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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・米の「石油」攻防激化 ホルムズ海峡封鎖や物々交換も トランプ氏はツイッターで「下げろ!」

2018-07-06 23:26:54 | イラン

(モスクワ・クレムリンで、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(右)と握手するプーチン大統領(2018年6月14日)【6月17日 AFP】 近年のOPECを仕切るのは、サウジアラビアとOPEC外のロシアの協調で“ROPEC”とも。)

米:イラン石油輸入を「ゼロ」しないと輸入国へ制裁 例外は認めない
アメリカ・トランプ政権のイラン核合意離脱、イランへの経済制裁によって両国のせめぎ合いが激しくなっていますが、石油がその主戦場ともなっています。

アメリカは来月以降、制裁を発動し、原油の取り引きは11月から対象とする方針で、一部のヨーロッパ企業はイランからの撤退の検討を進めています。

イランは埋蔵量、生産量とも世界4位を誇る有数の原油産出国です。
イランにとっては石油は外貨収入の根幹であり(2016年度で、輸出額の約3分の2が石油関連)、石油収入は国家予算の3割を占めています。

制裁解除によって2015年のマイナス成長から2016年の高成長(GDP成長率6.5%)に転じたのも石油輸出拡大がけん引しています。

アメリカは、このイラン経済の命綱を完全に断ち切ろうと強い圧力をかけています。石油輸出停止でイラン経済が崩壊すれば、政治的にも現在のロウハニ政権は崩壊します。

****米政権、イラン産原油輸入でも「ゼロ寛容」 違反なら制裁****
トランプ政権は11月4日までにイラン産原油の輸入を完全停止しなければ、輸入国に制裁を科す構えだ。

米国はイラン産原油の輸入国に対し、11月4日までに輸入量を「ゼロ」に削減しなければ、制裁を科す方針だ。イランを政治、経済の両面から孤立させる狙いがある。米国務省当局者が26日、明らかにした。
 
イラン産原油の輸入国は、輸入量を著しく減らした国への制裁を免除する形で、長期間かけて輸入量を徐々に減らすことを米国が認めると考えていた。背景には、過去のトランプ政権当局者の発言に加え、オバマ前政権も、数年をかけてイラン産原油の輸入を減らすことを認めていたことがある。
 
だが、国務省の高官は、トランプ政権はいずれの国も免除する考えはないと指摘し、イランに対して強硬姿勢で臨む立場を示した。

一方で、他の中東産油国に対しては今後、十分な原油量を市場に供給するよう求めるとしている。

この高官の発言が伝わると、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物8月限は3%急伸し、バレル当たり節目の70ドルに乗せた。これはトランプ政権がイラン核合意からの離脱を表明した5月以来の高値。(中略)

各国政府は、マイク・ポンペオ国務長官やホワイトハウスはこの問題に関して「冗談を言っている訳ではない」とくぎを刺されたもようだ。
 
銀行がイランとの取引に消極的になっており、英調査会社ボルテクサによると、イランの原油輸出量は5月の日量270万バレルから今月は平均同220万バレルまで落ち込んでいる。

石油精製国内最大手のインド石油会社は今月に入り、国営インドステイト銀行がイランとの取引停止を決めたことを受け、イラン産原油の輸入削減を検討していると明らかにした。
 
イランが輸出する原油のおよそ3分の1を購入する欧州の精製会社も、イランとの取引を打ち切り始めている。イタリアのサラスは、11月4日の期限前から銀行が資金供給を嫌がっているとして、イラン産原油の輸入を停止することを検討しているという。

欧州の精製会社はすでに、サウジアラビアやロシア、イラクからの原油輸入を増やし始めているとしている。【6月27日 WSJ】
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米国務省発表では、すでにエネルギー産業を中心に約50の企業がイランとの取引を取りやめる意思を示したとのこと。【7月3日 共同より】

今後の動向のカギは中国の対応
日本にも影響します。
日本は、いまも原油輸入量の5%程度をイランに頼っており、かつて米国が制裁強化した時も一定量の輸入は黙認されてきた経緯がありますが、今回は完全停止を求められています。

菅義偉官房長官は、6月27日、「米国の措置が及ぼす影響について注意深く分析をしており、日本企業に悪影響が及ばないよう、米国を含め関係国としっかり協議していく」【6月27日 朝日】とも。

イランのロウハニ大統領は、アメリカが各国に対して、イラン産原油の輸入を停止するよう求めていることについて、「一方的な措置で、国際法に反する」と述べて強く非難していますが、当然ながらアメリカは聞く耳を持ちません。

イランの最大貿易相手国である中国は、アメリカの圧力を拒否する姿勢を示しています。

****中国、米のイラン産原油禁輸要請を拒否****
中国外務省の陸慷報道官は27日の記者会見で、米国によるイラン産の原油輸入禁止要請について「国際法に合致する枠組みの中で、正常な取引や協力を保持している」などと述べ、従わない考えを示した。【6月27日 産経】
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ただ、中国としても、制裁違反でアメリカの金融システムから締め出されることになるとその損失は大きく、どこまで耐えられるかは疑問です。

中国は、イラン産原油の主要購入先であり(2017年の輸入シェアは24%)、中国の動向が今後のカギとなります。

イランでは、アメリカの制裁措置を回避する手段として“物々交換”も検討されているとか。

****イラン原油取引、物々交換を検討 米制裁対応****
トランプ米政権がイラン産原油輸入の完全停止を欧州などに求めたことを受け、イラン政府は、各国との原油取引について、食物や日用品との物々交換方式とする検討を始めた。イラン学生通信が2日伝えた。

米国の制裁を回避し、大口顧客の中国やインドへの原油輸出を続けるための方策とみられる。

原油収入はイランの国家予算の約3割に当たり、経済の屋台骨だ。2015年のイラン核合意から離脱した米国は、第三国も対象とする「二次的制裁」の再開を表明し、各国に対しイラン産原油の全面輸入停止を求めている。
 
各国がイランから原油を輸入する際は、イラン中央銀行との間で決済が必要だが、決済に携わった外国銀行は制裁で米国の金融システムから締め出されるため、欧州などの銀行はイランとの取引に消極的にならざるを得ない。物々交換なら、制裁を回避できる可能性がある。
 
イラン学生通信によると、ロハニ大統領の側近でもあるジャハンギリ第1副大統領は2日、「原油輸出を減らしてはならない。米国の制裁を回避するためには、イランの原油と(小麦などの)農産物などとの物々交換も一つの方法だ」と強調。政府内で物々交換方式の作業部会をつくる方針を明らかにした。
 
ロイター通信などによると、イランは欧米から厳しい経済制裁を受けていた12年にも、原油や金塊との物々交換で米や紅茶を輸入するなどしていたという。【7月4日 朝日】
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イラン:反米強硬派台頭 例によってホルムズ海峡封鎖の主張も
ただ、こうした対応には限界があります。イラン国内では反米強硬派が勢いを増し、“例によって”ホルムズ海峡ズ海峡封鎖にも言及されています。

****反米強硬論勢い増す=イラン、原油禁輸要請に反発****
イランのメディアによると、精鋭部隊「革命防衛隊」の幹部は4日、米国が各国にイラン産原油の輸入停止を求めていることに対し、「イランの原油を止めたいなら、いかなる原油輸送もホルムズ海峡を通過させない」と述べ、海峡封鎖も辞さないと強調した。

米国の強力な圧力を受けて経済が変調を来しているイランでは、反米の強硬論が勢いを増している。
 
ロウハニ大統領も訪問先のスイスで3日行った記者会見で、「他の産油国は輸出できて、イランだけできないのは国際ルールに反する」と批判。

敵対するイランの苦境を尻目に原油増産に前向きなサウジアラビアなど近隣の産油国の輸出をイランが妨害しかねないとの受け止めが広がり、世界経済全体の混乱要因となる恐れもある。【7月5日 時事】 
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ホルムズ海峡ズ海峡封鎖は、危機的状況に際してイランが持ち出す“切り札”でもありますが、どこまで現実性があるかは疑問です。

イラン革命防衛隊の海峡封鎖発言に対し、米海軍のビル・アーバン報道官は「米海軍は国際法の下で航海の自由と通商の自由な流れの確保を確実にするために用意を整えている」と、“やれるものなら、やってみろ”との対応。

軍事的に可能かどうかという問題もありますが、先述のようにイランの最大の貿易相手国は中国であり、万一、ホルムズ海峡が封鎖された場合、中国の中東からの原油輸入が大きく阻害されますので、中国がそういう措置を許さないという面もあります。

****中国、ホルムズ海峡封鎖警告巡りイランを批判 「平和のため努力を****
イラン革命防衛隊高官が、ホルムズ海峡を通過する原油輸送を阻止する可能性があると警告したことについて、中国外務省の陳暁東次官補は6日、イランは中東の安定のため一段の努力を行い、隣国と良好な関係を保つ必要があるとの認識を示した。

中国にとってサウジアラビアやイラク、クウェートは最も重要な原油供給国であり、カタールは液化天然ガス(LNG)の供給国だ。ホルムズ海峡が封鎖されれば、中国経済に深刻な影響が及ぶ。

陳氏は記者会見でイランの警告について質問されると、イラン問題も含め、中東の平和について中国とアラブ諸国は緊密に連絡を取っていると答えた。

その上で「(イランは)湾岸の国であることから、良き隣人となり、平和的に共存するよう努力すべきだ」と述べ、「中国は引き続き前向きかつ建設的な役割を果たす」との考えを示した。

中国は来週、アラブ諸国との首脳会議を北京で開く予定で、習近平国家主席が10日に開幕の挨拶を行う。【7月6日 ロイター】
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ロウハニ政権が崩壊すれば、そのあとは反米保守強硬派 イランの民主化も遠のく
イランのロウハニ大統領は、IAEA(国際原子力機関)への協力に消極姿勢をとる可能性を示す一方で、この事態をなんとか乗り切る“覚悟”を示してはいます。

“ロウハニ氏はウィーンで、核合意存続に向け奔走中だ。米国の制裁について「犯罪であり攻撃」と指摘し、トランプ氏に立ち向かうよう欧州など各国に呼び掛けた。

同氏は「イランはこれまでと同様、今回の一連の米制裁を乗り切ってみせる。米国の現政権が永久に続くことは無い。ただ他国に対する歴史的評価は今日の行動に基づいて行われる」と述べた。”【7月5日 ロイター】

いずれにしても、イラン経済が非常に苦しいのは間違いないです。
イラン通貨の暴落、インフレ等の経済情勢悪化に対して、6月25日にはテヘランの大バザールで抗議行動があり、多くの店舗も閉鎖されるという異例の事態も。

“テヘランの抗議活動は各所に広がり、「シリアから撤退し、国民のことを考えろ」とか治安部隊の暴力を非難したり、ハメネイの退陣を求める垂れ幕等が出現したとしています。”【6月27日 「中東の窓】

****イランは米の圧力に屈しない=ロウハニ大統領****
イランのハサン・ロウハニ大統領は27日、米国による新たな制裁発動に備え、国民に弱気にならないよう演説で呼びかけた。経済不振が続く同国では抗議行動が広まり、イラン政府はその抑制に動いている。
 
(中略)ロウハニ氏は「賢く愛国的なイラン国民であれば、このような圧力、暴政、卑劣な言葉、そして侮辱には屈しない」と述べた。また国民に団結を求め、「米国を屈服させよう」呼びかけた。

イラン国内では政府の経済政策に不満が高まり、ここ数日にわたり抗議行動が広まっている。国際通貨基金(IMF)はイランの経済見通しに関し、核合意発表後は一部制裁の解除を受けて好転したものの、今年の国内総生産(GDP)成長率は低迷すると予測。イラン政府はふた桁台のインフレ率や失業率の高まりへの対応でも苦戦している。
 
その中で米国が新たな制裁を課すと警告したことで、ここ数カ月は下落基調にあった通貨リアルもさらに急落した。地元ビジネスも影響を受け、今週は首都テヘランにある国内最古のバザールでストライキが発生。抗議行動は各地に広まっている。
 
ロウハニ氏は演説の中で、「苦難に耐えられること、われわれの独立や民主主義、イスラムの教え、国の制度、そして信仰は手放さないことを世界に示すべきだ」と述べた。【6月28日 WSJ】
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ロウハニ大統領がどこまで耐えられるかはわかりませんが、トランプ大統領の強引な圧力が奏功して現政権が崩壊したとしても、そのあとに出現するのは、民主化や人権に消極的な反米強硬派でしょう。
何のためのイラン核合意離脱・強力な制裁再開なのか、よく理解できません。

【「二兎を追う」トランプ大統領 石油価格引き下げにこだわる背景には米国内事情も
そのトランプ大統領は、イラン原油が市場から消えることで原油価格が高騰することのないように、サウジラビアに圧力をかけてOPECの増産を求めています。

****OPEC、日量100万バレルの小幅増産で合意 7月から実施****
石油輸出国機構(OPEC)は22日開催した定例総会で、OPEC加盟国とロシアなどの非加盟国が協調し、世界の原油供給量の1%に相当する日量約100万バレル増産で合意した。7月1日から実施する。関係筋2人が明らかにした。

OPEC加盟・非加盟国がこれまでの協調減産を転換して増産に踏み切ることについては、米国による経済制裁を理由にイランが反対姿勢を示していた。

ただ、米国や中国、インドなどの原油消費大国から価格抑制や供給逼迫回避に向けた増産要求が高まる中、総会が始まる数時間前に主要産油国サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相がイランのザンギャネ石油相を説得した。

関係筋によると、ベネズエラなど最近生産が落ち込んでいた一部産油国がフル稼働に戻る見通しは立っておらず、他の産油国が不足分を埋め合わせることは認められていないことから、実際の増産量は100万バレルを下回る見通し。(後略)【6月22日 ロイター】
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価格低下につながる増産にイランが最終的に同意したのは、増産の国別配分が明確にされなかったことでイランのメンツも立つこと、もともとの減産目標以上に落ち込んでいる現在生産量が本来の減産水準に戻るだけとも解釈できること、増産を求めるロシアへ配慮したことなどが挙げられています。

トランプ大統領の方は、OPECに対しまだ不満なようで、例によってツイッター外交を展開しています。

****トランプ氏、ガソリン高でOPEC非難 「今すぐ引き下げろ****
トランプ米大統領は4日、ガソリン価格を吊り上げているとして石油輸出国機構(OPEC)を再び非難し、加盟国に価格引き下げに向けた一段の対応を求めた。

トランプ氏はツイッターに「市場を独占するOPECは、ガソリン価格が上昇していることを忘れるべきでない。OPECは助けになることをほとんど何もしていない。それどころか、米国が非常に少ない額で多くの加盟国を守っているにもかかわらず、OPECは価格を吊り上げている。これは双方向的なものでなければならない。今すぐ価格を引き下げろ!」と投稿した。【7月5日 ロイター】
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自分でイラン原油締め出しによる価格高騰を招いておいて、「下げろ!」というのもおかしな話です。
アメリカ国内のガソリン価格が上がることで有権者の反発を招くことを警戒しているのだろうか・・・とも思っていましたが、もっと明確な法的規制もあるようです。

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再三にわたり増産要請を行うトランプ大統領側にも米国防授権法の「縛り」がある。「2018会計年度」国防授権法は「イランからの原油供給が減少した場合に価格への影響が少ないことを証明しなければイランへの制裁を発動できない」としているからだ。
 
米国では夏のドライブシーズンを迎えガソリン価格の上昇懸念が高まっている状況下で、イランの原油生産減により原油価格が上昇すればガソリン価格は高騰する懸念がある。

秋の中間選挙を有利に戦いたいトランプ大統領は「イランへの猛烈な制裁」と「ガソリン価格の安定」を得たいところだが、「二兎を追う者は一兎を得ず」になりかねない。【7月6日 藤 和彦氏 JBPress「中国経済の急減速を織り込んでいない原油市場」】
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今後、原油価格がどう動くのかは、供給側・需要側双方のいろんな要因によりますが、そのあたりは今回はパスします。詳しくは上記記事で。藤和彦氏は、最大の要因として、米中の貿易摩擦激化でもたらされる中国の金融危機・急激な経済減速による石油需要減少を指摘しています。

ツイッターを利用し、原油市場を思い通りにしようとするトランプ米大統領のやり方は逆効果を招くことも。

イランのホセイン・カゼンプール・アルデビリOPEC理事は「あなたがOPECに命令し始めてからだ! そのツイートは原油価格を少なくとも10ドル押し上げた。どうかやめていただきたい。さもなければもっと上昇する!」「あなたは実際、彼らの名誉を傷つけ、主権を脅かしている。もっと礼儀を心得るべきだと思う」とも。【7月6日 WSJより】

イラン産原油を完全に市場から締め出し、一方で価格は下げろ・・・・“二兎”を捕まえることができるのか・・・どうでしょうか?

シェール革命で大幅増産したアメリカは中東石油の制約から解放された・・・とも言われていましたが、そう簡単には中東との関係は切れないようです。
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トランプ大統領の一方的イラン核合意離脱 その独善と愚行がもたらすもの

2018-05-24 22:40:45 | イラン

(イラン・イスファハンの「エマーム広場」 スカーフから前髪を出した女性も、しっかりとスカーフを被った女性も、夕暮れのひと時を思い思いに楽しんでいました。【昨年7月旅行時に撮影】)

米「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」 イラン「米は何様のつもり」】
去年、イランを旅行して目にしたのは、“神権政治”といったおどろおどろしいイメージとはかけはなれた、欧米・日本同様に自由な社会を望む人々の生活でした。(もちろん、わずか数日の観光旅行者の目でみて・・・という話ですが)

しかし、一方で、人々が集まるチャイハネ(茶店)が当局の指示で姿を消すなど、自由を求める市民の動きと、保守的勢力の微妙なバランスの上にイラン社会が成立しているようにも見えました。

8日にイラン核合意離脱を表明したアメリカ・トランプ政権は21日、ポンペオ米国務長官が核合意に代わる「新たなディール(取引)」の用意があると、新たな包括的な対イラン戦略を表明しています。

新合意の内容については、▽核計画の完全開示と永続的な放棄▽ウラン濃縮の停止とプルトニウム生産の完全な断念▽核弾頭が搭載できるミサイルの打ち上げ、拡散の停止▽テロ組織支援の停止▽シリアからすべての部隊の撤退▽近隣諸国への脅迫行動の停止など12項目の要求を挙げています。

そして、イランが要求に従わない場合は、「歴史上最強の制裁を科す」とも断言しています。

また、イランが行動で重大な変化を示した場合の「見返り」として、(1)あらゆる制裁の解除(2)外交・通商関係の完全な回復(3)先端技術へのアクセス(4)イラン経済の国際経済システムへの再統合を支援するとも表明しています。【5月22日 朝日より】

ポンペオ米国務長官は、アメリカが最終的に(イラン国民のために)イランの体制転換を求めていることを何度も示唆しています。

****対イラン強硬策、実効性は 核放棄・シリア撤退・・・米12項目要求****
トランプ米政権が21日に公表した包括的な対イラン戦略は、イランに高い要求を突きつけ、体制転換を求めていることも示唆する厳しい内容だった。

米国はイランの核開発やミサイル開発を大幅に規制する新たな国際合意を目指すが、イランは猛反発し、欧州も懐疑的で、実現は不透明だ。
 
「最後は、イラン国民が指導者を選択する」
21日に戦略を発表したポンペオ米国務長官は、米国がイランの体制転換を求めていることを何度も示唆した。

イラン国民を思いやる言葉も重ね、「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」と強調した。
 
トランプ大統領は8日、オバマ前政権下で米英仏独ロ中6カ国とイランが2015年に結んだ核合意から離脱すると表明。核合意で解除されていた制裁は8月と11月に再発動される。
 
対イラン強硬派をそろえるトランプ政権が打ち出した今回の戦略は、イランを追い込み、体制転換も排除しないものだ。

ポンペオ氏はイランに「史上最強の制裁を科す」と断言した。背景には、オバマ前政権の政治的遺産である核合意が「崩壊寸前のイランを救った」とするトランプ氏の持論がある。
 
ポンペオ氏が提示したイランへの12項目の要求には、核開発の放棄や弾道ミサイルの開発中止のほか、シリアからの兵力撤退など中東でイランの影響力を消滅させる項目が並ぶ。米国はイランにディール(取引)を迫り、見返りとして国交回復などを挙げる。
 
米国が再発動する経済制裁は、イランと取引がある他国の企業にも影響が及ぶ。だが、ポンペオ氏は「各国は(イランで)経済活動を停止しなければならない」と訴え、「米国第一」で圧力を強化する姿勢を明らかにした。【5月23日 朝日】
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こうした「イラン国民のために史上最強の制裁を科す」というアトランプ政権の姿勢に、当然ながら、イランは「何様のつもりか」と強く反発しています。

****世界は米による代理決断受け入れず」イラン大統領、米に猛反発****
(中略)ロウハニ大統領はこれに強く反発。

複数のイランメディアが報じたところによると、同大統領は文書で「イランと世界に代わって決断を下すとは何様のつもりだ」と問い、「世界は今や、米国が世界のために決断することを受け入れはしない。国にはそれぞれの独立性がある」と述べた。
 
さらにドナルド・トランプ米大統領について、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代まで「15年逆行する動き」であり、「2003年と同じ文言の繰り返し」だとその政権運営を批判した。【5月22日 AFP】
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今回のアメリカの要求は、イランにとってはのめないものであり、また、穏健派と保守強硬派の微妙なバランスの上に立つイラン政治にあっては、アメリカへの歩み寄りは保守強硬派からの“弱腰批判”に直結します。

***イラン、対決姿勢鮮明「米は何様のつもり****
(中略)核開発の完全断念やウラン濃縮の停止といった米国の要求は、核合意の修正が必要となる。だが、ロハニ師は「核合意の再交渉は一切しない」立場だ。
 
核・弾道ミサイル開発関連以外の要求も、イランにとって受け入れがたいものばかりだ。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの支援は、敵対するイスラエル牽制(けんせい)に不可欠だ。ヒズボラへの支援を続けるためにも、シリアに駐留する部隊を撤退させることはできない。
 
イランでは反米を基調とする保守強硬派が「米国の要求に屈するな」と訴えている。ロハニ師は対外融和路線を掲げる保守穏健派で、保守強硬派と対立している。米国に歩み寄る姿勢を少しでも見せれば、弱腰批判を避けられない。(後略)【5月23日 朝日】
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穏健派ロウハニ大統領としては、アメリカ抜きの核合意を欧州と維持することで、経済への打撃を食い止めたいところで、(トランプ大統領の方針が中東における核ドミノなどをもたらしかねない危険性があることに加え)イランとの現在・将来の経済関係を無にしたくない欧州側も思いは同じです。

しかし、イランと取引をした第三国の企業も対象とするアメリカの制裁措置によって、欧州がイランとの関係を続けることは困難と思われています。

フランスのエネルギー大手トタルがイランと交わしたガス田開発プロジェクトから手を引くと発表したように、すでにアメリカ市場へのアクセスを断たれるのを恐れるイラン進出欧州企業が続々とイランからの撤退をはじめています。(撤退する欧州企業の空白を埋めるのは中国だとも推測されています)

【「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった」 イラン国内にいら立ち、怒り、裏切られたという思い
国民感情レベルでみても、トランプ大統領の一方的合意破棄によってイラン国内には「アメリカに裏切られた」という思いが強く存在しており、今後経済の悪化ともに、アメリカへの反感、ひいては経済制裁解除を求めてアメリカ・欧州との核合意を進めた穏健派ロウハニ政権への失望、イラン独自路線を主張する保守強硬派的な政治雰囲気がますます強まることが予想されます。

****イランはアメリカを二度と信用しない****
<新時代の対米関係を夢見た革命防衛隊隊員は、今やアメリカの核合意離脱を悔やむ>

「アメリカはイランとの約束を守るはずだと、信じた私たちがバカだった」。そう語ったハサンは80年代の対イラク戦争に参加した、イラン革命防衛隊の元軍人。今の職業は映画監督だ。

「79年のイラン革命からもう十分な歳月が流れた。またアメリカといい関係になれると思っていたのだが」。首都テヘランの国営映画会社にある自室の電話口で、ハサンはそう言って深いため息をついた。(中略)

アメリカとの関係を変えることは可能だし、それは正しいことだと思えた稀有な時期が、こんなふうに終わってしまうのか。彼らの口調には、そもそも甘い期待を抱いたことへの後悔の念がにじみ出ていた。

今から4年前、彼らはハサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相の路線をめぐって熱い議論を重ねていた。核合意の交渉に欧州諸国とロシア、中国だけでなくアメリカも加えることの是非についてだ。

当時の彼らは、昼食時に集まって意見を交わしていた。ハサンはアメリカとの対話を支持していて、「この合意ができたら、ザリフはモサデクの再来だな」と興奮して語ったこともある。1951~53年にイランの首相だったモハンマド・モサデクは、英米に搾取されていた石油産業の国有化を推進した人物。ただし親米派のクーデターで首相の座を追われている。

あのとき、ガセムはハサンに反論して、こう言っていた。「そして結局は、同じようにアメリカに捨てられるのか」
ガセムは戦争で兄弟2人を失っていた。長兄はイラク軍の爆撃で死亡、末弟は毒ガス攻撃の後遺症で05年に死亡した。(中略)

「アメリカは中東で痛い目に遭ってきた。あんな乱暴なまねはもうできない」。ガセムにそう反論した同僚のアリは、期待を込めてこうも言った。「それに、彼らも学んだはずだ。この地域で政権転覆を目指すのは無駄だという教訓をね。ロウハニとオバマ(米政権)なら、何とか話をまとめるだろう」

筆者は14年に、革命防衛隊の隊員20人以上による議論の場に何度も同席した。当時は慎重ながらも楽観的な見方が多かった。革命防衛隊が核合意を阻止するという欧米メディアの観測に反して、実際に私の接した隊員たちは交渉に期待していた。

改革の一歩という期待
ガセムのような慎重派がいたのは事実だが、筆者の会った人の半数以上は、ハサンの「両国とも過去の遺恨を忘れるときだ」という発言に賛同していた。

年齢40代後半から50代前半の彼らは、これからは自分たちが国を背負っていくのだと自負。欧米諸国に積極的に関与し、宗教的な縛りを減らし、経済を開放する意欲に燃えていた。

筆者の目にした隊員たちは狂信的な過激派ではなく、自分の意見を自由にぶつけ合っていた。政治家や官僚の無能さを鋭く指摘し、革命以来この国を牛耳っている聖職者への批判も口にしていた。 

もちろん、全員が核合意に賛成していたわけではない。しかし80年代にイラン・イスラム共和国を守るために命懸けで戦った彼らは、革命の理想を失わずに内部から改革を進める必要性を感じていた。つまり彼らは現実主義者だった。

ハサンをはじめ、筆者が何年も対話してきた元隊員らは、イデオロギーにこだわり過ぎることのリスクを承知していた。(中略)

核合意は15年7月に成立。しかしハサンたちは、手放しでは喜べなかった。それは待望の変化への重要な一歩だったが、あいにくアメリカ側に不気味な予兆があった。

16年の大統領選挙だ。当選したドナルド・トランプは核合意の破棄を唱えていた。そしてイラン嫌いのジョン・ボルトンが国家安全保障担当の大統領補佐官となり、マイク・ポンペオが国務長官になり、ついに5月8日、核合意からの離脱を発表した。

対米関係が徐々に改善されていくことに期待していた隊員たちは、落胆するしかなかった。

大使館人質事件が遺恨
「ガセムが正しかったな。アメリカ人を信じるべきじゃなかった」とハサンは言った。

当初から核合意の先行きを危惧していたガセムも、それ見たことかと喜ぶ代わりに、こう指摘した。「仲間たちがイランの核合意を支持したときに見落としていたのは、革命でイランから追い出されたことを根に持つ勢力が米政界の主流にいる事実だ。革命直後の在イラン米大使館人質事件は、彼らにとって飼い犬に手をかまれたようなものだった。アメリカが望んでいるのは、われわれの全面降伏だ」

「どちらの国にも、新たな関係を築こうとする人はいる」とガセムは続けた。「しかしアメリカのオバマ派もイランのロウハニ派も、所詮は政界の一勢力にすぎない」

いら立ち、怒り、裏切られたという思い。14年に会い、この数週間に電話で話した彼らの口ぶりからは、そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。そして彼らは異口同音に「自分はバカだった」と漏らした。

「イランは核合意を守ってきたが、アメリカは約束を破った。それだけでなく、イランについて嘘を広めようとしている」。ハサンは、イランが秘密裏に核兵器の開発を続けているとのアメリカとイスラエルの主張に怒りを表した。

「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった。でも米国民や国際社会も、また(アメリカとイスラエルの)同じ嘘にだまされるほどバカなのか」

トランプのアメリカが今後どう出ようと、イランは欧州諸国との協調を維持すべきだ。筆者が接触してきた元革命防衛隊員たちは全員、本気でそう願っている。「しかしアメリカとの関係では、私たちは二度とバカなまねはしない」。そう言ったのは元幹部のメフディだ。

「この国の頂点に立つ老師たちは、もともと一度としてアメリカを信用したことがない。彼らは今頃、私たちを物笑いの種にしているだろうな」【5月18日 Newsweek】
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トラウマにとらわれたアメリカのタカ派が長年追求し続けている「体制転換」という現実無視の夢想
イランに圧力をかけることで体制転換が実現する・・・という発想がどこから出てくるのか?
トランプ大統領のかける圧力は、イラン国内にひろく存在した常識的・現実主義的な市民感情を押しつぶし、アメリカが夢想する神権政治的な体制へとイランを追いやるだけにすぎないように思われます。

トランプ大統領とその支持者たちのイランへのイメージは、大使館占拠事件のときのまま時が止まっているようにも思えます。そのトラウマにとらわれたイラン憎しで凝り固まっているようにも。

もちろん、イランが周辺地域にその影響力を拡大しようとしているのは事実です。ただ、それはアメリカも、ロシアも、中国も・・・どこの大国・地域大国でも行っている行為であり、イランだけのことではありません。

アメリカの圧力の結果、反米・保守強硬派の強まるイランも核合意を離脱し、核開発に乗り出すことに。
そうなればパキスタンの核開発パトロンであるサウジアラビアは核兵器の移転を求めることにもなります。(両国の間には、そのような密約があると言われています)

サウジが核兵器を保有すると、アラブ首長国連邦、クウェートなどもパキスタンから核兵器を購入し、エジプトは自力で核開発を行う・・・・中東の核ドミノが始まります。【5月20日 佐藤優氏 産経】

イランの核開発を警戒するイスラエルは、イランの核開発が成果を出す前に軍事行動に出る可能性も。
中東大乱の幕開けです。トランプ大統領の望みがそうした戦争でイランを叩きつぶすことであるなら、大成功かも。
ただ、イラン・イラク戦争を耐えたイランは空爆などでは屈服しません。イスラエル・アメリカもイランの泥沼にはまることになるかも。

****イラン核合意離脱を欲した米強硬派が夢見る愚かなシナリオ****
<イランに核兵器を持たせたくないなら、核合意を維持強化するのがベストの選択肢だった。世紀の失策をやらかしたトランプ一味の考えとその恐るべき影響は>

以前から予想されていたように、ドナルド・トランプはイランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの離脱を決定した。これはトランプ自身のエゴやバラク・オバマに対する嫉妬、強硬派の支持者やタカ派の大統領顧問たち、何より彼自身の無知に屈した結果だ。

今回のトランプの決定は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱と共に、彼の最悪の外交失策となる可能性が高い。

なぜこんなことになったのか。トランプの心の内を理解することが重要だ。

トランプは、イランが核兵器を保有するのを阻止しようとしたわけではない。もしそれが狙いならむしろ合意の維持にこだわり、最終的には合意を恒久化するために交渉する方が、はるかに筋が通っている。

そもそも、イランの核関連施設を監視し査察する国際原子力機関(IAEA)と米情報機関は、核合意に署名して以来、イランはこれを完全に遵守していると保証している。政治ジャーナリストのピーター・ベイナートが指摘するように、約束を守っていないのはアメリカのほうだ。

アメリカは信用を失った
トランプは、シリアのバシャル・アサド政権やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラを支援するイランに対抗しようとしたわけでもない。もしそれが狙いなら、イランの核兵器保有を妨げる合意を維持し、他の国々をアメリカの陣営に引き入れて、イランに圧力をかけることこそ合理的だったはずだ。

だが、核合意を成立させた多国間の連合を新たにまとめることは不可能であるばかりか、イランはアメリカと交渉する気を失くしてしまった。トランプはいずれそのことを思い知るだろう。

信用を犠牲にしてまで核合意を離脱したトランプの真意は単純だ。イランをペナルティボックスに入れて、外界との接触を断とうとしたのだ。

この点、イスラエルと米イスラエル・ロビーの強硬派、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官らタカ派の思惑は一致している。

彼らの最大の懸念は、アメリカと中東の同盟国がイランを正当な中東の大国と認めざるを得なくなること、イランが中東である程度の影響力をもつのを認めなければならなくなることだった。

イランが中東を支配しようとしている、という話ではない。イランはおそらくそんなことをめざしていないし、達成できる見込みもない。問題は、中東におけるイランの権益を認めなければならないことであり、その結果、地域の問題について話し合うときには、イランの意向も考慮せざるを得なくなるということだ。

これは、イランが国際社会から孤立した「のけ者」であり続けることを望むアメリカのタカ派にとって、受け入れがたい事態だ。

アメリカのタカ派やイランの反政府勢力が長年追求し続けているのは「体制転換」という甘い夢だ。(中略)

タカ派は、体制転換には2つのルートがありうるとみている。

第1のアプローチは、経済的圧力を強めてイランの一般国民の不満を煽り、現在のイスラム共和制が崩壊するのを期待する。第2は、イランを挑発して核兵器開発計画を再開させ、アメリカが予防的に戦争を仕掛ける口実にすることだ。

制裁による体制転換は望めない
これらの選択肢をもう少しくわしく見てみよう。(後略)【5月9日 Newsweek】
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トランプ大統領の独善と愚行は、イラン国内の自由・民主化を求める市民感情を押しつぶし、イランを反米強硬派へと走らせ、中東に核拡散の危機を招き、イスラエルを巻き込んだ戦争を惹起するだけにすぎないように思います。
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イラン核合意  5月にトランプ大統領は制裁再開・合意破棄の流れ 懸念されるイラン国内・中東への影響

2018-04-16 23:07:51 | イラン

(2017年9月、テヘランの広場に設置されたミサイル【4月10日 ロイター】 ミサイル開発は、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶を抱えるイランにとって安全保障上の“核心”であり、制限は困難とも)

5月のイラン核合意破棄に向かって突き進むトランプ政権
アメリカでは、イラン核合意に基づく経済制裁解除を継続するかどうか定期的に大統領が判断する仕組みになっており、オバマ前大統領のレガシーでもある核合意に否定的なトランプ大統領のもとで、今年1月の見直し時期も相当に危ぶまれながらもなんとか制裁再開が見送られ、かろうじて核合意が維持されました。

ただし、「これが最後だ。合意の欠陥が修正できなければ、核合意を終わらせる」とも。

****トランプ大統領 イラン核合意は維持も強硬姿勢鮮明に****
(中略)アメリカのトランプ大統領は、12日、声明を発表し、アメリカがイラン核合意に基づいて解除しているイランに対する経済制裁について制裁の再開を見送り、核合意は当面維持される見通しとなりました。

核合意に参加したヨーロッパなど関係国や、トランプ政権内部からも合意の維持を求める声が相次いでいたと伝えられていて、トランプ大統領としては、こうした意見に配慮したものとみられます。

一方で、トランプ大統領は、今の核合意は失敗だと非難し、核施設への査察の強化や、ミサイル開発の制限などが必要だと主張したうえで、「これが最後の機会だ。私はヨーロッパ諸国に合意の欠陥の修正を呼びかける。修正できなければ、核合意を終わらせる」として今後、核合意からの離脱も辞さない構えを示し、イランやヨーロッパ諸国を強く警告しました。【1月13日 NHK】
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そして、来月12日が次の見直し時期になりますが、流れは制裁再開に向かっています。

トランプ大統領は3月には、「イラン核合意などいくつかのことで意見が合わなかった」ということで、核合意維持を主張していたティラーソン国務長官を解任し解任し、後任には対イラン強硬派のポンペオ氏を起用、また、安全保障担当大統領補佐官には、マクマスター氏に代えて、かつて「イランの爆弾を止めるには、イランを爆撃せよ」と主張していたボルトン氏を起用・・・ということで、5月の制裁再開に向けた布陣を進めているようにも見えます。

ポンペオ氏は上院外交委員会で行われた指名承認公聴会で、イラン核合意の「修正」を支持する考えを示したうえで、15年の締結前にイランが核開発を「急いでいた」とは考えておらず、合意が破棄されても核開発を急ぐ状況にはならない見通しだと指摘しています。【4月13日 ロイター】

下院でも・・・

****イラン追加合意、不成立なら離脱 ポンペオ氏表明****
ポンペオCIA長官は12日、イラン核合意について「修正が米国の国益にかなうことだ」と公聴会で述べた。

マティス国防長官も下院軍事委員会の公聴会で「修正が必要だ」と発言、トランプ大統領が核合意離脱・破棄の判断期限に設定している5月12日に向け英仏独3カ国などと「追加合意」に向けた検討を続けたい考えを示した。
 
イランが2015年に米欧など主要6カ国と結んだ核合意に関しトランプ政権は、一定期間後に核開発制限が解除される「サンセット条項」の撤廃や核関連施設への査察強化などを反映した追加合意を求め、実現しなかった場合は合意を離脱し対イラン制裁を再発動する考えを示している。

ポンペオ氏は「まだ1カ月の時間が残されている」としつつ、「大統領は考えを明確に示している」と指摘した。
 
一方、マティス氏は、修正に関し「同盟国と緊密に連携している」と述べ、離脱の是非については現時点での論評を避けた。【4月14日 毎日】
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ボルトン氏は最近でも「(イラン核合意は)米国にとっては戦略上、大失敗だったと思う。表面をいじることは常に可能だが、豚に口紅を塗って実際に何か変わるのだろうか。答えは明らかに『ノー』だと思う」(3月20日、FOXニュースでの発言)と語っています。【3月24日 Bloombergより】

****トランプ米大統領、5月にイラン核合意破棄も=上院外交委員長****
米上院外交委員会のボブ・コーカー委員長(共和党)は18日放送の米CBSの番組で、トランプ大統領が5月にもイランとの核合意を破棄するとの見方を示した。

コーカー氏は「欧州の関係国が枠組み維持に本気で取り組まなければ、大統領は離脱を決めると思う」と発言した。

ロイターが確認した機密文書によると、英国、フランス、ドイツは、大陸間弾道ミサイル実験などを理由に欧州連合(EU)として新たな対イラン制裁を提案し、米国を核合意につなぎ留めようとしている。

トランプ大統領は1月、欧州関係国がイラン核合意の欠陥修復に合意する必要があり、そうでなければ制裁を再開すると表明。トランプ氏が5月12日に制裁停止措置を延長しなければ、制裁は再開されることになる。【3月19日 ロイター】
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一方で、こうした制裁再開・核合意破棄に向かう流れに反対し、核合意維持を求める声も。

****米の外交安保専門家118人 イラン核合意の維持求める声明****
(中略)トランプ大統領は、今月、ティラーソン国務長官を解任し、後任に保守強硬派のCIAのポンペイオ長官を指名したのに続いて、安全保障担当のマクマスター大統領補佐官も交代させ、後任にイランや北朝鮮への武力行使も排除しない姿勢のボルトン元国連大使を起用すると発表しました。

これを受けて、ペリー元国防長官やスコウクロフト元大統領補佐官など共和・民主の外交安全保障の専門家118人は、トランプ政権がイランの核合意から離脱するおそれがあるとして、合意の維持を求める声明を発表しました。

声明は、核合意が国際社会の監視のもとイランの核開発に厳しい制限を課していると評価しているほか、アメリカが離脱することにヨーロッパの同盟国が反対していることや、北朝鮮の核交渉にも悪影響を与えかねないことなど10の理由を挙げて、トランプ政権に核合意の維持を求めています。

声明に署名した元高官は、一連の人事の刷新で外交安全保障のタカ派色が強まり、核合意から離脱しないようトランプ大統領を説得できる側近もいなくなったとして、強い懸念を表明しています。【3月28日 NHK】
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なお、ムニューシン米財務長官は11日、トランプ米大統領が5月12日に対イラン制裁の停止措置を解除すると決定したとしても、2015年のイラン核合意からアメリカが離脱することを必ずしも意味するわけではないとの見方を米下院歳出委員会の公聴会で示しています。【4月12日 ロイター】

EU:ミサイル開発に関する制裁案協議は難航
トランプ大統領が特に問題視している、現在の核合意にミサイル開発制限が含まれていないことに関して(もともと核開発とは別物ですから)、核合意の維持を希望する欧州は英独仏を中心に、核合意とは別枠でミサイル開発制限に向けた制裁を取りまとめることでトランプ大統領をなんとかなだめようとしていますが、うまくいっていないようです。

****<EU>イラン制裁見送りの公算大 外相会議で制裁案協議へ****
欧州連合(EU)は16日に外相会議を開く。イランの弾道ミサイル開発に関連し、英独仏提示の制裁案が協議されるが、複数のEU外交筋によると合意は見送られる公算が大きい。3カ国は制裁案について、米国をイラン核合意から離脱させないための説得材料と位置付けていた。
 
トランプ米大統領は2015年に米欧など6カ国とイランが結んだ核合意に弾道ミサイル開発の制限が含まれていない点などを問題視。修正ができなければ離脱すると表明し、欧州側に再交渉を求めた。

この日のEU外相会議は、トランプ氏が設定した5月12日の期限までに加盟国の外相が公式に集まる最後の機会だった。
 
英独仏とEUは核合意とミサイル開発は「別の問題」という立場だ。また核合意本体の修正には、共に署名した中露とイランも応じる可能性が極めて低い。

このため3カ国はミサイル開発やシリア内戦でのアサド政権への支援をめぐり、イランの軍事関係者を対象にした資産凍結などの制裁案をフランスが主導して3月中旬にまとめ、EU加盟国に提示して協議を続けてきた。
 
制裁決定はEU28加盟国の全会一致が条件だが、複数のEU外交筋によると、イタリアなどが反発している。核合意に基づくイランへの制裁解除による経済便益の影響が背景にあり、トランプ氏の説得材料にならないとしてオーストリア、スウェーデンなども反対する。

英独仏は外相会議で決裂した場合でも加盟国との協議を続け、特例の手続きも視野に来月12日までに合意につなげたい意向だ。

またフランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相は今月下旬にそれぞれ米国を訪問し、トランプ氏に核合意を維持するよう説得する。【4月16日 毎日】
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イラン・イラク戦争の“トラウマ”からミサイル開発制限には応じないイラン
ただ、EUが経済制裁などを背景にイランのミサイル開発に制約を加えようとしても、イランがこれに応じる可能性は低いとも指摘されています。

日本や欧米などではあまり意識されていませんが、イランにとって深刻な“トラウマ”ともなっているのは、イラン・イラク戦争において、イラク・フセイン元大統領によるミサイル攻撃によって多大の犠牲を出しながら、イラン側にはこれに応戦するミサイルが1発もなく、どの国もイランを支援してくれなかった・・・という記憶です。

昨年7月にイランを旅行しましたが、道路わきにイラン・イラク戦争で犠牲となった若者らの肖像が延々と並んでいる光景に、そのあたりの深い傷跡を感じました。

****迫る核合意見直し期限、イランが交渉に応じない理由****
トランプ大統領が設定した5月12日の期日を控え、歴史的なイラン核合意を救うための最後の努力として、欧州各国は同政権が問題視している主要項目について集中的な取り組みを行っている。

米国が主張する最も重要な項目は、イランによる弾道ミサイル開発を制限することに「失敗」した点だ。非核ミサイル開発の継続を許したことで、この合意による核開発制限が期限切れとなった場合、イランはすぐに核弾頭を搭載することが可能だと批判派は指摘している。

フランスのルドリアン外相は先月5日、イランを訪問して同国指導部にミサイル開発を巡る交渉に応じるよう要請した。また、米国の要求を、欧州は受け入れざるを得なくなると警告した。

マクロン大統領の下、中東で積極的な姿勢を打ち出している仏政府はその2週間後、イランの弾道ミサイル開発と7年に及ぶシリア内戦関与に対し、より強硬な対応を取るよう欧州連合(EU)を促した。

これを受け、核合意に署名した仏独英3国が、イラン政府のミサイル開発やシリア情勢に関与した「人物や集団」に対する新たな制裁を提案した。

このような一連の動きは、長期的には確実に失敗するだろう。トランプ氏が国家安全保障問題担当の大統領補佐官にタカ派のボルトン元国連大使の起用を決め、米国がイラン核合意から脱退する可能性が高まったことを踏まえれば、なおさらだ。

欧州諸国がいかなる懲罰的な対応を取ろうとも、イランが、ミサイルの射程距離に表面的な「上限」を設ける以上のミサイル開発規制に同意することは考えにくい。(イラン政府はこれまで、射程距離2000キロを超えるミサイル開発を自粛すると示している。これは、何らかの軍事衝突が起きた場合に、イスラエル中心部や中東地域の米軍基地を狙える射程だ。)

イラン政府の立場からみれば、ミサイル開発は自己保存の問題だ。数十年に及ぶ西側による制裁の影響で、強力な空軍を構築できなかったという事情もある。

イラクとの長い戦争期間中に、当時フセイン大統領が率いたイラク空軍が、いかにテヘランやタブリーズ、イスファハンやシラーズといったイラン主要都市に組織的な空爆を加えたか、イラン人は今も忘れていない。

「都市攻撃」として悪名を馳せた、1984年以降の都市部に対する戦略的な空爆作戦によって、多くの市民が犠牲となった。(中略)

イラン側も、戦闘機を派遣して報復したが、空爆の防御は防空システムに、より依存していた。これを受け、フセイン大統領は次第に組織的なミサイル攻撃を増やすようになった。ミサイル装備を持たず、国際制裁下にあるイラン政府には、なすすべがなかった。

イランのザリフ外相は、ミサイル開発が国際社会との通商関係にマイナスの影響を及ぼしていることについて日本の記者に質問され、当時を振り返ってこう答えている。

「イランには、サダム・フセインを止めるために撃ち返すことのできるミサイルが1発もなかった。われわれは、国民を守るためのスカッドミサイル1発を求め、いろんな国に次々と懇願して回った。ひたすら懇願に懇願を重ねたのだ。はした金のために、イランに国民防衛を放棄せよとあなた方は言うのか」

次に、イラン政府は、トランプ政権側が核合意の約束を守らなかったと考えている。そればかりか、米側が核合意の文言と精神に反する「あいまい政策」を利用して、イランが経済的利益を得ることを積極的に邪魔しようとしたとみている。

イランのアラグチ外務次官は2月に行われた英国放送協会(BBC)とのインタビューにおいて、ミサイル開発交渉に消極的なイラン政府の姿勢を説明する中で、この点を指摘している。

「われわれはすでに、核プログラムについて交渉を行い、その合意はイランにとって成功と言えるものではなくなっている。なぜその他の問題について交渉せねばならないのか。特に、われわれの国家安全保障に直接絡む問題について」と、同次官は話した。

イランと西側の数十年に渡る根深い不信と制度化された敵意により、イラン指導部は、譲歩や妥協をすればするほど、相手は前進し要求してくると確信するようになっている。

この確信は、イランの最高指導者ハメネイ師の演説にも繰り返し登場しており、特に国家安全保障分野のイランの政治決定プロセスにおける政治心理に入り込んでしまっている。

イラン政府が一般的に、国内の抗議活動や外国からの圧力に対して譲歩したがらないのは、これが一因だ。彼らの観点では、妥協はさらなる妥協につながり、目の前の政治問題だけでなく、政権の存続までもが救済不可能なまでに脅かされかねないのだ。

米政権が要求する通りにイランのミサイル規制を核合意に盛り込んだり、欧州が望むように別のミサイル合意を交渉したりすることで、核合意を存続させられるとは、極めて考えにくい。イラン政権と軍当局は、イランの「ミサイルと防衛力」についての交渉はありえないとの立場でほぼ一致している。

仮に国際圧力を受けてイラン側が交渉に合意したとしても、イランのミサイル開発の「質的」な制限や削減に至る交渉が出来ると期待するのは、甘く非現実的な考えだ。【4月10日 ロイター】
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合意破棄で、イラン国内では経済混乱・保守強硬派台頭・遠のく民主化 国際的にはサウジの核開発、イスラエルの軍事リアクションを誘発
イラン・ロウハニ大統領は、トランプ大統領が核合意離脱を決めた場合、イランは即座に核開発を再開させる決意を表明しています。

****イラン ロウハニ大統領 合意破棄には即座に対抗****
(中略)イランのロウハニ大統領は9日、首都テヘランで演説し「イランは最初に合意を破る国にはならない」と述べて、イランとしては合意を順守していく考えを改めて示しました。

そのうえで「仮に合意が破棄された場合には1週間とたたないうちに対応する。彼らは後悔することになる」と述べてアメリカが合意から離脱した場合即座に対抗措置をとる考えを示しました。

具体的に措置の内容については言及しませんでしたが、イランの原子力庁の責任者は地元メディアに対し「高濃縮ウランの製造は、4日間で再開できる」と述べ、核兵器の開発につながる高濃縮ウランの製造再開の可能性にも言及し、トランプ政権をけん制しました。【4月10日 NHK】
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個人的に懸念するのは、対イラン制裁再開でイラン経済が再び混乱し、結果的にロウハニ大統領など核合意を進めた穏健派が国民支持を失い、保守強硬派が発言力を強め、イランの民主化・自由拡大がさらに遠のくことです。

****イランの通貨が下落 過去最低水準に トランプ大統領の圧力で****
アメリカのトランプ大統領は、イランが核開発を制限する見返りに、制裁を解除するとした核合意について、来月にも合意から離脱し、制裁を再開するかどうか判断を示すとみられています。

こうした中、イランの通貨リアルは下落を続け、今週1ドル=58000リアルほどと過去最低の水準を記録し、ドルに対する価値は1年前に比べて60%ほど下がっています。

イラン中央銀行は10日、混乱を避けるために、リアルの市場での為替レートを固定する措置を発表し、ドルの販売が一時的に停止されました。

テヘラン市内の両替所ではドルを買い求める大勢の人が長い行列を作り、会社員の男性は「ドルが必要ですが、いつ入手できるかわかりません」と話していました。

また、輸入品を中心に物価の上昇が続き、市民生活にも影響が出ています。

トランプ大統領は、閣僚や政権幹部に対イラン強硬派を新たに起用するなど圧力を強める構えを示しており、イラン国内では経済の不透明感が増しています。【4月11日 NHK】
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国際的影響としては、イランが核開発を再開させればサウジアラビアも核開発に乗り出すことがあります。
ムハンマド皇太子は、3月の訪米の直前、CBSとのインタビューで「サウジは原爆の保有を望まないが、イランがそれを開発する場合は我々は間違いなく可能な限り早期に開発する」と述べています。

また、イランの脅威を安全保障上の最大問題とするイスラエルが、イランの核開発再開を座視すrとも思えず、何らかの軍事的アクションが予想されます。

これらにより、中東情勢はその不安定度を一気に高めることになります。
それでも、トランプ大統領はやるのでしょう。中東がどうなろうが気にもしていませんので。

シェール革命でアメリカの中東依存度が低下したこともありますが、もともとトランプ大統領が関心を示すのは、オバマ前政権と違うことをやって支持者にアピールすること、それに(コミー前米連邦捜査局長官によれば)ロシアに握られているされる売春婦との放尿プレイ動画のことぐらいのようですから。
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イラン  自由を求める女性・若者と体制の間の、権力をめぐる体制内部の“せめぎ合い”

2018-02-03 22:02:24 | イラン

(ヘジャブを掲げて抗議する女性。テヘラン市街とみられる(ツイッターから)【2月3日 産経】)

スカーフ着用強制、男性スポーツ観戦禁止への抗議
最近、イスラム支配体制のイランで話題になっているのが、イスラムの象徴とも見られることが多い女性のスカーフ着用強制への女性からの抗議の声です。

****頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」脱いで抗議 SNS投稿相次ぐ イラン、改革と秩序どう両立****
イスラム教シーア派の最高指導者が統治するイランで、「ヘジャブ」(頭髪を覆うスカーフ)を脱いだ写真などをソーシャルメディアに投稿する女性が相次いでいる。

1979年のイスラム革命以降、女性のヘジャブ着用が義務づけられていることへの抗議の意思を示したものだ。社会の秩序維持と、変革を求める女性の声をどう両立させるかが問われている。
 
今回の動きは首都テヘランで昨年12月、31歳の女性がヘジャブを脱いでいる写真を公開したのが発端。人通りの多い街頭で、素顔のままヘジャブを結びつけた棒を持った写真が、ソーシャルメディア上で拡散した。
 
ロイター通信によると、約30人の女性が、同様の行為を行って逮捕された。31歳の女性は数週間、当局に身柄を拘束されたもようだ。
 
女性の社会との関わりをめぐっては、世界で唯一、車の運転を認めていなかったサウジアラビアが、今年6月にも解禁する方針を打ち出した。一部の女性が車の運転席に座った写真などをインターネット上に公開し、解禁を求めてきた。
 
サウジでは女性は全身黒ずくめの服の着用を義務づけられているほか、就職や結婚、旅行に際しても男性の後見人の許可が必要とされ、むしろイランよりも厳しいルールがある。
 
イランとサウジは、シリアやイエメンの内戦などで互いに牽制(けんせい)し合う“代理戦争”を展開している。サウジの場合、次期国王と目されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の意向を反映した結果とみられている。
 
その一方で、皇太子は国内の社会改革に前向きとされ、米紙ニューヨーク・タイムズは昨年12月、イランとサウジの政府が女性の自由拡大という側面でも競い合う可能性があると指摘し、歓迎する識者の寄稿を掲載した。【2月3日 産経】
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社会的自由を求める女性の動きとしては、“ライバル”サウジアラビアでは一部解禁となった女性のスポーツ競技場での観戦に対する要求も。

****男装した女性のサッカー観戦相次ぐ 付けひげも イラン****
女性が男性スポーツを競技場で観戦することが原則として禁じられているイランで、男装した女性の観戦が相次いでいる。

地域の覇権を競うサウジアラビアでは女性の観戦が解禁されたばかり。ネット上には「イランではなぜだめなのか」と解禁を求める声が上がっている。
 
地元メディアによると、ザフラと名乗る女性は昨年末、首都テヘランであった男子プロサッカーの試合をニット帽と付けひげで男装して観戦。「ひいきチームの試合を生で見られなかったら一生後悔する。男装観戦をやっている人がいるとネットで知り、勇気をもらった」と語った。
 
イランでは先月下旬、若い女性が付けひげなどで男装し、男子プロサッカーを観戦する様子がSNSに投稿されて話題になった。以来、主催者側は警戒を強化。12日に北東部マシュハドであった試合では、観戦しようとした男装女性2人が警備員に止められた。
 
イランでは1979年のイスラム革命以降、人気のある男性スポーツを女性が競技場で観戦することができなくなった。禁止する法律はないが、痴漢や暴力を受けるのを防ぐための措置という。
 
一部の国会議員は解禁を求めているが、「社会的な優先事項ではない」(イランサッカー連盟)と消極的な声も強い。【1月15日 朝日】
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止められない外部からの情報流入
昨年7月に1週間ほどイランを観光しましたが、そのときの印象としては、イスラム支配体制という政治の枠組みに比べ、普通の一般国民の生活ぶりは、ワインなどたしなむ人も少なくないとか、モスク近くの住宅はアザーンが“うるさい”ので比較的安いとか、男性乗車の乗合タクシーに女性客が乗り込んできたりとか、イスラム的制約にあまり縛られていないような雰囲気も。(もちろん、ほんの数日の物見遊山の印象にすぎませんが)

そうした生活スタイルを後押ししているのが、メディアやネットを通じた外国の情報でしょう。

下記記事は、先ごろの反政府抗議行動において、革命前の“王政”を懐古する若者たちがいたことに関し、その背後に外国メディアの意図的戦略がある・・・との内容ですが、“王政懐古”云々はともかく、現代社会にあっては海外からの情報を遮断して、特異な社会秩序を維持するというのは至難の業であることは確かでしょう。

****イラン王政懐古の掛け声は衛星波に乗って広がる****
<革命から39年、王政時代に憧れる若者たち。その裏に亡命者の思惑と巧妙なメディア戦略が>

「革命を起こしたのは間違いだ!」「レザ・パーレビ!」

パーレビ王朝を打倒した1979年のイラン革命から今年1月で39年。昨年12月28日に発生しイラン各地に飛び火した反政府デモで、参加者の一部からは故モハマド・レザ・パーレビ元国王の長男の名前を叫ぶ声が上がった。

レザ・パーレビ元皇太子は57歳の今も亡命先のアメリカで暮らしており、今さら王座に返り咲くとは思えない。一方、イランのデモ参加者の大部分は20代以下――つまり自分が知らない王朝の復活を要求しているわけだ。

彼らの真剣さを疑うわけではないが、政治的見解については説明が必要だろう。なぜいま若者たちはパーレビ王朝復活を求めているのか。

原因は一言で言えばテレビ、とりわけ亡命イラン人による衛星放送のせいだ。

革命当初の亡命者はほとんどが国王の支持者で、彼らの多くがロサンゼルスに住み着いた。1990年代前半から、こうした亡命者の一部は祖国に向けて放送を開始した。

政府は当初、必死に放送をブロックしようとした。警察や治安部隊が民家を強制捜索。屋根やベランダや居間にこっそり設置された衛星放送受信アンテナを探し出して没収した。

しかし90年代後半〜2000年代前半に受信アンテナの低価格化・小型化が進み、エリート層でなくても購入でき、隠れて設置しやすくなった。しまいには当局が検挙し切れないほど普及。地元メディアによれば、総人口の70%以上が衛星テレビを視聴しているという。(中略)

最高指導者アリ・ハメネイは、欧米と亡命者がイランに対し、主にメディアを武器にして侵略する「ソフトウォー」を仕掛けていると繰り返し主張。このメディアによる侵略に新たな番組編成で反撃するよう、保守派民兵組織バシジと国営メディアに指示している。

だが視聴者を引き付けているのは、味気ない国営メディアではなく、外国の放送チャンネルだ。14年、国営文化交流センターの責任者は次のように語った。「国営テレビはつまらなくて壁に頭をぶつけたくなる。どのチャンネルでも年取った聖職者がどう生きるべきかを説教している。若者が見なくても責められない。私は現体制を支持し、イラン・イスラム文化の促進に努めているが、その私だって見やしない」

コンテンツは欧米並みに
イラン向けの衛星放送は始まって20年以上になるが、劇的に変わったのはこの10年だ。(中略)09年の英BBCペルシャ語放送の登場を皮切りに、イラン向け衛星テレビ局の質は変わった。

現在では欧米並みの高水準が当たり前のようになっている。だが何より重要なのは、コンテンツが劇的に向上したことだ。想定する視聴者層にアピールするパーレビ王朝寄りのニュースや娯楽番組がついに提供されようとしている。(中略)

それが特に顕著に表れているのが(ロンドンからの衛星放送で多くの視聴者を獲得している放送局)マノトの娯楽番組だ。リアリティーTV、ゲーム、歴史ドキュメンタリーなど多彩なラインアップで、10年以降は革命前のイランを賛美する傾向を強めている。

「古きよきイラン」を演出
なかでも昨今の王政回帰ムードを理解するカギといえる番組が『タイムトンネル』。『ニュースルーム』の人気司会者の1人を進行役に古い記録映像やドキュメンタリー、写真などを使って革命前のイランを描き出す。革命以前の文化をノスタルジックに見せる。ベールから解放されたミニスカートの女性たち。ナイトクラブとアルコールとダンスがあふれる音楽シーン......。要するに、革命を境に禁じられ、特に若者が待望している側面を見せるのだ。

決め手は、『タイムトンネル』が批判をしないことだ。見終わったときには、イランの何もかもが完璧で穏やかで、何より楽しいと思えた時代への憧れしか残らない。当時の抑圧や格差の蔓延には一切触れない。視聴者を「何もかも完璧だったのに、なぜ革命なんか起こしたんだ」という気持ちにさせる。(中略)

それでもイスラム共和制を取る現政権が国内の野党勢力を弾圧していなければ問題はなかっただろう。反政府派と野党指導者のほとんどが逮捕されたか亡命を余儀なくされ、保守派と改革派の膠着状態が長期化するなか、若者たちは現体制に代わる選択肢に飢えている。

たまたま手近にあった唯一の選択肢が、パーレビ王朝の復活を待ちわびるニュース・娯楽産業だったというだけの話だ。【1月30日 Newsweek】
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先述のイラン旅行の印象で言えば、イスラム革命が否定したはずの革命前のパーレビ王朝時代の国王宮殿などが、(特に、批判めいた形ではなく)ごく普通に“きれいで豪華な施設”として公開されていることが不思議に思えました。

イランにとってイスラムは歴史的には“比較的新しい流入文化”であり、イラン人のアイデンティティーの根幹をなすペルシャ帝国以来の連綿たるイラン・ペルシャの栄華を否定することは、イスラム支配体制としてもはばかられるということでしょうか。

根底には経済的困窮への不満
“王政懐古”はともかく、イランの若者を、一か月前の抗議運動に噴出したような体制批判に向かわせている背景、一部には革命全の過去に憧憬を抱かせている背景に、現在の経済的困窮への不満があることは言うまでもないところです。

****イラン反政府デモから1カ月】制裁にあえぐ経済、民衆困窮 政権「反米」目くらまし****
・・・・物価高への不満を機に始まったデモは全国80の都市や町に広がった。治安部隊との衝突で20人以上が死亡し、約4千人が一時拘束されたとの情報もある。イランの失業率は約13%だが若年層に限れば30%近いとされる。
 
政権は来年3月までに90万人分の雇用を創出すると述べ、国民の声に耳を傾ける姿勢を示した。
 
欧米諸国はイランに数々の経済制裁を科してきた。核・ミサイル開発疑惑だけでなく、中には人権侵害をめぐる制裁もある。トランプ米政権が2015年締結の核合意の破棄をちらつかせる中では、海外からの投資の急増は期待できず、自国で経済のてこ入れを進めるしか手はない。
 
しかし、ロウハニ大統領が切れるカードは少ないようだ。最高指導者直属の革命防衛隊や、宗教慈善団体「ボンヤード」などが国内のビジネスに深く関与し、実に国内総資産の6割を支配していると推計する識者もいる。こうした組織は税金を免除されている上、競争を嫌って起業や雇用創出を阻んでいるとされる。
 
政権は「反米」を叫ぶことで、汚職や腐敗といった問題から民衆の目をそらせる狙いとみられる。デモで批判のやり玉に挙がった穏健派のロウハニ大統領の求心力が落ち、反米が主体の強硬派が影響力を拡大すれば、米国との対決色がさらに強まる公算が大きい。【1月31日 産経】
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【“欧米の扇動”を警戒する体制側
体制側は、体制批判につながるアメリカなど外国の影響が国民生活において強まることを警戒しており、“小学校での英語教育を禁止する”という反応も。

****<イラン>小学校で英語教育禁止へ 西側の影響力警戒****
イラン政府は今月に入り、小学校での英語教育を禁止する方針を明らかにした。指導部は、幼い時期から子供に英語を教えることが「西側による文化侵略」につながるとの見解を示したという。ロイター通信などが伝えた。

イランでは昨年12月28日から約1週間、全土で反政府デモが起き、指導部は「欧米が扇動した」と主張。政権側が一層、米国などの影響力に警戒を強めている模様だ。
 
イランでは中学校に入学する12歳ごろから英語を学ぶのが一般的だが、一部は小学校で開始し、富裕・中間層では子供を英語塾に通わせる家庭も珍しくない。

英国留学経験者の保守穏健派ロウハニ大統領は「英語は就職に役立つ」と推進の立場だったが、今回の決定について「止める力はなかった」(英BBC)と報じられている。
 
一方、反米の最高指導者ハメネイ師は近年、一部の保育園にまで英語教育が導入されている現状に否定的で、度々「西洋文化の浸透」につながると指摘。一方で外国語教育そのものには反対せず「スペイン語やフランス語、東洋の言語も学ぶべきだ」と述べていた。(中略)

ハメネイ師を支える精鋭軍事組織・革命防衛隊の幹部らは「米国などがデモ隊を扇動した」と主張。今回の英語禁止の背景には、欧米思想の若年層への過度な浸透を防ぎたい指導部の思惑があるとみられる。【1月12日 毎日】
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体制内部の権力闘争 次期最高指導者をめぐる争いも
イランの場合、“体制側”とか“政権”と言っても、改革派も支持する保守穏健派のロウハニ大統領などの勢力と、ハメネイ氏周辺・革命防衛隊・イスラム聖職者などの保守強硬派では全く立場が異なり、また、保守強硬派内部にあってもハメネイ氏周辺とアフマデネジャド前大統領は激しく対立している・・・といった分裂・抗争状態にあります。

そのあたりの権力闘争が、一か月前の抗議行動の勃発・拡散に関係していると言われています。

****イラン最高指導者「後継」巡る暗闘劇****
抗議デモが映した権力争いの混沌
イラン全土を抗議デモが覆う三カ月前のことだ。
ニュースサイト「アマドニュース」に、驚愕の一報が載った。イラン司法府長官で、最高指導者アリ・ハメネイ師の後継候補の一人、サデク・ラリジャニ氏の娘が、英国のスパイとして逮捕されたというのだ。首都テヘランの権力者、政治家は大慌てで確認に奔走し、一時は当局が「ラリジャニ一家に疑惑はない」と声明を出した。(中略)

首都を揺るがせたスパイ事件
父サデク氏は、「アヤトラ」の称号を持つ高位聖職者で、今年三月に五十八歳になる。ハメネイ師の側近である上に、兄はアリ・ラリジャニ国会議長。ハメネイ師の最高顧問であるジャヴァド氏ら他の三兄弟も要職に就き、ラリジャニ五兄弟は、「兄弟強盗団」と陰口をたたかれるほど羽振りが良い。
 
このため、少なくとも体制派政治家の間では間もなく、ひそひそ話で交わされる程度になった。
 
だが、マフムード・アフマディネジャド前大統領だけは違った。十一月中旬、自らの側近二人を連れて、テヘラン郊外の「シャー・アブドルアズィーム廟」に記者を集めて、「ラリジャニ家の全員がスパイだ」と大演説をぶった。
 
アフマディネジャド氏とラリジャニ兄弟は過去数年、不倶戴天の敵で、公衆の面前で怒鳴り合ったこともある。(中略)

前大統領は昨年の大統領選に出馬しようとして、護憲評議会の審査で失格とされた。(中略)
 
傷に塩を塗るような前大統領の粘っこい批判に、兄弟はただちに反撃。政府系メディアを使って、前政権時代の汚職、腐敗の数々を改めて国民に想起させた上、巨額横領で死刑判決が確定している、前大統領の盟友ババク・ザンジャニ死刑囚の「死刑執行間近」といったニュースをうたせた。(中略)

年末年始のイランを襲った全土での抗議デモは、この(ハメネイ師のアフマデネジャド批判)講話の翌日に始まった。

イラン・ウォッチャーの多くが、「デモを始めたのは、マシュハドの高位聖職者アフマド・アラモルホダー師で、アフマディネジャド派が間もなく便乗した」と一致した見方を示すように、抗議は当初、改革派ロウハニ大統領に抗議する保守派のデモだった。
 
今回の震源地マシュハドは、昨年の大統領選をロウハニ氏と争った、エブラヒム・ライシ師の地盤で、アラモルホダー師はライシ師の義父。抗議デモ開催にはライシ師も画策に加わったようだ。
 
きっかけは、ハメネイ講話と同じ日に、テヘラン警察が「女性のベールの巻き方が悪くても、いちいち逮捕拘束はしない」と発表したことだ。マシュハドの保守強硬派はこのニュースに反発して、ロウハニ政権に抗議したのである。
 
アフマディネジャド氏は(中略)自宅軟禁状態にあると見られ、イラン当局はデモが収束した後の一月六日になって、「前大統領逮捕」を発表した。

デモの波には実際に政府に不満を持つ若年層も加わり、死者は二十人を超えたが、二〇〇九年の「緑の革命」に比べると、格段に保守的要素が濃く、体制内の暗闘の性格があった。
 
米ジョンズ・ホプキンス大学上級国際関係大学院のヴァリ・ナスル学長は、「テヘランの大衆が大挙して加わらなかったことで、今回のデモはイラン政府にとって脅威にはならなかった」と言う。

次々と消える有力後継候補
注目すべきは、前大統領とラリジャニ兄弟の抗争や、ライシ師の暗躍がすべて、ハメネイ師の後継に向けた権力者同士のせめぎ合いであることだ。
 
最高指導者は今でも元気に「反米・反トランプ」を語り続けるものの、「病弱」説は絶えない。しかもハメネイ師が望んだ後継候補は、次々に消えている。(後略)【「選択」 2018年2月号】
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最高指導者の後継者争いもさることながら、イラン核合意に関し、1月12日に“合意違反を理由とした制裁の再発動を見送る”と発表したトランプ大統領は「これが最後のチャンスだ」と言っていますので、次回の報告時期の5月に向けて、アメリカの合意破棄の動きが現実になれば、イランの政治体制も大きく揺らぐことになります。
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イラン  収束しない抗議行動 体制批判に先鋭化 武力鎮圧の懸念も

2018-01-03 22:43:44 | イラン

(【1月2日 WSJ】非常に印象的な写真ではありますが・・・・)

政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点に
イランにおいて、核合意後も物価・失業などの経済困難が改善しない状況に対する不満が噴き出す形で始まった抗議行動が、イスラム支配の体制批判に先鋭化している状況については、12月30日ブログ“イラン 異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領”において取り上げました。

混乱は犠牲者増加を伴って拡大しており、収束にはいたっていません。

****<イラン>デモ死者21人に 全土に拡大、首都450人拘束****
イランで昨年12月28日に始まり全土に広がった反政府デモで、当局側との衝突による死者は今月2日までの6日間で少なくとも21人に達した。

警察官にも死傷者が発生。デモ隊などの拘束者は首都テヘランだけでも450人に上る。AFP通信などがイラン国営メディアの情報として報じた。

騒乱は収束の気配が見えず、イスラム体制打倒の主張や治安施設の襲撃も発生。体制護持が任務の「革命防衛隊」などが強硬な鎮圧に転じれば、反発で抗議活動が激化する懸念もある。
 
イランからの報道によると、死者は西部ツイセルカンと中部ガデリジャンで各6人、中部シャヒンシャハルで3人、西部ドルードで2人、南部イゼーで1人。中部ナジャファバードでは警官1人がデモ参加者に猟銃で撃たれ死亡し、3人が負傷した。今回の騒乱で治安当局者の死亡は初めて。
 
デモ隊の一部は暴徒化している。警察署や行政施設に投石を繰り返し、警察車両にも放火。治安部隊は催涙ガスや放水で鎮圧を図っている。また、政府はソーシャル・ネットワーキング・サービスを制限し、情報統制を強化している。
 
デモは最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど、反体制的色合いを強めている。ロウハニ大統領は31日「国民は政府を批判しデモをする権利があるが、暴力や公共施設の破壊は許容できない」と自制を呼びかけたが、効果は出ていない。
 
イランは1979年の革命で親米派の国王を追放。現在は政教一致の厳格な体制下、宗教的な権威の最高指導者が政治の広範な権限を握る。今回のデモでは王政時代を懐かしみ、一部で「シャー(国王)復活を」との声も上がったという。
 
イランでは2009年、大統領選で敗れた改革派候補の支持者らによる反政府デモを治安当局が鎮圧し、数十人が死亡。今回はそれ以降で最大規模の衝突となった。若年層の失業率が3割近くと高く不満が高まっていた。デモ隊は今回、シリアやイエメンの内戦など中東各地の紛争への政府の介入も非難し、「国内を見ろ」とも訴えている。【1月2日 毎日】
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政権は、革命防衛隊や民兵などによる武力鎮圧にはまだ踏み込んでいません。

****見えぬ打開策…武力弾圧踏み切るか****
イランで物価高への不満を機に起きた反政府デモは、大統領選の不正疑惑に端を発した2009年のデモ以降では最大規模となった。このときはデモの主導者がおり民衆の要求も明確だったが、今回は国のかじを取る中枢へと不満が拡大した上、各地でデモが同時多発的に進行している形だ。

打開策が見えない中、政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点になってきた。(後略)【1月3日 産経】
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今回の抗議行動の様相・性格等については、以下のようにも。

****イランの反政府デモ、知っておくべき5つのこと****
先月28日にイランの各地で始まった反政府デモ。市民は40年近く続いてきた宗教指導者による支配に反発を強めている。
 
2009年大統領選の結果に対する暴動以来で最も広範かつ規模が大きい今回のデモで、参加者は政権交代を求めている。イランにはイラク、レバノン、シリア、イエメンといった中東諸国に対する大きな影響力があるので、政権交代となれば広範に大きな波紋が広がる可能性がある。
 
イラン反政府デモに関して知っておくべき5つのポイントをまとめた。

1. デモはどのようにして始まったのか
昨年9月以来、経済的不満が焦点だった小規模かつ散発的なデモはイランの複数の都市で広がってきた。人々は各地で汚職疑惑、宗教法人への予算配分、退職基金の破綻などに抗議してきた。
 
12月28日、イラン北東部の都市マシュハドでは、インフレやロウハニ大統領が経済的繁栄をもたらすという約束を破ったことへの怒りを表現するために人々がデモ行進した。

イラン国民はロウハニ政権と欧米など6カ国との核合意によってイランの孤立が終わり、外国からの投資、雇用創出、購買力の増加などがもたらされると期待していた。核合意を受けてイラン経済は成長したものの、政府のデータでは失業率が約12.5%、インフレ率が10%近くとなっている。
 
そうしたデモのニュースはテレグラム、ワッツアップといったイランで人気のソーシャルメディアで拡散された。すると数時間のうちにケルマーンシャー、イスファハン、テヘランなど、他の都市でも抗議行動が起きた。

2. デモ隊は何を要求しているのか
デモ隊は従来からある改革への要求を越え、政権交代と最高指導者ハメネイ師の退任を要求している。
 
テヘランではデモ隊がハメネイ師の壁画に向かって「死んでしまえ」と叫ぶ場面もあった。地球上での神の代理人と考えられているハメネイ師をあからさまに批判することは死刑に相当する罪である。

3. デモ隊はどういったスローガンを唱えているのか
イラン国民はペルシャ語で詩の一節であるかのように韻を踏んだ政治スローガンを作ることに長けている。
デモ隊が唱えているスローガンの一部は以下の通り。
 「われわれはイスラム共和国を求めていない、そんなものは求めていない」
 「彼らはイスラム教を人々を狂気に追いやる言い訳に使っている」
 「独立、自由、イラン共和国」
 「改革主義者よ、原理主義者よ、ゲームは終わった」
 「われわれは皆イラン人だ、アラビア人ではない」
 「われわれは貧しくなっているのに、イスラム教聖職者は高級車に乗っている」

4. 政権はどう反応したか
機動隊や私服の民兵がイラン各地の街に繰り出したが、取り締まりは以前の抗議デモよりもかなり緩くなっている。
 
一部の政府高官は経済的不満について、政府が対処する必要がある正当なものだと認めるなど、従来とは異なる方針も取っている。

それと同時に、抗議活動を乗っ取って政情不安を扇動しているのは外国メディアや亡命中の反体制派リーダーなど外的な力だとも主張した。

5. 抗議デモはどこへ向かうのか、米政権はどう反応するのか
イランでの抗議デモは、リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する傾向がある。抗議デモが長引けば、政権は大量逮捕や軍による封鎖などでその取り締まりを強化するかもしれない。
 
ドナルド・トランプ米大統領はツイッターへの投稿で、イランで起きていることには世界が注視していると述べ、デモ隊への支持を表明した。ポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)やトム・コットン上院議員(共和、アーカンソー州)らもイラン国民との連帯を表明した。
 
イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。【1月2日 WSJ】
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体制批判を強める抗議行動 ロウハニ大統領の立場は?】
TVニュース映像では、最高指導者ハメネイ師の肖像を群衆が踏みつけにするなど、行動は過激化してもいるようです。

体制側が管理しづらいソーシャルメディアで拡散した今回の抗議行動ですが、“リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する”という限界もあります。

イスラム支配体制の閉塞感に不満を感じている国民がすくなからず存在するのは事実です。
昨年7月にイランを旅行した際にも、そのあたりは感じました。

ある者は「イランはイスラムではない」とも。その言わんとすることは、イランのアイデンティティーはペルシャ以来の歴史・文化にこそあるのであって、イスラムは数百年前にイランに入ってきたものでイランの本質に根差すものではない・・・ということでしょう。

実際、一介の旅行者の目からしても、イスラム支配体制という割には、イスラムがそれほど目立たないような印象も受けました。

ただ、そうしたイスラム支配体制に距離感を感じる一般国民が動かない限りは、体制の変革はなかなか実現しないようにも思えます。

体制批判があからさまに叫ばれる状況で、穏健派ロウハニ大統領の立場は微妙です。

ロウハニ大統領は、前回ブログでも取り上げたように、抗議行動が起きる直前に、「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけていました。

****イラン大統領、デモに自制促す=批判と暴力「違う****
イランのロウハニ大統領は12月31日、国内各地に波及している反政府デモに関連し「国民は憲法に則して自由に政府を批判したり、抗議したりできる。だが、暴力や公共物の破壊行為は批判とは異なる」と述べ、デモ隊に自制を促した。閣議での発言を国営メディアが伝えた。
 
28日に始まった反政府デモに大統領が反応を示したのは初めて。デモ隊は、当初の経済苦境に対する不満への抗議にとどまらず、最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど「イラン革命体制」への批判も強めてきた。抗議行動が収拾に向かうかは不透明だ。
 
首都テヘランでは31日も200人規模のデモが行われた。大量拘束の情報も伝えられる。
 
また、ロウハニ大統領は閣議で、トランプ米大統領が「抑圧的な体制が永遠に続くことはあり得ない」とツイートしたことに反論。「イランという国家を敵視する男がイラン国民に共感する権利はない」と強く反発した。【1月1日 時事】 
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混乱が収束したのちに、体制批判ともなった混乱の責任を問われる事態も想定されます。

ただ、今回の抗議行動の発端は、保守強硬派側の“仕掛け”によるものとの指摘もあります。

“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】

“発火点は先月28日、北東部マシャドで起きた反政府デモだった。イランで信仰されるイスラム教シーア派の聖廟があるマシャドには、昨年の大統領選で穏健派のロウハニ現大統領の対抗馬として保守強硬派に支持されたライシ前検事総長が、管理を任された宗教関連財団もある。
 
このため、欧米メディアでは当初、ライシ師と関係が深く国内に大きな影響力を持つ革命防衛隊が、ロウハニ師の求心力を弱体化させるため、取り締まりの手を緩めたとの観測が出た。”【1月3日 産経】

そうした背景がイラン政治において、どのように扱われるのか?

そもそも、核合意後も物価・失業が改善しないことの批判をロウハニ大統領は受けていますが、そうした経済状況の背景には、前回ブログでも触れたように、アメリカ・トランプ政権のイラン敵視政策があります。

それに加え、保守強硬派を支える革命防衛隊や宗教関連団体が経済を牛耳る構造も大きな原因としてきされています。

“ロイター通信に識者が語ったところでは、革命防衛隊や宗教関連団体は国内資産の6割に関与しているとされ、経済改革の大きな障害になっており、ロウハニ師が打てる手段はほとんどないとしている。同師への民衆の期待がしぼみ、反米を掲げる保守強硬派が大統領の“失政”を批判し続ければ、経済改革の実現がますます遠のくという悪循環に陥る事態も予想される。”【1月3日 産経】

アメリカなど“イランの「敵」”によって扇動されていると責任転嫁する体制側
一方、体制側は、“暴動”の背景にはアメリカなど外国勢力の画策があるとしています。

****イラン最高指導者、デモは「敵」のせいと非難 米は国連会合要請へ****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2日、同国各地でこれまでに21人が死亡した反政府デモの責任は「敵たち」にあると非難した。一方、デモへの支持を表明している米国はイランに対する圧力をさらに強め、国連(UN)での緊急会合開催を要請する方針を示した。
 
ハメネイ師は国営テレビで放送された演説で、先月28日に始まった抗議行動について沈黙を破り、「敵たちが団結し、あらゆる手段、金、兵器、政策、保安機関を用いてイランに問題を生み出そうとしている」「敵は常に、イランに侵入し攻撃する機会と隙を狙っている」と非難した。
 
今回の反政府デモや、同デモを支持する米国の姿勢については、2009年に行われた大規模な抗議運動を支持した改革派からも批判の声が上がっている。
 
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、イラン反政府デモの問題について国連安全保障理事会と国連人権理事会での緊急会合の開催を求めていくと言明。さらに、抗議行動がイランの「敵」によって扇動されたというハメネイ師の主張について、「完全なたわ言」だとはね付けた。【1月3日 AFP】
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イランメディアは以下のようにも。

****イランが、同国での最近のデモに関するアメリカの内政干渉的な発言を非難****
イラン国連代表部が声明を発表し、イラン国内で最近発生した暴動や騒乱を支持するという、アメリカの政府関係者の内政干渉的な発言を強く非難しました。

イルナー通信によりますと、イラン国連代表部は2日火曜、この声明において、イラン国内で最近発生した暴力行為や放火などの行為をアメリカが支持したことは、アメリカとこれに同盟する地域諸国の政策の失敗を隠蔽するための工作であるとしています。

また、「アメリカによるこうした発言は、地域におけるアメリカとその地域同盟国の地域での失敗を隠蔽するためのものであり、このような方法によって勇敢なイラン国民に復讐しようとしている」としました。

さらに、「過去40年間においてイランの治安と安定は国民の力によるもので、イラン国民はメディアに惑わされることなく自らの業績を維持し、その本来の権利や歴史に残る業績が暴力によって破壊されることを許さない」としています。

この声明はまた、アメリカのヘイリー国連大使の脅迫的な発言が、イランにおける暴力主義や騒乱を支持するものであるとしています。(後略)【1月3日 Pars Today】
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トランプ大統領は抗議行動を支持するツイートを行っていますが、“イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。”【前出 1月2日 WSJ】とも。

****「抑圧政権は永続しない」 イランのデモでトランプ大統領がツイート****
イランで広がる反政府デモについて、トランプ米大統領は30~31日、ツイッターに「イランの善良な国民が変革を欲していることを世界中が理解している」「抑圧的な政権は永遠には続かない」などと投稿した。
 
トランプ氏は「イランで大規模な抗議活動が起きている。国民はいかに自分たちの金と富が(政権に)盗まれテロに浪費されているか、ようやく分かった。国民はもう現状を甘受しないつもりのようだ」ともツイート。イラン政府に言論の自由など国民の権利を尊重するよう訴えた。(共同)【1月1日 産経】
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イランにおける抑圧的なイスラム支配体制を変えるには、アメリカ・トランプ政権がイラン敵視政策をやめて、イランの経済状況改善を支援し、国内で保守強硬派と対峙する穏健派・改革派の影響力を強めていく・・・というのが現実的方策だと考えますが、現状は逆方向にあるようにも思えます。
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イラン  異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領

2017-12-30 22:14:30 | イラン

(保守強硬派の牙城、イスラム聖職者の街コムでもデモが【12月30日 BBC】)

ロウハニ大統領 国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかける
このところあまりイラン発のニュースは多くなかったのですが(サウジアラビアなどによるイラン包囲網の話は多々ありますが)、先日“奇妙”と言うか、何を意図してしているのかよくわからない穏健派ロウハニ大統領の発言が報じられました。

****イラン大統領、国民に権利主張するよう訴え 治安組織の締め付け批判?****
イランのハッサン・ロウハニ統領は19日、市民の権利憲章を発表してから1年がたったのを機に演説を行い、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた。
 
ロウハニ大統領は「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、「国民の権利を文化に変えなければならない」と述べ、若者やソーシャルメディアの利用者らに、権利が侵害されていると感じたらその不満を広く主張するべきだと訴えた。
 
また、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」と指摘し、国内の強力な治安組織を念頭に、市民生活への介入を減らし、干渉しないよう求めた。
 
ロウハニ氏が発表した画期的な権利憲章は、言論・抗議の自由、公正な裁判、プライバシーなどを保障するとしているが、改革派のメディアは、より自由な社会が実現していないと批判している。
 
イラン国内では司法界や革命防衛隊を含め多くの組織で保守強硬派が支配している状況で、ロウハニ氏の主張についても未だに沈黙を守ったままだ。【12月20日 AFP】
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イランでは、改革派からの支持も集める穏健派ロウハニ大統領の政権と、ハメネイ最高指導者周辺を固める保守強硬派の間で厳しいせめぎあいが続いていることは周知のところです。

自らの権利を主張するよう呼びかけ、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」・・・・文字どおり解釈すると、政治・社会を支配する議会・治安当局・革命防衛隊などの保守強硬派への国民決起を促すような、随分と過激な発言にも思えます。

「権利は政府にではなく、国民にある」・・・・現在の最高指導者を頂点とするイスラム主義イラン政治システムへの反旗ともとれる発言ですが、その真意は・・・。

単に、“市民の権利憲章を発表してから1年”という節目にあたっての啓蒙的な国民向けアピールなのか、保守強硬派との権力闘争があるなかで国民支持を引き寄せようという差し迫った事情があるのか・・・知りません。

異例の抗議デモ “物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”】
このロウハニ発言と関連があるのかどうかは知りませんが、発言から日を置かず、イランでは異例の反政府デモが行われ、治安当局との衝突も起きています。

****大統領に死を」 イラン各地、禁令破り反政府デモ****
イラン各地で28~29日、物価高や政府の経済政策に抗議するデモがあった。

地元メディアによると、第2の都市・北東部マシュハドでは52人が逮捕され、他都市でも警官隊と衝突した。デモが事実上禁じられているイランでは極めて異例の事態だ。

10%を超える高い失業率や、遅々として進まない経済発展に市民がしびれを切らした形だ。
 
地元メディアによると、中部イスファハンや北西部タブリーズなど、少なくとも11都市で数百人規模のデモがあった。警官隊が催涙ガスや放水車で対応したという。

イランでは今月、卵の価格が約2倍に高騰したほか、通貨リアルの価値が下落傾向で、日常品の価格も上昇。市民の不満が高まっていた。
 
英BBCなどによると、参加者は「ロハニ大統領に死を」「パレスチナやシリアは放っておけ。国民のことを考えろ」などのスローガンを叫んだ。最高指導者ハメネイ師を示唆して「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」との声も上がったという。
 
デモ参加者の多くは、インターネットのSNSを通じて集まったとみられる。2009年には、大統領選挙の結果などに不満を持った市民が大規模な反体制デモを行い、多数の逮捕者や負傷者が出た。首都テヘランでは30日、ネットを通じてデモが呼びかけられており、警察などが警戒している。
 
イランでは、核開発疑惑で原油禁輸を含む制裁を受け、経済が冷え込んだ。15年7月、イランが核開発を大幅に制限する見返りに国際社会が制裁を解除することで欧米などと合意。

16年の経済成長率は国際通貨基金(IMF)の調べでは12・5%だが、イラン統計局などによると、若年層の失業率は25%以上だという。ロハニ師は雇用拡大などを掲げて5月に再選されたが、国民は経済成長を実感できない状況が続いている。
 
イランと敵対する米国は素早く反応した。トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった。

国務省も「平和的なデモ参加者の逮捕を非難する」との声明を出した。国内での自由が抑圧されているとして、イランが「ならず者国家」であるとのイメージを、国際社会に強く植え付けるという狙いがあるとみられる。【12月30日 朝日】
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「ロハニ大統領に死を」と「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」では、その矛先・影響が全く異なります。

不満の核心が「ロハニ大統領に死を」ということであれば、約束してきた制裁解除による経済浮揚を実現できない穏健派政権への批判にとどまり、結果、保守強硬派の力が強化されることになります。

国民不満が「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」というレベルに達しているのなら、ハメネイ最高指導者を頂点とするイスラム主義現行体制への批判となり、ロウハニ大統領などの穏健派や改革派はその不満の受け皿になります。

“報道によると、28日に北東部マシャドで始まったデモは、29日に首都テヘランなどに拡大。西部ケルマンシャーでは約300人が「イラン革命に反対」「政治犯を釈放せよ」などと訴えた。
物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わり、イスラム教シーア派の聖地コムではハメネイ師を名指しして「国を去るべきだ」と抗議する市民もいたという。シリアやイラクなど中東各地の紛争に介入する政府の姿勢を批判し「シリアを離れ、私たちのことを考えて」との訴えもあった。”【12月30日 毎日】

一方、“イランのエリート集団、革命防衛隊に近いファルス通信は、経済的苦境に不満を唱えていたデモ参加者の多くは、政治スローガンが繰り返されるようになると、その場を離れたと伝えている。”【12月30日 BBC】とも。あくまでも革命防衛隊に近いメディアの報道です。

今回デモの性格については“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】とも。

保守強硬派は、先日のロウハニ大統領の発言を逆手にとって反政ロウハニ集会を開いたものの、イラン統治体制への不満にまで一気に拡大した・・・というところでしょうか?

“物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”状況を、保守強硬派は座視しないでしょう。
徹底した治安当局により鎮圧が行われるとおもわれます。

そのとき、“国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた”ロウハニ大統領はどのように行動するのか?
自由な空気を求めている多くの国民は、どのように行動するのか?

イラン国民の権利を危機にさらすトランプ大統領が「イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ」】
“トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった”【前出 朝日】

しかし、核合意による制裁解除の効果が十分に発揮されず、物価高・失業に国民が苦しむ困難な現状の元凶は、ミサイル開発などを理由に独自のイラン制裁を続け、欧州・日本の対イラン投資を手控えさせているトランプ政権自身です。

トランプ大統領は更に核合意そのものをも覆すような動きを見せており、その結果は、比較的国民の権利に寛容な現行ロウハニ政権を潰し、国民の権利をないがしろにする保守強硬派支配を強化するものと思われます。

自分自身がイランの経済を追い込み、イラン国民の権利を危機にさらしていながら“イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!”というのは、はなはだ笑止・滑稽ですが、これが政治の現実でもあります。

****米イスラエルが対イランで秘密工作を検討**** 
米ニュースサイト「アクシオス」は28日、米国とイスラエルの政府高官が12日、イランによる核兵器開発の再開を阻止するための秘密工作検討などを含む「共同戦略作業計画」に合意したと報じた。

ホワイトハウス当局者は取材に対し、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が12日にイスラエルと安全保障協力を協議したとし、報道を大筋で認めた。
 
トランプ米政権はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館を移転する方針を決めて同国との同盟関係の強化に取り組み、同時にアラブ諸国とも連携して対イラン包囲網を形成しようとしている。
 
同サイトによると、米国とイスラエルは複数の作業部会を設置し、イランの弾道ミサイル開発、同国によるレバノンのシーア派組織ヒズボラやパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの支援に対抗する方策を協議する。イランの核合意順守を監視、検証するための外交措置も話し合う。
 
ただ、トランプ大統領は10月、イランによる核合意の順守を認定せず、欠陥が解消されなければ合意を破棄できると強調し、合意の先行き自体が不透明だ。
 
米政府は90日ごとに議会に順守状況を通告するよう義務付けられている。次の期限は1月中旬で、大統領による制裁適用の免除期間120日の期限も同時期に訪れる。そのため、米メディアからはトランプ氏が合意破棄に踏み切る可能性があるとの指摘も出ている。
 
これに関連し、ティラーソン国務長官は28日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「米国のイラン政策の焦点は欠陥のある核合意ではなくイランの脅威全体に立ち向かうことにあり、同盟関係の再構築が必要となる」と強調した。【12月29日 産経】
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イラン国内の抗議デモが、来年にかけて、これ以上の広がりをみせるのか?
トランプ大統領が1月中旬に核合意破棄に踏み込むのか?(ここまで、イスラエルやサウジアラビアなどとも対イラン包囲網を画策してきていますので、なんらかのアクションを起こすのではないでしょうか)

年明け早々、世界は新たな混乱の火種を抱えることになるかも。
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イラン核合意  離脱か修正か・・・トランプ大統領「決断した」

2017-09-23 21:47:43 | イラン

(19日の国連総会での演説で、イラン核合意は「米国にとって恥」「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」と、イランに対する敵意をむき出しにするトランプ大統領【9月22日 産経】)

注目される来月中旬までのトランプ氏の判断 「決断した」「そのうち教える」】
北朝鮮核・ミサイル問題については周知のように、「ちびのロケットマン」「老いぼれ」、「完全破壊」「史上最高の超強硬対応措置」・・・・といった、激しい言葉の応酬と言うか、「幼稚園の子供同士のけんか」(ロシア・ラブロフ外相)のような状況です。

通常、こうした冷静さを欠くようにも見えるやり取りは、相手を挑発するため、相手の注意をそらすため、相手との交渉に関心がなく、国内支持基盤しか眼中にないとき・・・・等々に見られますが、トランプ大統領と金正恩委員長の“奇妙”な頭の中に何があるのかは誰もわかりません。

そのトランプ大統領、北朝鮮・金正恩委員長だけでは相手不足なのか、勢いが止められなくなっているのか、もうひとつの核問題、それも“一応は”沈静化した問題を敢えて蒸し返すつもりのようで、イランとも核合意をめぐる激しい非難の応酬になっています。

****イラン核合意、牽制 トランプ氏、離脱示唆し修正迫る戦略****
米欧などとイランが2015年に結んだ核合意を巡り、トランプ米大統領が国連総会などで合意離脱も示唆して牽制(けんせい)している。

ただ、米国が一方的に合意を破棄すればイランの核問題再燃は確実なだけに、国際社会は強く反発している。トランプ氏は「脅し」を通じ、核合意の期間延長や査察強化などの修正を迫る戦略とみられる。
 
「決断した」。トランプ氏は20日、ニューヨークで記者団に核合意から離脱するか問われ、3度繰り返した。そして「そのうち教える」と笑顔を見せた。
 
トランプ氏は核合意を「米国史上最悪の取引」として合意離脱を選挙公約にし、包括的な見直しを政府内で進めてきた。19日の国連演説でも合意批判を繰り返し、イランへの敵意をむき出しにして「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」とこき下ろした。
 
イラン核合意は、イランが10年以上は核兵器をすぐに作れないレベルまで核能力を大幅に縮小し、その見返りに欧米が経済制裁を解除するもの。外交的な話し合いでイランの核開発を押しとどめたオバマ前大統領の最大の『レガシー(政治的遺産)』の一つだ。トランプ氏には、オバマ氏の成果を否定する政治的な意図もある。
 
注目されるのは、来月中旬までのトランプ氏の判断だ。米政府はイランが合意を順守しているかを90日ごとに判断し、議会に報告。トランプ政権は過去2回、イランの合意順守を認めたが、次回が10月15日に迫っている。合意違反を報告すれば、議会が60日以内に制裁を再びイランに科すかどうかを決定する。

米メディアには、当局者の話として、トランプ氏が合意を無効にする方向に傾いているとの報道もある。また、米国が査察強化やイランによるミサイル開発停止などを含む合意の修正を求める可能性など、様々な臆測を呼んでいる。
 
最悪のシナリオは、米国が合意を破棄し、イランが対抗措置として核兵器の材料になる高濃縮ウランの生産を再び開始することだ。

イランのサレヒ原子力庁長官は8月下旬、「米国が合意を破棄すれば、イランは5日以内に(兵器転用の元になる)濃度20%のウラン濃縮再開が可能だ」と強調。

イランが核開発を再開すれば、敵対するサウジアラビアなどで核武装論が強まる恐れがあり、中東で「核ドミノ」が起きる可能性が高まる。

 ■国際社会は反発
マクロン仏大統領は19日の国連総会の演説で「合意を拒否するのは重大な間違い。無責任だ」と牽制。メイ英首相も「核合意の継続が必要だ」としている。核合意に強硬に反対する米国とイスラエルの態度が際だっている。
 
20日のイランと関係国による外相級会合では、イランが核合意を順守していることが確認された。

だが、米国のティラーソン国務長官は協議後の会見で「技術的な観点」では合意違反がないと認めつつ、イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視。「合意以降、平和で安定した地域が達成されていない」と指摘し、「明らかに合意の『期待』が満たされていない」とイランを批判した。
 
最大15年というイランの核開発の制限期間も、米国は問題視する。ティラーソン氏は「(期限が過ぎれば)イランが核兵器計画を再開できる。大統領はこれを受け入れられない」と強調。離脱ではなく、期限の変更や国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化など合意の修正を図っていく可能性を示唆した。
 
イラン政府関係者は「米国がシリアやミサイル開発問題など(前回の合意には含まれない)政治的争点を要求してくる可能性がある」とみる。だが、イランのロハニ大統領は20日の会見で「合意にほかの条件はない。現在の形で履行されなくてはならない。変更はない」と再交渉に応じない姿勢を強調した。

 ■イラン核合意とは
イランで2002年にウラン濃縮施設が見つかって以降、国連安保理は対イラン制裁決議を4回採択し、米国もイラン産原油輸出に関係する独自の金融制裁を科した。イランは13年のロハニ大統領就任で融和路線に転じる。
 
その後の交渉を経て15年7月、イランと米英独仏中ロ・欧州連合(EU)が最終合意した。イランは15年間は核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを製造せず、10トンあった貯蔵濃縮ウランは300キロに削減。

もし秘密裏に核開発を再開しても、核爆弾1発の原料をつくるのに最低1年はかかるレベルまで核能力を縮小し、軍事行動や外交で動きを止める時間的猶予を確保した。

その見返りとして、米欧などは金融制裁やイラン産の原油や貴金属の取引制限などを解除することに合意した。【9月22日 朝日】
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ヘイリー米国連大使は、国連総会でのトランプ大統領の発言は「破棄を検討しているとの明確なシグナルではない。大統領が満足していないことを明示するシグナルだ」と語っていますが・・・・。

合意内容にトランプ大統領が不満を持っているのはわかりますが、外交交渉を含めてすべての交渉は、まず100%満足のいく形では得られません。なにはしらかの妥協、あるいは双方が都合のいいように解釈する玉虫色の決着を認めないのであれば、あとは相手がひれ伏すまで追い詰めるか、その過程で暴発するかのいずれかになります。

何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意
イラン核合意も関係国の長期にわたる困難な交渉の末にまとまり、国際的な核の危険性を一定に落ち着かせ、また、イラン国内の強硬論台頭を抑え込む効果が期待されましたが、トランプ大統領にはお気に召さないようです。

****世界が抱えるもう1つの核危機****
<国連演説でもイランを「殺戮国家」と批判し、核合意の再交渉を試みたトランプ政権は何にこだわっているのか。その危険な反作用とは>

欧米など主要6カ国とイランが2015年に取り交わした核合意の再交渉を画策する米トランプ政権の試みは完全に頓挫した。欧州主要国はアメリカが離脱しても合意を維持すると明言、イランの大統領は再交渉に応じる考えはないと突っぱねた。

9月20日夜、イランと主要5カ国の外相、EU代表、レックス・ティラーソン米国務長官、ニッキー・ヘイリー米国連大使が非公開の協議を行い、その結果、米側もイランが合意内容を遵守していることを認めざるをえなかった。(中略)

(モEUの外交安全保障上級代表)ゲリーニはさらにクギを刺した。「国際社会には今、正常に機能しつつある核合意を引っ繰り返す余裕などない。われわれはもう1つの潜在的な核危機を抱えており、これ以上危機は要らない」

「ウラン濃縮を好きにやるぞ
イランのハサン・ロウハニ大統領は同日午後、ミレニアム・ホテルで記者会見を開き、トランプ政権が核合意を破棄するなら、現在合意によって制限されているウラン濃縮についてイランは「フリーハンド」にさせてもらうと警告した。

ロウハニは、アメリカが合意を破棄しても、核開発を再開する考えはないと断言し、国際社会に広く支持されている合意から離脱すればアメリカは信用を失うが、「イランは世界においてより強固でより良い地位に就ける」と自信を示した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「核合意の破棄は過ち」だとの立場を鮮明にしている。トランプが「アメリカの恥」とまで言った核合意を、マクロンは「良い」内容だと評価。

ただし、弾道ミサイル開発の禁止が盛り込まれていないなど不十分な点があることは認め、アメリカの懸念には一定の理解を示した。

アメリカが核合意から離脱する可能性について、あるEUの外交トップは「この合意は国際社会のものだ」と息巻いた。トランプ政権はイランの合意順守状況について90日ごとに議会に通告することになっており、次の期限は10月15日に迫っている。

欧州寄りの米政府関係者や、イランの核合意順守状況の監視役であるIAEA(国際原子力機関)も、イランはきっちりと合意を順守していると言っているのに、報道によれば、トランプはどこからかイランは合意を順守していないと結論づけたという。

トランプは昨年の米大統領選挙の最中から、オバマ前政権下で結ばれた核合意を悪しざまに言ってきた。同合意はイランの弾道ミサイル開発を禁じておらず、ウラン濃縮活動などの制限にも最大25年の期限があって、それ以降核開発が再開されかねないことなどを問題視している。

国連総会での初演説でも、イランを「暴力、殺戮、混沌を主な輸出品とする困窮したならず者国家」と呼んだ。核合意のことは「アメリカがこれまで合意したなかで最も一方的で最悪の取引」と呼び、破棄する可能性を匂わせた。

イラン国民へ謝罪を
(中略)ロウハニは、再交渉は「現実的ではない」と言った。何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意なのだ。

「今後期待するのは」と、ロウハニは言った。「トランプ氏からイラン国民に対する謝罪だ」

だがトランプは、また正反対のことをするかもしれない。【9月21日 Newsweek】
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合意の不十分な点をあげつらえばいくらでも可能ですが、それは“ないものねだり”でもあります。
先述のように、交渉というのはそういう不満足をのみ込んで成立するもので、それが嫌なら後は喧嘩しかありません。

“イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視”・・・・ミサイル開発は合意範囲外の問題ですし、シリア云々は“核合意”とは別問題です。

また、合意内容に不満だから・・・と蒸し返す対応は、慰安婦問題での韓国のようでもあり、関係国を苛立たせるところがあります。

トランプ大統領の言動は、要するに“イランは嫌いだ!”“オバマ前大統領のやったことは壊してやる!”という執念にすぎないようにも思えます。

トランプ大領の妄念でアメリカがどうなろうが勝手ですが、国際社会を混乱に巻き込むのは勘弁してほしい・・・との感じも。

アメリカの対応に、イラン側も言動をエスカレート
アメリカ以外の合意各国はアメリカ・トランプ大統領の言動に強く反発していますが、当然ながら当事者イランは“売り言葉に買い言葉”的に態度を硬化させています。

トランプ大統領の国連でのイランへの敵意をむき出しにした発言に、イラン側も応戦しています。

****イラン大統領、トランプ氏を「新入りのならず者」と非難 イラン核合意破棄なら「断固とした措置取る**** 
イランのロウハニ大統領は20日、国連総会の一般討論演説で2015年に締結されたイラン核合意について、「他の国が合意に違反した際には、断固とした措置を取る」と述べ、核合意見直しを示唆したトランプ米大統領を強く牽制(けんせい)した。
 
ロウハニ師は、核合意は国際社会全体の支持を得たとして、「1つや2つの国」の判断によるものではないと強調。イラン側から核合意を破棄することはないとしたうえで、トランプ氏を念頭に「世界政治の新入りの『ならず者』によって合意が破壊されたとしたら、非常に残念なことだ」と述べた。
 
また、イランへの批判を繰り返したトランプ氏の19日の一般討論演説の内容について、「ばかばかしいほど事実無根な主張に満ちた無知で不条理、憎むべき発言」と非難。トランプ氏の攻撃に激しく反論した。
 
トランプ氏は19日の演説で、核合意を「米国にとって最悪な取引の一つ」と明言。20日にはロウハニ師の演説に先立ち、核合意への対応について「決断した」と述べ、方針転換をほのめかした。
 
核合意は、イランが制裁解除と引き換えに核開発を制限する内容。イランと米欧など6カ国が締結した。【9月21日 産経】
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イランは国内的には強硬派とロウハニ大統領らの穏健派の微妙なバランス・対立関係にあり、アメリカの挑発には強い姿勢を見せないと、“弱腰”との批判を受けて強硬派によって足元をすくわれるリスクがります。

****イラン大統領、ミサイルシステム強化明言 トランプ氏の批判一蹴****
イランのロウハニ大統領は22日、ミサイルシステムを強化していくと述べ、トランプ米大統領による批判を一蹴した。

ロウハニ氏はテヘランで行われた軍事パレードで演説し「われわれは抑止力として軍事力を強化し、ミサイルシステムを増強する。自国を防衛することに誰からの許可も求めない」と主張した。

タスニム通信によると、複数の弾頭を搭載可能で射程が2000キロに及ぶ新たな弾道ミサイルについて、イランの革命防衛隊幹部が明らかにした。

トランプ氏は19日に行った国連演説で、「危険な」ミサイルを開発しイエメンやシリアなどに暴力を輸出しているとしてイランを非難している。【9月22日 ロイター】
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実際に、イランはミサイルを飛ばしています。

****新型弾道ミサイル試射成功=米の圧力に反発―イラン****
イランは、国産の新型弾道ミサイル「ホラムシャハル」の発射実験に成功した。国営メディアが22日、発射の映像を公開した。実験の日付や場所は明らかにしていない。米国がイランとの核合意破棄も辞さない対決姿勢を強める中、イランが反発を示したとみられる。
 
「ホラムシャハル」は射程2000キロで、複数の弾頭が搭載可能。首都テヘランで22日行われた軍事パレードで公開されたばかりで、ロウハニ大統領は「抑止力のために必要なら、防衛力、軍事力を強化する」と述べていた。
 
トランプ米政権は、イランの弾道ミサイル開発に対して繰り返し追加制裁を科している。今回の発射実験に態度を硬化させるのは必至だ。【9月23日 時事】 
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緊張はエスカレートする一方のようです。

北朝鮮の問題にしても、イランの問題にしても、(北朝鮮が日本語越しにミサイルを発射したり、洋上核実験に言及したりと、常軌を逸しているようなところはありますが)、“どうして北朝鮮やイランはだめで、アメリカなどは保有が正当化されるのか?”という基本的な問題がつきまといます。

要するに、自国の安全を脅かす存在は認めないという話であり、どちらかに“正義がある”という話ではありません。“力の信奉者”たちの横暴なふるまいのとばっちりを受ける周辺国はいい迷惑です。

また、国際緊張が高まることで、国内の自由化が遅れるイラン国民も犠牲者です。
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イラン  周辺国に影響力を拡大する行動の背景に、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶が

2017-08-21 23:26:02 | イラン

(イラン・イラク戦争当時のイラン側兵士 【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】)

不安定な核合意 2期目のロウハニ政権は対話重視型を維持
イランと制裁強化を続けるアメリカ・トランプ政権の関係は、イラン嫌いのトランプ大統領の暴発の危険性もあって、両者間の核合意は不安定なものがあります。

なお、“イラン嫌い”はアメリカ全体でもありますが、イランの方は、どこのレストランにもコカ・コーラが置いてあるなど、一般民衆レベルの話で言えば、「アメリカに死を!」なんて叫ぶ連中もいますが、むしろアメリカに対する憧れのようなものもあるのかも・・・・先月末にイランを旅行(単なる物見遊山です)した際に、そんな印象も。

ただ、政治レベルの話では、強硬な姿勢を崩さないトランプ政権に対し、イラン側も“売り言葉に、買い言葉”状態です。

****イラン、「数時間で」核合意破棄も 大統領が米制裁強化に警告****
イランのロウハニ大統領は15日、米国がさらなる制裁を科すなら、主要6カ国との核合意を「数時間以内に」破棄する可能性があるとの考えを示した。

ロウハニ師は国営テレビが放映した議会発言で、米国が制裁に戻るなら「イランは必ず、交渉開始前よりもさらに進化した状況に短期間で戻るだろう」と語った。

イランは米国が新たに科した制裁について、米国のほかロシア、中国、英国、フランス、ドイツと2015年に締結した核合意に反すると非難している。

米財務省は7月下旬、弾道ミサイル開発に関わったとしてイラン企業6社を制裁対象に指定。トランプ米大統領は今月、議会が可決したイランとロシア、北朝鮮に対する制裁強化法案に署名した。【8月15日 ロイター】
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「数時間以内に」とは穏やかでありませんが、一応2期目のロウハニ政権は、これまで同様対話重視型にはなっています。

****イランのロウハニ政権 2期目も国際社会との対話重視****
今月2期目の任期に入ったイランのロウハニ政権の新しい閣僚が議会で承認され、核開発をめぐる交渉で欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相が留任するなど、引き続き国際社会との対話を重視した布陣となりました。

イランのロウハニ大統領は、今月2期目の任期に入り、議会では20日、ロウハニ大統領が指名した新しい閣僚17人を承認するかを決める投票が行われました。

その結果、元国連大使で、核開発をめぐる交渉でおととし欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相や、国の重要産業となっているエネルギー分野で外資の受け入れを担ってきたザンギャネ石油相など、多くの重要閣僚の留任が決まりました。

引き続き国際社会との対話を重視した布陣となり、ロウハニ大統領としては1期目と同様に各国との関係改善を図りながら経済の立て直しに力を入れていくものと見られます。

ただ、イランが続けているミサイル開発をめぐり、アメリカのトランプ政権が制裁を科すなど、アメリカとの対立が外資を呼び込むうえで足かせとなっていて、2期目のロウハニ政権がトランプ政権とどのように向き合っていくかが大きな焦点となります。【8月21日 NHK】
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中東の不安定要素、イランとサウジアラビアの対立
現在の中東における最大の不安定要素、混乱の原因のひとつが、イランとサウジアラビアの対立であることは周知のところです。

お互いスンニ派とシーア派の盟主という立場にあって、枕詞のようにそのことがついてまわりますが、別に両国は神学論争で争っているわけではなく、様々な理由から中東における影響力を競っているのでしょう。

最近、サウジアラビア側からイランへ関係修復のボールが投げられたとの情報があって、期待もしたのですが、サウジアラビア側が情報を否定する形になっています。

****サウディのイランとの関係修復の仲介依頼の否定****
・・・・サウディがイランとの関係修復の仲介を求めているという話は、イラクの内務大臣の話として、イバーディ・イラク首相のサウディ訪問の際にサウディ政府が、イラクに対して仲介を要請したとのうわさが流れたが、その後同内相自身が15日サウディは仲介を要請していないと発言して、この噂を打ち消したとのことです。【8月16日 「中東の窓」】
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本当にそういう仲介要請があったのかどうかを含めて、事の真相はわかりません。

シリア介入による多大な犠牲 イラン国内には批判も
そのことはともかく、一般的には、イランは自国の影響力拡大のため、イラク、シリア、イエメンなどに深く介入している・・・と理解されています。

どの程度の軍事支援・民兵派遣を行っているかは明らかにされていませんが、シリアにおけるイラン側の犠牲者も相当数にのぼっています。

それに対する国内的な批判もおきているとか。

****イランでのシリア等での損失に対する不満****
先ほどサウディのイエメン国境方面での死者が50名になったという報道を紹介しましたが、イランの革命防衛隊等のシリア、イラクに於ける損失は比較にならないほど大きいと思います。

この点に関して、al arabiya net は最近、イラン内で活動家の手になる政権に対する批判が出回っていると報じています。

その内容としては、それほどシリア等における活動が重要ならば、政権の指導者、マスコミの指導者は自らシリアやイラクに行って戦えばよい、もし自らが老齢等で戦闘ができないのであれば、自分たちの子供を送るべきであるというものの由(要するに自分たちは何の犠牲も払わずに、国民を犠牲にする指導者に対する不満)

また活動家によれば、これまでシリア等で死亡した革命防衛隊員等は4000名に上る由。
また死者の多い都市はテヘランを先頭に、コム、カルマンシャー、マザンドラン、キーラーン等の由
https://www.alarabiya.net/ar/iran/2017/08/18/الإيرانيون-يهاجمون-قياداتهم-أرسلوا-أبنائكم-إلى-سوريا.html

このような不満の表明が、仮に事実としても、どの程度の広がりを有しているのか不明です。

また、これを伝えているal arabiya net はサウディ系ですから、当然宣伝的要素も強いかと思いますが、革命防衛隊等に多くの犠牲者が出ていることを考えてみれば、ありうる話かと思うので、取り敢えずご参考まで【8月19日 「中東の窓」】
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イランを周辺国介入に駆り立てるイラン・イラク戦争の記憶
そこまでの犠牲を出して、どうしてイランは周辺国に介入するのか・・・?
ひとつ想像できるのは、ロシアと似たような不安感・不信感(立場が異なれば“被害妄想”とも)を抱えているのではないか・・・ということです。

ロシア・プーチン大統領が周辺地域に自らの影響力を拡大しようとする、あるいは、NATOなどの勢力に激しく反発するのは、ロシア革命から冷戦期に至るまで、ソ連・ロシアは絶えず自国を敵視する勢力によって囲まれてきた、そして現在も“だまし討ちのような”(ロシア側の理解です)NATOの東方拡大で脅威にさらされているという不安・不信感に駆られてのことです。

イランにも似たような心理があるのでは・・・と思ったのは、先月のイラン旅行で、イラン国内におけるイラン・イラク戦争の消えない記憶を感じたからです。

世界遺産ペルセポリス遺跡の観光を終えてヤズドに向かう道路脇に、若者(子供のように見える者も)の顔写真を掲げた道路標識のようなものが延々と並んでいます。

訊くと、イラン・イラク戦争の犠牲者とのこと。今のイランがあるのは、彼らの流した血のおかげであるとも。

また、現地の方からイラン・イラク戦争の人生に及ぼした影響などを聞く機会もありました。
1980年から1988年までの長きに渡った戦闘に参加した若者は、今、イラン各分野を担う中枢となっています。

国際社会においては、イラン・イラク戦争というのは掃いて捨てるほど起きている戦争のひとつにすぎず、話題にのぼることもほとんどありませんが、イランにとっては革命混乱期に仕掛けられた、忘れがたい“国難”でもあるようです。

そのことへ思いは、宗教色が強く、硬直的な現在のハメネイ体制を支持する・支持しないにかかわらず、共通した思いでもあるようです。

イラン革命の混乱で防衛体制が崩壊していたイランは、西側からも、東側からも支援を受けられない孤立状態にあって、武器もなく、一時はイラクに大きく攻め込まれました。

“東西諸国共に対イラン制裁処置を発動した為、物資、兵器の補給などが滞り、また革命による混乱も重なって人海戦術などで応じるしかなかったため、イラン側は大量の犠牲者を出す。兵力は1000人規模で戦死者が共同墓地に埋葬されている。(中略)全般的には劣勢であり、時にはイラン兵の死体が石垣のように積み重なることもあった。完全に孤立したイランはイラクへの降伏を検討しなければならなくなっていた。”【ウィキペディア】

その後、イスラエル、シリア、リビアがイランを支援(イスラエルはイラクを空爆、シリアはイラクからの石油パイプラインを遮断)することになったこと、何より、多大な犠牲を伴った義勇兵の人海戦術による祖国防衛の戦いによって形成は逆転し、イランはイラク・バグダッドに迫ります。

しかし、イラク・フセイン政権は化学兵器を使用してイラン側に甚大な被害を与えます・・・・

こうした熾烈な戦争をイランが何とか乗り切ったのは、まさに国民の流した血によるところが大です。
イラン・イラク戦争におけるイラン側戦死者は75~100万人とも言われています。

“(化学兵器による)こうした攻撃により、数万人のイラン国民が殉教、およそ10万人が化学兵器により負傷し、今なお多くの人々がその後遺症に苦しんでいるのです。”【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】

また、東西両陣営ともイランを助けてくれなかったこと、そうした状況で化学兵器の犠牲となったことは、イラン国民に大きな傷を残したと思われます。

現在イランは、シーア派が主導するイラクと良好な関係にあります。
“良好”と言うよりは、フセイン後の混乱したイラクにイランが強固な影響力を築いていると言った方がいいかも。

そうしたイランの行動の背景には、イラン・イラク戦争の記憶、二度とあのような悲惨な状況が生まれないようにしたいという強烈な思いがあるように思えます。

****イラクにおけるイランの圧倒的な影響力****
ニューヨーク・タイムズ紙のTim Arangoバグダッド支局長が、7月15日付け同紙解説記事で、米国のイラク軍事進攻以来、イランはイラクにおける影響力を増やし、今や、軍事、政治、経済、社会のあらゆる面で圧倒的な影響力を持つに至っている、と述べています。解説記事の要旨は以下の通りです。
 
米国が14年前、サダム・フセインを倒すためにイラクに侵攻したとき、米国はイラクを中東における民主主義と親西欧体制の要になり得ると考えていた。
そのため米国は4,500名の人命と1兆ドル以上の犠牲を払った。
 
イランは米国のイラク侵攻を、イラクを従属国とする機会と見た。イラクは1980年代にイランに対し、化学兵器を使ったり、塹壕戦をしかけたり、第一次大戦を彷彿とさせるような残忍な戦いをした。

イランの思惑は、イラクが二度と脅威とならないようにするとともに、イラクを地域における影響力の拡大の踏み台とすることであった。
 
この争いでイランは勝ち、米国は負けた。この3年間、米国はイラクでのISとの戦いに専念していたが、イランは上記の思惑を見失わなかった。
 
米国との関係が近過ぎるということでイランから睨まれ失脚したイラクのゼバリ前大蔵大臣は、「イランの影響は絶対的である」と述べた。
 
イラクにおけるイランの影響力は、軍事、政治、経済、文化のあらゆる面に及ぶ。
 
イラク議会は昨年、シーア派の民兵組織をイラクの治安維持勢力の一部とした。
 
マスメディアの分野では、イランの資金で新しいテレビチャネルが作られ、イランがイラクの守護者で米国が悪の侵入者であると宣伝している。
 
イラク東部のディアラ県は、2014年ISに占領されたが、イランはディアラ県をイラクからシリア、レバノンに至る回廊として重視した。

イランで訓練されたシーア派民兵組織が中心となってISを追放すると、県内のスンニ少数派を追いやり、ディアラ県の支配を固め、シリアの手先と、レバノンのヒズボラへの支援ルートを確保した。
 
ディアラは、イランが地政学的目的のためシーア派の台頭、強化を重視しているショーケースといえる。
 
イラン革命防衛隊の特殊部隊クッズフォースの指揮者のスレイマニ将軍をはじめ、イランの多くの指導者は1980年代のイラン・イラク戦争が生んだ。イラン・イラク戦争は彼らの心に癒えない傷を残した。
イラクを支配しようとのイランの野心は、この傷の遺産である。
 
人口の大半がシーア派であるイラク南部で、イランの影響がいたるところでみられる。
 
イランは何十年にもわたり、イラク南部の湿地帯を通して砲や爆弾の原料を密取引してきた。湿地帯を通して、イラクの若者がイランに渡って訓練を受け、イラクに戻って戦った。戦う相手は、最初はサダム・フセインで、のちに米国であった。
 
イランは軍事力を政治力に転換しようとしており、民兵の指導者は来年の議会選挙を控え、政治組織作りを始めている。
 
アバディ首相は困難な立場にいる。イランに対決的と見られる動きや、米国に近寄る動きを示せば、首相の政治的将来が陰りうる。
 
クロッカー米元駐イラク大使は、ISを敗北させた後米国がイラクを去れば、イランに行動の自由を与えることになると言った。しかし多くのイラク人は、イランはすでに行動の自由を得ていると述べている。(後略)【8月21日 WEDGE】
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もちろん、イラン側の一方的思惑だけが先行すれば、イラク国民の反発を買います。

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他方、イランによるイラクの支配は、必ずしもイラクのシーア派に歓迎されているとは限らないとのことです。

同じシーア派といっても、イラクのシーア派は、同時にイラク人、アラブ人としての自覚を持っているといいます。

イランによるイラク支配があまり目につくようになると、イラクのシーア派との軋轢が生まれる恐れがあります。従属国化は、管理上いろいろな問題を生むものです。【同上】
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イラン・テヘラン  イラン高原・ペルシャの悠久の歴史・文化 侵略・破壊 大バザールの活気

2017-07-31 10:35:27 | イラン

(イラン考古学博物館展示の土器 紀元前4800年頃のもののようですが、約7000年前の土器がこの薄さです。
当時の文化・技術水準の高さが窺えます)

7月30日 イラン旅行7日目

今夜のフライトで帰国します。
とは言っても羽田着が明日の夜。もう乗継便がないので東京で宿泊、鹿児島の自宅に帰るのは明後日昼過ぎになります。これから長い帰国フライトが始まります。

今日はテヘランに戻り、考古学博物館、ガラス&陶器博物館、そしてバザールを回ってきました。

イラン高原の文化開花は非常に古く、紀元前8000年頃には十分に文化の名に値する活動が営まれており、紀元前4000年ぐらいになると巨大な神殿を擁する文化がすでに出現しています。

時期的には、むしろメソポタミアのシュメール文化よりも古く、シュメール人はイラン高原から移動したとの学者報告もあるようです。更には、インダス文明のモヘンジョダロのとの関連も指摘されているとか。

昨日イスファハンからの移動途中、カシャーン郊外にある紀元前4000年頃の遺跡も見てきましたが、イランには国中にそうした遺跡がゴロゴロしているものの、国の保護が行き届かず、国民の多くが盗掘で生計を立てている現実もあるとか。

ペルセポリスに代表されるアケメネス朝の絢爛たるペルシャ文化は突然に出現したものではなく、紀元前8000年頃以来の脈々たる文化の一つとして花開いたものです。

イランの文化はそうした人類最古のレベルに遡る古い歴史を誇る一方で、紀元前3世紀のアレクサンダー、イスラム掲げるアラブ勢力、蒙古のチンギスハンなど度重なる侵略・破壊を受けてもきました。

イランにとってはアレクサンダーはペルセポリスを焼き払うなど、単なる破壊者です。
アラブ・イスラムとの関係は、現在に至るまでイランにとって微妙な問題です。
蒙古勢力は最初は破壊者でしたが、その後、蒙古指導層がイラン文化に傾倒したこともあって、イランにとっては、まだましな存在だったようです。

ガラス&陶器博物館は展示物も優美・繊細ですが、展示室自体がペルセポリスの列柱と神殿をイメージした形になっていたり、真珠を育む大きな貝をイメージしていたりと、なかなかにオシャレです。


展示物の中では、「歩き方」にも紹介されているのが「涙壺」
優美な曲線で首が長いガラス壺ですが、口がラッパのように開いています。

夫が戦地に赴いた妻が、夫の安否を心配し、この壺の口を目にあてて流れる涙を壺にためた・・・・とか。
時期的には18世紀と、展示物のなかでは非常に新しいものです。

愛情あふれる説明ではありますが、もちろん実際に使用した訳でもなく、愛情というよりユーモアを感じる作品です。

そこらの水をいれて、帰宅した夫に愛情をアピールする妻、ウソとはわかっていても否定しずらく苦虫をかみつぶした夫

あるいは、ウソでもいいから涙壺に水を貯めてほしい夫、そんなことに一切興味がない妻

コメディドラマのワンシーンを彷彿とさせる作品です。

日本人として興味があるのが、奈良・正倉院につたわるガラス器と同じ様式の器。
時期的にも5~7世紀ということですから、正倉院と重なります。

当然、ペルシャで作られた品物はシルクロードに乗って交易されましす、先述のような他国の進攻の際にも多くのイラン人が避難民として東西に逃れ、中国などにその文化を伝えます。

そしてシルクロード交易の繁栄を今に伝えるのがテヘランのバザールです。(テヘラン自体はサファヴィー朝に砦が築かれたのが街のはじめということですから、16世紀以降の比較的新しい都市です。ですから、本当を言えば、テヘランの大バザールはシルクロードの繁栄というより、イラン庶民のエネルギッシュな生活を支える場所と言うべきでしょう)

テヘランの大バザールは地図で見ても、東西・南北ともに1.5kmほどはある広さです。
バザールは風のとおりを計算して涼しくなるように作られているとは言え、40℃近い暑さのなかで人ごみのバザール内を歩くのは正直疲れます。(バザール入り口近い付近は非常に涼しく、冷房されているのか、店舗から冷たい空気が流れ出てくるのか・・・よくわかりませんでした。工夫を凝らしたバザールの構造のせい・・・ではないように思えました)

夕方近くまで散策できる時間的余裕はあったのですが、暑い中を歩くのも大変になり、早々に切り上げてホテルへ。しばし休憩後、これまた早々と空港に・・・ということで、このブログを書いています。

ただ、空港のフリーWiFiサイトがペルシャ語でアクセス方法がわかりません。
テヘランはあきらめて、乗換地のタイ・バンコクでアップすることになりそうです。


(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国フライトの乗継地バンコクでようやく更新できるようになりました)
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イラン  力による制約を超えて緩やかな改革に向かう流れ

2017-07-28 10:52:43 | イラン
(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国フライトの乗継地バンコクでようやく更新できるようになりましたので、遡ってアップしています)


(「エスファハーンは世界の半分」と、その繁栄・美しさが賞賛されたイスファハーンを代表する「エマーム広場」 

日中の40℃にも達する暑さが峠を越して、やや過ごしやすくなった夕刻、大勢の市民が広場に集まり、家族・友人らと芝生の上で食事を取ったり、噴水の涼を楽しんだり、思い思いの時間を過ごします。


「宗教国家」といった類のイメージとは無縁の、穏やかな市民生活です。)


トイレ、水タバコ・・・生活に介入する宗教主導の支配体制

7月27日 イラン観光4日目 

ゾロアスター教の街(だった)ヤズドからイスファハーンに移動


****イスファハーン****

古くからの政治・文化・交通の拠点であり、16世紀 末にサファヴィー朝 の首都 に定められ発展した。

当時の繁栄は「エスファハーンは世界の半分」と賞賛され、この街を訪れたヨーロッパの商人も繁栄の記録を残している。

イラン人にとってエスファハーンは歴史的・文化的に重要な町であり、町の美しさは「イランの真珠」と例えられる。【ウィキペディア】

********************

世界遺産でもある優美・壮麗なモスク・広場などの観光については、別途旅行記サイトにアップするとして、今回旅行中、ちょっと気になっていたことがあります。

男性用トイレに、小便用の便器(いわゆるアサガオ)がなく、個室だけしかないことです。

確認したところ、「イラン革命」以降、立って用をたすのはイスラムの教えに反するということで、和式のしゃがみ込む形のトイレだけになったとか。

イスラム原理主義的な制約で何かと生活が窮屈になるのはアフガニスタンの旧タリバン政権でもよく見られることですが、トイレの様式まで及ぶとは驚きでした。

いろんな国を観光する際、美しい民族衣装の女性らによる伝統舞踊を楽しむことが多いのですが、イランはそういうショーはやっていないのか尋ねたところ「今の体制ではあまり音楽・舞踊は推奨されていないので・・・」とのこと。

たしかに・・・・うっかりしていました。

しかし、そういう抑圧的な政治状況にあっても、そうした圧力をはねのける形で、イランの音楽水準は世界的にみても非常に高いレベルを達成しているとも。

イランではお茶やコーヒーを楽しむ「茶店」をチャイハーネと呼びます。

イスラム圏のそうした「茶店」では、多くの男性が水タバコをのんびりくゆらしている光景を目にします。

そんなことで、何気なくチャイハーネで水タバコを吸いたい・・・と要望すると、ちょっと困った様子も。

地元の人に確認して「2,3か所吸えるところがある」とのことで、事前に連絡して用意してもらうことに。

たかが水タバコなのに、どうしてそんな大げさな話になるのか・・・ここ数年政府が水タバコへの圧力を強め、ほとんどのチャイハーネでは水タバコを出さなくなったとか。(健康志向なのか、イスラムの教えの問題なのかは知りませんが)

紹介されたチャイハーネに向かいお茶を飲んでいても、一向に水タバコが出てきません。

確認すると、水タバコは店内ではなく、別の場所で吸ってもらうとのこと。

そこで隣の倉庫みたいな場所へ移動すると、奥に水タバコを楽しめるスペースが。

それにしても、隠れた奥まった場所で密かに・・・・なんて、まるで戦前の上海のアヘン窟みたい・・・といった感も。

私ら以外にも客がやってきますので、そんなに秘密めいたものでもないのでしょうが、やはり大っぴらに営業するのは差し障りがあるようです。

私らが出た後、その倉庫かガレージみたいな場所は戸が閉められ、外から南京錠がかけられました。まだ中に客がいたように思うのですが。


増大する人々の不満は力では抑えきれない域に

息苦しさが増す生活に対する人々の不満が爆発したのが、2009年のアフマディネジャド氏の大統領再選のときでした。

1期目の選挙のときは人々の政治への関心はあまり高くなく、非常に低い投票率の選挙でアフマディネジャド氏が当選(その選挙への疑惑もありますが)。

しかし、同氏のトランプ大統領並の言動に人々もあきれ、再選を目指した選挙では多くの人々が投票を行い、同氏への抗議を示したそうです。

しかし、通常なら深夜まで延長される投票時間もすぐに打ち切られ、いつになく早く発表された開票途中経過では事前の予想に反して同氏がリード。そして、そのまま再選確定という結果発表に、選挙の不正を訴える人々が抗議のデモを起こしました。

これに対し治安当局は水平実弾射撃で鎮圧、死者を出す混乱状態になります。

結果的に抗議デモは力で抑え込まれ、イラン民主化運動は潰された・・・・というのが、日本を含めた欧米の一般的理解ですが、イラン国内にはやや異なる評価もあるようです。

確かに、抗議行動が力で封じ込まれたのは事実ですが、体制側もこれ以上人々の不満を力で封じ込めることへの危機感・限界を強く感じ、その後は、緩やかな改革へ向かう流れも生じたとのことです。

改革に向かう流れは、現在の穏健派ロウハニ体制の形で続いており、未だ抵抗勢力(宗教保守層、革命防衛隊などの勢力)の力は強いものの、後戻りを許さない社会の流れとなっている・・・・今後、イランは更に自由な社会を実現できるだろう・・・・という観測(期待?)も。

【依然として続くアメリカとの対立 危機を歓迎する勢力も】

ただ、後戻りしないかどうか、今後順調に改革へ向かうのかそうかは、外部環境、特にアメリカとの関係にもよります。

イランにしても、アメリカにしても、平和な関係よりも、衝突の危機を演出した方が、その存在感をアピールできる勢力、自らへの疑惑の目をそらすことができる勢力が存在します。

対立が激化し、敵対勢力に対抗することが最優先課題となれば、改革へ向けた緩やかな流れも頓挫します。

****米哨戒艇、ペルシャ湾でイラン艦艇に警告射撃****

中東のペルシャ湾で25日、米海軍の沿岸哨戒艇が接近してきたイラン革命防衛隊の艦艇に警告射撃を行った。当局が明らかにした。

米海軍の声明によると、米哨戒艇「サンダーボルト」はイランの艦艇に繰り返し無線で交信を試みたものの、応答がなく、照明弾や警笛も無視された。その後137メートル以内に接近してきたため、警告射撃を実施したという。

声明ではイラン艦艇の行動を「国際的に認められている交通規則にも海上の慣例にも従っておらず、衝突の危険を生み出している」と批判。「不用意で職業規範に背く」と警告している。

米海軍は当時の状況を映した動画の一部を公開。マシンガンでの2度の射撃音も聞こえる。

一方、イラン革命防衛隊は米哨戒艇がイランの艦艇に接近してきたと主張し、米国による「挑発と脅し」を非難している。

両国の間では今年1月にも、ペルシャ湾につながるホルムズ海峡で、米海軍の駆逐艦「マハン」が高速で異常接近してきたイラン革命防衛隊の艦艇4隻に警告射撃を行っている。【7月26日 AFP】

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****イラン、新型ロケット試射成功****

イランは27日、国産新型ロケットの発射実験に成功した。タスニム通信が伝えた。人工衛星の輸送が目的としているが、弾道ミサイルへの技術転用の懸念もあり、イランに強硬な米国の反発を招く可能性がある。



ロケットは名称「シモルグ」。ロケットの開発・打ち上げなどを一元管理するために27日開設された「イマーム・ホメイニ国立宇宙センター」で実験が行われた。最大250キログラムの衛星を上空500キロメートルの軌道まで輸送できるという。



米政府は18日に弾道ミサイル開発などを理由に対イラン追加制裁を科したばかり。一方、デフガン国防軍需相は22日、戦闘機や巡航ミサイルを標的にできる新型ミサイルの生産開始を発表していた。【7月28日 時事通信社】

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