孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  SM3で衛星爆破 新たな軍拡競争激化か?

2008-02-22 17:39:15 | 国際情勢
アメリカは20日夜、ハワイ沖のイージス艦から発射された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)により、制御不能で地球に衝突する危険が高まっていた米軍事偵察衛星(有毒物質「ヒドラジン」約450kgを搭載)を大気圏外で破壊することに成功しました。
衛星破壊を決断した米側の目的は、(1)墜落被害の回避(2)軍事機密の保護(3)迎撃ミサイルによる衛星攻撃能力の検証と見られています。
今回アメリカは「人的被害を避ける安全上の措置であり、軍事的意図はない」と強調していますが、ミサイル防衛(MD)システムを転用することで、衛星攻撃が可能となる実力を初めて実証したかたちになりました。【2月22日 産経】

中国は昨年1月、衛星攻撃兵器(ASAT)の実験を行い、無数の危険な破壊された衛星の破片(デブリ)を発生させたとして米国などから非難を浴びました。
その米国が今回ASATを事実上使用したことに、中国は強く反発しており、「宇宙空間の安全と他国に損害を与える可能性を追跡調査している」と述べるとともに、「状況と関連データ」を速やかに国際社会に公開するよう米国に要求しています。
なお、今回アメリカ国防総省は「デブリは、大半が48時間以内に大気圏に再突入して燃え尽きる。」と説明しています。

また、アメリカが東欧で進めるMDシステム配備計画に猛烈に反対しているロシアも、今回の衛星破壊に強い関心を寄せており、ロシア国防省は「ミサイル防衛(MD)の兵器で衛星を破壊する必然性について十分な説明がない。失敗した場合の評価もない」と指摘、「(他国の)衛星を破壊する新型戦略兵器の開発実験である可能性がある」との懸念を表明しています。

「他人には言いたい放題言っていたくせに、自分達は何やっているんだ!」という中国の言い分もわからないではないです。
それ以前の問題として、「そんな危ないもの(偵察衛星)を勝手に頭上に打ち上げることはどうよ?」という疑問がスジ論のはずですが、宇宙を制する国だけが軍事的主導権を掌握することができるという国際政治・軍拡競争の現実の前ではそんな青臭い声など全くないようです。

なお、先日ジュネーブの軍縮会議でロシアは中国と共同して、宇宙空間でのいかなる兵器の配備、宇宙空間の物体に対する武力行使および武力による威嚇を禁止する宇宙軍拡防止条約案を提案し、12日にアメリカがこれを拒否したばかりでした。
ロシア・中国の狙いは、アメリカのMDシステム建設への反発と伝えられています。
アメリカは現在、2012年までにポーランドでミサイル防衛基地10か所の建設、チェコにレーダー基地の建設を予定しており、両国政府との交渉を続けています。

アメリカのペリノ報道官は「競合国間の疑念を取り除くべく、互いの行動の透明性を確保し、信頼構築に向けた対話を促進することが、宇宙における軍拡競争の最良の防止措置だ」と語ったそうです。
是非ともその対話を促進し、疑念を取り除いてもらいたいものです。

昨年末から新たな軍拡競争、冷戦の再現を思わせるような事態が続いています。
昨年11月には米空母キティホークを含め3回にわたりアメリカ艦船が香港への寄港を拒否され、キティホークは帰途に台湾海峡を通過。(台湾海峡通過は96年3月の「中台危機」以来) 
これを中国海軍のミサイル駆逐艦「深セン」と宋級潜水艦が追尾、28時間にわたり対峙(たいじ)したと報じられました。【1月15日 毎日】
アメリカはその後この報道を否定し、報道官が「台湾海峡は国際的な海域であり、キティホークは通常のコースを通っただけだ。いかなる問題も発生していない」と語っています。

ロシアは昨年12月12日、欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時停止し、ロシア外務省は「今後、国内の通常戦力(戦車や攻撃ヘリなど)の配備状況について北大西洋条約機構(NATO)への情報提供や査察を拒否する」との声明を発表しました。
上述の東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画などを巡り、欧米に反発してきたプーチン政権の対西側強硬路線の一環です。

その後も、プーチン大統領は2月8日、NATOの東方拡大や、MDシステムを改めて批判し、「世界で新しい軍拡競争が始まっている」と警告。
新軍拡競争」について「我々のせいではない」と述べ、西側諸国が一方的に対露の軍事力増強を図っているとの認識を示しました。

また14日にも「チェコとポーランドの施設はロシアのミサイルの迎撃を念頭に置いている。そうした施設が建設されれば、ロシアの核戦力は無力化され、力のバランスは崩れる。ロシアは、対抗措置をとらざるを得ない」と説明、ロシアはこれらの施設に攻撃用ミサイルの照準を合わせることになると再度警告しました。
「冷戦を再開したいとは思わない。西側との対立も望んではいないが、国益は追求する」と強調しています。

また、ロシア軍のバルエフスキー参謀総長は19日、モスクワ市内で開かれた軍事技術者の会議で演説し、「(他国を)攻撃する意思はないが、ロシアとその同盟国の防衛に必要ならば、核兵器を含む武力の先制使用が行われるだろう」と述べています。

アメリカ国防当局者によると、ロシア空軍のツポレフ(TU)95爆撃機が伊豆諸島南部の日本領空を侵犯した9日、侵犯機と同型の別の2機が、西太平洋を日本に向けて航行していた米空母ニミッツの飛行甲板上空を、高度約600メートルの超低空で飛行する挑発行動を取っていたそうです
ロシア機の接近を探知したニミッツから艦載機のFA18ホーネット4機が緊急発進するなど、一時は緊迫したとかで、AP通信は、「こうしたロシア機の飛行は冷戦以後ではまれ」と伝えています。
しかし、アメリカはその後、「爆撃機2機による9日の低空飛行時に敵対行為は見られなかったことから応戦態勢は命令しておらず、ロシア政府に説明を求める考えもない」と、問題視しない姿勢を明らかにしています。

最近のロシアの一連の動きは、プーチン大統領が、国際政治における主要なプレーヤーとしてのロシアの地位に自信を深めていることの表れのようにも思えますが、専門家は必ずしもそう考えていないとの記事もあります。
「プーチン大統領は、新たな軍拡競争を警告し、軍の復興を約束している。しかし、ロシアの軍事費は米国の20分の1にすぎず、兵器のほとんどが時代遅れだ。」
「軍事的に言えば現在のロシアは主要なプレーヤーとはいえない。彼らがやっていることは広報活動に過ぎない」

プーチン大統領は「過去の屈辱」を払拭したいと考えているが、ロシアの第一の戦略的目標は、エネルギー輸出に基づいた経済大国化だと指摘する意見も。【2月17日 AFP】

SM3による衛星爆破と聞くと、80年代、レーガン政権が発表した戦略防衛構想 (Strategic Defense Initiative, SDI 通称スターウォーズ計画)を連想します。
衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配備、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃、撃墜し、アメリカ本土への被害を最小限に留めることを目的にした軍事構想でした。
(現在のミサイル防衛システムは、SDIが財政的・技術的に破綻した後、より現実的対応として出てきた考え方だそうです。)

当然ソ連はSDIに猛反発しましたが、当時のソ連に軍拡競争を行う余力はなく、結局、アンドロポフ及びゴルバチョフ両書記長は“平和攻勢”という外交手段で事態を打開しようとしました。
SDIがソ連の軍縮、冷戦の終結、ひいてはソ連崩壊をもたらした・・・という見方も少なくないそうです。【ウィキペディア】

最近のアメリカ・ロシア・中国の間に漂う新たな軍拡競争の始まりのような空気は、今後どのような方向に世界を持っていくのでしょうか?
80年代と違って、ロシアも中国も“元気”なのが気になりますが。


コメント (1)
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