夢逢人かりそめ草紙          

定年退職後、身過ぎ世過ぎの年金生活。
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美味し、美しく、北のまほろば冬の旅は・・。 ⑥ 第5章 ときおり雪舞い降る中、奥入瀬渓流往還記

2010-12-23 20:36:27 | 
          第5章  ときおり雪舞い降る中、奥入瀬渓流往還記

私達夫婦は、蔦温泉に滞在している間、冬の奥入瀬渓流の散策を予定し、
当初は蔦温泉より11時32分発の一番バスの路線バスに乗り、
渓流の半ばにある石ケ戸の周辺を散策して、
石ケ戸を午後の2時4分発の路線バスで蔦温泉に戻る計画であった。

もとより冬の奥入瀬渓流の遊歩道に沿った路線バス、トイレも少なく、
今回の旅の往路からの八甲田山連峰のロープウェイの案内スタッフから、
遊歩道、トイレなどの閉鎖箇所もあるので、現地の方、宿泊先に確認されたら、
と教示を受けたりしていた。

私達は10年前の2月、古牧温泉に2泊3日で滞在したいた時、
この観光ホテルのサービスとして、無料の周遊バスで、
谷地温泉の立ち寄り湯、そして焼山の奥入瀬渓流館で自由食、その後は十和田湖までの
奥入瀬渓流の情景を観たりし、魅了されてた。

こうしたささやかな体験もあったが、私は迷ったりしていたのである。

私は蔦温泉の館内の談話室で煙草を喫っていた時、
偶然に公衆電話の横にあるタクシー、貸切観光タクシーの料金表が掲載されていた。
たとえば、蔦温泉から石ケ戸まで、3500円、蔦温泉から子の口までが5500円、
或いは貸切観光タクシーとしては、蔦温泉~奥入瀬渓流~子の口まで12000円(一時間50分)
と明示されていた。

この後、家内と話し合い、タクシーで石ケ戸、そして阿修羅の流れ付近まで利用しょう、
と思い立ったのである。


翌日の朝の10時、旅館前で私達は前日と同様に防寒着で身を固めて、
残り雪の多い冬晴れの中、タクシーを待ったりした。
まもなく、60代ぐらいのタクシー・ドライバーの方に、
『石ケ戸、そして阿修羅の流れまで・・その後は状況次第で・・』
と私はタクシー・ドライバーの方に云った。

走り出してまもなく、私が首からぶらさげたデジカメを見て、
『ご主人・・写真がお好きなんですか?』
とドライバーは私に云った。

このひと言が、私達とドライバーの物語のはしまりであった。

ドライバーの方は、旅行の写真専門誌に幾たびか掲載される写真を撮る名手であった。
そして途中でタクシーを停めて、
この風景が宜しいかと思いますが、とアドバイスをして下さったのである。

その後も私達に微笑みながら、道脇から渓流沿いの冬季に閉ざされた遊歩道を案内して下さったり、
私達夫婦の記念写真まで撮って頂いたりした。

そして、何気ない会話を重ね、すっかり意気投合したかのように、
幾たびか停止し、私はデジカメで冬の奥入瀬の情景を撮ったりした。

結果としては、子の口の湖岸の波打ち際の氷柱を観たり<
湖岸の樹木の根に氷柱の情景も教示して頂いたりした。

帰路も渓流の14キロぐらいの道のりを利用したが、
路面は除雪の後の真っ白な道、道路の路肩は除雪の雪で60センチぐらい、
そして周辺の樹木は雪をたたえて、ときおり雪が舞い降る情景であった。

何よりも驚いたのは、この時節に渓流の遊歩道を散策する観光客もいなく、
この長い道のりで、人影を見かけたのは道路を管理されている方が3名だけで、
まるで奥入瀬渓流を私達が借り切ったよう錯覚さえ感じたのである。

そして私達は蔦温泉までの時を略歴を交わしながら楽しげに話し合ったりし、
映画の話になり、私よりひとつ齢上の方であり、互いに笑ったりしていた。
家内もときおり言葉を重ねて、談笑した。

旅館前に帰還した私達に、
『後ほど・・この旅館にご夫妻の記念写真をお届けいたします』
とドライバーの方は明るい表情で云った。

二時間後、このドライバーは、ご自身が撮られた特選の奥入瀬の若葉の頃、
そして錦繍の頃、いずれも美麗な二葉の四つ切写真であり、
私達夫婦の写真も備えられていた。

この世に一期一絵という言葉があるならば、
こうしたことの意味合いかしら、と私は家内と微笑んだりし、
ドライバーの表情、しぐさを思い重ねたりした。


                                  《つづく》

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