孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン南部  日本政府、PKO参加検討

2008-02-26 15:52:24 | 国際情勢
「アフリカのスーダン南部での国連平和維持活動(PKO)に参加するため、国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊部隊派遣が可能かどうか日本政府が検討に入った」というニュースが今月中頃にありましたが、その続報。

****高村外相がスーダンPKO参加に意欲示す、英紙インタビューで****
高村正彦外相は、25日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズに掲載されたインタビューで、日本の国際平和維持活動(PKO)の一環でスーダンに要員を派遣することを検討していると語った。
高村外相は「国力と比較し、わが国の国際貢献にはまだ努力の余地がある」とし、国連がスーダンで展開するPKOを参加候補の1つに挙げた。
一方で、派遣先は和平合意に達した南北内戦の地方とし、紛争が続く西部ダルフール地方は含まないとも強調した。 高村外相は、PKO拡大については「方向付けを確認している段階」だとしつつ、「資源の少ない島国である日本の繁栄には、平和で安定した国際情勢が不可欠だ」と述べ、日本の国際貢献拡大に向け努力する意向を示した。【2月25日 AFP】
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先発の記事によれば、5月に横浜で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)や7月の北海道洞爺湖サミットを控え、アフリカでの平和構築に向けた日本の貢献を示す狙いがあるそうです。

チャドとの国境付近のスーダン西部ダルフール地方では、反政府活動に対し、スーダン政府の支援を受けていると言われるアラブ系民兵組織・ジャンジャウィードがアフリカ系黒人を襲撃。
隣国チャドも巻き込んで、20万人とも言われる死者(スーダン政府は認めていません)、200万人以上の大量の難民が発生しています。
国際的には“民族浄化”の事例と見られており、国連はこれを「世界最悪の人道危機」とよんでいます。

国際社会のスーダン政府への圧力で、昨年末に「国連・アフリカ連合ダルフールミッション」(UNAMID)がようやく発足しましたが、構成国をめぐって国連と欧米の介入を避けたいスーダン政府が対立。
2.6万人規模の予定に対し、先月末時点でまだ9000人しか派遣が完了していません。

昨年11月6日、福田内閣は国連難民高等弁務官事務所からの要請に応じダルフール地域に、毛布とスリーピングマット各1万枚、給水容器1万個などの救援物資を提供することを閣議決定しました。
なお、民主党の小沢代表は「(私が政権を取った場合)国連決議に基づき、国際治安支援部隊へ参加をしたい」と、ダルフール紛争への部隊派遣についても意欲を示しているそうです。

今回のPKO自衛隊派遣が検討されているのは、この紛争が続くダルフール地方ではなく、スーダン南部とのことですが、この地域も相当に厄介な地域です。(PKOが実施されているぐらいですから、当たり前ですが。)

もともとスーダンでの内戦は、北部アラブ系イスラム教徒と南部の黒人を主とする非アラブ系の争いで、1955年から72年の第一次内戦、83年から2005年までの第二次内戦が繰り広げられました。
約190万人が死亡、400万人以上が家を追われたと言われています。

政治的実権を握る北部アラブ系と、これに反発する南部黒人という構図のほかに、南部に産出する石油利権をめぐる争いでもあります。
この石油に関心を持つアメリカの仲介等もあって、2005年にバシール大統領とスーダン人民解放軍(SPLA)の間で暫定政権樹立の包括和平合意(CPA合意)が成立しました。

主な合意内容としては、1)自治権を有する南部スーダン政府の成立、2)南部スーダンの帰属を問う住民投票の実施(2011年実施予定)、3)南部の宗教的自由(イスラム法の不適用)、4)南部スーダンで産出される石油収入の南北原則均等配分などがあります。
2005年7月9日、バシールを大統領、SPLAのガラン最高司令官を第一副大統領とする暫定政府が発足しました。

しかし、CPAに規定された諸事項のうち、南北境界線からの南北スーダン両軍の撤退、石油産出地帯であるアビエ地域の帰属問題などといった重要事項については一向に進展が見られないことから、昨年10月中旬に、南部スーダンの主要勢力であるSPLMが連立政権を担っていた中央政府からの一時離脱を宣言するなどの政治対立が表面化、一時はスーダン内戦への回帰も懸念されました。
その後の南北間の協議の結果、両者は再びCPAの履行に努めることで合意し、昨年末にはSPLM出身の閣僚が中央政府に職務復帰したことで、危機は一応収束ました。【外務省HPより抜粋】

スーダン南部については、PKO参加を検討する日本政府と歩調をそろえて、国際協力機構(JICA)の緒方貞子理事長も17日、アフリカのスーダン南部の治安改善が確認されたとして、JICAが同地の復興支援を行う方針を明らかにしています。

JICAは前月、スーダン政府との和解に応じ統一内閣に復帰した旧反政府勢力の招きを受けて同地に調査団を派遣し、治安状況を調べたそうです。
その結果、現地の治安状況はJICA職員が活動を行うのに支障のないレベルだと確認されたとしています。【2月18日 AFP】

個人的には、PKO参加は自衛隊派遣も含めて行うべきだと考えています。
それで、現地の治安が維持され、復興につながるのであれば結構なことだと思っています。

しかし、“南部スーダンの帰属を問う住民投票の実施”はどうするのでしょうか?
2009年に大統領選挙及び南北での中央・地方総選挙の実施、2010年末を目処に南部独立を問う住民投票の実施が決まっています。(外務省HPより。上記外務省HPでは“2011年実施予定”とあり、詳細不明)
どう考えても、バシール大統領がすんなり住民投票を行って、素直にその結果に従うなんて想像できません。
南側が本気でこの問題にこだわれば、内戦状態の再現も十分にありえるのでは。
誰も本気には考えていないのでしょうか?

イラクのキルクークのクルド人自治区への帰属に関する住民投票も“準備が整わない”と延期されています。
クルド側が実施を強行に求めると、相当な混乱が予想されます。
かつて日本がPKO参加した東チモールでは、インドネシア帰属をめぐる住民投票で住民が“反対”の意思表示を示したことに、インドネシア併合派民兵がインドネシア国軍の支援を受けて破壊・殺戮の限りをつくす事態もありました。
国際社会が介入できたのは、大方の破壊行動がすんでしまった後でしかありませんでした。

このように、“帰属をめぐる住民投票”がすんなりと進むとは思えませんが、もし現地が混乱したら?
派遣PKO参加部隊は問題ないでしょう。
“停戦合意が破れた場合には業務を中断、撤収することができる”等のいわゆるPKO参加5原則という前提がありますので、大きな被害なくすみやかに撤収することと思われます。

問題はその後です。
日本が撤収したあと、現地では血で血を洗う惨劇が行われるかもしれません。
いささか悪意を持った言い方をすれば、日本が、日本国民が見捨てた惨劇です。

もちろんそのような事態にならないことを願いますし、そのために日本を含め国際社会は努力する必要があります。
ただ、万一、そのような事態に立ち至った場合、日本の国際貢献とか、安全保障上の問題とか、そいうことはどうでもいいのですが、現地の惨劇を見捨てて日本だけの平和をもとめることがどういう意味があるのか?、多くの命を救うためにどうしても必要とされる実力行使というものは?、何故ひとり日本がそれを避ける合理的理由があるのか?・・・そういう議論があってしかるべきかと考えます。
今の段階でどうこう言う話ではありませんが。

コメント (1)
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