孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  底なしのテメル暫定政権の不正・汚職疑惑 ルセフ大統領復権も 国民は新たな選挙を望む

2016-06-17 21:33:21 | ラテンアメリカ

(「テメル出て行け MTST」と書かれた大統領府聖市事務所 MTSTとは「ホームレス労働者運動」のことで、低所得者向けに安価な住宅を低金利で提供する持ち家政策をテメル暫定政権が財政再建のために中止しようとしたことへの抗議行動です。
不人気なテメル暫定政権では国民の痛みを伴う改革は難しいでしょう。さりとて、ルセフ大統領の“バラマキ”ではブラジル経済・財政の再建は困難です。 写真は【6月3日 ブラジル・ニッケイ新聞】)

1か月で3人の閣僚辞任 大統領代行自身への疑惑も
8月5日開幕のリオ五輪が迫るブラジルのルセフ大統領が、再選を目指していた2014年の選挙期間中に、景気後退の影響を隠すために財政赤字を隠し、貧困層への生活保護費や失業保険などを満額給付するため不足分を国営銀行に違法に肩代わりさせ、政府会計を粉飾したとして最長180日の職務停止に追い込まれ、弾劾裁判が開始されたことは、5月15日ブログ「ブラジル “クーデター”にも見える弾劾劇 前政権以上に汚職関与が疑われる新政権 アメリカの影」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160515で取り上げたところです。

また、ルセフ大統領が潔白である訳ではないものの、弾劾劇を主導しているテメル氏などの反ルセフ勢力には、ルセフ大統領以上に不正・汚職に関与し、私腹を肥やすような政治家が多数存在してることも取り上げました。

*****ルセフ大統領は政敵によるクーデターだと批判****
・・・・大統領が弾劾・罷免されると、テメル副大統領が暫定大統領となるが、テメル氏自身もルセフ氏と同じ国家会計粉飾の疑いで弾劾手続きの渦中にある。またルセフ氏は、テメル氏が「クーデター」の首謀者の一人だと避難している。

大統領はさらに、継承順位第2位のクニャ下院議長も、クーデターを企てる1人だと非難。クニャ氏も、数百万ドル分の収賄容疑で捜査対象となっている。

継承順位3位のカリェイロス上院議長も、国営石油大手ペトロブラスによるとされる巨額贈収賄事件で捜査されている。

テメル副大統領、クニャ下院議長、カリェイロス上院議長はいずれも、最大議席を持つブラジル民主運動党(PMDB)所属。PMDBは連立政権に参加していたが、弾劾手続きを支持するため3月に連立政権を離脱した。3人はいずれも収賄の疑いを否定している。【4月18日 BBC】
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****灰色3閣僚入閣、早くも火種・・・ブラジル暫定政権****
ブラジルのルセフ大統領の停職を受けて12日に発足したテメル暫定政権の閣僚人事を巡り、地元メディアなどから早くも批判の声が出ている。
 
国営石油会社ペトロブラスを舞台にした大規模汚職事件への関与が取り沙汰される政治家3人を入閣させたためだ。
 
「(汚職事件の)捜査は続けなければならないし、捜査を鈍らせる、いかなる試みからも守られなければならない」
テメル大統領代行は12日、就任後初の記者会見で、こう強調した。
 
だが、地元メディアによると、新閣僚のうちジュカ予算企画相、ビエイラ・リマ大統領府大統領室長、エドゥアルド・アルベス観光相の3人は事件に関与した疑いで捜査対象となっている。いずれも、テメル氏と同じブラジル民主運動党(PMDB)所属だ。【5月15日 読売】
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こうした捜査対象となっている政治家を入閣させるテメル暫定大統領の意図を訝しく思っていたのですが、案の定、不正関与が問題となり辞任を余儀なくされる閣僚が相次いでいます。

しかも、弾劾劇自体が多くの灰色政治家が捜査対象となっている巨大な不正事件の捜査を「失速」させるために勧められたことが明らかになっています。

先ず、5月23日にはテメル大統領代行の側近でもあるロメロ・ジュカ企画・予算管理相が辞任を発表。

****ルセフ氏弾劾で捜査妨害?大統領代行側近が発言****
ブラジル有力紙フォーリャ・デ・サンパウロは23日、テメル大統領代行の側近であるジュカ予算企画相が今年3月、ジュカ氏らも捜査対象で、既に100人以上が逮捕されている国営石油会社ペトロブラスを舞台とした汚職事件に関し、捜査を失速させるためにはルセフ大統領の弾劾を進める必要があるとの内容の発言をしていたと、録音記録をもとに報じた。
 
ジュカ氏は、やはり捜査対象となっているペトロブラスの関連会社元社長に「この出血を止めるには政府を代える必要がある」などと語ったとされる。ジュカ氏は副大統領だったテメル氏らと連携して弾劾を主導してきただけに、今後始まるルセフ氏の弾劾裁判の行方に影響する可能性がある。【5月23日 ロイター】
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次いで5月末には、汚職対策を担当する立場にあるシルベイラ透明性・監察・監督相も、上記録音記録から“汚職事件の捜査妨害疑惑”が公となり辞任。

****汚職対策担当が辞意 捜査妨害疑惑で****
ロイター通信などによると、ブラジルのテメル暫定政権で汚職対策を担当するシルベイラ透明性・監察・監督相が30日、汚職事件の捜査妨害疑惑で辞意を表明した。

弾劾裁判によるルセフ大統領の停職を受け12日に発足したばかりの暫定政権だが、同事件での閣僚辞職は2人目。国政運営への打撃は必至で、8月のリオデジャネイロ五輪への政治的混乱の影響も懸念される。
 
シルベイラ氏は就任前、多数の政治家や企業幹部を巻き込んだ国営石油会社ペトロブラスの汚職事件で、捜査対象のカリェイロス上院議長に捜査逃れの助言をしていた疑いが浮上した。ブラジルメディアが会話の録音記録を基に報じた。
 
シルベイラ氏は疑惑を否定したが、大統領府によると30日、テメル氏に辞表を送付した。大統領府は後任について明らかにしていない。
 
同事件を巡っては、ジュカ企画・予算管理相も捜査妨害をもくろんでいると受け取られる発言を報じられ、24日に辞職したばかりだった。他にも閣僚数人がペトロブラスの汚職事件に関与した疑いで捜査対象となっており、今後、さらに暫定政権内の混乱が深まる可能性がある。【5月31日 毎日】
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今度は、リオ五輪での観光客誘致の旗振り役だったアルベス観光相も辞任。1か月で3人目です。

****汚職疑惑でまた閣僚辞職=暫定政権1カ月で3人目-ブラジル****
ブラジルのアルベス観光相は16日、国営石油公社ペトロブラスの汚職事件への関与疑惑が浮上したことから、辞職した。5月12日に発足したテメル暫定政権で、閣僚の辞任は3人目。
 
リオデジャネイロ五輪の開幕を8月に控え、観光客誘致の旗振り役だったアルベス氏の辞職は、暫定政権に大きな打撃を与えそうだ。
 
地元メディアによると、ペトロブラス子会社の元社長は、捜査当局との司法取引でアルベス氏の汚職疑惑を証言。アルベス氏は子会社に対し、大手建設会社との取引を要請する一方、大手建設会社に「献金」を持ちかけ、2008年からの6年間で計155万レアル(約4650万円)を受け取ったとされる。【6月17日 時事】
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閣僚だけではありません。
テメル大統領代行と同じブラジル民主運動党(PMDB)に属し、テメル氏と共に弾劾劇を主導してきた継承順位第2位のクーャ下院議長に対する議員資格はく奪の動きも進んでいます。

****ブラジル議会倫理委、クーニャ下院議長の議員資格剥奪を決****
ブラジル議会の倫理委員会は14日、未申告のスイスの銀行口座に関して虚偽の発言をしたとして、職務を停止されているクーニャ下院議長の議員資格を剥奪すると決めた。

クーニャ氏は無実だとして、別の議会委員会に不服を申し立てる方針。議員資格を剥奪するには下院の過半数が委員会の決定を支持する必要がある。

ルセフ大統領(職務停止中)の弾劾手続きを主導していたクーニャ氏が議席を失えば、複数の汚職事件で逮捕・起訴される可能性がある。【6月15日 ロイター】
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テメル大統領代行自身に対する汚職疑惑も明らかになっています。

****大統領代行に不正献金疑惑=司法取引で名指し証言―ブラジル****
ブラジル最高裁は15日、テメル大統領代行が不正な政治献金を求めたと主張する国営石油公社ペトロブラス子会社元社長の司法取引での証言内容を公表した。テメル氏は「法を逸脱する行為はしていない」と疑惑を否定している。
 
証言によると、テメル氏は2012年のサンパウロ市長選で、所属政党から出馬した候補者を支援するための政治献金を元社長に要請。元社長が取引先との間で不正に捻出した150万レアル(現在のレートで約4500万円)を受け取った。
元社長は、テメル氏の要請が「不正な資金捻出を求めていたことは明らかだ」と話している。
 
ペトロブラスをめぐる汚職は、国を揺るがす事件に発展。汚職捜査を妨害した疑惑の浮上したテメル暫定政権の閣僚が、元社長の証言で辞職に追い込まれている。【6月16日 時事】
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とどまるところを知らぬ汚職・不正疑惑の拡大です。(以前からわかっていた話でもありますが)

また、暫定政権閣僚の全員が白人男性ということからも、この政権の“体質”が窺われます。

****ブラジルの暫定政権、閣僚全員が白人男性 批判殺到****
ブラジルのルセフ大統領の職務停止で誕生したテメル大統領代行の暫定政権が、閣僚に女性や黒人が一人もいないことで批判されている。12日に発表した顔ぶれは23人全員が白人男性。近年の政権が多様性を強調してきた流れに逆行するような動きだとして、「人権状況の深刻な後退」と懸念する声が高まった。政府は13日、「女性の起用に努めたい」と表明した。(後略)【5月15日 朝日】
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“1987年に下院議員となったテメル氏は、6回連続で当選し、下院議長も3度経験した。2001年には最大政党ブラジル民主運動党(PMDB)の党首に就任。11年から副大統領を務めるなど豊富な政治キャリアを誇る。
「調整型の政治家」(外交筋)として知られ、ルセフ氏が対立した議会との関係を改善し、景気対策などの審議が前進するのではと、政界からの期待は高い。”【5月12日 時事】というテメル大統領代行は、昨年12月、深刻な財政赤字のため投資適格級格付けを失ったブラジル経済・財政再建を目指して、公的歳出の抑制を図るべく憲法改正を目指す考えを示したています。

その改革の方向性や、テメル大統領代行の実績には配慮すべきものはありますが、不正・汚職まみれの実態が明らかになっては、国民の信頼をえることは難しいでしょう。問題はこれからもまだ出てくるのではないでしょうか。

また、失業率が上昇している時期の歳出抑制や増税には国民の強い反発が予想され、不正・汚職問題と併せてテメル暫定政権を脅かすことになることが予想されます。

強気のルセフ大統領 しかし、国民は新たな選挙の年内実施を希望
“16日に発表された世論調査によると、テメル政権への不支持率は55%に上る。暫定政権への評価が悪化の一途をたどれば、ルセフ大統領の復権を望む声が高まり、弾劾が阻止される可能性もある。”【6月17日 毎日】

不支持率はが55%にとどまっていることが不思議なくらいです。
ひところは“弾劾必死”とも言われていたルセフ大統領ですが、上記【毎日】にもあるように、弾劾が成立せず息を吹き返す可能性も出てきています。弾劾成立のための“票読み”からも、復活の可能性があります。

****崖つぷちの弾劾裁判でも、なぜか強気の大統領****
「何でもありの国」ブラジルは政治も先が読めない クビ寸前のルセフにさらなる疑惑というカオス

誤解されがちだが、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領は、まだ弾劾されていない。現在は大統領の「職務停止」中で、国家会計の不正操作の容疑により弾劾裁判を待つ身だ。
 
8月のリオデジャネイロ五輪の前にも始まるかもしれない裁判で、最終的に上院議員の3分の2が弾劾に賛成すると、ルセフは失職する。これは彼女が法を犯したかどうかの判断というより、事実上の信任投票になると考えられている。
 
この数週間、多くの政治学者がルセフの命運は尽きたと指摘してきた。ただし、ブラジルという国は、わずか2週間で多くのことが変わり得る。
 
大統領代行を務めるミシェル・テメル副大統領は、とことん人気がない(最近の世論調査で、テメルに投票すると答えた回答者はわずか2%だった)。

暫定政権も出だしから雲行きが怪しく、新閣僚の1人は汚職の捜査妨害に関与したと疑われる電話の盗聴記録をマスコミにリーグされ、早々と辞職した。
 
そうなると、最後まで戦い抜くと宣言しているルセフの復活もあり得るのだろうか。
 
ジョンズーホプキンズ大学のリアダンーローエット中南米研究部長は上院がルセフを弾劾する確率を60%とみる。「3、4週間前なら70%と答えただろう。今は50%に近づきつつある」
 
先月12日に上院が弾劾裁判の開始を諮った投票は、議員81人のうち賛成が55入、反対が22人、欠席が4人。承認に必要な過半数を軽々と超えた。
 
弾劾の成立には81入の3分の2、54人の賛成が必要となる。ハードルは高く、裁判開始に賛成した55入から1人欠けてもぎりぎりだ。反対に、ルセフは賛成票を投じた議員のうち2人を翻意させれば、生き延びることができる。
 
ただし、コロンビア大学BRIC研究所のマルコス・トロイホ所長は、たった2人を翻意させることさえ、今のルフには難しいと語る。5年以上、国を率いてきたルセフだが、政界の中枢での評判はすこぶる悪い。
 
ルセフが返り咲くより、裁判所が新たな大統領選挙の実施を求める可能性のほうが高いと、トロイホは指摘する。
「国民の大多数は、とにかくジルマを退場させたいのだろう。それを実現するには弾劾で十分なのか、それとも(ルセフが再選した)14年の大統領選を無効にするべきか」
 
さらに、14年の大統領選でルセフとテメルの陣営が違法献金を選挙に流用した疑いが浮上し、選挙高等裁判所が審理を進めている。大統領と副大統領がそろって有罪となれば、大統領選を実施せざるをえないだろうと、トロイホは語る。
 
支持率は最低記録を更新しているルセフだが、一方ではある程度の政治力は維持していると、リオデジャネイロ州立大学の政治学者マウリシオ・サントロはみる。事あるごとに、弾劾裁判は憲法違反のクーデターだとアピールすることもできる。
 
「ブラジルでは何か起きてもおかしくない。ジルマは、まだゲームオーバーではない」【6月14日号 Newsweek日本版】
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上記記事が書かれたのは5月末頃ではないかと推察されますので、“今は50%に近づきつつある”という弾劾可能性は、現状では50%を下回るような状況かも。

もっとも、国民がルセフ大統領復活を望んでいるという訳でもなく、この際既存政治の膿を徹底的に出して、新たな大統領を選びたいという思いのようです。

****ブラジル国民の過半数、年内の選挙実施を望む=世論調査****
CNT/MDAが8日公表した調査で、4分の1を上回るブラジル国民がテメル大統領代行率いる暫定政権について否定的な見方をしており、過半数が年内の選挙実施を望んでいることがわかった。

不祥事や政策の前言撤回が相次ぎ、同大統領代行の支持率は低下傾向にある。

同調査によると、上院によるルセフ大統領の弾劾裁判開始可決を受け、先月12日に発足した暫定政権の不支持率は28%に上ったという。

同政権に対し支持を表明したのはわずか11.3%で、30.2%は「普通」だった。

調査は6月2─5日に2002人を対象に行われ、ルセフ大統領停職後実施された初の大規模なものとなった。

ルセフ大統領の弾劾を支持する国民の割合が増加していることも明らかになった。調査対象者のほぼ3分の2に当たる62.4%がルセフ氏の弾劾裁判の実施は正しい判断とし、前回2月調査の55.6%を上回った。

調査対象の過半数に上る54.8%が現暫定政権とルセフ政権との間に違いはないとし、46.6%が現暫定政権での汚職もルセフ前政権と同様との見方を示した。

50.3%が政治的危機の解決に向け、年内の選挙実施を支持した。【6月9日 ロイター】
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既存政治が国民の信頼を失い、アウトサイダー的な、あるいはポピュリズムとも評されるような者が政治の表舞台に登場するというのが欧州でも、アメリカでも、また、フィリピンでも見られる最近の傾向ですが、ブラジルもそうした流れになるのでしょうか。
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