿勢の日本を批判 米国連大使「非常に不自然な考え方****
米国のパワー国連大使は19日、南スーダンへの武器禁輸を盛り込んだ国連安全保障理事会の制裁決議案に、日本が慎重姿勢を示していることについて、「非常に不自然な考え方だ。理解できない」と批判した。国連本部で記者団に語った。米国が、同盟国である日本の外交対応を公然と批判するのは異例。
 
陸上自衛隊を南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に派遣する日本は、武器禁輸に反発する地元政府を刺激し、情勢が緊迫することを懸念。陸上自衛隊のリスクが高まる恐れもあるとして、制裁発動に難色を示している。
 
パワー氏は「武器禁輸は南スーダンの人々だけでなく、PKO部隊を守る手段になる」と述べ、「武器禁輸を支持しなければ、PKO部隊の安全を守れるという考えは非常に不自然だ」と不満を表明した。
 
政府軍と反政府軍の対立が激化する南スーダン情勢について、国連はジェノサイド(集団虐殺)の危険性があると警告している。米国は武器禁輸を含む制裁決議案の早期採択を目指しており、慎重な立場を取る日本の説得を続けているとみられる。【12月20日 産経】
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現地の安全は確保されているという前提でのインフラ整備のための自衛隊派遣というのは、今の南スーダンでは無理があります。

危険だからこそ抑止力として派遣する、万一の場合は“殺し、殺される”リスクは当然ある、しかし、それは住民の生命を守るために国際社会が果たすべき責務である、ジェノサイドの危機を前にして「日本はできない、他国に任せる」ということでいいのか・・・ということを正面から議論すべき問題でしょう。

そうなれば、ジェノサイドの危険が叫ばれているのに武器禁輸に反対するという“本末転倒”“不自然な考え方”も整理できると思われます。

憲法規定との兼ね合いで言えば、すでに現行憲法下で自衛隊を認めるという離れ業を実現しているのですから、憲法改正で間口を広げずとも、いくらでも“現実的対応”の方策はあるのではないでしょうか。
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