孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  オバマ大統領の改革 移民制度改正は“頓挫” 銃規制は未だ進まず

2016-06-24 22:58:59 | アメリカ

【6月23日 AFP】

移民制度改革に関する下級審の差し止め判断を最高裁は覆さず
オバマ大統領は共和党の反対で移民制度改革をめぐる法案審議が進まないことにいら立ちを募らせ、2014年11月に、アメリカ国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ両親の強制送還を免除する政策(DAPA)を柱とする移民政策を打ち出しましたが、共和党知事の州など26州が大統領権限を逸脱しているなどとして差し止めを求めて提訴する状況にありました。

****強制送還しないで」声上げる不法移民 490万人が対象、オバマ氏の移民政策転換・・・・6月に最高裁判断****
米国内に1100万人いるとされる不法移民やその家族が本国への強制送還の免除を求める声を上げている。

オバマ大統領は2014年に約490万人の不法移民が対象となる強制送還免除政策を発表したが、不法移民への厳しい対応を求める共和党が反発。その後の司法判断で差し止められた状態が続いているからだ。

連邦最高裁は6月にオバマ氏の政策の是非を判断する。不法移民への対応は米大統領選の争点になっており、論戦は今後、熱を帯びてきそうだ。
 
「私の母は家族のために3つの仕事を掛け持ちして夜通し働いている。オバマ大統領の政策で私たち家族の未来は明るくなる」
 
ワシントン市の最高裁前で18日に開かれた集会で、メリーランド州の高校生ヨハレ・エンドーサさんは涙ぐみながら不法移民の母親の強制送還免除を訴えた。
 
オバマ氏が14年11月に打ち出した移民政策は、米国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ両親の強制送還を免除する政策(DAPA)が柱だ。(中略)
 
米国では、不法移民の子供でも米国内で生まれていれば米国籍が与えられている。DAPAはこうした子供をもつ不法移民に滞在を認め、合法的な就労を促すことが狙いだ。安い賃金で働く不法移民が合法的に働けるようになれば、生活水準の向上につながると期待されている。
 
しかし、テキサス州の連邦地裁は昨年2月、DAPAが大統領の権限を逸脱しているとする26州の主張を踏まえ、DAPAの差し止めを命令。

26州は不法移民への強硬姿勢をとる共和党が知事を確保している州がほとんどだ。判決は高裁でも支持されており、上告を受けた最高裁は4月18日に双方の意見を聞き、6月中に判断を下すとみられる。
 
不法移民への対応は司法の場だけでなく、大統領選に向けた選挙戦でも論争になっている。

民主党での候補者指名が有力なヒラリー・クリントン前国務長官は不法移民の市民権獲得に道を開くと主張。2月の政治広告では、不法移民の両親が強制送還されるかもしれないと不安を訴える少女を抱き寄せ、涙ぐみながら「あなたが心配せずに済むためにあらゆる方法をとる」と語りかけた。
 
しかし、共和党の候補者選びでトップを走るドナルド・トランプ氏は「移民は歓迎するが、合法的に入国せねばならない」として、不法移民の強制送還を徹底させる方針を打ち出す。不法移民は治安の悪化や、米国民との仕事の奪い合いをもたらしているとの見方は根強く、不法移民への反感は収まっていない。【3月20日 産経】
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アメリカでは重要な政策決定が司法の場に持ち込まれ、最高裁判断で決着することがしばしばあります。
“最高裁の近年の判決では、医療保険制度改革(オバマケア)の合法性や同性婚を認めるなどリベラル派の流れに傾斜している。”【3月17日 毎日】とも。

従って、アメリカ大統領の最重要任務のひとつが、任期中に自派の主張に近い最高裁判事を任命することだとされています。

おりしも今年2月、最高裁判事の一人が死亡したことで、後任をどうするかが極めて政治的重要課題となり、リベラルな施策にも理解があると言われる判事指名を発表したオバマ大統領と、これに反発する議会多数派の共和党の綱引き状態となりました。

****オバマ氏、最高裁判事を指名 共和党、審理しない方針****
オバマ米大統領は16日に会見し、空席の米連邦最高裁判事にメリック・ガーランド連邦控訴裁判事(63)を指名すると発表した。

就任には上院の承認が必要だが、多数を占める共和党のマコネル院内総務は同日「国民の声を反映させるべきだ」と、次の大統領が就任するまでは審理をしない方針を改めて表明した。秋の大統領選に向けて、争点の一つとなるのは確実だ。
 
ガーランド氏は米司法省でテロ事件の捜査などを手がけた後、1997年にクリントン元大統領から指名されてワシントン地区の控訴裁判事に就任した。2013年から同控訴裁の長官も務めている。

オバマ氏は会見で「両党の幹部が敬意を示してきた」と語った。中道の立場を取ることが多く、法曹関係者の評価も高いベテラン判事の指名で、共和党に揺さぶりをかける狙いもあるとみられる。
 
最高裁は9人の判事で構成され、重要訴訟が5対4で決まることも多い。保守派判事が2月に急死したことで空席が生じており、リベラルな判事が就けば将来にわたって影響が大きい。【3月17日 朝日】
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オバマ大統領の移民政策の差し止め訴訟については、連邦地裁は15年2月、この訴えを認めて大統領令の執行差し止めを命じています。連邦高裁もこの判決を維持したため、オバマ政権は最高裁に上告していました。

最高裁は本来9人構成ですが、上記のような大統領と共和党の対立で後任は空席のままになっています。
現在の8人の判事はリベラル派4人、保守派4人ということで、最高裁で判事の判断が同数となった場合は、下級審の判断が維持されることから、移民政策についても最高裁判断が4対4で割れ、結局、連邦高裁の差し止め判断が維持されることになるのでは・・・ということが3月当時から言われていました。

そうした事態を防ぐため、オバマ政権側が何らかの対策をとるのか・・・とも注目されていましたが、結局、その後も特段の動きはなく、3月当時に予想されたような事態となっています。

今後については、次期大統領選挙の結果に持ち越される形にもなっています。

****オバマ氏の移民制度改革が頓挫 最高裁、判断示さず 無効の高裁判決維持****
米連邦最高裁判所は23日、オバマ大統領が2014年11月に打ち出した不法移民の強制送還免除を進める政策の有効性について、8人の判事の判断が4対4で分かれたと公表した。最高裁として判断は下さず、政策を無効とした連邦高裁の判断が維持された。

有効とされれば、米国内に約1100万人いるとされる不法移民のうち約490万人に合法滞在が認められる可能性があったが、オバマ氏の改革が頓挫した形だ。
 
最高裁では2月のスカリア判事の急死で欠員1人が生じている。最高裁は賛否が同数だったため、判断の詳細を公表していない。
 
オバマ氏は14年11月、米国籍を持つ子供がいるといった条件を満たした不法移民の強制送還を免除する政策「DAPA」を発表。同時に、15歳以下で入国した不法移民の強制送還を免除する12年発表の政策「DACA」についても、入国時期に関する条件を緩和するなどとしていた。
 
しかしテキサス州など26州は同年12月、DAPAなどが大統領の権限を逸脱している−などとして提訴。オバマ氏の改革は差し止め状態が続いていた。
 
不法移民をめぐっては11月の大統領選に向け、共和党の候補者指名を確実にした不動産王のドナルド・トランプ氏が強硬な立場を強調。一方、民主党での候補者指名を確定させたヒラリー・クリントン前国務長官は寛容な姿勢を打ち出しており、本選に向けて争点となりそうだ。【6月24日 産経】
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これを受けオバマ大統領は記者会見し、最高裁の審理の結果を「数百万人の移民の心を引き裂くものだ」と批判。その上で、移民制度改革を立法を通じて進めるよう改めて共和党に呼び掛けています。

民主党のクリントン氏は「判決は受け入れられない」としたうえで、当選すればオバマ氏の改革を維持し、拡大すると表明していますので、オバマ大統領としても現段階では無理をせず、次期“クリントン大統領”に移民制度改革を委ねたというところでしょうか。あるいは、ヒスパニック系の怒りを大統領選挙に集約しようという狙いでしょうか。あるいは、単にどうすることもできなかったのか。

銃規制に向けた動きはあるものの、なお与野党の溝はうまらず 議会での座り込みも
オバマ大統領がこだわっている政策のもう一つが銃規制です。
繰り返される乱射事件のたびに銃規制の必要性を訴えてきていますが、これも共和党の反対が強く実現していません。

銃乱射事件が起きると、人々は銃を求めて銃砲店に走る・・・というのが、アメリカの現実です。
フロリダ州オーランドの乱射事件後、近くの銃砲店では売り上げは2〜3倍に増えたとのことです。

****乱射テロ後に銃の販売急増、危機感持ち護身用に****
米史上最悪の銃乱射テロが起きた米南部フロリダ州で、銃の販売が急増している。
危機感を持った多くの住民が護身用に購入しているためで、銃規制の難しさを浮き彫りにしている。
 
乱射事件を起こしたオマル・マティーン容疑者(29)は、拳銃や半自動小銃を合法的に購入していた。

オバマ大統領は銃規制の強化を改めて訴えているが、銃規制の緩いフロリダ州では規制強化に慎重な市民が多い。主要道路には銃砲店の看板が立ち並び、射撃場は射撃の練習をする家族連れなどでごった返す。
 
オーランド郊外の銃砲店を訪れたニコエイ・シュレイさん(32)は事件後、妻と7か月の娘を守るため、初めて銃を購入することを決めた。「誰でも買える仕組みは良くないが、周りは皆、銃を持っているのが現実だ」と話す。【6月19日 読売】
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ただ今回はさすがに、殺傷力が高い銃をFBIがマークしているような人物が購入できるというのはいかがなものか・・・という世論の高まりがあり、共和党サイドにもあって、銃規制に向けた動きも報じられていました。

****<米乱射1週間>銃規制、世論高まる 共和党は妥協点探る****
フロリダ州オーランドで起きた乱射テロ事件で、オマル・マティーン容疑者(29)は殺傷力の高い銃を合法的に購入していた。

事件後、米国では銃規制の世論が高まっており、上院は20日、民主、共和両党がそれぞれ提案した規制法案を採決する見通し。ただ、実現にはまだ時間がかかりそうだ。
 
当初、犯行に使われたのは半自動小銃「AR15」と報じられたが、ワシントン・ポスト紙などによると、米軍特殊部隊向け銃を民間仕様にした「MCX」だった。
 
今回の事件後に実施されたロイター通信の世論調査(13〜16日)では、71%が緩やかな銃規制に賛成した。2014年の調査では60%だった。
 
米政府の調査では、昨年、銃を買おうとしたテロの監視対象者のうち、9割を超える223人が購入を認められていた。このため、民主、共和両党の銃規制法案の柱もテロリストの疑いがある人物への銃販売の制限だ。
 
民主党案は、銃や爆発物の販売を全面的に禁止。一方、共和党案は、捜査機関が3日以内にテロリストだと証明できた場合に限定する。共和党は長年、規制に反対してきたが、妥協点を探る動きが出ているといえる。【6月19日 毎日】
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しかし、今回も共和党側との溝は埋められず、銃規制法案の採決は見送られています。

****銃規制法案、米上院で採決に進まず 乱射事件後も両党対立****
米上院は20日、フロリダ州オーランドのナイトクラブで起きた銃乱射事件を受けて民主・共和両党が提出した4つの銃規制強化法案について、採決に必要な動議を否決した。

法案は、テロリストの疑いがある人物への銃販売を制限することが柱で、民主党案は連邦政府が監視リストに載っている人物への銃販売を禁止するなどの内容。これに対して共和党案は、販売禁止には3日以内に裁判所の承認が必要とするなどとした。

共和党と同党を支援する全米ライフル協会(NRA)は、民主党案による規制は行き過ぎで、憲法が保障する銃保有の権利が侵害されると主張。民主党側は、共和党提出の2案では効力が弱すぎるとし、NRAに隷属していると批判した。

上院内にはなお、今週中に妥協案をまとめようとする動きもあるが、実現は不透明な状況だ。【6月21日 ロイター】
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これに反発した民主党議員が議場に座り込むという異例の事態ともなりました。

****議会を占拠せよ!」 米民主党議員、銃規制の採決求め座り込み****
米議会下院で22日、民主党議員が銃規制法案の採決を求めて座り込みを行った。議員による議場内での座り込みはまれ。

議長が休会を宣言しようとした直前、数十人の民主党議員が議長席前になだれ込み、床のカーペットに座り込んだ。著名な公民権活動家で、1960年代にマーティン・ルーサー・キング牧師が率いる行進に参加した経験も持つジョン・ルイス議員は「行動を起こすまでわれわれは下院を占拠する」と語った。
 
フロリダ州オーランドの同性愛者向けナイトクラブで起きた銃乱射事件を受けて、米上院では20日、銃犯罪の減少を目的とした4法案の採決が行われたが、全て否決された。両院とも共和党が多数派を握っている。
 
座り込みは米政治専門ケーブルテレビCSPANの生中継に起きた。【6月23日 AFP】
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結局“座り込み”は議会休会によって終了しましたが、議論はまだ続くとも報じられています。

****銃規制めぐり怒りのサボタージュ、米議会下院の法案否決で民主党議員座り込み****
・・・・民主党議員は、共和党のポール・ライアン下院議長が議事を進行しようとすると、「No bill, no break! (法案を審議しなければ、座り込みは終わらない!)」と声を上げ、銃乱射事件で犠牲となった人たちの名前が書かれた紙をライアンに見せて抗議した。また公民権運動でよく歌われた「We Shall Overcome(勝利を我らに)」を歌う一幕もあった。

座り込みは約26時間に渡って続いたが、23日早朝になって下院が休会となったため終了した。米議会では先週、上院でもコネティカット州選出のクリス・マーフィー議員(民主党)が2012年に同州のサンディフック小学校で発生した銃乱射事件に関連して15時間質問を続ける「議事妨害」を行っている。

銃販売の際の経歴チェックを強化することなどを盛り込んだ民主党提案の規制強化法案は、上下院ともに否決されている。

しかし下院では、新たに超党派議員によって、テロリストの疑いのある人物への銃販売を禁止する別の法案を提出する動きもある。

フロリダの事件を受けて、銃規制の強化が必要だという意見は共和党主流派の議員からも出ていることから、米議会での議論は今後も続くものと見られる。【6月24日 Newsweek】
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ここまで移民政策の改正や銃規制の推進を支持する立場で、それらの動きが“頓挫”したり、“迷走”したりしていることを書いてきましたが、反対している共和党は民意を受けて議会に多数派として存在していますので、改革や規制が進まないのは民主主義の結果でもあり、とやかく言う方が民意を無視しているのかも。

今日示されたイギリスのEU離脱も。日本にあっては、改憲の動きも。意に沿わない“民主主義の結果”を受け入れるというのは、なかなか難しいものですが、少なくとも異議申し立ての権利はあります。
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