孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「一人っ子政策」廃止後の人口動態 政策変更に伴う出産年齢上昇と“失独者”補償問題

2016-10-02 22:27:00 | 中国

(浙江大学医学院附属産婦人科病院で6月、娘を30歳で亡くし、生殖補助医療の助けで妊娠した61歳の女性が無事男児を出産したそうです。【7月7日 Record china】)

今年上半期の出生人口は、前年同期比で6.9%上昇 政府予測達成は困難との見方も
日本同様に少子高齢化に直面する中国が「一人っ子政策」を止めたことで、当局の思惑どおりに労働人口確保などができるかどうかについては、3月11日ブログ“中国 一人っ子政策撤廃 当局の思惑どおりには増えない出生数にあの手この手も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160311でも取り上げました。

政策変更による出生数増加に関する当局側の公式見解は以下のように。

****中国、二人っ子推進で新生児年300万人増の見通し****
中国で大きな論争を巻き起こしてきた「一人っ子政策」が廃止され、すべての夫婦に2人まで子どもが認められるようになったことを受けて、新生児の数がこれまでよりも年間およそ300万人増える見通しだと、当局が10日、発表した。
 
中国共産党は先月開かれた党の重要会議の閉幕後に同政策の廃止を発表。国家衛生計画出産委員会の王培安副主任は、同政策が廃止されたことにより、あらたに9000万人が第2子をもうけることができるようになると述べた。
 
さらに同氏は、今後5年間で毎年300万人の新生児が増えることで、労働力人口は2050年までに3000万人増加するとの予測も発表した。
 
だが、あらたに第2子をもうけることができるようになった女性のうち半数は40代で、再度出産する意欲があるか、妊娠が可能かどうかは別の話となる。王氏は、2人目の子どもを持つことに「気が進まない」人や、欲しいと思っても「出産できない」人もいる可能性があると述べた。
 
約13億7000万人という世界最大の人口を抱える中国は過去数十年にわたり、「一人っ子政策」を厳しく時に無慈悲なまでに徹底させてきたことにより、高齢化が急速に進み、労働力人口は減り、経済成長の停滞という問題に拍車をかけてきた。【11月10日 AFP】
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「一人っ子政策」廃止で、人口増加のピークは2年ほど遅れて2029年となり、人口は14億5000万人になる見通しだとも。また、その後、人は減少に転じるものの、労働力は、2050年までに新たに3000万人増加するほか、全人口に占める60歳以上の人の割合が、一人っ子政策を継続する場合と比べて2ポイント減少すると推計されています。

しかし、子育て費用などを理由に2人目をためらう夫婦が多いなど、当局側の推計ほどは出産数は増えないのではないかという指摘や、「一人っ子政策」の弊害として生じた膨大な人数の無戸籍者の存在なども前回ブログではとりあげました。

8月には、当局側の推計を裏付けるように、“産婦人科の診察待ちの行列ができている”との報道もありました。

****中国の一人っ子政策廃止、今後5年で新生児1500万人増か****
2016年8月6日、英タブロイド紙デイリー・メールによると、中国の「一人っ子政策」廃止により、今後5年で子供の出生数は約1500万人増え、新生児関連消費は年間約500億元(約7642億円)増加する見通しだ。参考消息網が伝えた。

中国メディアによると、今後5年間に中国では「2人目出産ブーム」が訪れる見通し。広東省深セン市に在住で2人目を出産予定の女性によると、市内の病院はいずれも産婦人科の診察待ちの行列ができており「夫婦そろって並ばなければならない。必要な検査を受けるだけで1日がかりになる」とこぼす。診察には3〜4カ月前から予約しなければならないという。

アモイや桂林では産婦人科医不足が深刻化。アモイのある産院では、昨年1日に最大900人近い妊婦を診察。今年になって急増し、1日1000〜1200人診察することもあるという。中国当局によると、今後5年間で年間約300万人の新生児が増える見通しだ。【8月8日 Record china】
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実際のところはどうなのか・・・今後の推移を見守るしかないところですが、当局側は、今年上半期の出生人口は、前年同期比で6.9%上昇したとして、予測に基本的には合致した動きとなっていると説明しています。

しかし、依然として懐疑的な見方も。比較対象の足元2015年実績が100万人増加予測に対し、32万人減少の結果となっています。

****一人っ子政策”の完全撤廃から半年、中国の出生人口はいま*****
2016年10月1日、“一人っ子政策”が完全に廃止されてから半年、中国の出生人口にどのような変化が現れたのだろうか。

中国共産党は昨年10月の第18期中央委員会第5回全体会議で、人口抑制のためのいわゆる“一人っ子政策”を完全に廃止することを決め、各地で段階的に実施されてきた。

財新網によると、国家衛生・計画出産委員会がこのほど公表したデータで、中国の今年上半期の出生人口は、前年同期比で6.9%上昇したことがわかった。このうち、第2子の割合は40%だった。

同委員会の王培安(ワン・ペイアン)副主任は、“二人っ子政策”の実施が安定していると強調し、実際の状況と事前の予測は基本的に合致しているとした。

しかし、人口問題に詳しい米ホプキンス大学の黄文政(ホアン・ウェンジョン)教授は、「出生人口がわずかしか増加しなかったことは、“二人っ子政策”の今後の効果を高く見積もってはならないことを証明している」と指摘。「2017年の出生人口が、政府が予測する2000万人を超えることはかなり難しい」としている。

国家衛生・計画出産委員会は2015年の出生人口が2014年比で100万人増加すると予想していたが、ふたを開けてみれば1655万人と増加するどころかむしろ32万人減少した。黄教授はこの原因について、「出産適齢女性の減少」と「女性の出産意欲の低下」の2つを挙げた。これがまさに“二人っ子政策”を楽観視できない要因になっているという。

黄教授はまた、「同委員会は出生人口全体に占める第2子の割合が40%であったとしているが、第1子の状況については何も説明していない」とも指摘する。2010年に行われた第6回の人口調査では、中国の出生率は1.18とされた。同委員会はこの数字を認めておらず、実際は1.5〜1.8であると主張しているが、中国が低出生率に足を踏み入れたことは争いようのない事実である。

9月中旬に湖北省宜昌市の市政府は、全党員、共産党青年団員、各レベルの幹部に“二人っ子政策”の着実な実施を求める通達を出した。これは、市政府と中南財経政法大学が共同で行った調査で、同市の出生率が0.9と著しく低いことが判明したためだ。正常な出生率は2.1とされており、仮に今後も0.9ないしさらに下がれば、今後25〜30年の間に同市の人口は60%ほど減少することになる。この調査結果は、中国全体への警告でもあるのだ。

王副主任は、出産適齢期を迎えた夫婦の出産への意欲を高めるため、託児所などの関連施設の拡充のほか、教育、社会保障、税金、住宅など、さまざまな政策を展開していくとしているが、西安交通大学の姜全保(ジアン・チュエンバオ)教授は、「現在の出生率の低さからすると、政府がどんなに投資しても人口減少の流れは止められない」としており、中国経済の発展にはさらなる人口政策の緩和が必要であるとの見方を示している。【10月2日 Record china】
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出産年齢上昇で生殖補助医療の需要増加 妊産婦の出産リスクも
“一人っ子”だろうが“二人っ子”だろうが、国が子供の数を制限するのは余計なお世話だ・・・という感もありますが、それはともかく、また、政策変更でどれだけ増えるかもともかく、「一人っ子政策」の廃止で第2子を考える人が増えたのは事実です。ただ、それに伴い、いわゆる“高齢出産”(いつ産もうが勝手だ・・・と怒られるかもしれませんが)の問題も生じているようです。

****一人っ子政策廃止で人工授精・体外受精の需要急増、医療機関の負担に****
2016年5月31日、一人っ子政策の廃止で第2子を考える人が増えたが、出産の適齢を過ぎた女性は人工授精や体外受精に目を向け需要が急増し、関連の医療機関の負担となっている。環球時報(電子版)が伝えた。

米華字紙・世界日報によると、中国でこうした生殖補助医療の需要が増えていることは、多くの人が第2子を待ち望んでいたことやかつてデリケートな話題だった人工授精や体外受精が普遍的な存在となった現状を反映している。

北京市で生殖補助医療を提供する医療機関責任者は、「一人っ子政策廃止後、患者は20%増加した。これまで患者の多くは30代だったが、今では40歳以上が大多数。彼女らは子どもを授かりたいと強く願っているが、年齢の関係で非常に難しい。まさに時間との勝負なのだ」と語っている。

中国衛生部門のデータによると、2014年は約70万人の女性が生殖補助医療を受けており、中国全体では約10%の夫婦が生殖補助医療を利用しないと子どもを授かることができないという。

一人っ子政策の廃止により50年には労働人口が3000万人増加するとみられているが、生殖補助医療の需要増加は、各都市の有名な医療機関の大きな負担となっている。【6月3日 Record china】
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娘が30歳で病死した61歳の女性が、生殖補助医療の助けで妊娠し、無事出産した事例も報じられています。
しかし、出産年齢が高くなったことも影響して、妊産婦の死亡率が急増する現象も出ているようです。

****妊産婦の死亡率が30%増加、政府の一人っ子政策廃止で高齢出産****
2016年9月29日、財新網によると、中国で妊産婦の死亡率が急増している。2016年上半期における中国国内の妊産婦死亡率は前年同期比で30.6%増えた。

死亡率の急増は、中国政府が人口抑制策「一人っ子政策」を廃止し、2人目の出産が解禁されたことと無関係ではないとみられている。

政策の変更で、2人目を出産しようとする夫婦が増加しているが、医師からは、政策変更で産婦人科の需要が急激に高まったことに加え、「出産に適した年齢を大幅に超えた高齢出産は健康リスクが高い」との声も出ている。

中国国家衛生・計画出産委員会は27日、専門会議を開き、出産に関連する課題や問題について話し合った。第13次5カ年計画(2016〜2020年)期間中に、新たに産婦人科のベッド8万9000床、看護師と助産師を14万人増やすことが提案された。

しかし、政府の対応が遅すぎるとの声もある。政府の対策は設備投資も人材育成も時間がかかる。今後も出産数は増え、普通分娩では対応できないケースが増加すると見込まれており、医療施設不足が早急に解消されなければ、帝王切開の増加でもたらされるデメリットもいっそう懸念されることになると関係者は指摘している。【10月2日 Record china】
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妊産婦死亡率が前年同期比で30.6%増加するというのは、尋常ならざる話です。日本なら大きな社会問題となるところでしょう。医療機関側の対応ができていないという理由があるなら、なおさらです。

政策変更で表面化する「失独者」の不満
一方、出産ができない年齢になった者には、政策変更への不満もあるようです。
社会保障制度が不十分な中国にあっては、子供には両親の老後のケアが期待されています。「一人っ子政策」によって一人しかいなかった子供が死亡した場合、その「老後のケア」を失うことにもなります。

****一人っ子政策に子を失った親たちが抗議 北京に約1千人****
一人っ子政策を続けてきた中国で、唯一の子を事故や病気などで失った親ら1千人前後が(4月)18日、北京に集まり、政府に暮らしと老後のケアを訴える騒ぎがあった。中国は今年、二人っ子の時代に入ったが、「政策の犠牲になった者の存在を忘れるな」と訴えた。
 
北京の警備が年々厳しさを増す中、1千人規模の抗議活動は異例だ。
 
政府の国家衛生・計画出産委員会のビルの前で、中国各地から集まった人々が「失独者(一人っ子を失った親)」とかかれた白い帽子をかぶって「政府のサポートが足りない」と抗議。警官隊が駆けつけて十数台のバスを並べ、抗議の様子を市民の目から遮断した。
 
湖南省から来た建築業男性(54)は2年前に26歳の長男を心臓病で失った。「政府は、一人っ子政策に従えば暮らしは安定すると説明してきた。その言葉を信じた我々の老後を守る責任があるはずだ」と憤る。
 
親たちは「地元政府に訴えても、中央の指示がないとの理由で聞き流されている」と口をそろえる。1月の「二人っ子」解禁で、「早く政策転換されていれば」との思いも強い。抗議は1カ月余り前にネットで呼びかけられたという。【4月19日 朝日】
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事情は切実ですが、子供を「老後のケア」を担う存在としてあからさまに主張されると、個人的にはややたじろぐ感もあります。

社会的介護サービスが整備されていない状況で、両親の介護を当然のように期待される“一人っ子”も大変そうです。
“一人っ子”を失った“失独者”に対する補償は自治体によって異なりますが、あまり補償レベルは高くないのが現実です。

****中国「一人っ子政策」の副作用か 子を失った「失独者」の介護問題****
人口抑制のために導入され、昨年10月末に撤廃されるまで「一人っ子政策」が約36年続いた中国で、「失独者(失独家庭ともいわれる)」の介護が社会問題となっている。
 
失独者とは、病気や事故で一人しかいない子どもを失ったり、重度の障害などで働くことができない成人の子を持つ高齢の親を意味する。子が老いた親の面倒を見る風潮が根強い中国では、子を失うことは親の介護問題に直結する。
 
中国・衛生部(厚生労働省に相当)によると、子を失った高齢世帯は2010年時点で既に100万世帯を超えていた。加えて、中国の民間団体の調査では、失独家庭は毎年7万世帯以上のペースで増えているという。昨年5月と今年4月に千人単位の失独者が衛生部に押し寄せ、法的な補償を求めて陳情した。
 
ただし、失独者に対する補償は自治体で異なる。毎月数千元を支給したり、一回限りの給付金として10万元(約150万円)を支給する自治体がある一方、多くの自治体は給付額として最低レベルの月340元(約5000円)しか支給していないという。
 
日本と同様に中国社会の高齢化問題は待ったなしだ。
人力資源社会保障部の発表では、中国の60歳以上人口は14年時点で約2億1000万人で総人口(約13億7400万人)の約15%。人口の21%以上を60歳以上が占める超高齢社会に突入するのは2035年ごろと予測されている。
 
こうした中、中国初となる失独者専用の介護施設の設置が決まった。北京市第五社会福利院はこのほど、初回の入居者として10人を受け入れることになった。年齢は最高が81歳、最低が71歳。10人のうち6人が夫婦だ。

北京市が失独者専用の介護施設を開いたのは、失独者の多くが子どものいる高齢者との同居を望まないことに配慮したためだ。
 
同福利院は今後、子どものいる高齢者を受け入れず、失独者専用の介護施設になる見通しだ。【9月18日号 サンデー毎日】
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コメント
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