孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“巨星落つ”キューバ  “ポピュリスト”トランプ氏の対キューバ政策は不透明

2016-12-01 22:05:22 | アメリカ

(キューバの首都ハバナのホセ・マルティ国際空港に到着し、歓迎の放水を受けるアメリカン航空の旅客機(2016年11月28日撮影)。【11月29日 AFP】)

キューバ社会主義は頓挫したが、“格差”の問題は世界の資本主義で表面化
先月末のミャンマー旅行中に起きた印象的な出来事のひとつが、キューバ・カストロ元議長の死亡でした。
その功罪は多々ありますが、冷戦時代を象徴する政治家でもあり、“平等”の実現を目指す独自の社会建設に邁進した革命家でもありました。

****<カストロ氏死去>「人間こそ最大の資本」原点に労働者****
 ◇評伝
巨星落つ。
経済制裁を続ける米国に対抗しながら半世紀以上もキューバを率いたフィデル・カストロ氏が逝った。キューバ市民は愛憎の対象を失い泣いている。カリスマへの感傷、長期の経済的困窮への怒り、重しがとれ、ほっとする気持ちも入り交じっているだろう。
 
185センチ超の長身、オリーブ色の軍服とひげ。「社会主義か死か! 祖国か死か!」で締めくくられる数時間もの演説。国民の多くはファーストネームで「フィデル」と呼ぶ。

70代のおばあさんは「フィデルの演説が始まると、姉妹全員がテレビの前に集まり、何時間でもうっとりと聞いていた」と懐かしそうに話した。男性は言った。「フィデルは我々の最高指導者、チェ・ゲバラは我々のアイドル」と。
 
傑出した洞察力、危機管理能力が魅力だった。キューバ危機やソ連の崩壊を乗り越え、150キロしか離れていない米国を帝国主義と批判しながら、キューバの独立を守った。米国からの転覆工作や600回以上とも言われる暗殺計画を生き延びた。
 
無料の医療や教育、尊厳ある「社会主義」を作り上げ、世界に輸出しようとした。ベネズエラの故チャベス前大統領を見いだし、シェールガスにも早くから注目。核兵器廃絶を訴え、地球温暖化に危機感を表明した。反米の旗手として中南米やアフリカ諸国の指導者の尊敬を集めた。
 
私腹を肥やさず、引き際も自分で決めた。大病から2年後の2008年に国家評議会議長を引退。11年に共産党第1書記も弟のラウル・カストロ国家評議会議長に譲り、一党員に戻った。このときラウル氏はカストロ氏について「キューバの歴史、現在、未来に永久に輝き続ける」と述べた。
 
だが、演説に見ほれていたおばあさんも今は「窓を開けて大声で叫びたい欲求に駆られる」という。キューバの社会主義は行き過ぎた平等主義と生産性の低下などが主な原因で破綻したと。

11年から市場原理の一部導入にかじを切ったが、外国に脱出した親族の経済援助なしには極貧生活しかない。カストロ氏を信じた者ほど追い詰められる矛盾も引き起こした。
 
「歴史は私に無罪を宣告するだろう」。1953年10月、親米政権を襲撃した罪で起訴されたカストロ氏は、公判で自信たっぷりに弁舌をふるった。
 
革命の原点は米国に工場やインフラを握られ、搾取されるサトウキビ労働者だった。「人間にとって重要な資本は金ではない。人間こそが、最大の資本なのである」。

キューバの社会主義は頓挫したが、格差が広がるばかりの米国の資本主義も問題が指摘されている。カストロ氏の精神は世界のどこかで引き継がれていくだろう。【11月26日 毎日】
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その死亡への反応は、キューバ国内と、その圧政から逃れた亡命者社会では全く異なるものがあります。

****<カストロ氏死去>キューバ深い悲しみ 議長、団結呼びかけ****
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が25日夜に死去したとの知らせに、キューバ国内は深い悲しみに包まれた。
弟のラウル・カストロ国家評議会議長は国営テレビで国民に団結を呼びかけた。

一方、カストロ政権による迫害を逃れて亡命したキューバ系住民やその子孫が多い米南部フロリダ州マイアミでは、大勢の人々が街に繰り出し、歓喜に沸いた。【11月27日 毎日】
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アメリカに逃れたキューバ系住民は、先の大統領選挙でも激戦州のひとつとなったフロリダ州を中心に100万人以上(200万人とも)いると言われています。

現実政治からは退いていたカストロ氏ではありますが、キューバ国内にあっては、弟のラウル・カストロ国家評議会議長を中心とする現体制が今後どのように世代交代を実現していけるかが注目されます。

トランプ氏:国交正常化を「キャンセル」するかもしれない・・・・
カストロ氏死亡で改めて注目されたのが、アメリカの次期大統領トランプ氏が、オバマ大統領が進めてきたキューバとの歴史的和解路線を今後どうするのか・・・・という点です。

カストロ氏死亡に対し、トランプ氏は反カストロ体制の姿勢を鮮明にしています。

****米・キューバ、融和に暗雲 トランプ氏「カストロは残忍な独裁者****
歴史的な国交回復を昨年実現したばかりの米国の対キューバ融和政策に暗雲が立ちこめている。

トランプ次期米大統領は26日、フィデル・カストロ氏の死去を受け、反カストロ体制の姿勢を当選後初めて鮮明にした。
 
対キューバ外交の転換はイラン核合意と並び、国際協調を目指したオバマ政権のレガシー(遺産)だ。トランプ氏が選挙中に掲げていた「レガシーの否定」が現実味を帯びてきた。
 
トランプ氏は声明で「今日、世界は60年近く自国民を抑圧してきた残忍な独裁者の死去を記録した」とし、カストロ氏の「レガシー」として「銃殺隊、盗み、想像を絶する苦悩、貧困、基本的人権の否定」と列挙した。
 
さらに「我々の政権は、キューバ国民が繁栄と自由を迎えることを保証するため、できる限りのことを行う」と強調。「キューバは全体主義的な島のままだ。私の望みは、長い恐怖から解かれ、すばらしいキューバ国民が自由に暮らせる未来に向かう転換点に今日がなることだ」とし、現体制との歩み寄りを否定した。(中略)

米議会では共和党を中心に、伝統的に対キューバでの強硬論が多く、国交回復や制裁解除には否定的だ。議会の承認が必要な対キューバ禁輸措置の全面解除は困難なため、オバマ氏は大統領令で貿易や投資、渡航、金融に関する規制を段階的に緩和してきた。
 
トランプ氏は大統領選の序盤、キューバとの関係改善に前向きな姿勢も示していた。しかし次第に共和党の方針に歩調を合わせ、オバマ氏の大統領令を覆すことも明言していた。
 
背景には、フロリダ州を中心に100万人以上いる米国内のキューバ系住民の存在がある。カストロ体制に反発する亡命者が多く、キューバに歩み寄ることは選挙で利点がなかった。
 
トランプ氏がオバマ氏の政策を覆すことは、手続き上は可能だ。しかし国交回復を受けて米国企業のキューバへの投資も始まり、今月にはアメリカン航空が定期便を就航させる。活発化しつつある民間の経済活動を損ないかねない。
 
トランプ氏の声明に対して、キューバ側は27日未明(日本時間同日夕)までに公式の反応を示していない。【11月28日 朝日】
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トランプ氏はキューバとの関係改善の取り組みを“打ち切る”用意があるとも表明しています。

****トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取引」要求****
ドナルド・トランプ次期米大統領は28日、キューバとの国交正常化に向けた取り組みについて、キューバ政府が大幅な譲歩に踏み切らなければ打ち切る用意があると発言した。バラク・オバマ現政権が尽力してきた歴史的な和解が立ち消えになる可能性も出てきた。
 
25日にキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したことを受け、トランプ氏の上級顧問らは27日、キューバと「もっと有利な取引」を行うと約束した一方で、冷戦時代から対立を続ける両国の関係改善に与え得る影響については触れていなかった。
 
だがトランプ氏はその翌日、ツイッターに「キューバが自国民、キューバ系米国民、米国全体に対してより良い取引をしようという気がないのなら、私はその取引を終わりにする」と投稿し、対キューバで強硬姿勢を取る構えを示した。
 
これについてホワイトハウスは、キューバとの関係改善を決めた現政権の方針を擁護。ジョシュ・アーネスト大統領報道官は、オバマ政権が関係改善に乗り出したことにより「キューバ国民にとって大きな利益をもたらした」だけでなく、「米国民にとっても大きな利益をもたらした」と強調した。 【11月29日 AFP】
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トランプ氏のキューバに関する発言・姿勢は、多くの問題同様に二転三転していますので、その発言をそのまま受け取ることもできませんが、これまでとは全く異なる方向の可能性もある状況です。

“オバマ米大統領は昨年、歴代政権が懸念を示してきた人権状況を棚上げする形で54年ぶりにキューバと国交を回復した。しかし、フィデル・カストロ前国家評議会議長が死去したキューバに対し、共和党のトランプ次期米大統領がオバマ氏の路線を踏襲するかは不透明だ。
キューバでのホテル事業に関心を持つビジネスマンの顔と、カストロ体制と対峙(たいじ)してきた共和党大統領の顔が交錯する。”【11月27日 産経】

ここにきての“ちゃぶ台返し”があるのか・・・・不透明
アメリカにとってキューバとの関係はこれまで、必ずしも保守・リベラルの違いだけでなく、保守・リベラル双方にそれぞれ相反するベクトルも存在し、“4つの「イデオロギー」的なリアクション”があったとのことです。

****トランプ政権はキューバと再び断交するのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
<カストロ死去に際してキューバとの再度の断交まで示唆するトランプだが、キューバ系移民への政治的配慮は理解できるとしても、すでに始まった両国間のビジネスを止めることはできない>

フィデル・カストロ前議長の訃報に際して、ドナルド・トランプ次期大統領はかなり辛口のコメントを出しています。「(オバマ政権による)キューバとの取引は良いディールではない」というスタンスで、このために、様々な紆余曲折の結果として実現した国交正常化を「キャンセル」するかもしれないというニュース解説まで出ています。

この「トランプの辛口発言」ですが、少々わかりにくい点があります。というのは、他でもないトランプ氏が「カストロは冷酷な独裁者だった」「キューバにおける人権の確保、政治犯の釈放が絶対に必要だ」などという「リベラルな価値観」に基づく発言をしているからです。

例えばですが、ロシアのプーチン大統領や、シリアのアサド大統領に対してトランプ氏は「独裁的な方が、話が早い」と言わんばかりの姿勢を見せており、この両国に対しては「人権」とか「政治犯の釈放」といった要求をしたことはありません。

では、どうしてキューバに対しては「人権外交」めいた発言になるでしょうか?

その背景には、フロリダのキューバ系移民社会の複雑な対立軸があります。それを理解するには、少々古い話になりますが、1999年に発生した「エリアン・ゴンザレス少年事件」が分かりやすい例になると思います。

ゴンザレス少年(事故当時5歳)は、キューバから、母親、そして母親の新しい交際相手の男性と一緒にボートに乗ってフロリダに亡命しようとしました。ところが荒れたカリブ海で嵐に遭遇してボートは転覆、大人達は死亡して、ゴンザレス少年だけがアメリカの沿岸警備隊に助けられたのです。

フロリダには、死んだ母親の親戚が住んでいました。彼等は、少年の亡命を強く主張しました。ところが、キューバ政府は、キューバに残る父親と祖母を政治的なシンボルに仕立てて、少年奪還の「国民大会」を連日繰り広げたのです。

対応に苦慮したクリントン政権は、ジャネット・リノ司法長官(当時)が陣頭指揮に当たりました。リノ長官は、フロリダ側で「永住亡命」を主張する「アメリカの親戚」と、「奪還」を主張する「キューバの家族」の間に入って、国際法、国内法、国内世論、対キューバ政策を考えての複雑な判断を迫られたのです。

当時のアメリカの世論、特にフロリダの世論は、このゴンザレス少年の処遇についてまっぷたつに割れました。そして、その対立軸は、単純ではありませんでした。

まず民主党系あるいはリベラルの側には、「自由と人権の擁護、移民受け入れ拡大」という考え方から「永住亡命賛成」という意見がある反面、「キューバとの関係改善」のためにキューバの主権を認めて「送還せよ」という考え方もあったのです。

一方の共和党系あるいは保守の側には「反共の大義に基づいてキューバとは徹底対決」という考え方から「永住亡命賛成」という立場があり、その反対に「移民受け入れ反対」という考え方からの「送還」論もありました。

つまり、この問題に対しては、キューバ系移民を中心としたフロリダの世論には、4つの「イデオロギー」的なリアクションがあったわけです。更に、永住亡命にしても送還にしても「かわいそうなゴンザレス少年」を何とかしたいという感情論がその上に乗っかる形で、世論は迷走しました。

この99年の事件ですが、最終的には、リノ司法長官(当時)がキューバから少年の父親を呼び寄せ、その父子の様子をテレビで放映し、アメリカの世論を安心させて、最終的に父子をキューバに送り届けてドラマの幕引きを行いました。

それから17年の年月が流れ、民主党のオバマ大統領がキューバとの国交回復に漕ぎ着けたのには、この「ゴンザレス少年事件」への対応によって、カストロ政権がアメリカの民主党に対して信頼感を持ったのが遠因の一つという解説もあります。

では、この2016年の現時点でトランプ次期大統領は、いったい何に基づいて「カストロの死に対して断交を匂わすような辛口発言」を行っているのでしょう?

一つには99年から今に至るまで続いている複雑な対立軸の中から「使える」ロジック、つまり「反共という大義」や「移民流入拡大への反対」というようなものを「混ぜ合わせて」話していることがあります。

それ以前の問題として、オバマ大統領は、議会の承認を経ずして「大統領令(エグゼクティブ・オーダー)」を使って、このキューバ国交正常化を実現したわけです。そうしたオバマの「大統領令による政治」についてトランプは「全て白紙還元する」と言っているわけで、この「アンチ・オバマ」というスタンスが軸になっているという面もあります。

実際に、このオバマによるキューバ国交回復に関しては、前述したような「複雑な対立軸」を抱えたフロリダの世論の中には「一方的すぎる」という声が確かにあり、この州でのトランプ勝利の遠因の一つとして数えられるという見方もあります。

いずれにしても、対立軸を考えると、共和党の次期大統領であるトランプ氏が「キューバ国交の見直し」を言うということは、過去の経緯や対立軸を考えると、とりあえず政治的な筋は通っていることになります。

ただ、実際のところはすでに経済関係は走り出しており、アメリカの航空会社による直行便乗り入れも、この今週28日にマイアミ発のAA便を手始めに各社の初便が就航しています。ここまで来ての「ちゃぶ台返し」は、事実上難しいと思います。(後略)【11月29日 冷泉彰彦氏 Newsweek】
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上記記事にもあるように、キューバの首都ハバナとアメリカを結ぶ定期直行便の運航が。折りしも11月28日に開始されています。

****キューバ・ハバナに米国からの定期直行便が到着、歓迎の放水****
アメリカン航空などの米国の航空会社は28日、フィデル・カストロ前国家評議会議長の死去を受け服喪期間に入っているキューバの首都ハバナと米国を結ぶ定期直行便の運航を開始した。
 
米マイアミを飛び立った旅客機は午前8時45分(日本時間同日午後10時45分)、ハバナのホセ・マルティ国際空港に着陸し、歓迎の放水を受けた。

米国の航空会社がハバナに定期航空便を運航するのは五十数年ぶり。搭乗したある米国人乗客は「歴史的だ。ずっとこの時を待っていた」と感想を述べた。そのすぐ後に米ジェットブルー航空のニューヨーク発ハバナ便も到着した。
 
両国は冷戦下で長らく敵対関係にあったが、国交回復交渉を行うと2014年12月に発表し、15年7月に国交を回復した。今年8月から米国とキューバを結ぶ定期航空便の運航が始まっていたが、ハバナへの直行便は今回が初めて。【11月29日 AFP】
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冷泉氏の言うように、ここにきての“ちゃぶ台返し”はあり得ないのか・・・・わかりません。
トランプ氏の頭の中など、誰もわかりません。信条とか理想とかとは縁がなく、“何が人気取りに有効か”だけでいかようにも動く政治家ですから。従来発言も関係ありません。

その“人気取り”も、対象が国民全体なのか、支持層なのか、共和党議会勢力なのか、その場面で異なり、その対応も異なってくるでしょう。

“制裁の全面解除に向けた最大のハードルが、米企業とキューバとの商取引を厳しく制限するヘルムズ・バートン法(キューバ自由・民主的連帯法)の存在だ。改正を目指しても、キューバ系のルビオ、クルーズ両上院議員ら強硬派が立ちはだかる。トランプ氏の政権移行チームに強硬派の人物が加わったことも、関係改善は見込めないとの見方につながっている。”【11月27日 産経】と、関係改善の進展を危ぶむ向きもあるようです。
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