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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  「92年コンセンサス」受入を求めて圧力を強める中国 これに反発する蔡英文総統

2016-10-07 22:43:07 | 東アジア

(10月4日 台北総統府でウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューを受ける蔡英文総統 【https://www.letscorp.net/archives/110925】)

改革を進めるも、内政の不手際もあって支持率に陰り
1月16日の総統選挙で圧勝(得票率56%)して5月20日台湾総統に就任した蔡英文氏ですが、その後の評価については厳しい見方もあると報じられています。

****蔡英文政権の支持率が50%割れと雪崩式の急降下、実務能力に疑念****
2016年9月27日、参考消息網によると、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の支持率が雪崩式に急降下し、50%を割り込んだ。

台湾民意基金会が実施した最新の世論調査によると、蔡英文政権の現状には満足との回答は49%と前月比7.6ポイント低下した。就任直後からは25.2ポイントの低下とまさに雪崩式の急降下だ。一方で不満との回答は43%に高まっている。

政治学者の施正鋒(シー・ジョンフォン)氏は「満漢全席のようなさまざまな公約を持っていたのに、実際に政権が誕生してから登場したのは前菜だけ。これでは市民は満足できない」と指摘。内政において大きな動きを見せられていないのが問題だと分析している。【9月28日 Record china】
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“就任直後からは25.2ポイントの低下とまさに雪崩式の急降下”とのことですが、別の就任直前の調査では“蔡氏の支持率は40%で、不支持が14%、46%が「意見なし」としている”(大手テレビ局TVBSが5月13日に公表)と、就任1カ月前の馬英九前総統の支持率52%より低い数字が出ていましたので【5月20日 産経より】、冒頭調査の就任直後の数字はやや高すぎるようにも思われます。

国民党と支持を二分する政治状況で49%の支持率があれば、そうそう悲観する数字でもないようにも思えますが、
5月当時TVBSは、派手な演出を避け、実務型の政権を目指して慎重姿勢をとってきた蔡氏に「少なくない人々が様子見の態度を取っている」と分析していました。この「様子見」の人々が否定的な評価に変わってきていることも推測されます。

“与党、民主進歩党寄りの自由時報も17日付の社説で「新政権のやり方は優柔不断か強引かのどちらかで、関係者全員が満足しない」と批判するなど、政権への風向きは変わりつつある。”【8月20日 産経】

****台湾の女性総統、早くも支持率に陰り****
蔡英文氏「100日で成否を判断してほしくない」 世論は「優柔不断か強引かのどちらか」と辛辣

(中略)就任演説で訴えた司法制度改革では、蔡氏が指名した司法院(最高裁判所に相当)の正副院長の人選に民進党の支持層からも批判が噴出し、指名された2人が14日に辞退した。

行政院(内閣)が18日に決定した来年度予算案では、公約した「国防費」の域内総生産(GDP)比3%は達成できなかった。中国に代わり東南アジア諸国に新市場を開拓する「新南向政策」の予算は、わずか約15億台湾元(約47億円)。うち10億台湾元が教育交流で、貿易や投資支援の予算はない。
 
蔡氏は会見で「考慮が足りず、結果が不十分なこともあったと認める」とした上で、「われわれは調整し、誠実に向き合い、変革する」と述べ、政権への支持を訴えた。【同上】
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9月には年金改革に反発する大規模デモが行われたことが報じられています。

****<台湾>年金改革に反発、大規模デモ 蔡政権発足後、初****
台湾の蔡英文政権が進めようとしている年金改革に反発する大規模デモが3日、台北市内であった。年金優遇策が失われると懸念する退職した軍人や公務員、教員らが中心となり総統府前で抗議した。参加者は約11万7000人(警察発表)に上った。蔡政権発足後、初の大規模デモとなった。
 
退役軍人や退職した公務員や教員は、年金支給額が一般労働者より高くなっている。蔡政権は6月、財政負担の軽減などを目的に改革に向けた年金改革委員会を発足させた。蔡総統は「年金制度は歳出が歳入を上回り、破綻の危機を生む可能性がある」と呼びかけ、改革に早期着手する必要性を強調している。
 
だがデモ隊側は「財政改革を先にやるべきだ」などと訴え、総統府前で声を上げた。軍人、公務員、教師は、野党に下野した国民党の支持基盤でもあり、デモには同党の洪秀柱主席ら幹部が多く参加した。【9月3日 毎日】
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この状況を、中国の人民日報海外版は、台湾市民の怒りが広がっていると指摘し、“政治闘争に明け暮れ、経済運営をおろそかにした結果だとこきおろした”【9月5日 Record china】とのことです。

【「92年コンセンサス」受入を求めて政権を揺さぶる中国
年金改革の他にも、中国人観光客激減に苦しむ観光業者らが史上初めてデモを行ったということも報じられていますが、こちらは内政というより対中関係という外交面の話でしょう。

****<台湾>中国人客減少で観光業者らデモ****
中国と距離を置く台湾・民進党の蔡英文政権発足後に中国人観光客が減少し、台湾観光業界が打撃を受けている。12日には観光業者ら1万人以上が台北市内でデモを行い、総統府前で「仕事が必要だ」などと救済を訴えた。
 
旅行会社や宿泊施設、観光バス、ガイドなど11団体がデモを実施した。台湾紙によると、観光業界のデモは史上初めて。
 
対中融和路線を進めた国民党の馬英九前政権は2008年に中国人観光客受け入れを解禁。急増を続け、昨年は約418万人に上り、海外からの観光客の約4割を占めた。観光地では中国人客増加を当て込んで、ホテルや土産物店など観光投資が進んだ。
 
しかし、蔡政権発足後の中台関係の停滞に伴い、中国人客は減少。中国が迫る「一つの中国」原則の受け入れを蔡政権が避けていることに対する中国側の圧力が背景にあるとみられている。
 
8月の中国人客数は前年同期比で4割減。蔡政権は、今年は前年比で約65万人減り、観光収入が360億台湾ドル(約1170億円)減ると予測する。

苦境を訴える観光業者に対し、政府は300億台湾ドル(約975億円)の低利融資や東南アジアなど中国以外からの観光客誘致促進といった対応策を示したが、業者は「観光客が増えなければ、借金が増すだけで、解決にならない」などと訴えた。【9月13日 毎日】
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中国からの観光客が減少した一方で、日本・韓国からの観光客は大幅に増加しており、一定に激減緩和にはなっているようです。

****8月の訪台観光客、中国からは前年比大幅減、日韓からは大幅増****
2016年9月20日、今年8月に台湾を訪れた中国人観光客が前年同月比で12万人近く減少する一方、日本と韓国からの訪台客は大幅に増加していることが分かった。

中国台湾網によると、台湾交通部観光局は20日、今年8月に台湾を訪れた中国人観光客は延べ24万8538人だったと発表した。前年同月の36万7736人からは、32.41%、11万9198人も減少している。

一方で、英BBCによると、日本と韓国からの訪台客は大幅な伸びをみせている。日本からの観光客は18万6866人で前年同月比30.32%増加し、韓国人客も7万7736人と同43.73%増えた。【9月22日 Record china】
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中台がともに「一つの中国」に属することを双方が認めたと中国側が解釈する「1992年コンセンサス」を蔡英文氏が認めていないことから、中国側は台湾への旅行客を絞る形で圧力をかけていると見られます。

****中国「国慶節」7連休も、台湾「日月潭」遊覧船客は8割減****
2016年10月2日、台湾を訪れる中国人観光客が減少傾向にある中、中国では1日から、建国記念日「国慶節」を祝う7連休が始まった。だが台湾最大の湖で人気観光地の「日月潭」の遊覧船客は昨年の2割に満たないという。中国新聞網が伝えた。(中略)

台湾観光局の関係者は、1日に台湾に入境した中国からのツアー客は4000人余りで、昨年の8000人余りから半分も減ったと話している。【10月3日 Record china】
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国際関係でも中国は“嫌がらせ”とも思えるような露骨な台湾への圧力を強めています。

****台湾を国際航空機関から締め出し、蔡総統「極めて不公平な待遇」 中国が圧力か「中国の一つの省に権利なし****
台湾の李大維外交部長(外相に相当)は(9月)23日、台北の外交部で記者会見し、27日にカナダで開幕する国際民間航空機関(ICAO)の総会への招待状が届いていないとして「強烈な遺憾と不満」を表明した。

外交部は日程上、23日を参加に向けた期限としており、不参加が確定したもようだ。台湾を中国の一部だとする「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権への中国の圧力とみられる。
 
蔡総統も同日、欧州議会委員らとの会談で、「台湾に対する極めて不公平な待遇だ」と不満を表明。対中政策を主管する行政院大陸委員会によると、8月に中国側にこの問題での協議を求めたが、拒否されたという。
 
総会は3年に1回開かれ、台湾は「一つの中国」を前提とする馬英九前政権下で2013年にゲスト参加。台湾の航空当局は「台北飛行情報区(FIR)」を管轄し、15年は延べ約153万機、約5800万人が通過・利用したという。
 
中国外務省の陸慷報道官は23日の定例記者会見で「台湾は中国の一つの省であって、主権国家が参加できる国際活動に参加する権利はない」と指摘した。【9月23日 産経】
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中国は、台湾の内政に手を突っ込んだ“分断工作”でも揺さぶりをかけています。

****中国が台湾の「分断工作」に着手 蔡英文政権に揺さぶりかける****
台湾で蔡英文政権が誕生して四ヵ月。中国側が蔡氏への揺さぶりをかけ始めた。
 
九月中旬、中国当局は台湾内の国民党籍もしくは政党無所属の人物が首長を務める台湾の八自治体を北京に招聘。今後、これら自治体のみと交流する意向を打ち出したのだ。

新政権誕生以降、中国当局は台湾への観光制限を実施しており、八月末には台湾の観光業者が大規模な抗議デモを起こすなど社会問題化している。
 
今回、新北市、金門県、台東県、花蓮県など八自治体は、中国国務院台湾事務弁公室の招請に応じる形で訪中団を組織し、張志軍・同弁公京王任ら中国側要人と会見した。席上、中国側とこれら自治体の問でハイテク関連交流や中国国内での特産品販売などで協力していくほか、旅行連携窓口を設置することで合意した。
 
会談後、張志軍弁公室主任は「これら、“九二年コンセンサス”に理解のある台湾の自治体に対しては、あえて他の(民進党系)自治体とは異なる“特別待遇”を行うつもりだ」と明確に発言した。

九二年コンセンサスは、「ひとつの中国」という原則について中台双方が合意したことを示す。これまでの台湾指導者は、ひとまずこのコンセンサスに言及してきた。
 
しかし、蔡氏は就任以来いまだにこれ長円及しておらず、今回の特定自治体優遇は、同氏への圧力とみられている。

蔡氏がいつまで持ちこたえるかが焦点となるが、中国側は十月十日(中華民国建国記念日)に言及すると期待している。【10月号「選択」】
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蔡英文総統「我々は圧力に屈服しない」】
ただ、こうした中国の圧力に対し、蔡氏側は当然ながら反発を強めています。

****中国の圧力に抵抗する」 台湾・蔡英文総統 与党結党30周年で****
台湾の蔡英文総統は29日、与党、民主進歩党の主席として、結党30周年を記念する党員向け書簡を発表し、「中国の圧力に抵抗し、その他の国との関係を発展させる」と述べた。

国際民間航空機関(ICAO)の総会に中国の圧力で参加できなかったことが念頭にあるとみられる。

蔡総統は5月の就任以降、中国当局への刺激を避けるため、「(台湾海峡の)対岸」と呼ぶなど、中国への名指し批判を避けてきた。民進党は28日に結党30年を迎えたが、台風17号の影響で、記念式典を中止していた。【9月29日 産経】
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“中国側は十月十日(中華民国建国記念日)に言及すると期待している。”とのことですが、今のところ中国の強圧的姿勢はむしろ逆効果ともなっています。

****台湾総統「中国の圧力に屈服せず」 米紙インタビューで****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は4日に受けた米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、中国が台湾の国際社会での活動を制限しようとしていることについて「我々は圧力に屈服しない」と語った。中国に対し強い姿勢に転じた形だ。
 
総統府が5日、やりとりを公表した。台湾は9月末にカナダで開かれた国連機関の総会に中国の反対で出席できなかった。蔡氏は「中国は以前のような圧力と分断の道に戻ったようだ」と指摘。「圧力で台湾人を屈服させることができると誤解しないよう望む」と語った。
 
蔡氏は一方で「(中台関係の)現状を維持するという約束は変わらない。かつてのような対抗の道に戻るつもりはない」とし、中国との対話を引き続き模索する考えも強調した。
 
中国は、中台がともに「一つの中国」に属することを双方が認めたと中国側が解釈する「1992年コンセンサス」の受け入れを、台湾との交流の前提条件としている。蔡政権はコンセンサスはないとの立場を取り、中国は蔡政権との高レベルの接触を断っている。
 
蔡氏は5月の就任あいさつで、92年の中台間の接触で「若干の共同認知と了解に達した。この歴史的事実を尊重する」と語った。同紙の取材では、この演説内容が「最大の善意であり、最大の柔軟性を示した」とし、これ以上は譲歩する考えがないことも示した。
 
台湾は、経済的には対中依存体質が強いが、中国人観光客が激減するなど観光業界からは悲鳴が上がる。蔡氏は中台の経済関係について「かつては補完性が高かったが、競争関係になってきた」と話し、中国依存を改め、東南アジアなどとの関係を強化する考えも示した。【10月5日 朝日】
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9月29日の党員向けの公開書簡に関し、中国側は「蔡氏が中国に強硬姿勢を見せているのは、日米の力を借りたいからだ。日米と同盟を結ぶことで両国を通し国際的な組織に認められ友好国を増やしたいと考えている」「蔡氏は中国への経済依存を払拭したいとしているが、現代において中国市場に依存しない国はどれだけ存在するのだろうか?。この考えは世界の潮流に逆らっている。蔡氏は台湾の独立を目指していると思われるが、非現実的な幻想だ」(上海台湾研究所の倪永傑(ニー・ヨンジエ)副所長)【10月3日 Record china】とも。

現代において中国市場に依存しない国が少ないのは指摘のとおりですが、そうであれば、もっと鷹揚に構えていれば自ずと関係国は中国との関係を重視する方向になるものを、力づくでなびかせようとする・・・このあたりが中国の「大国らしからぬ」度量の狭さです。

蔡氏も、いたずらに中国と対立するだけではなく、中国との対話を模索してはいるようです。

****APEC代表に宋楚瑜氏=中国首脳と会談か―台湾****
台湾総統府は5日、11月にペルーのリマで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の台湾代表として、野党・親民党の宋楚瑜主席(74)を派遣すると発表した。
 
宋氏は、国民党秘書長(幹事長)や台湾省長を務めたベテラン政治家。1月の台湾総統選挙にも出馬し、蔡英文総統に敗れた。中国湖南省生まれの外省人(中国出身者)で、中国指導部と太いパイプを持つ。
 
中国当局は「一つの中国」原則の受け入れを拒む台湾独立志向の蔡政権と公式対話を停止している。こうした中、宋氏が中国の習近平国家主席と会談するかどうかに注目が集まる。【10月5日 時事】 
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なお、日本との関係では、“蔡氏は、海洋問題をめぐる日台協力の初の枠組み「海洋協力対話」を月内にも開始する方針を明らかにした。日台間の摩擦要因となっている沖ノ鳥島(東京都小笠原村)の漁業資源についても議題とし、日本との海洋協力の推進に強い期待を示した。”【10月7日 読売】とも。
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