
(2日から3日にかけてのカイロ中心部・タハリール広場での衝突では、石や火炎瓶の投げ合いや大統領支持派の発砲などもあって7人の死者、1500人以上もの負傷者を出す惨事となっています。写真はラクダで突入する大統領支持派と、それに抵抗する反大統領派の群衆 “flickr”より By eghostx80
http://www.flickr.com/photos/37095960@N05/5411137404/ )
【「100万人デモ」、流血の混乱、「退陣の日」デモ】
エジプト情勢は、1日のムバラク退陣を求める「100万人デモ」、ムバラク大統領の9月退陣表明、2日・3日の反大統領派と大統領支持派の衝突による流血と、めまぐるしい展開を見せていることは報道のとおりです。
一部は政権側によって動員されているとも言われる大統領支持派が、ラクダに乗って群衆に突っ込み棒やムチをふるう様などはいかにも中東らしい絵ではありました。
今日4日には、反体制勢力は、イスラム教の金曜集団礼拝に合わせ、「退陣の日」と銘打ったデモを全土で計画。9月の大統領選まで職にとどまる意向を示しているムバラク大統領に即時辞任を迫るとされており、大統領支持派との衝突が激化することも懸念されています。
【軍:秩序回復へ向けて軌道修正】
ただ、混乱の中で、2,3日前の「ムバラク退陣」要求一辺倒の雰囲気から流れは少し変わりつつもあります。
反政府デモを容認していた軍は、秩序回復へ向けて軌道修正する姿勢を見せています。
エジプト軍スポークスマンは2日、国営テレビを通じ、国民のメッセージは伝わり、その要求は聞き入れられたとした上で、エジプトが通常に戻るのを助けるべき時がきたと呼びかけています。
****秩序回復へ軌道修正=デモ参加者に帰宅要請―エジプト軍*****
エジプト軍は2日、国営テレビを通じて声明を出し、ムバラク大統領辞任を求めてデモを続けている参加者に対し、社会の安定を確保するため帰宅するよう求めた。ムバラク氏が1日に次期大統領選への不出馬を表明したのを受け、政権に強い影響力を持つ軍が、デモ容認姿勢から、秩序回復へ向けて軌道修正したもようだ。(中略)
軍は31日の声明では「平和的な手段による表現の自由はすべての人々の権利だ」とデモを容認する中立姿勢を打ち出しており、全土で100万人規模となった1日のデモにも一切介入しなかった。(後略)【2月2日 時事】
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【国民:大統領批判一色から変化】
国民の感情においても、これまでの大統領批判一色から、大統領への同情なども出てきているとも。
****庶民の感情に変化=増える大統領への同情―エジプト*****
反政府デモが続くエジプトで、ムバラク大統領が次期大統領選への不出馬を表明したことを契機に、庶民の感情に変化が見える。これまでの大統領批判一色から、大統領への同情が出てきている。
1日の演説後、大統領支持派のデモが劇的に増加した。政権側が金を払って動員している事例も伝えられるが、必ずしもそれだけではないようだ。
首都カイロ市内の低所得者層が多く住むインババ地区。無職のムハンマドさん(50)は「私も1日までは変化を求めていたが、あと数カ月で引退すると言っているのだからそれでいいじゃないか」と大統領を擁護、即時辞任を求める勢力を批判した。(中略)郵便局員のアイマンさん(43)も「今の大統領支持のデモは大統領に今後も残ってくれというのではなく、30年間ご苦労さまというものだ」と大統領への同情を隠さない。【2月4日 時事】
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インターネットユーザーの間でも、ムバラク大統領の即時辞任を求める「退陣の日」デモへの参加の是非をめぐって意見が二分している状況だそうです。
****エジプトの大規模デモ「退陣の金曜日」、ネット上で賛否二分****
・・・2日と3日には大統領支持派と反体制派の衝突が激化した一方、フェイスブック上には、4日は自宅にとどまるよう呼びかけるグループが複数登場。その中の「冷静になって再建に力を注ごう」と訴えるグループには、数時間で18万人以上が集まった。
それとは対照的に、「退陣の金曜日」を呼び掛ける主なページへの参加者は4万人強にとどまっている。
フェイスブックユーザーの間では、今回の反政府デモによって、すでに多くのことが成し遂げられたとして、反体制派に歩み寄りを求める声も多い。
一方、民主化を要求する活動家グループは、すでに人命を含む犠牲が出ている以上、ここで引き下がることは意味がないとの論調も根強い。
ただ、いずれにしろ、ムバラク大統領が即時辞任した場合の「権力の空白状態」を懸念する声がネット上には多く、反政府デモを継続する目的に疑問が投げかけられているようにもみえる。【2月4日 ロイター】
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【アメリカ:平和的な政権移行に向けて、エジプト側と協議】
一方、エジプトに大きな影響力を持つアメリカ・オバマ政権は、“ムバラク大統領がエジプト軍の支援を得てスレイマン副大統領をトップとする暫定政権に権限を委譲する”といったムバラク大統領の即時辞任・平和的な政権移行に向けて、エジプト側との協議を進めています。
****米国がエジプト当局と協議、平和的政権移行目指す*****
米国政府は3日、エジプトの平和的な政権移行について、エジプト当局とさまざまな方法を協議していることを明らかにした。
ホワイトハウスのトミー・ビーター報道官は「エジプトとプロセスを前進させるためにさまざまな方法を協議したが、決定はエジプト国民が下さなければならない」と述べた。
さらに、オバマ大統領が、今こそ信用できる包括的な協議に基づき平和的で秩序立った、意味のある政権移行を始める時期だとの考えを示したことを明らかにした。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は3日、オバマ政権がムバラク大統領の即時辞任について、エジプトの当局者と協議していると報じたが、ホワイトハウスはこの報道内容を確認しなかった。ただ、10日間にわたり続いているエジプトの危機を解決するため、エジプト当局との協議が進められている、とした。
米政権高官によると、複数の選択肢が話し合われている。
オバマ大統領とその側近らはこれまで、ムバラク大統領への退陣要求を慎重に避け、代わりに秩序立った政権移行を「今始めなければならない」と強調してきた。
NYT紙は、ムバラク大統領がエジプト軍の支援を得てスレイマン副大統領をトップとする暫定政権に権限を委譲する計画が協議されていると伝えた。
バイデン米副大統領は3日、エジプトのスレイマン副大統領に電話し、エジプトが民主政治へ移行するため、信用できる包括的な協議を直ちに始めるよう要請した。(中略)また米上院は、ムバラク大統領に暫定政権への権限委譲を求める決議案を可決した。決議は「民主的な政治体制への平和的な、秩序ある移行」を直ちに始めるようムバラク大統領に求めている。【2月4日 ロイター】
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アメリカ国内おいては、オバマ政権のこれまでの及び腰の対応への批判もあると伝えられています。
****オバマ政権対応に批判 「ムバラク氏降ろし」できず****
エジプトの反政府デモが大規模な衝突に発展したことで、こうした事態を許したオバマ米政権の対応への批判が出ている。ムバラク政権と野党勢力との間で態度が定まらず、かえって混迷を深めたとの見方だ。暴力が混乱に拍車をかける状況下で、事態収拾はますます困難になっている。
ムバラク大統領退陣を求めるデモが始まった先月25日、クリントン米国務長官は「政情は安定している」と事態を楽観。ムバラク氏が全閣僚の辞任などで乗り切る方針を示すと、オバマ政権も支持した。だが、ムバラク氏が事態を掌握できないと判断すると、「ムバラク降ろし」に方針転換。1日にはオバマ大統領自身が「政権移行を今、始めなければならない」と説得したが、即時退陣の意向は引き出せなかった。
「当初、ムバラク氏寄りの発言をしたことを大統領は後悔していないのか」「オバマ大統領は(エジプトの政権移行を)実現できないほど無力なのか」。2日のホワイトハウスでの記者会見では、エジプト情勢をめぐって迷走してきたオバマ政権の対応を問う質問が相次いだ。
これに対し、ギブズ大統領報道官は「事態は非常に流動的かつ激動的。過去数日間の出来事は正直言って、だれもが見たことのない事態だ」と述べ、オバマ政権が前代未聞の事態に対応し切れずにいることを半ば認めた。
オバマ政権が非公式な「特使」としてカイロに送ったウィズナー元駐エジプト米大使は2日、ムバラク氏を説得できずに帰国の途についた。一方で、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長がエジプト軍幹部と電話で情報交換するなど、米政府はパイプの太い軍部の対応に望みを託している。
専門家らは、オバマ政権の中途半端な対応が混乱を生んだと指摘する。シンクタン立米外交問題評議会(CFR)のフセイン上級研究員はオバマ大統領がもう数日早く「政権移行」を追っていれば「ムバラク氏が退陣表明し、デモ参加者も満足させられた」と語る。
一方、ムバラク政権内にはオバマ政権の対応への深い困惑があるという。
ムバラク政権を窮地に追いんだ結果、米政府政の核心的益である「親米・親イスラエルの穏健な政権の存続」が失われるとの指摘も。野党・共和党のハッカビー元アーカンソー州知事は「米国は長年め同盟国を簡単に見捨てないと世界に示すべきだった」とし、ムバラク政権を早々に見限った決断を非難した。【2月4日 朝日】
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【ポスト・ムバラクへの懸念 「ムスリム同胞団」の存在】
エジプト情勢がアメリカの思いどおりにならないこと自体は他国のことですから当たり前でもあり、“「オバマ大統領は(エジプトの政権移行を)実現できないほど無力なのか」”との質問は、いささか自信過剰とも思えます。
それはともかく、オバマ政権の“迷い”には、ムバラク親米政権後の“民主的政権”がどいう性格になるのかに対する懸念があってのことと思われます。端的に言えば、穏健派とは言え、実質的最大野党であるイスラム主義の「ムスリム同胞団」が新政権でどのような影響力を持つことになるのかに関する懸念です。
ムバラク大統領も、これまで弾圧してきた「ムスリム同胞団」の存在を念頭に、「もう十分だ。辞任したい。しかし、今日辞任すれば、エジプトは大混乱に陥る」と語っています。
****ムバラク大統領「いま辞任すればエジプトは大混乱に」*****
エジプトのムバラク大統領は3日、いま辞任すればエジプトは大混乱に陥り、イスラム原理主義組織、ムスリム同胞団が主導権を握るだろう、と述べた。
ムバラク大統領は大統領府で米ABCテレビのクリスティアン・アマンプール氏のインタビューに応じ「うんざりしている。62年間公職を務め、もう十分だ。辞任したい」と述べた。その上で「きょう辞任すれば、エジプトは大混乱に陥る」と語った。
首都カイロ中心部のタハリール広場一帯で2日に発生した反ムバラク派と親ムバラク派の衝突については、政府には責任はないとし、イスラム原理主義組織のムスリム同胞団が関与していると非難。「2日の出来事は非常に残念だ。エジプト国民同士が戦う姿を見たくはない」と述べた。
大統領の退陣を求める声があがっていることについて「国民に何と言われようとかまわない。今私にとって大切なのは、私の国エジプトだ」と語った。
さらに、再選を目指すつもりはないと表明したことで安どしたとし、子息のガマル氏を同氏の後に大統領に就任させるつもりも一切なかった、と述べた。
またオバマ米大統領に対して「エジプトの文化や、私が辞任したらエジプトがどうなるかを理解していない」と伝えたことを明らかにした。(後略)【2月4日 ロイター】
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従来、政権・軍と厳しく対立し、中東情勢の枠組みに大きな変化をもたらすと、アメリカ・イスラエルなどもその台頭を懸念する穏健派イスラム主義「ムスリム同胞団」の動向は・・・というのが、今日の本題のつもりでしたが、前置きが長くなりすぎましたので、明日以降にまた改めて取り上げます。