備忘録として

タイトルのまま

この世界の片隅に

2017-01-27 21:10:02 | 映画

 『この世界の片隅に』2016、監督・脚本:片渕直、声の出演:のん(すずさん)、細谷佳正(夫・周作)、尾身美詞(義理の姉・径子)、評判の『シンゴジラ』や『君の名は。』を差し置いて、2016年キネマ旬報ベストテンの1位に選ばれたと聞き、すぐに近所のシネコンに観に行った。土曜日の朝の映画館は私のような中高年でいっぱいだった。おそらくキネマ旬報の記事を読んで思い立ったのだと思う。『君の名は。』は若者向けなので、中高年からなる審査員が『この世界の片隅に』を選んだのは必然だろう。映画は昭和10年代から戦争終了まで、広島と呉に生きた一人の女性を描く。当時の(銃後?の)庶民の生活に、戦後派の自分が懐かしさを感じたのは、戦時下の食糧不足、言論統制、艦載機からの爆弾投下や銃撃、身近な者の死などを、父母から聞いていたからだろう。それと舞台となった広島に一時期住み、原爆ドームや江波や呉の見覚えのある風景が丁寧に描かれていたことも懐かしさを覚えた理由だと思う。上のポスターは公式ホームページより。洋画ポスターはいつものIMDbより。

 主人公のすずさんの成長と結婚、戦時下の生活、戦争の悲劇、逆境の中で生きる姿が淡々と描かれる。昭和20年8月6日も8月15日も当然彼女のところにやってくる。困窮や悲しみの中にも喜びをみつけ生きるすずさんに感情移入した。庶民は生きる時代を選べない。こんな時代に生まれたのが不運だったとあきらめるしかないのだろうか。今の平和な生活を絶対に手放してはいけない、反戦の声を上げ続けなければならないと強く思った。というわけで、『君の名は。』ではなく、こちらに軍配をあげる。★★★★☆

 『星のむこう、約束の場所』2004、監督:新海誠、声の出演:吉岡秀隆、荻原聖人、南里侑香、『君の名は。』の監督作品だったので機中で観た。津軽海峡をはさんで本州側の日米同盟と北海道のユニオンに分断された日本を背景に、手作り飛行機で津軽海峡を渡り北海道にそびえるタワーを見に行こうと約束した中学生3人を描く。ユニオンが造ったタワーはパラレル宇宙とつながっていると考えられていて、少女はそれを作った学者の孫である。パラレル宇宙の出来事を夢で感知する少女は、いつしか眠りに入り政府の監視下で夢を見続けることになる。ある日、日米とユニオンの間で戦争が始まり、それでも少年は少女を連れ出し約束を果たす。運命や社会に翻弄されながら自分の意志を貫こうとする若者を描くところは『君の名は。』と同じ。でも、『この世界の片隅に』を観た後では、架空ではあっても、戦争を安易に描きすぎだと思ってしまう。★★☆☆☆

 『Deja Vu』2006、監督:トニー・スコット、出演:デンゼル・ワシントン、ポーラ・パットン、バル・キルマー、ジム・カビーゼル、500人以上が犠牲になったフェリーボートの爆破事件を追う捜査官は、4日前を監視できる装置を開発したチームとともに爆破犯を追う。以前観た映画を機中で再鑑賞した。大好きなタイムトラベル物で、過去を変えることで現在や未来を変える話である。同じタイムトラベルを扱っても、過去は変えられないとする話の方がどちらかといえば多いような気がする。ドラえもんの『日本誕生』では、過去を変えてはいけないので時間を守るタイムパトロールが出てきた。代表的なタイムトラベルを扱う映画『Back to the Future』は過去と未来を縦横に駆け巡り、不都合な未来を変えようとする。あっちの未来やこっちの未来というパラレルワールドの概念も使われる。2作目のスポーツ年鑑で大金持ちになるビフはトランプがモデルらしい。他にも起こってしまった出来事を、過去に遡って変えようとする映画は、『ターミネーター』シリーズや『Source Code』などがある。『All You need is kill』も過去をリセットするということでは同類だ。近い過去にタイムトラベルすると過去の自分に出会うことになる。『ハリー・ポッター・アズカバンの囚人』では、ハリーは過去の自分を救う。でもそれは過去の出来事を変えるのではなくて、過去にあった不思議な出来事が実は未来の自分がしたことだったという謎解きをして見せるものだった。この手の映画には無理や矛盾はつきもので、あまり詮索せずに素直に受け入れることが映画を楽しむ秘訣である。

 事件の捜査官デンゼル・ワシントンは、4日前の出来事を見ているうちに爆破犯に殺される前の女性に恋してしまい、事件前に戻り女性を救おうとする。過去には過去の自分とタイムトラベルした未来の自分が同時に存在するのだが、二人は出会うことはなく、事件の終了とともに未来の自分は消える。映画の最後、その時代(過去)の捜査官が女性の前に現れたときのHappy Endにホッとし、『オブリビオン』のトム・クルーズのクローンを思い出していた。★★★★☆

 『Timeline』2003、監督:リチャード・ドナー、出演:ポール・ウォーカー、ジェラルド・バトラー、ケイト・エリクソン、アンナ・フリーエル、同じくタイムトラベル物。14世紀の英仏100年戦争の遺物を発掘していた考古学者が、遺物の中に自分たちを指導していた教授の書いた”Help me”という手紙を見つける。その手紙のインクは炭素年代法で600年前と鑑定され、教授が14世紀にいる(いた?)ことに驚く。若い考古学者たちは教授を救うため、教授が使った時間転送装置で14世紀にタイムトラベルし、その時代に深く関わっていくことになる。送られた時代と場所は、現代人が想像できないほど生死が紙一重の戦場だった。送り込まれた考古学者たちの必死の行動は、歴史を動かすことになるが、それは必然だったという落ちになる。すなわち、発見された考古学的遺物は彼らのとった行動と矛盾しなかったのである。『Deja Vu』と同じく、愛は時空を超えるのだ。★★★☆☆

 『Florence Foster Jenkins』2016、監督:スティーブンス・フレアース、出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、メリル・ストリープがドナルド・トランプに噛みつかなければこの映画はパスしていた。音痴のオペラ歌手を主人公にした映画が面白いはずがないと思い込んでいたからだ。実際、そんなに面白い映画ではなかった。主人公フローレンスに遠慮して何も言わない観客の中でただ一人、音楽ホールには場違いで上品とは言えない女が、フローレンスの歌声を聞いて本当に転げ廻って笑う場面が痛快だったのと、夫でマネージャーのヒュー・グラントの献身ぶりに感心したところだけが見どころだった。メリル・ストリープの音程の外し方が名人芸だという評価があるが、音痴の自分にそれがわかるはずがない。この映画のお蔭で、自分にはミュージカル映画の評価は無理であることに気付いた。★★☆☆☆

今回のブログでもトランプが2回出てきた。しばらくはこんな世界の片隅にいてもトランプに振り回されそうだ。


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