「美しい村」の議員日記

南アルプス山麓・大鹿村在住。自給自足農業、在宅ワーカー、2011年春より村議会議員。

リニア準備書に対する意見書

2013年11月04日 | リニア新幹線
 リニア準備書に対する意見書をご意見フォームから送信した。今回はあくまで大鹿村民として大鹿村にかかわる部分についての意見にした。2日の信毎に載った村の意見とはかなり重なる。大鹿村議会としての意見書は出せそうもないが、村の意見書案を全員協議会で協議しているので、村の意見書に議会の意向も反映されている。
 このほか、全区間にかかわる意見とか、静岡の残土置き場のこととか、まだまだ言いたいことはあるので、5日までの間に書ければまた追加して送るかも。

○事業計画(路線概要、工事計画、自然災害等)
 大鹿村は「日本で最も美しい村」連合に加盟し、失ったら二度と取り戻せない美しい自然・山村景観と、江戸時代から続く農村歌舞伎をはじめとする伝統文化を大切に守り、小さくても輝くオンリーワンの村づくりを進めているところです。そしてまた、こうした美しい自然景観や汚染のない清浄な水や空気、静かな環境、そこに暮らす村人の温かい人柄などに魅せられて、他地域から移り住む人たちも多い村です。今回の中央新幹線環境影響評価準備書に示された計画内容は、大鹿村の自然環境、生活環境や、観光業などの地場産業に甚大な影響を及ぼし、村の人口減少に拍車をかけることになりかねないものであり、村民として到底受け入れ難いものです。環境アセスは本来、具体的な計画を示した上で何年かかけて影響評価を行うものだと思いますが、リニア計画の場合は方法書段階で具体的な情報はなく、多くの沿線住民は今回の準備書で初めて具体的なルート等を知り、しかも残土処理方法等まだまだ不明なまま、変更の余地なし、来年度着工予定と迫られて、大きな戸惑いや不安、憤りを感じています。リニア計画自体の凍結と再検証を求めます。

○大気質
 大鹿村には、健康的な理由によって大気汚染の少ない環境を求めて移住された方々もいます。環境基準を下回っている予測・評価ではありますが、現状との差は非常に大きいので、工事中も沿道住民の苦情等に耳を傾け、環境基準内であってもできる限りの影響低減に努めることを求めます。

○騒音・振動・微気圧波・低周波音
 資材及び機械の運搬に用いる車両の運行に伴う騒音・振動の予測条件として、発生集中交通量(大型車)が県道253号線で1566台、国道152号線で1736台、また規制速度60km/hという数字が示されていますが、このような予測条件は受け入れることはできません。特に下市場地区の国道152号線は保育所や小学校、交流センター、商店などが並ぶ村のメインストリートであり、このような大量の大型車が通行することになれば、村民の日常生活にも重大な支障を来し、高齢者は家から外に出られなくなるとの悲鳴も聞こえてきます。また、その台数が大鹿村と隣町とを結ぶほとんど唯一の生活道路である県道59号線を通行するとなれば、隣町などへ買い物や病院に出かけるのにも、観光客が大鹿村を訪れるのにも大変な状況になってしまいます。しかも、それが何年も続くとなれば、大鹿村に住めなくなる人も多数出てくることでしょうし、大鹿村に移住したいと思う人もいなくなってしまうことでしょう。地元と協議の上、予測条件(工事用道路)の抜本的な見直しを行い、その内容で改めて予測・評価を行うべきです。
 また、評価結果のところで環境基準が大鹿村内は70dBとされています。国道や県道は幹線道路ということで70dBとされているようですが、大鹿村の国道・県道は狭隘箇所も多く、幹線道路の類型とするのは適当とは思えません。少なくとも65dBの類型とし、基準以下となるよう予測・評価をし直すことを求めます。

○水質・水底の底質・地下水・水資源
 きれいな水は大鹿村の大切な財産です。上流で工事を行うことによる水道・井戸水・湧水等の水質への影響を回避するため、定期的な水質検査を求めます。
 山梨リニア実験線のトンネル工事において、想定外の水枯れが多数発生していることが報道されています。大鹿村には断層付近の破砕帯等、地質が脆弱な部分が多く、地下水位低下工法等が用いられることが予想され、河川流量や地下水の水位などに大きな影響があることが懸念されます。影響が生じた場合に住民の生活に支障を来さないように早急な対応、また恒久的な対策を行うのはもちろんですが、減水・渇水の影響を受けるのは住民の生活だけではありません。例えば小河内沢は河川流量が34%も減少する予測結果が示されていますが、大鹿村は全域がユネスコエコパークの国内推薦地域であり、小河内沢流域は緩衝地域になります。水のある景観や生物多様性保全のためにも、適切な復旧措置を求めます。復旧不可能であるならば、工事を行うべきではありません。
 高橋の水文学的方法によって地下水影響予測検討範囲が示されていますが、南アルプスの地質構造は複雑であり、過去のトンネル事例から算出された計算式ですべて当てはまるとは言えないと思います。最近の知見では、鹿塩温泉の塩水の成因は、フィリピン海プレートがマントル内に沈み込んだときに放出されたとされ、深さ50km以上とのことです。深層地下の水脈は分からない部分が多く、影響予測範囲外であっても、温泉などの重要な水資源についてはきちんと事後調査の対象とするよう求めます。

○重要な地形及び地質・地盤沈下・土壌汚染
 小渋川橋梁が計画されている鳶ヶ巣岩壁は、紅葉の美しい重要な峡谷地形であるとともに、深層崩壊の危険区域です。景観保全のためにも、安全性の確保のためにも、地下で通過することを求めます。

○動物・植物・生態系
 長野県ではクマタカなど希少猛禽類の生息環境が保全されない可能性があるとされ、静岡県ではイヌワシも保全されない可能性があるとされています。なぜそれで影響が少ないと評価できるのか理解できません。クマタカの環境保全措置として代替巣の設置が挙げられていますが、環境省の「猛禽類保護の進め方」でも、クマタカでは代替巣の事例はあるものの、回避、低減により保全を図るべきものとされているはずです。
 大鹿村でミゾゴイが「相当離れた地域」で1羽確認されていますが、地元の方によれば営巣しているとのことです。現地調査が不十分と思われるので再調査を求めます。また、このような場合の「相当離れた地域」とはどのくらい離れているのかといった詳細情報が記載されていないため、評価が妥当か判断できない部分が多々あります。希少種保護の観点から非公開となっているとしても、少なくとも県の技術委員会など専門家には情報開示すべきです。
 動植物の調査範囲が改変区域から概ね600m以内に限られていますが、工事用道路の沿道や河川流量や地下水位の低下が予測されるところなどでも影響が懸念されます。河川水(地下水)低下に伴う動植物調査区域として青木川周辺の沢調査が実施されていますが、小河内沢周辺や支流などにも範囲を拡大して再調査を実施すべきです。

○景観・人と自然との触れ合いの活動の場
 大鹿村では大西公園からの景観について、工事施設や鉄道構造物などが視認できないので景観への影響はないとしか触れられていません。しかしながら、上蔵に変電施設が設置される計画であり、変電施設への送電については電力会社の管轄であるとして一切記載がありませんが、変電施設へ向けて高圧鉄塔が建ち並ぶとすれば、「美しい村」の集落景観を大きく損ないます。また3ヘクタールもの敷地面積を持つ変電施設自体が集落景観を大きく損なうものであり、変電所の設置場所変更または規模を縮小するなど、計画自体を見直すことにより環境影響を回避または低減することを求めます。

○廃棄物等・温室効果ガス
 準備書には残土運搬計画が未定のため示されていませんが、約300万立米にもなる膨大な残土の処理は大鹿村民全体の生活環境に大きな影響を与えるものであり、残土置き場、運搬経路等の計画とその環境影響が書き込まれていなければ、環境影響評価の意味をなさないと思います。たとえ評価書までに決定できなかったとしても、少なくとも残土の最終運搬先が決定するまではトンネル工事着工を認めることはできません。大鹿村に仮置き場が設置される可能性もあるかと思いますが、仮置きの長期化は災害対策や景観の観点からも受け入れることはできません。仮置きの場合の年限もはっきりさせるべきです。
 工事用道路は原則として既存の道路を使うとして、国道152号線や県道赤石岳公園線、村道などが記載されていますが、特に県道赤石岳公園線は狭隘箇所が多く、かつ急峻で抜本的な道路改良も不可能な地形であり、工事車両の通行自体も困難です。釜沢に仮置きできれば、トンネルを使って排土するとの説明でしたが、釜沢地区には近いところに非常口が2か所も予定されており、集落から少し離れているとはいえ環境負荷は相当大きくなります。また、上蔵地区の集落内を工事車両が通行するのを避けるため、別途、工事用道路が計画されていますが、この計画地は急傾斜地であり、ここに道路をつくるのは土砂災害などを招く危険も生じ、また付近に希少種が生息しているという地元の方の情報もあります。計画自体を見直すべきです。