備忘録として

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神々の流竄(るざん)

2008-06-02 00:21:51 | 古代

梅原猛の”神々の流竄”は、20年ほど前に読んだが、あまりに強引な解釈のように感じたので途中で投げ出した。今回は最後まで読んだ。

  1. 出雲神話の舞台は大和であり、アマテラス系の神々に敗れたスサノオや大国主命など元は大和にいた神々が流されて成立した。
  2. 背中に松の木が生えたヤマタノオロチは三輪山である。
  3. 因幡の白ウサギの話は、福岡の沖ノ島の話である。
  4. 出雲大社は記紀成立のころに、大和の西(根の国)に建立された。対して伊勢神宮は東に建てられた。
  5. アマテラスが天孫ニニギノミコトに地上の統治を任せるのは、持統天皇が皇統を孫の文武天皇に伝えることを正当化するためにつくられた。
  6. 古事記を暗誦した稗田阿礼は、藤原不比等である。不比等は中臣鎌足の次男だが、鎌足の死後、田辺史という文筆を生業とする人に養育される。本名は史(ふひと)であり、史書を書く才能を持っていたことは容易に推測できる。不比等の長男の武智麻呂は図書頭として日本書紀の撰集メンバーであるので、不比等が歴史書編纂に関わっていたことは明らかである。
  7. 天武天皇は28歳の稗田阿礼に歴史編修を命じた。天武天皇崩御の年(686年)に命じたとすると、658年(659年説もあり)生まれである不比等はその年まさに28歳である。
  8. 古事記は元明天皇だけに読み聞かせる私家版歴史書である。だから、正史である日本書紀には古事記のことが言及されていない。
  9. 藤原氏(不比等以降)は、中臣と藤原の二姓を名乗り宗教と政治を支配した。
  10. 記紀神話はミソギとハライの思想をもとに中臣氏によって8世紀につくられた。ミソギは神事の前に水で心身を洗い清めること。ハライは精神の穢れの浄化または追放(おはらいばこ)。ウケイは契約。

改めてこの本を読んで、梅原ならではの着想と解釈、推理が多くあり、20年前に読んだときにうさんくさいと感じたものが、今回はこのような解釈や推理があってこそ歴史や学問は発展するものと思った。これは理論物理学が先行して実験物理学が実証していくように、また地表のわずかな証拠から地下深部や地球の歴史を推定構築する地質学と同じように、いずれ考古学や文献学によって実証と修正がなされていくはずである。梅原の言うように、推理や解釈を自ら放棄している歴史家(井上光貞ら)の姿勢は正しいとは到底思えないし、そんな学問は面白くない。


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