「美しい村」の議員日記

南アルプス山麓・大鹿村在住。自給自足農業、在宅ワーカー、2011年春より村議会議員。

リニア準備書への疑問点

2013年10月01日 | リニア新幹線
 リニア準備書の縦覧が始まってから10日ほどたち、他県では説明会が始まって、市民からの疑問が次々寄せられている状況が報道されている。長野県でも明日から説明会が開催され、大鹿村では来週説明会が行われることになっている。準備書は千何百ページもあり、本当に膨大な量で、どこに何が書いてあるのかを探すのも大変に思えてしまうけど、ある程度ポイントを絞って読むだけでも概要はつかめる。多くの人が少しでも事前に内容を頭に入れて説明会に臨んでほしいと思う。
 準備書は分厚い本編と資料編、関連図、要約書の四つに分かれている。まず1万分の1の地形図に記された詳細な位置図が、環境影響評価関連図というところにある。紙ではA2判の大きな地図で、大鹿村では非常口4つ(釜沢に2つ、上蔵、青木)、新たな工事用道路(上蔵)、橋梁(日向休)、変電施設(上蔵)の位置と、路線が点線で示されている。一応、釜沢、上蔵の集落は回避した形。
 また工事現場ごとの詳細、何年目から何年目にどういう工事を行うのか、どんな機械がどのくらい使われるのか、工事に伴って資材及び機械の運搬に用いる車両の運行台数がいつどれくらいになるのかといったことが、資料編の3、工事計画の中に書かれている。この資材及び機械の運搬に用いる車両の運行台数について、JR東海の環境保全事務所に確認したところ、残土運搬のダンプも含まれているとのことだった。大鹿村の工事現場A~Gの総台数がピークになるのは4年目で、年間21万1337台、月最大2万6314台とされている。これを土日を除く20日間で割ると1316台にもなる。
 また、準備書本編の8章、大気質や騒音、振動予測のところを見ると、資材及び機材の運搬に用いる車両について、発生集中交通量は県道赤石岳公園線(上市場)で1566台/日、国道152号線下青木)で234台/日、国道152号線(下市場)で1736台/日という数字が出ている。以前に住民意見交換会の折に、村の予測として小渋線の交通量が残土運搬ダンプだけで片道数百台という数字が示されたが、「数百」という言葉の意味が曖昧なせいもあるが、それをはるかに上回る大きな数字だ。相当な道路改良がなされなければ、村民や観光客の通行に大きな支障を来すし、工事車両自体もスムーズな通行は到底不可能だと思われるが、工事計画を見ると、釜沢の非常口では1年目から掘削が始まるとされている。
 長野県内だけで950万立方メートルとされる建設発生土の行き先が決まっていないため、残土についての記述はほとんどなく、「事業者により実行可能な範囲内で、再利用及び再資源化を図る」あるいは「関係法令等を遵守し適正に処理、処分する」から、「事業者により実行可能な範囲内で低減されている」と評価されている。何も具体的に示されていないのに、どうして評価できるのか理解できない。「事業者の実行可能な範囲内」という文言が、事業者が自ら行う環境アセスメントであることの問題点を端的に表している。法的基準さえ満たしていれば、影響を受ける側の尺度など何ら関係ないのだろう。これは騒音や振動、大気質の予測評価等でも感じることで、現況との著しい差をきちんと評価してほしいもの。

 リニア工事の環境影響で、沿線各地で最も心配されているのが水源への影響ではないかと思う。何しろ山梨実験線の延伸工事で絶対枯れないといわれていた川が枯れるなど、「トンネル掘削箇所の上部では井戸も沢も用水も全て100%が涸れた」そうだ(豊丘村住民グループの視察報告書より)。土被りの厚さ、地質などで違ってくるにしても、予測できなかった水枯れがどこでも起こり得ることが懸念される。断層破砕帯や地質の脆弱な部分が多々ある大鹿村では、準備書においても小河内沢や釜沢水源の水量の減少が予測されているのは、前のブログに書いたとおり。でも、山梨で想定外の水枯れが起きていることを思えば、その程度の減少で済むのか疑問を払拭できない。あるいは水の調査地点や検討範囲は十分なのか。大鹿村の温泉については、生津の湯以外は予測評価の対象にすらなっていない。また、人が使っている水については減水などで支障を来せば何らかの応急対策が施されるものと思われるが、人が使っていない水については調査もされていないだろうし、故に因果関係も認められず対策も施されないことになるのではないかと危惧する。

 動植物や生態系への影響で、重要な種の予測結果を見ると、例えば猛禽類のオオタカ、ノスリ、クマタカなど、幾つか「生育環境の一部は保全されない可能性がある」と評価されている。しかし、「一部の種は、生息環境の一部は保全されない可能性があると予測されたが、低騒音・低振動型機械の使用等の環境保全措置を実施することで、影響の回避または低減に努める」ことから「実行可能な範囲内で回避または低減されている」ということになってしまう。すべて「実行可能な範囲内で」だ。イヌワシについては「改変の可能性のある範囲の一部が行動圏に含まれ、ディスプレイが確認されている」とあるが、営巣地は相当離れているから影響は小さいとされている。
 また、動植物の調査範囲は、猛禽類以外は非常口などの土地改変区域から概ね600メートル程度だけに限定されている。例えば沢の水位が減少すれば、植生や水生生物への影響が出てくるところはもっと広範に及ぶだろう。青木の方では河川水(地下水)低下に伴う動植物調査地域が付加されているが、小河内沢も心配だ。大体、南アルプスはもともと十分な調査が及んでいない地域なのに、1年やそこらで十分な調査が行えるはずがない。

 景観への影響については、大鹿村では主な眺望点としては大西公園しか挙げられておらず、大西公園からは鉄道施設を視認できないので景観の変化はないとされている。また景観資源である小渋川も改変はごくわずかで、景観資源の価値を大きく損なうものではないとしてイメージ写真もない。確かに小渋川橋梁は日向休下流の道下になるようなので、それほど目立たないかもしれない。しかし、工事ヤードの存在や新たな工事用道路など工事中の景観は損なわれるはず。

 などなど、大鹿村に関係するところだけをピックアップして読んでいっても、要約書は付箋だらけだ。ましてや沿線各地域に、共通の問題、固有の問題が山積している。静岡県では二軒小屋付近の谷底から掘り出した残土の一部を山梨県境の2000メートルの山の上に積み上げるなんてことも計画されている。環境影響だけでもない。採算性、安全性、さまざまな面で問題点が指摘されている。準備書が出されてから、ようやくマスコミでも「夢の超特急」ではないリニアの問題点も少しは報道されるようになってきた。しかし、このまま行けば、来年には着工されてしまう。一般の人が意見を言える最後の機会である準備書に対して、ぜひ多くの人に関心を寄せていただき、疑問の声を上げてほしい。

JR東海・リニア新幹線環境影響評価準備書ご意見フォーム
 

最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
工事用車両問題対応 (大鹿村が大好きな男より)
2013-10-02 06:56:21
1、建設機械を村の地表面に入れたくない。:豊岡村、静岡市から掘削する。延長約20km:青函トンネルは、延長54km、片側27kmを19年で完成している。静岡からの掘削を考慮しなくても、14年間で掘削可能。:豊岡村、静岡市との調整が必要:最適だが現実性は薄い。
2、土砂運搬ダンプを絶対に村内に走らせたくない。:ベルトコンベアで、土砂を運搬する。:多くのトンネル工事で採用されている。排ガスも無く、環境にやさしい。:現実性は高い。
3、土砂運搬ダンプを出来る限り村内に走らせたくない。:ダンプ等の走行時間帯を制限する。
4、同上:豊岡村側からの完成したトンネルを使用して、土砂を運搬する。
これらのどこまでを村全体として、許容するかが、当面の課題でしょう。
返信する
Unknown (管理人)
2013-10-02 22:11:40
今回の準備書の内容は、リニア容認派も含めて多くの村民にとって許容し難いものです。村全体として譲れない線をしっかり持って、そこは徹底的に言い続けるしかないと思います。
返信する
私の許容範囲 ( 大鹿村が大好きな男)
2013-10-03 07:11:00
私は64歳です。来年から12年間も土砂運搬ダンプが村内を走る状態は、3.:ダンプ等の走行時間帯を制限する。も含めて許容できません。
返信する
Unknown (管理人)
2013-10-03 23:10:58
下市場のメインストリートを大型車1736台/日という状態は、想像を絶するもので、私も許容できません。ちなみに同地点の現況は、小型車1502台/日、大型車113台/日です。
返信する
土砂ダンプのすごさ (大鹿村が大好きな男)
2013-10-06 18:55:41
管理人さんが示された大型車の日台数が1736/113=15.4倍となることを、村長を含めた村民に伝えていただき、許容できることではないと、皆さんが理解され、ベルトコンベア等の代案を希望・提案することを望みます。
返信する
Unknown (管理人)
2013-10-08 21:37:54
大鹿村では村民の生活環境に重大な影響を及ぼすリニア計画に対し、以前からいろいろな要望をしてきています。その結果、出されたものが今回の準備書です。JR東海は工事予定地に暮らす住民の声に全く応えていません。どうぞ村外からもJR東海あてに意見をお寄せください。
返信する

コメントを投稿