孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  国民投票で和平合意を否決 “民意に基づく民主主義”の難しさも

2016-10-03 22:45:48 | ラテンアメリカ

(国民投票が否決となり、肩を落とす和平合意の支持者ら=コロンビアの首都ボゴタで2日、AP【10月3日 毎日】)

ハンガリー・オルバン政権の国民投票は不成立
昨日2日は注目される国民投票が二つ行われ、その結果が判明しました。

ひとつはハンガリーの右派オルバン政権が主導する、EUの難民割当を拒否することを国民に問うもので、周知のように圧倒的多数が受け入れを拒否したものの、投票率が約43%と投票成立要件の50%を下回ったことで投票は無効となりました。

以前から国民投票では難民受け入れ拒否が多数を占めるであろうと言われていましたが、投票日が近づくと投票率が50%に届くかどうかが不透明とも言われていましたので、その意味ではある程度予測の範囲内の結果と言えます。

オルバン首相は「素晴らしい結果に達した。国民は(EUの難民政策を)否定した」と、国民から支持されたと強気の姿勢を崩していませんが、野党側からは、オルバン政権より更に過激な極右勢力も含めて、オルバン政権への批判が出ています。

****両陣営が「勝利」強調 ハンガリー難民受け入れ国民投票****
・・・・ただ、国民投票を「政権の人気浮揚策」と批判し棄権を訴えてきた野党も「勝利」を強調。野党第1党社会党のモルナル・ジュラ党首は記者会見で「国民は投票を控えることによって、オルバン氏への不信任を表明した」と話した。
 
議会第3党で、難民受け入れ反対や反移民政策でオルバン政権と協調する極右政党「ヨッビク」のボナ・ガボール党首も「成立しなかった国民投票はブリュッセルに対して何の意味も持たない」と批判。「これはオルバン氏個人の失敗だ」と話した。(後略)【10月3日 朝日】
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このあたりの話は、また別の機会に。

コロンビア 「誰も想像しなかった結果だ」】
もうひとつの国民投票、南米コロンビアでの政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」による和平合意の賛否を問う国民投票は、投票前の大方の予測に反し、僅差で否決されるという想定外の結果となっています。

****反対派「和平はゲリラの罪許すもの」 コロンビア****
南米コロンビアで2日、政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)が交わした和平合意の賛否を問う国民投票が行われ、開票の結果、「反対」が小差で「賛成」を上回った。

半世紀にわたる内戦の終結を目指し、政府が主導した和平交渉が、国民によって拒否された形だ。サントス大統領はゲリラとの交渉を続ける考えだが、今後の行方は不透明でプロセスが頓挫する可能性も出てきた。
 
選管当局によると、開票率99・98%の段階で、合意内容に「反対」は643万1376票で50・21%。「賛成」は637万7482票で49・78%だった。
 
サントス大統領は同日、テレビ放送で「反対派の意見を聴く」と説明。「停戦状態は今後も保たれる。最後の瞬間まで和平実現の道を探る」と語った。FARCのロンドニョ最高司令官も「我々は平和を求め続ける。武器ではなく言葉だけを使う」と述べたが、再交渉の道筋はみえていない。
 
サントス氏とロンドニョ氏は9月26日、内戦終結と平和構築の手順を定めた最終合意文書に署名。国民投票は、和平合意には国民が直接関与すべきだとして行われ、合意内容を支持するか否かが問われた。
 
FARC壊滅に注力してきたウリベ前大統領や内戦犠牲者の遺族らの一部は、「合意内容はゲリラの罪を許すものだ」として反対キャンペーンを大々的に展開。事前の世論調査では「賛成」が5〜6割で「反対」は3割台だったが、急速に支持が広がった。
 
地元テレビの開票速報は「誰も想像しなかった結果だ」と驚きを伝え、賛成派の事務所では人々が「我々は平和を望む」と声を合わせたり、抱き合って涙を流したりする姿が見られた。
 
合意文書はFARC側が武装解除し、国連に武器を引き渡すことや、虐殺や誘拐などの重大犯罪を裁く特別法廷の設置を明記。FARCの政党としての政治参加を保障し、罪を認めた元戦闘員には刑の減免や社会復帰の支援をすることも盛り込まれている。
 
1964年に結成されたFARCは中南米最大の反政府ゲリラで、52年にわたる内戦の死者は22万人。サントス政権はキューバなどの仲介で2012年から和平交渉を進めてきた。【10月3日 朝日】
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コロンビア政府とFARCは2012年から4年間、和平協議を重ね、サントス大統領とFARCのロンドニョ氏が9月26日、内戦に幕を下ろす和平の最終合意文書に署名しました。署名式典には国連の潘基文事務総長ら周辺各国の首脳も招待されました。

国民投票で承認されることは事前調査などを見てもほぼ間違いない・・・とのことで、今月7日に発表されるノーベル平和賞では、サントス大統領とロンドニョ氏が候補にも推薦されていました。(当然、平和賞の話はご破算です)

私も、6月23日ブログ“南米コロンビア 最大左翼ゲリラ組織との和平合意へ 半世紀に及ぶ紛争は終結へ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160623のように、和平に進むのだろうと考えていました。

根深いFARCへの恨み 「譲歩しすぎた」合意への不満
ただ、内戦では約22万人が死亡し、行方不明者も数万人にのぼる経緯から、テロや誘拐を繰り返してきたFARCへの嫌悪感を抱く国民らは、構成人数が6000人に満たない革命軍を政党として認め議会上院と下院に各5議席を無条件で与える項目や、特別法廷で罪を認めれば、服役に代わり最長8年の社会奉仕活動を行う、といった合意内容をめぐり、「譲歩しすぎだ」と批判していました。【10月3日 毎日より】

“国内避難民が多いのは、コロンビアの690万人、シリア(660万人)、イラク(440万人)、スーダン(320万人)、イエメン(250万人)、ナイジェリア(220万人)などとなっている”【6月20日 朝日】というように、南米・コロンビアはメディアによく取り上げられる内戦国以上に多くの国内避難民が発生している国です。

これはFARCだけでなく、その他の左翼ゲリラ組織、右派民兵組織、麻薬犯罪組織入り乱れての紛争・混乱の結果でもありますが、最大の原因のひとつがFARCにあります。
FARCとの内戦がもたらした“傷”は、「平和な国をつくっていこう」だけでは済まないものがあるようです。

恐らく、そうした根深い傷があるだけに、サントス大統領としても政治合意だけでなく、“国民の多数が支持した”という形をとりたいということで国民投票を設定したのでしょうが、裏目にでました。

下記は、投票前のそうした不満を伝えるものです。

****<コロンビア>和平合意、2日国民投票 実効性の疑問根強く****
南米コロンビアで政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が合意した和平協定への賛否を問う国民投票が2日、投開票される。賛成多数で承認され、協定が発効するのは確実な見通しだが、実効性を疑う世論は一部に根強く残っている。
 
「和平が結ばれても息子は私たちのもとへ帰ってこないんだ」「お父さんを返して!」
 
首都ボゴタ旧市街の広場で9月29日夕に開かれた反対集会。集まった約300人の多くが革命軍に親族を殺害、あるいは誘拐された被害者家族だ。代わる代わるマイクを握り、怒りと悲しみの混じった叫び声を上げた。
 
近くの公園では翌30日昼、賛成票を投じようと訴える集会があった。雨の中、大学生ら多くの若者が大音量で流れる音楽に合わせて一斉に跳びはね、踊っていた。まるで内戦の終わりを喜ぶ祝祭のようだ。反対集会の参加者が手に追悼のろうそくを持っていたのとは、あまりに対照的な光景だった。
 
最新の世論調査によると、国民投票に必ず行くと答えた有権者は37%。このうち62%が賛成票、38%が反対票を投じる意思を示す。今回、協定が承認されるための条件は賛成が反対を上回ったうえで、有権者の13%を超える票数を確保すること。承認は確実とみられている。
 
だが、国内の盛り上がりはいまひとつだ。政府と革命軍の内戦は50年以上続いたが、戦闘の舞台は山岳地帯に偏っていた。ボゴタなど大都市の市民にとって内戦はもはや差し迫った危機ではなく、和平によって社会が変わるという期待感は薄い。
 
ボゴタにあるリベルタドーレス大教授、ラファエル・モラ氏(63)は、10年前に次男(当時27歳)を革命軍の一味とみられる犯行グループに誘拐された。次男は行方不明のままだ。国民投票は棄権するという。革命軍兵士に与えられる恩赦に納得がいかないからだ。
 
協定によると、誘拐や殺人など非人道的な犯行を自供した革命軍の兵士は刑罰を軽減され、社会奉仕活動によって懲役を免除されることもある。内戦中の犯罪の真実を究明する目的のための恩赦だが、モラ氏は「革命軍兵士がばか正直に罪を告白するわけがない」と実効性を疑っている。
 
革命軍による誘拐被害者の家族会の責任者でもあるモラ氏は、依然として約500人が誘拐されたまま、行方不明だと指摘する。だが革命軍は政府と和平交渉に入る直前の2012年9月の時点で、革命軍が監禁している誘拐被害者は一人もいないと発表した。
 
和平が実現しても、革命軍が存在を否定した行方不明者が生還する可能性はゼロに近いと、モラ氏は覚悟している。「せめてどこに埋められたのか知りたい。遺骨だけでも取り戻したい」。被害者家族に共通する願いだ。【10月1日 毎日】
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FARCメンバーの“夢”も困難に
一方、FARCメンバーは、和平合意による将来への希望を語ていましたが、それも頓挫した形となっています。

****和平合意「変革の出発点」 コロンビア、ゲリラ野営地ルポ****
・・・・密林に潜むFARCの野営地では、和平への期待が広がっていた。(中略)

FARCのナンバー2とされるイバン・マルケス司令官(61)は20日、朝日新聞の単独会見に応じ、「和平合意は変革の出発点であって到達点ではない。今後は政治で戦う」と語った。
 
コロンビアでは、植民地時代の大土地所有制の名残で富裕層が広大な土地を所有する一方、土地を持たない農民が貧しい生活を強いられてきた。そうした状況は今もさほど変わらない。
 
マルケス氏は「我々が求めたのは、国民みなに例外なく民主主義が適用され、尊厳のある生活を送れる新しい国を築くことだ。土地を巡る不正義が、常に戦いの根底にあった」と主張した。署名される合意文書には、農地改革や、都市と農村の格差是正が含まれた。
 
一方で、FARCは活動資金の収入源として、薬物の密売や身代金誘拐を繰り返し、強く非難されてきた。2003年には誘拐された日本人駐在員が殺害される事件も起きた。戦いが長期化する中、弱体化が止まらないのも事実だった。今後は、政党として政治参加することが認められる。
 
野営地では、これまで禁止されていた親族の訪問が許されるようになった。
フロレンシアから来たアルヘニス・グティエレスさん(50)は、戦闘員のおいクリストバルさん(32)と15年ぶりに再会した。「会えると思っていなかった。夢のようだ」

■資格取得・子育て…未来に希望
戦闘員は未来を夢見る。
貧しい農村出身のビビアナ・ベナビデスさん(28)は、15歳でFARCに加わった。右ひじには被弾した深い傷痕が残る。「看護師の資格を取りたい。これからは銃を持たずに社会を変えたい」と目を輝かせる。「お金がなくて医者にかかれない人を助けたい」
 
エルネスト・ゴメスさん(22)は、同じように貧困層出身者が多い政府軍兵士と殺し合うことに苦しさを感じてきた。「私は学校にも通えなかった。教育学を学んで教師になりたい」
 
出産を控えた女性戦闘員もいた。タチアナさん(36)は12月に男児を出産予定だ。FARCでは、戦闘の邪魔になるとして子どもを育てることを認めてこなかった。生まれた子は、故郷の親類に預けられるなどしてきた。だがタチアナさんはおなかの子を自分で育てる決意をしている。「この子はきっと私より良い人生、違った時代を生きられる。そう願っている」【9月27日 朝日】
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なお、FARC戦闘員の実に45%が女性だそうです。

****密林でもおしゃれ コロンビア左翼ゲリラ、45%は女性****
・・・・かつて2万人以上を要したFARCの現在の勢力は7千人弱と推定されている。組織内に男女の仕事の差はなく、炊事や掃除、力仕事も平等に分担しているという。広報担当の女性戦闘員、アレハンドラ・モラレスさん(36)は「世界の人間の半分は女性。社会を変えたいと思うならば、同じ割合の女性がゲリラ内にいて当然だ」と説明した。
 
密林にこもる生活を続けながら、戦闘服の下に色とりどりのシャツを身につけ、ネックレスやイヤリングも付けていた。化粧やマニキュアもしていた。
 
社会主義を標榜(ひょうぼう)するFARCが敵視してきたはずの米国風のデザインのほか、英単語や有名ブランドの名をプリントした服を着た女性も多かった。ゲリラ内に、服装を巡る禁止事項は特にないのだという。
 
FARCで16年間戦ってきたという女性戦闘員のパトリシア・バルガスさん(34)は「女性なら、自分をきれいに見せたいのは当たり前。ゲリラであることと女性であることは、全く別次元の問題でしょう」と話した。【9月28日 朝日】
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【“民意に基づく民主主義”がはらむ困難さ
今後については、“政府と革命軍は投票結果判明後、和平協議を続ける姿勢を示したが、和平を推し進めてきたサントス大統領が2018年の任期満了や大統領選で敗れて退陣した場合、次期政権が交渉を打ち切る可能性もある。次期政権が対革命軍に強硬な姿勢で臨めば、和平交渉の棚上げは避けられない。サントス大統領が任期切れまでに新たな合意に向けた一手を打てるかどうかが、今後の焦点になりそうだ。”【10月3日 毎日】とのことですが、いったん合意した内容を変更するのは現実問題としては困難とも思われます。

FARC内部にも和平へ不満を持つ分子もいるでしょうから、そうした勢力がテロなどに走れば、国民世論は更に硬化し和平も遠のく・・・という可能性も。

今回投票結果は民意の表明と言えばそれまでですが、国民感情はとかく怒り・恨み・不安といったネガティブな方向に強く引きずられます。

欧州で台頭する反難民・移民の排外的右翼勢力、山ほどの失言・スキャンダルにもかかわらず(あるいは、そうした型破りな言動ゆえに)支持率が落ちないアメリカのトランプ候補なども、そうした国民のネガティブな感情を代弁するものでしょう。

一部の政治エリートの意見が国民に受け入れられにくなった・・・と言うか、そうした政治エリートが嫌悪される風潮が強まった今日、また、“寛容”“平和・協調”“人権”といった普遍的と思われていた価値観への批判を口にすることがオープンになり、そうした批判が“真実を突いたもの”としてもてはやされる状況にもなった今日、“民意に基づく民主主義”の在り様も非常に難しいものになっています。

おそらく日本や中国・韓国でその関係につい国民投票を行えば、ネガティブな結果が出ると思われますが、政治はそうした国民が抱える不満・不安などを単に代弁するだけでいいのか?という疑問も。

逆に、国民は十分に理解していないと軽視する方向に流れると、タイの軍事政権のように選挙結果・民主主義を否定・制限することにもなってしまいます。

バランスが肝要ですが、何事につけバランスを保つことは困難です。声高に極論をまくしたてることは容易ですが。
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