BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

狼の条件(3)

2007-02-27 21:43:51 | Angel ☆ knight
   

 屋台の群れが複雑な迷路を作るオリエンタル・スークは、夜が更けるにつれて賑わいをましてくる。香辛料や鶏ガラの匂いが立ちこめる湯気の中に、ひときわ目立つ金色の頭をイリヤは見つけた。江流だ。
鏡面仕上げのサングラスを頭の上に上げて、江流はラーメンをすすっている。
昼間の銃撃事件のニュースでは、マシンガンを持った黒ずくめの男女の他に、「ラフな格好をした金髪の男」の目撃情報も伝えられていた。それだけで、イリヤには江流だとわかった。
隣の席に腰を下ろして、一種類しかないラーメンを注文する。
「ベーオウルフの依頼を受けたのか?」
前置きも挨拶もなしで切り出した。江流が自分に気づいていることはわかっていた。
「悪いか? おれはおまえみたいに、スカしたこと言って仕事を選んでいられるような優雅な身分じゃねえんだよ。いつもいつも腹空かしたガキが40人、ピーピーピーピー…」
「そうやって、ガキに負い目持たせて恩を売るのは、一番卑怯な大人のやり口だぜ」
イリヤが言うと、江流は苛立ったように、丼をドンと置いた。
「誰が負い目持てっつったよ。おれのやることを、いちいちえらそうに批判しなけりゃ、それでいいんだ」
相変わらず、世界の中心はオレ様な奴だぜ、とイリヤは思った。こいつと一緒にいると、いつも自分が月になったような気分になる。こいつの髪は太陽の金。おれのは月光の銀。
「ガキはウルフが匿っていた」 ぼそりと江流が言う。
『安楽園』の人間は皆ウルフのことを知っている。シスター・シシィが壁中に、ウルフの手柄話の載った新聞記事を切り貼りしているからだ。せがめば、いくらでもウルフが施設にいた頃のエピソードを披露してくれた。
「ウルフは警察官だろ? 何でガキを隠すのさ」
「警察の内部(なか)ってのも、結構ドロドロしてるみてえだからな。ベーオウルフには渡したくないのかもしれねえ」 江流は言った。
「まあ、焦らなくても、ここで張ってりゃ、そのうち向こうからおいでになるさ。理由なんざ、その時聞きゃあいい」
「って、ウルフとカムイがか?」
「ああ。あのガキは東洋風の食生活に慣れてる。すぐに、ラーメンが食べたいの、寿司が食いたいのと言い出すに決まってんだ」
「オリエンタルフードなんか、そこらのスーパーに売ってるじゃないか」
「いいや。ここの屋台はどれも中毒になるくらいうまいからな。タケルもよくおしのびでここへ来ていたらしい」
「そんなの、組織の連中も知ってるんじゃ…」
「そこまでの腹心は、皆殺られちまってるさ。今残ってるのはナンバー2以下の派閥だけだ」
「にしても、ウルフがこんな時にガキを連れて外出するかな?」
「するさ。あいつはとんでもねえ甘ちゃんだ。ガキに泣いてせがまれりゃ、必ずほだされる」
あんたはそこにつけこんで香典をせびったんだよな、とイリヤは冷たい一瞥を投げた。
江流は両手を頭の後ろに組んで上体を背もたれに預け、子供のように椅子をぎったんばっこんさせている。しばらくして、
「見ろ。やっぱり来やがったぜ」と、身を起こした。
江流の視線をそっと辿ると、帽子や眼鏡で顔を隠したウルフとカムイがこちらへ近づいてくる。影のように二人に寄り添っている黒スーツの男も連れのようだ。
三人は、すぐ隣の串カツの屋台の陰へ入っていった。江流はサンドボールを銃に込め、しのびやかに席を立った。
江流が串カツ屋の向こうに消えると、イリヤもつられるように立ち上がった。
忍び足で屋台を回り込むと、江流が硬直した姿勢で突っ立っている。黒スーツの男がこちらを振り向いて笑いかけた。
「知り合いか? 連れて帰ってやれ」
よく見ると、江流の手首には細い針がささっている。しびれ薬か。イリヤは江流を支えて、近くのベンチに連れて行った。酔っぱらいが何人かしなだれかかっている隙間に江流を座らせ、手首の針を抜いた。先端の匂いを嗅いで、いつも持ち歩いているビニールの小袋に入れる。ターゲットを確保した際に証拠品を持ち帰ることもあるので、鑑識係員が使っているような証拠保全用の袋を常に携帯しているのだ。他には、供述録取用のマイクロレコーダーがバウンティハンターの必需品だ。
「一時間もすれば消える薬だ」 イリヤが言うと、江流は渾身の力をふりしぼって、
「つけろ」と囁いた。

尾行などしても無駄だと思ったので、イリヤはスークを出たところでウルフに声をかけた。同じ施設の出身者だということが口実になった。実際、イリヤはウルフに初めて会った気がしなかった。
ウルフは二人を先に行かせると、スークをはみ出て営業している屋台でチャイを買った。紙コップに入った火傷しそうに熱いチャイを手に、二人は石段に腰を下ろした。
「あの男の子、草薙のカムイでしょう?」 単刀直入に訊ねる。
「どうして、警察に連れて行かないんですか?」
「どうしてって言われても困るんだが…カンとしかいいようがないな」
「わかります」 イリヤも仕事柄、自分の直感には絶対の信頼を置いている。
「実は、おれもベーオウルフからオファーを受けたんですが、自腹っていうのが何かきな臭かったんで断りました。うちのファーザーは受けましたけど」
殺し屋や私立探偵と違い、バウンティハンターを雇うのは司法関係者に限られている。そのため、依頼主の名前を明かさないという仁義はこの業界にはなかった。
「いくら子供の命がかかってるからって、一捜査官が自分の金でバウンティハンターを雇うなんて考えられません。まして、ベーオウルフみたいな蝮野郎が。おれに真っ先に声をかけてきたみたいなのも、引っ掛かりました」
「どうしてだ? それだけ、おまえの腕を見込んでるってことじゃないのか?」
「違いますね。おれはこんな見てくれだから、与しやすしと思われてるんです。別にひねくれて言ってるわけじゃないですよ。経験上わかるんです」
イリヤは淡々と言った。
「ウルフさんだって、施設で育ったんならわかるでしょう? 何か物がなくなったら、真っ先に施設の子供が疑われる。親という後ろ盾を持たない弱い存在だからです。世の中には、他人の弱さや甘さに異様に嗅覚のきく輩がいる。こいつは脅せば簡単に言いなりになりそうだ。こいつは哀れっぽい話で同情をひけばいくらでもカモにできる。ウルフさんだって、その調子でうちのファーザーに香典カモられたじゃないですか」
「おまえ、相当苦労してきたみたいだなあ」 ウルフは笑った。
「てことは、ファーザーに協力してるわけじゃないのか?」
「おれは無関係です。他人のトラブルに首突っ込んで振り回されたくありませんから」
「なら、話が早い。ここではぐれてくれるか? でないと、おれたちのボディガードがあんたを痛い目にあわせなきゃならなくなる」
「あの人、プロですよね」 イリヤは返事のかわりに両手を広げた。
ウルフが立ち上がって歩き出しても、イリヤはそこに座ってチャイを飲み続けた。

「まだついてきてる奴がいるな」
カムイの手を引いて歩きながら、ダンテは呟いた。二人か。スークを出てからずっとだ。組織の暗殺者(アサシン)か?
イリヤと別れたウルフが二人に追いついてきた。ダンテはカムイを彼に預けて、尾行者の背後に回った。
「おい、用があるんなら、はっきり言え」
上着の裾から銃口を向けると、二人の尾行者は揃って両手を挙げた。
「たいしたものですね。今目の前から消えたと思ったら、もうこんなところにいる」
その声を聞いて、ダンテは唖然とした。
「ナイトか?」
「お久しぶり、ダンテ」 エンジェルが快活に挨拶する。
永遠子から内々にカムイ探索を命じられた二人は、組織犯罪対策課のように大々的に人数を動かすことはできない。そこで、バウンティハンター名簿の中から銃撃事件の目撃証言に合致する人相の人物を探し出し、ベーオウルフが雇ったのは江流だと見当をつけた。名簿には携帯電話の番号も掲載されているので、その電話機が発する微弱電波を探知して江流の居場所をつきとめ、ずっと彼にはりついていたのだ。
先刻、ようやくその成果が現れて、カムイを連れたウルフとダンテにまみえることができた。
「たく、だからおれは、ガキのわがままなんか聞くなっつったんだ」
ダンテは顔をしかめた。今朝方からカムイの食欲がなくなった。ショッキングな出来事続きで胃が痛くなったらしい。スークのうどんなら食べられそうだというので、ウルフは出かけることを承知した。ダンテは反対したが、
―だって、可哀想じゃねえかよ。食欲がねえ時は、食いたい物を食うのが一番いいんだ。
と言い張った。
「ダンテ。永遠子局長は本当にあの子の身の上を案じています。だから、ベーオウルフより先にあの子を見つけるよう、わたしたちに命じたんです。悪いようにはしませんから、あの子を渡して貰えませんか」
「おれはウルフに雇われた身だから勝手に決めることはできん。だが、あんたの話は伝えておくよ。必要があれば、こちらから連絡する」
そう言うや、ダンテは引き金を引いた。銃弾のかわりに細い針が飛び出して二人の腕に突き立った。
「心配しなくても、時間が立てば動けるようになる。痺れが残った時は水をどんどん飲んで、尿と一緒に体外に出せ」
ダンテはそう言って、身を翻した。

(続く)


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7 コメント

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ウルフとダンテ!イケてますね☆ (murasan)
2007-02-27 22:09:16
前回のも合わせて読ませていただきました♪
ウルフとダンテは名コンビですね!!
まるで“あぶない刑事”のように☆(笑)

まだまだ謎があるので、展開に注目ですね♪
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murasanさん (アンジー)
2007-02-27 22:37:24
いつも読んで下さってありがとうございます。
ダンテも気に入っているので、ウルフとコンビを組んで貰いました。
あぶないファーザーもよろしく!(笑)
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う~ん・・・ (tami)
2007-02-27 22:54:53
こんばんは。

子供好きで、影のある男に弱い。
ウルスに惚れた!
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tamiさん (アンジー)
2007-02-27 23:24:39
tamiさんもウルフに惚れて下さいましたか。
ウルフはなかなか人気者のようです。
生みの親の私としても嬉しいです。
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駄洒落?? (R)
2007-02-27 23:44:36
一種類しかないラーメン!一体何味でしょう笑
丼をドンとおいたって・・・
駄洒落でしょうか?面白いw
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さすが! (めめ)
2007-02-28 13:50:18
こんにちは!

いよいよナイトとエンジェルのお出ましですね!
もう、カムイの元に辿り着いたとは・・・。
さすがに早いですね!

ウルフは、やさしくてカッコよくて!
私も回りにもそんな人いないかしら(笑)
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まいど! (アンジー)
2007-03-01 15:36:45
 Rさん
そう言われてみればそうですねえ。無意識でした(笑)
どんなラーメンでしょう。時々見かけるメニューが一つしかないこだわりの店を思い浮かべて書いたんですが(笑)

 めめさん
やっと出てきたのに、ダンテに痺れ薬を打たれてしまった二人 本領を発揮できるのはまだか
フッフッフ、めめさんのブログに時々出ていらっしゃる素敵な方はどなたなんでしょう
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