極東アジアの真実 Truth in Far East Asia

I am grateful that I can freely write my daily thoughts

世界の良識は元気です!

2022-11-23 10:09:13 | ウクライナ

田中 宇(たなか さかい)氏の記事(2018年5月28日、 2022年4月8日、6月24日)紹介です。

以下記事は世界の多くの根拠をもとに、独自の視点で書かれたもので、欧米等の根拠を自作等した嘘ばかりの専門家、報道・情報等と違い、記事内容精度が高いと思います。是非、多くの方々がこれらの記事を読まれ、何かの参考にしてほしいです。

ウクライナ戦、初期でのブチャの虐殺、過去のマレーシア機撃墜等、正しい情報は何処にあるのか・・・昨今のイーロン・マスク氏の登場、ツイッター保有!ツイッターのこれまでの検閲、偽旗作成部門等々人員は解雇されており、更にこれらのアルゴリズムが公表される可能性があります。ツイッターにより世界は真相、新たな民意情報により良識に近づくと思います。イーロン・マスク氏が述べているようにツイッターがbastion of free speech(言論の自由の砦)になることを!

FABVOXさんの動画紹介です。

 

田中 宇(たなか さかい、1961年5月7日~ )は日本のジャーナリスト、評論家、有限会社田中ニュース代表取締役

1961年、東京生まれ、東北大学経済学部卒業、1986年、東レ勤務、1981年共同通信社に入社、そこで外信部に配属、英語のニュース記事を多読する内にそれらに魅了されています。

1996年頃、「田中宇の国際ニュース解説」を開始1997年、その頃コンテンツの充実を模索していたマイクロソフト社に誘われMSN事業部へ、MSNニュースの配信業務に従事、コラムサイト『MSNジャーナル』を立ち上げられています。1999年末、独立

2001年の9・11事件や2003年のイラク戦争以降、多くの書籍を出版

2008年、「田中宇の国際ニュース解説」が「まぐまぐ大賞2008」の総合大賞で、3位を受賞

報道スタイルはインターネットで世界中の新聞などを読み、照合・分析して解説を加えるという独特の報道スタイルを取られています。世界情勢は米国一極覇権主義からた多極化に向うとする仮説をもとに解釈を試みておられます。

田中氏は日本のマスコミ全部が客観の意味を取り違えていると考えられています。英語の記事には、世の中をどう見るかと言うことが書かれたものが結構あり、欧米のメディアは、あるコードに基づいて、ウソでなければ、自分で検証しながら、それを書いていいようです。そのため客観報道じゃなきゃいけない。記事に主観を入れてはいけないという日本の報道スタイルを否定、欧米流に倣ったスタイルを確立されています。

 

***プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類

2022年6月24日   田中 宇

今回のウクライナ戦争の私にとって理解困難な謎の一つに「なぜロシアは2月24日の開戦時に、異様に大規模な全面戦争をいきなり始めたのか」というのがある。

ロシアが今のウクライナ戦争で達成したいことは、ウクライナの極右政府や軍が東部2州(ドンバス)のロシア系住民をいじめたり殺したりしていたのをやめさせることだ。

開戦前、ロシアの政府や軍は、ドンバスを助けるために軍事的なことをほとんどしていなかった。ロシアの軍や諜報機関の要員たちが私服でロシアからドンバスに越境して露系民兵団の顧問をしていただけだ。

露軍はドンバスに入っていなかったし、兵器の支援もしていなかった(民兵団はウクライナ軍からの転向者が持ってきた兵器で戦っていた)。次の段階として、露軍がドンバスを助けるなら、まず兵器を越境支援するとか、露軍がウクライナ全土でなくドンバスだけに侵攻するといった展開が予測された。私はその線に沿って開戦を予測する記事を開戦前の今年1-2月に書いた。 (ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも) (ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう

だが、2月24日に実際に露軍がウクライナに侵攻した時、露軍は電撃的にウクライナ全土の制空権を奪い取り、ドンバスだけでなくキエフに北部などにも地上軍を入れた。

露政府が発表したウクライナ侵攻(特殊作戦)の目的は、ドンバス露系住民の保護だけでなく、それよりはるかに広範な、ウクライナ全体の非武装中立化と極右勢力排除(非ナチ化)だった。私は、ロシアが一足飛びにウクライナ全土を戦争の対象にしたので驚いた。露軍が東部ドンバスだけに侵攻しても米国側は猛烈な対露制裁をやるのだろうから、それならロシアとドンバスを安全にするために非武装中立化や非ナチ化、全土の制空権剥奪といった大きな目標を掲げたのでないかと考えたりした。 (ロシアは意外と負けてない

もし2月24日に露軍がウクライナ全土でなく東部ドンバスだけを侵攻対象にして、ドンバスの露系住民がそれまでの8年間に米国傘下のウクライナ極右政権からいかにひどいことをされてきたかを世界に向けて強調して説明していたら、ロシアは今のように米国側から猛烈に敵視されなかったかもしれない(単に米国側に無視されて極悪のレッテルを貼られて終わっていたかもしないが)。

これまでドンバスの露系住民をひどい目に合わせてきた「犯人・黒幕」は米国だ。ロシアは被害者の側だった。

米国が2014年にウクライナに諜報的に介入して親露政権を転覆して米傀儡の極右の反露政権を就任させた後、極右政府はドンバスなどの露系住民に前政権が与えていた自治を剥奪し、弾圧してドンバスで内戦を勃発させ、8年間で14000人の露系を殺した。

米国はこの8年間、ウクライナを傀儡化してロシアの在外邦人である露系住民を殺し続ける「ロシアを怒らせる策略」を続けてきた。

 

ウクライナとロシアは別々の国だから、何の前提もなければロシアがウクライナに侵攻したら「戦争犯罪」になる。だが歴史的に見ると、ウクライナとロシアは1990年のソ連崩壊まで、ソ連という1つの国の中にあった。ソ連崩壊後も、ウクライナを含む旧ソ連各国にそれぞれ一定数のロシア人(露系住民)が住んでいる。露軍の重要なセバストポリ軍港があるクリミアが、ウクライナに属していたりする(ウクライナ系の権力者だったフルシチョフが1954年にクリミアの帰属を変更した)。

ソ連崩壊後、ウクライナとロシアが別々の国であるには、ウクライナがロシア敵視にならず、国内の露系住民を大事にして、露軍がセバストポリ港を使うことを承認し続けることが必要だった。

米国は、これを崩す目的で2014年にウクライナの政権転覆を扇動・実現して露敵視の極右政権を就かせ、露系住民の人権を剥奪し、セバストポリ港を露軍に使わせないと新政権に言わせた。米国はウクライナを傀儡化してロシアに宣戦布告したも同様だった。

ロシアは正当防衛としてクリミアを分離独立させてロシアに併合した。露系住民の保護は後手になった。

歴史的な経緯をふまえると、ウクライナとロシアが別々の国であることは「事実の半分」でしかない。残りの半分は、この8年間のように米国がウクライナを傀儡化してロシア敵視をやらせた場合、ロシアが軍事的な報復をやることが「侵略戦争・人道犯罪」」でなく「正当防衛」である、ということだ。

しかし同時にいえるのは、ロシアが2月24日の開戦で東部ドンバスだけでなくウクライナ全土を軍事行動の対象にして、露系住民の保護だけでなくウクライナの非武装中立化や非ナチ化を軍事行動の目的にしてしまったため、上で述べた歴史的経緯を踏まえた正当防衛という見方が吹き飛んでしまい、ロシアが突然にウクライナを侵攻する戦争犯罪をおかした、という話だけが世界に流布することになった。

「極悪なロシアを絶対に許すな」「プーチンを戦争犯罪者として裁かねばならない」「プーチン政権が潰れるまでロシアを徹底的に経済制裁せねばならない」という話になっている。この点でプーチンのロシアは大失敗した・・・

そうなのか?

常識的には、世の中から「善人」「正義」とみなされれば成功だし強い。「悪」とみなされれば失敗であり弱い。常識的にはそうだ。だがロシアの場合、突然「外国」であるウクライナに大々的に軍事侵攻して「悪」「極悪」のレッテルを貼られ、米国側から猛烈に経済制裁されたものの、経済制裁はロシアでなく米国側に石油ガス資源食料類の高騰と物不足・経済破綻をもたらす半面、ロシアはインド中国など非米諸国との結束を強めてむしろ経済的に強くなっている。

軍事的にも、米国側がいくらウクライナを支援してもロシアの優勢はゆるがず、すでに露軍はドンバスやクリミア周辺を安定的に占領し、軍事作戦(侵攻)を成功させている。

米国側が「極悪なプーチンのロシアを許すな」と叫んで厳しい対露経済制裁を続けるほど、米国側は経済的に自滅し、ロシアは非米諸国と結束して覇権の多極化を進めて成功していく。ウクライナでは露軍が支配地域をじわじわと広げて勝っていく。

プーチンがドンバスだけでなくウクライナ全土を対象にする派手な侵攻劇を展開し、米国側が激怒してロシアに極悪のレッテルを貼って極度に経済制裁するように仕向けたことが、ロシアの優勢と米国側の自滅につながっている。

プーチンは、あえて派手な侵攻劇を展開して極悪者になることで、経済と軍事の両面でロシアを勝たせ、米国側を自滅させている。

プーチンはもしかして、常識的には大失敗である派手な侵攻劇を意図的に展開し、米国側がロシアに極悪のレッテルを貼って自滅的な対露制裁をやるように仕向ける「偽悪戦略」を事前に考えたうえで実行し、成功しているのでないか。

露軍がウクライナ侵攻を成功裏に進めていることは、ウクライナ市民の死者数の少なさにも表れている。国連(OHCHR)が6月16日に発表したところによると、2月末の開戦以来の戦闘で4509人のウクライナの一般市民が死んだ。最近の記事で私は、ウクライナ市民の死者総数が5000人ぐらいでないかと書いたが、それよりさらに少ない。露軍は4か月の戦闘で4509人しかウクライナ市民を死なせていない。同時期に露軍は1万-2万人のウクライナ兵士を殺したことを最近の記事に書いた。露軍は開戦当初から、ウクライナの市民や街区や耕作地をできるだけ破壊せず、ウクライナの軍隊だけ破壊して非武装化と非ナチ化を効率的に進めると言っていたが、そのとおりにやっており、露軍の作戦は成功している。

米軍はイラクで200万人(人口の1割)、アフガニスタンでも50万人以上を殺している。

露軍が殺した数と桁が全然違う。殺した数から言うと、米国こそ戦争犯罪を重ねる極悪の国だ。 (Ukraine War Hits Grim Milestone As Civilian Deaths Surpass 10,000: UN 題名が間違い

プーチンは先日のサンクトペテルブルクの経済フォーラムで、非米諸大国のゆるやかな同盟体であるBRICSのうち、最近やる気がない南アフリカをのぞいた4か国(露中印伯)と、インドネシア・イラン・トルコ・メキシコという大きめの4か国を合わせた8か国を、新たなG8と名づけることを提唱した。日本など米国側の「旧G8」がロシアを敵視して追い出してG7に戻ったので、それへの復讐としてロシアが非米諸国を束ねて新G8を作った。

米国側の旧G8はインフレと経済破綻で急速に衰退して時代遅れの存在になっており、これからは非米側の新G8の時代だ、というのがプーチンの言いたいことだ。 (US policies led to ‘new G8’ – Moscow) (Putin says Russia is building the new world order right now

こんな風にロシアはウクライナ開戦後、軍事的にも経済的にも予定通りに勝利・成功している。

開戦時に派手な侵攻劇を展開する「大失敗」をやったことが、今後の経済面の「大成功」につながっている。派手な侵攻劇は「失敗」でなく意図的な「偽悪戦略」だったと考えられる。

プーチンは米国側の親露政治家たちから「なぜあんな派手な侵攻劇をやって極悪のレッテルを貼られる大失敗をやってしまったのか。ロシアを擁護したくてもできないよ」と言われているらしく、最近「キエフなどウクライナ全土を軍事作戦の対象にする戦略は、私が命じたことでなく、軍の上層部の希望で進めたことだ」などと言い訳している。

ロシアは重要なことを全部プーチンが決める。キエフへの派手な侵攻劇は、軍だけで決めて実行できるものでなく、プーチンが決めた策略である。プーチンは「大失敗しちゃったよ。ぽりぽり。でへへ」とニヤニヤしている。 (Putin: Era of Unipolar World Has Ended Despite Attempts To Preserve it at Any Cost

 

近現代の人類の戦争では、オスマン帝国や日独からサダム・フセインまで、負ける側が戦争犯罪者として極悪のレッテルを貼られてきた。覇権を持つ英米はいつも正義で、いつも勝者だった。ベトナムやイラクやアフガンで米軍が極悪な戦争犯罪をやって敗退しても、マスコミ権威筋は米国に敗北や極悪のレッテルを貼らず、米国は無傷のまま次の戦争を展開してきた。

日独の戦争犯罪は、戦時プロパガンダをそのまま「事実」にした誇張歪曲捏造だらけだが、今でも日独は極悪のレッテルを貼られたままだ。戦争犯罪は真偽と関係なく永遠の汚名だ。

永遠の土下座。そのような常識からすると、プーチンの偽悪作戦はコペルニクス的転回だ。完全洗脳で軽信的な日独の人々(とくに知識人)には理解不能で想像もつかないだろう。

英米は、戦争をめぐる善悪関係を絶対的なものにしているので、米国側(英米傀儡)の人々は勧善懲悪の善悪観念に縛られ、プーチンのロシアを永久に極悪の戦犯とみなし、米国側を自滅させロシアを強化する極度の対露経済制裁をやめられない。

欧州などはエネルギー資源不足になって窮乏しているが、対露制裁をやめるのでなく、制裁を続けるふりをして抜け穴を作って必要な資源類をこっそりロシアから輸入し続けている。

米国側のネオコンや、その傀儡であるゼレンスキーとかが「もっとちゃんとロシアを制裁しなきゃダメだ」とネジを巻き直し続け、米国側の経済自滅を加速している。最近はリトアニアが、EUの対露制裁の一環として、ロシア本土から飛び地の領土であるカリーニングラードへの物資の輸送を止め始めており、それへの報復としてロシアが欧州へのガスなどの輸出をさらに減らし始めている。米国側、とくに欧州の経済自滅がこれからひどくなる。 (Germany accuses Putin of trying to sow 'chaos' by slashing Europe's gas supplies) (Oil Giants Warn Of Much Higher Prices For The Next 3-5 Years Amid Lack Of Supply

このように大成功している偽悪作戦は、プーチンや側近群らロシア人の発案なのか?

私の勘では、そうでなく、米国の諜報界のネオコンら隠れ多極派の発案だと思われる。多極派は、米国の覇権を自滅させて世界を多極化するために、ベトナムやイラク・アフガン戦争などで米国の政府や軍に稚拙で過激で残虐な殺戮を手がけさせて失敗させ、世界の人々が米国に愛想を尽かし、米国が自滅するとともに対米自立する国々が増えて覇権が多極化する流れを作ろうとした。だが実際は、親米だけでなく非米的な諸国まで、米国が覇権を保持していた方が便利だと考えて米国の残虐な戦争犯罪から目をそらし続け、善悪が歪曲された状態を容認し続けた。

米国はいくら極悪な戦争犯罪を重ねても人類から見てみぬふりをされ、ネオコンの隠れ多極化策は失敗し続けてきた。米国は何をやっても悪にされず、対照的に、米国が敵視した諸国は濡れ衣もしくは針小棒大に極悪にされる。それならば、その善悪歪曲の構図を逆手にとって、ロシアがウクライナで見かけだけ派手な侵攻劇(実際の市民の死者は戦争として僅少)をやって戦争犯罪のレッテルを貼ってもらい、それをテコに米国側が自滅的な対露制裁をやって覇権を失って多極化するというシナリオはどうだろう、良いじゃん、やろうぜ、とネオコンとプーチンが意気投合し、実行してみたら大成功して今の事態になっているのでないか。

 

プーチンの偽悪戦略は、中国など非米諸国を米国側と分離させて覇権の多極化を進めるための策でもある。世界が今のように米国側と非米側に分裂しておらず、米国覇権下の世界単一市場だった従来、世界各国は米国側と非米側のどちらに属すか二者択一で決める必要などなかった。だが今や中立は許されず、非米諸国はロシアと結束せざるを得ない。否応なく多極化が進む。 (中立が許されなくなる世界) (Russia Overtakes Saudi Arabia As China’s Top Oil Supplier

今後の時代、ロシアや中国への敵視は、資源を入手できなくする馬鹿者の態度だ。日本では、右翼が対米従属の一環として昔からソ連ロシア敵視であり、彼らは米覇権崩壊とともに存在そのものが消えていきつつある(代わりにちゃんとした右派・保守派が出てくればいいのに、右の人々は米覇権衰退にも気づかずダメなままだ)

他方、左翼政党はかつて中露に寛容だったのに、最近になって中露敵視に転向しており、こちらも米英ネオコンのうっかり傀儡の馬鹿者になっている。諜報界肝いりの国際共産主義運動から発生したくせに、ちゃんと世界を見ていない。

プーチンの偽悪戦略について長々と説明したが、これは私が開戦直後から直感的に思って書いてきたことでもある。私の文章を読んで敏感に理解する読者にとっては同じことの繰り返しだろう。だが、教条的な日本の左翼さま・知識人たちとかジャーナリストさま方とか、自分の頭は柔軟だと思い込んで実は全くそうでない人々は、どのように説明しても理解してもらえず、だってプーチンは無実のウクライナに侵攻したでしょ、極悪でしょ、などと、うっかり傀儡的なことを言ってくるのだろう。新聞とかテレビとかが言っていることは最近まったく頓珍漢、というか最悪だ。最大の戦争犯罪者とは実のところ、戦争反対とか地球温暖化対策とかコロナワクチンを全員にとか、インフレ対策として利上げすべきだとか言っている、永久に軽信的な人々だと思う。

 

市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア

2022年4月8日   田中 宇

ウクライナの首都キエフ郊外の住宅街ブチャで市民が街頭や地下室などで殺され、米国側(米欧日)がそれをロシア軍の犯行と決めつけて非難している。

ウクライナ側が流した遺体の動画などからみて、ブチャで数十人以上の市民が何者かに殺されたのは事実だろうが、この殺戮の犯人が誰であるかは未確定だ。戦闘当事者であるロシアとウクライナの両方から独立した中立な第三者組織の現地調査は行われていない。

ウクライナを傀儡としてきた米国とその傘下の欧日など米国側は、ウクライナ当局の主張を鵜呑みにして「ロシア軍の犯行だ」と決めつけている。ロシア政府は「虐殺はウクライナ側が行ったもので、ロシアに濡れ衣を着せる歪曲話を、米国側がロシア敵視のために使っている」と言っている。 (Evgeny Norin: Bucha needs to be properly investigated, not used for propaganda) (Kremlin: Bucha Provocation Aimed at Slandering Russia

ウクライナ当局は、中立な第三者組織の現地調査を認めておらず、すでに事件発生から数日が過ぎ、遺体とその周辺の瓦礫などはウクライナ側によって片付けられて「証拠隠滅」が進み、虐殺の真犯人を公式に確定する方法が失われつつある。

ウクライナ当局がブチャの虐殺遺体の動画を「ロシアの犯行だ」と決めつけて発表し始めた4月4日、ロシアは国連安保理でブチャの事態に関する話し合いを緊急に持つべきだと繰り返し提案した。だが、安保理の議長をつとめる英国は、ロシアの提案を却下した(英国はずっと前からウクライナのロシア敵視勢力を支援してきた)。その後も、国連が第三者組織を作ってブチャの虐殺現場を現地調査すべきだというロシアの提案は却下され続けている。 (West ‘shut eyes, ears with blinds,’ unwilling to hear Russia’s points on Bucha) (The truth about Bucha is out there, but perhaps too inconvenient to be discovered  Scott Ritter

英国など米国側が中立的な現地調査を却下したまま、一方的な「ロシア軍犯行説」が、ウクライナとその傘下の人々の主張だけをもとに流布され、米国側の政府やマスコミ権威筋がそれを鵜呑みにしてロシア敵視を喧伝し、米国側の多くの善良(間抜け)な人々がそれを軽信し、早とちりしてロシアに怒っている。国連総会は一方的なロシア犯行説をもとに、3分の2以上の諸国の賛成によって、ロシアを人権理事会から除名する決議をしてしまった。

現地調査を却下したままウクライナ側の主張だけを鵜呑みにしてロシアを犯人扱いするのは、手続き的に国際法違反だが、そんなことは全く無視されている。諸大国の中で唯一、現地調査せずロシアを除名することに反対した中国は正しい(イラン、シリア、ベトナム、ラオス、アルジェリアなどアフリカ7カ国、カザフスタン、ボリビア、北朝鮮など24か国が反対)。 (China Sides With Russia During Key Vote At UN Human Rights Panel

国連安保理では今後も米英が反対するので、ブチャ虐殺現場の現地調査は行われないままだろう。次はバイデン米大統領らが提唱する「プーチンを戦争犯罪で裁く国際法廷を作ろう」という話が具体化していくかもしれない。東京裁判顔負けのインチキな国際法廷が作られたりして、ロシアと米国側との対立は今後もずっと続く。米国防総省などは「ウクライナの(プロパガンダとしての)戦争はこれから何年も続く」と言い始めている。ロシア敵視のウクライナ戦争は、一つ前の巨大歪曲話であるコロナ危機と同様、現実をひどくねじまげることで長期化させられていく。 (Pentagon Foresees Very Protracted Ukraine Conflict To Be "At Least Measured In Years") (U.S. Prosecutors Working With Europeans to Collect War Crimes Evidence in Ukraine -Garland

 

しかし、今回のような一方的な国際法違反のロシア敵視策に乗ってくるのは、今後もずっと米国側の諸国だけであり、中国インドBRICSなど非米諸国はロシアを敵視しない。これからは台湾をめぐる米国側と中国の対立激化も、主に米国によって扇動される。世界が米国側と非米側に決定的に分離していく傾向がずっと続く。地下資源の大半は非米側が握っており、米国側の諸国は貧困に陥っていく。この新冷戦は最終的に非米側の勝ちになる。これは米国側の中枢(米諜報界の隠れ多極主義者たち)が、覇権構造を転換するためにずっと前からやってきた策略の仕上げとなる。 (ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチンドルを否定し、金・資源本位制になるロシア

 

虐殺の真犯人はウクライナ極右民兵団だろう。英米が彼らを育てた

今回虐殺があったブチャは、キエフの中心街から北西10キロ離れた、人口3.5万人の町だ。ブチャでは2月24日のロシア軍ウクライナ侵攻開始のしばらく後から、露軍とウクライナ軍(極右民兵団のアゾフ大隊を含む)が戦闘を続けていた。

3月末にかけて露ウクライナ間の停戦交渉が進んだため、露軍はキエフ周辺から撤退することを決め、ブチャでも3月30日に露軍が完全撤退した。 (Bucha Hoax: Ukie Scum Now Blaming Russians for Swastika Carved Corpse in Azov Base) (Pentagon: Russian Forces Have ‘Completely Withdrawn’ From Areas Near Kyiv, Chernihiv

露軍撤退の翌日、ブチャのペドルク市長(ウクライナ側)はロシアに対する「勝利」を宣言し(本当は露軍が自ら撤収したのだが!)、戦闘で破壊され瓦礫が散らかっているブチャの街路をきれいにしていくと発表した。ペドルク市長はそれから何日かたってから「露軍が、撤退する前に市民を虐殺していった」と言い出したが、露軍撤退翌日の3月31日の時点では、市民が殺されたとか、ブチャの街路に市民の遺体が転がっているとは全く言っていない。

露軍が撤退前に市民を虐殺したのなら、撤退翌日の3月31日の時点でブチャの街頭に市民の遺体が転がっていたはずだ、これから街路を清掃すると述べたペドルク市長の発表の中に、街頭に転がる遺体への言及があってしかるべきだったが、そのような言及は全くなかった。言及がないのは、その時点で街頭に遺体がなかったからだ、とロシア側は言っている。4月2日にウクライナ側が流したブチャ市街の動画にも遺体はない。 (MSM's Bucha Tall Tale) (Ukraine has regained control over the 'whole Kyiv region' following the Russian assault, the deputy defense minister says

4月2日、ウクライナ内務省傘下の国家警察の部隊がブチャに進駐してきた。国家警察の部隊は、ブチャに露軍が駐屯していた時に犯した戦争犯罪について調査したり、露軍に協力した者たちを探して取り締まったりするのが進駐の目的だった。国家警察と一緒に、同じ内務省傘下の組織である極右民兵団(アゾフ大隊やThe territorial defence battalions)の部隊も同行した。ブチャに進駐してきた極右民兵団の1つの部隊(Sergei Korotkihが率いるBOATSMAN BOYS)が発表した動画では、ブチャの街頭を巡回中に、民兵の一人が上官に「青い腕章をつけていない奴らを射殺して良いですか」と尋ね、了承をもらっているやり取りが収録されている。 (Sergey Korotkih ("Boatsman") posted a video of clearing of Bucha

ブチャの市街戦の戦地では敵味方を見分けるために、ウクライナ側の兵士や市民が青い腕章(アームバンド)をつけ、ロシア側の兵士や市民(ロシア系住民など)が白い腕章をつけていた。露軍撤退直後の3月31日以降のブチャで、青い腕章をつけていない市民は、ウクライナ側を積極的に支持しなかった中立的な市民であり、白い腕章をつけている市民は露軍を支持していた市民だった。

露軍撤退後にブチャに進駐してきた極右民兵団は、青い腕章をつけていない、中立的もしくは親露的な市民を見つけしだい射殺していたことが、この動画からうかがえる。 (Russia and Ukraine trade accusations over Bucha civilian deaths

その後4月4日になって、ウクライナ国家警察隊が、ブチャの街頭でたくさんの市民が虐殺され、手を後ろに縛られたり、拷問された後に殺された遺体もたくさんあり、露軍が撤退前に市民を殺していったに違いないという趣旨の動画を発表し始めた。米国側のマスコミがこれ飛びつき、ウクライナ内務省の案内で記者団やテレビカメラがブチャに入って虐殺現場を(ウクライナ側の誘導に沿って)取材し、「ロシアの戦争犯罪」を世界に喧伝し始めた。ロシア政府が国連安保理で、この事件の中立的な調査を提案したが英国などに却下された。 (Russia calls Security Council meeting over Bucha

ウクライナ側が発表した動画や、記者団を案内して報道させた話の中に、露軍が駐留時に使っていた建物の地下室から、拷問された後に殺されたとみられる数人の市民の遺体が見つかったという話があるが、その遺体は白い腕章をつけていた。

白い腕章は露軍の協力者を示している。露軍が、自分たちの協力者を拷問して殺すはずがない。それらの遺体は、露軍撤退後にブチャに進駐してきた極右民兵団が、街頭で見つけたり、市民の住宅を順番に訪問して見つけた白い腕章をつけた市民を、建物の地下室に連行して拷問して殺したものだろう。機敏な市民は、露軍撤退とともに自分がつけている腕章を白から青に替えただろうが、そんな機敏でない市民はうっかり白い腕章をつけたまま極右民兵に見つかってしまい、拷問され殺された。

極右民兵は、あとで露軍に犯人の濡れ衣を着せる目的を最初から持ってブチャの市民を虐殺したのではないだろう。一般の極右民兵は、ロシア人を憎むやくざなならず者であり、親露的な市民を見つけて憂さ晴らしに拷問して殺したしだけだ。

その殺害に、露軍犯行説の濡れ衣を着せるための粉飾をしたのは、ウクライナ内務省のマスコミ担当の戦争プロパガンダ部門だろう。

殺害現場の建物の近くにあった車両の残骸に、ロシア軍を示すVのマークが描かれ、米国側のマスコミが「ここが露軍が使っていた建物であることを示しています。露軍が市民を拷問して殺したのです」と報じている。マスコミが来る前に内務省のプロパガンダ担当がVのマークを描いた可能性がある。彼らは遺体の白い腕章も外すべきだったが、そこまでやらなかった。今や「ジャーナリスト」とは、ウクライナ側のプロパガンダに積極的に乗る卑劣な人々のことを指している。 (Bucha killings: ‘The world cannot be tricked anymore’) (Viral ‘Russian Mobile Crematorium’ Tweet is From an 8-Year-Old YouTube Video

ウクライナ内務省のプロパガンダ担当者が、マスコミが来る前に虐殺現場から取り去っておくべきだったものは他にもある。それは遺体の近くに写り込んでいる、露軍がブチャ市民に配布していた緊急用の食料品が入った緑色の紙袋である。露軍は撤退前、この緑色で星が描かれた食料袋(ランチボックス)をロシアから大量に運び込み、ブチャやその他の占領地の市民に緊急食料として配布していた。露軍の食料を受け取りに来た市民はロシア敵視派でなく、親露か中立な人々だ。露軍が、食料を受け取った市民を殺すことは考えにくい。殺された人々は、露軍が撤退時に地元の親露派市民に託して置いていった大量の食料袋を受け取りに行った市民が、帰り道に「親露派狩り」をしている巡回中の極右民兵団に会ってしまい、露軍の食料袋を持っているがゆえに親露派とみなされて殺されてしまったと推測される。 (MSM's Bucha Tall Tale

露軍の食料袋の存在は、ロシア国境からキエフまでの補給路を、露軍が余裕を持って運営していたことを意味する。米国側のマスコミは、根拠もなく「露軍は苦戦しており余裕が全くなく、キエフまでの補給路すら確保できず、燃料が足りず、兵士は飢えている」などと喧伝してきたが、こうした無根拠な報道がウソであることが、動画の中で市民の遺体の隣に写り込んでしまった食料袋から見て取れる。「優秀なジャーナリスト」(笑糞)は、食料袋を写し込むべきでなかった。 (Rickards: I’ve Never Heard So Many Lies

NYタイムスなど米国側のマスコミでは「露軍が駐留していた3月10-17日ごろにブチャを上空から撮影した衛星写真には、ブチャの街路に遺体のような影が点々と写っている。4月になってブチャで見つかった虐殺遺体は、露軍が駐留していた時から街頭に転がっていた可能性が高い。露軍が虐殺の犯人だ」という記事も衛星写真つきで出回った。ブチャの街路を撮影した衛星写真には、人の背丈ぐらいの黒い影がいくつか写っている。しかし、4月の動画で遺体の周りに写っている大量の瓦礫や車両の残骸は、その衛星写真に全く写っていない。きれいな街路に、人の背丈ぐらいの黒い影だけが点々と写っている。最初に遺体だけ存在して、その後でまわりに瓦礫や残骸が積み上がったのか。そんなことはあり得ない。4月の動画を見ると、遺体と瓦礫が絡み合っている。3月半ばの衛星写真に写っている黒い影は、遺体でなく何か別のものだ。NYタイムスは、それを「遺体のように見える」と言い募って「露軍犯行説」を補強した。彼らは「イラクの大量破壊兵器保有」をネオコンから誘導されて捏造した時から、悪意あふれる戦争犯罪組織である。 (Satellite images show bodies lay in Bucha for weeks, despite Russian claims.

ロシア国防省によると、ウクライナ内務省の戦争プロパガンダ担当組織は、ブチャ以外のキエフ周辺のいくつかの地域(Moschun、Sumy、Konotopなど)でも、極右に市民を殺させてそれを露軍の犯行に仕立てて米国側のマスコミに喧伝させる戦争プロパガンダをやろうとした形跡がある。 (Russia claims Ukraine stages more ‘killings’ of civilians) (Experts: Bucha-Like 'False Flag' Incidents to Continue as West 'Frustrated' Over Propaganda Failures

ウクライナ内務省に戦争プロパガンダのやり方を教えてきたのは英国の諜報機関だ。ロシアの諜報機関は4月2日、英当局とウクライナ当局が戦争プロパガンダの手法について電話でやり取りしているのを傍受したという。昔からウクライナでは、極右を育てているのは英諜報界だと言われていた。極右民兵はならず者なので、捕虜になったロシア軍兵士を何人も拷問して殺し、その光景をいくつも動画にとってインターネットで公開したりしている。ロシア政府は開戦後、ウクライナ内務省傘下の正式部隊である極右民兵が捕虜虐待の戦争犯罪を犯していると国連などで問題にしてきたが、米国側は知らんぷりだ。しかし、これはまずいといって英当局がウクライナ当局と話し合った電話を、露当局が傍受したのだそうだ。軽信者たちは「露当局の話なんか信用できない」と言うだろうが、私から見ると「さもありなん」である。米国側マスコミより、RTやタスやスプートニクといった露側メディアの方が、道理の通った話を流している。 (Danish Merc Confirms Ukrainian Forces are Killing Russian PoWs) (Russian Investigators' Evidence on Azov Commanders' Attempts on Lives of 8 Russian Troops


***MH17撃墜事件:ひどくなるロシア敵視の濡れ衣

2018年5月28日   田中 宇

24日、オランダ、オーストラリア、マレーシア、ウクライナ、ベルギーの5か国で構成する「合同捜査班(JIT、Joint Investigation Team)」が、2014年7月17日にマレーシア航空MH17便の旅客機がウクライナ上空で墜落した事件についての調査報告を発表した。

合同捜査班は、MH17便が、ロシア陸軍の第53地対空ミサイル旅団が持っていたブーク型の地対空ミサイル(BUK-TELAR)で撃墜されたと結論づけた。ミサイルは可動型で、事件直前にロシアからウクライナ東部の内戦地域に運び込まれ、事件直後に再びロシアに運び出されたと捜査班は言っている。捜査班は、ロシア軍が意図的にMH17を撃墜したと示唆している(断言はしていない)。 (Update in criminal investigation MH17 disaster

 MH17撃墜事件は、2014年2月にウクライナ内戦が始まってから5か月後に起きた。当時、ウクライナ政府は「ロシアが(自前で、もしくはウクライナ東部の分離独立派のロシア系武装勢力を使って)MHを撃墜した」と主張していた半面、ロシア政府は「当日のレーダーの履歴などから考えて、ウクライナ軍機がMH17を追尾した挙句に撃墜した。この日、MH17の30分前にプーチン大統領の専用機が似たような航路で飛んでいたので、それと間違えて撃墜したのでないか」と主張していた。

MH17事件は、内戦で対立するウクライナとロシアが相互に相手を非難する道具として使っていた。  (Only NATO, Kiev had motive to down flight MH17, expert believes

 当時、私はこの事件について何本か記事を書いた。私の結論は「ロシアの説明の方が合理的なので、撃墜した犯人はウクライナ政府軍だろう」というものだった。事件直後にロシア犯人説をふりかざした米国政府は2週間後、ロシア犯人説を引っ込めていた。ウクライナ犯人説が有力だった。 (ウクライナの対露作戦としてのマレー機撃墜) だがその後、合同捜査班の事件に対する見立ては、一貫してロシア犯人説だった。

そもそも、欧州(NATO諸国)の主導で作られた合同捜査班には、ウクライナが入っている一方、ロシアが入っていない。合同捜査班の構成国は、MH17墜落による死者(乗客)が最も多かったオランダ(主導役)、2番目に多かった豪州、墜落現場であるウクライナ、MH17の航空会社を擁するマレーシアと、なぜ入っているのか不明なベルギー(NATO本部がある国)の5か国だ。この観点だと、ロシアは「墜落現場の隣国」でしかない。だが、墜落現場がウクライナのロシア系住民の地域で、ロシア系とウクライナ政府が内戦している最中に撃墜事件が起きたのだから、ロシア系住民(を代弁するロシア政府)が合同捜査班に入っていないのはおかしい。 (MH17 and the JIT: A flawed investigation

 合同捜査班の決定は参加国の合議で行われ、1か国でも反対がある場合は未決となる。この方針を利用して、ウクライナ政府は、自国に不都合な情報を捜査に反映させることを拒否し続けてきた。

たとえば、ウクライナ政府は、当日のレーダーの記録を出していない。ロシア政府は、自分たちの側の地域の当日のレーダーの記録を公開し、MH17を撃墜したミサイルの発射地が、ロシア系住民の支配地でなく、ウクライナ軍の支配地だったことや、ウクライナ軍の戦闘機がMH17を追尾していたことを指摘している。

ウクライナ政府もレーダーの記録を出せば、ロシアの主張を検証できる。だがウクライナ政府は記録を出さなかった。代わりに合同捜査班は「レーダーの専門家」を呼んできて「ロシアが出したレーダー記録から、ロシアの主張が必ず導き出せるとは言い切れない」と言わせることで、ロシアの主張を退けた。

こうした歪曲的な手口を見ると、ウクライナ側のレーダー記録に、ウクライナにとって不利な情報が入っており、それを出さないですませるために、合同捜査班の全体として詭弁を弄していると疑われる。 (Radar experts confirm previous conclusion of the JIT

 ロシア犯人説を主張する合同捜査班の今回の結論は、いくつもの点でインチキだと感じられる。捜査班は「ロシア軍のブーク型地対空ミサイルが、事件直前にロシアからウクライナ東部に運び込まれ、MH17を撃墜した後、ロシアに戻された」と結論づけたが、この結論を裏づける決定的な証拠がない。捜査班が出した証拠は、ミサイル搬送トラックらしきものを見たという匿名の住民の証言、それらしい出所不明の動画、ウクライナのロシア系ゲリラとロシア軍側との電話の会話と称する録音などだが、これらはいずれも容易にでっち上げが可能だ。ふつうの裁判なら、証拠として出しても判事に却下される低水準の情報だ。 (Solid facts? 5 flaws that raise doubt over int’l MH17 criminal probe

合同捜査班は16年9月の記者会見で、ブーク型ミサイルを載せるロシア軍の専用トラックの画像を発表した。だが、それは本物のトラックの写真でなく、コンピュータグラフィックで作った画像であり、捜査班の「想像の産物」だった。 (Russia says missile that downed MH17 likely belonged to Ukraine

記者会見で合同捜査班は、MH17の撃墜現場から発見されたと称する、ブークミサイルの残骸を公開した。その一つは、ミサイルのエンジンを収納する躯体で、エンジンの製造番号が刻印されている。刻印から、1986年に製造されたもので、ロシア陸軍の第53地対空ミサイル旅団が持っていたミサイルであることがわかったと、捜査班は発表した。 (Update in criminal investigation MH17 disaster) (Ukraine received no new Buk missiles since 1991

これに対してロシア政府は「ブーク型のミサイルは25年経つと劣化して使い物にならなくなる。1986年に製造されたブーク(9M38、旧型ブーク)は、25年後の2011年に新型ブーク(9M38M1)と交換されている。2014年のMH17撃墜事件発生時、第53地対空ミサイル旅団が持っていたブークは、合同捜査班が示した製造番号を持つ旧型のものでなく新型のものだ。事件当時、ロシアにはすでに旧型のブークが存在していなかった。旧型のブークを持っているのはロシアでなく、ウクライナ、グルジア、エジプトといった国々だ」と反論した。

ロシアの政府とブーク製造メーカー(Almaz-Antey社)は、この反論を以前から何回も捜査班に示し、機密事項だったブークの製造番号の意味まで教えた。だが、捜査班はロシア側の説明を無視し、お門違いなロシア犯人説を主張し続けている。 (‘We’re Not Ready Yet’: What MH17 Investigation Won’t Discuss) (Russian MoD: Missiles Shown By MH17 Investigators Were Decommissioned After 2011

 

合同捜査班が得た事件に関する情報の多くは、米国から提供されている。

事件当時、ウクライナ東部の上空に米国の人工衛星が3機飛んでいた。米国は事件直後、人工衛星の情報があるので事件の解明は難しくないと表明していた。だがその後、米国は問題の人工衛星の情報を公開していない。

捜査班は、米国から衛星情報を提供されたが機密扱いなので公開できないと言っている。また、MH17のフライトレコーダーに録音された操縦室の会話が公開されたが、ミサイルが当たる直前の最後の4秒間が無音になっている。

捜査班は、最も重要な最後の4秒の会話を非公開にしている。 (MH17 and the JIT: A flawed investigation

合同捜査班は、事件に関する重要な情報を非公開にしたまま、匿名や出所不明の怪しい情報を積み上げてロシア犯人説を構成している。捜査班のロシア犯人説は、濡れ衣である可能性が高い。米国やNATOが捜査班の情報源になっていることから考えて、これは、米政府のロシア敵視策の一環だろう。米政府(軍産)は2014年2月にウクライナの反政府運動をテコ入れし、ウクライナの政府を親露的なヤヌコビッチ政権を倒してロシア敵視の極右政権にすり替え、ウクライナ内戦を勃発させて以来、ウクライナを使ったロシア敵視策を続けている。昨年からトランプが大統領になり、ロシアと和解しようとしたが軍産に妨害されて果たせないでいる。ウクライナを使った米国のロシア敵視策も、軍産が勝手に続けている。

とはいえ今回の合同捜査班の発表のタイミング、それから濡れ衣の稚拙さに注目すると、もしかするとこれはトランプによる「濡れ衣のロシア敵視策が稚拙に過激にやることで、これまで対米従属で米国のロシア敵視策に追随してきた欧州(独仏、EU)を親露・対米自立に追いやり、ロシアを隠然と強化する多極化・米覇権放棄策」かもしれないと思えてくる。

トランプは5月8日のイラン核協定離脱により、独仏EUとロシアが協力して米国抜きのイラン核協定を維持していく新世界秩序の形成を扇動している。それまで米国のロシア敵視につきあっていた独仏EUは、しだいに米国を見放し、ロシアとの協調を強めている。それと同期して米国は、合同捜査班を構成するオランダなど親米諸国をけしかけて、MH17撃墜事件の捜査でロシアに濡れ衣をかけて犯人扱いする策略を進めている。オランダやベルギーの後ろには独仏EUがいる。 (End Of Unipolar World Looms As 'New World Order' Responds To US Demands On Iran) (トランプがイラン核協定を離脱する意味

独仏EUはこれまで、対米従属なので米国のロシア敵視策につきあいながら、できるだけロシアとの関係を悪化させないようにしてきた。合同捜査班は「ブークを使ったMH17撃墜には、約百人が関与した」と断定しているが、その百人が誰なのか発表していない。捜査班は、ロシア軍のブークがMH17を撃墜したと結論づけているのだから、百人の犯人はロシア軍の兵士ということになるはずだ。だが、怪しい濡れ衣のままロシアが犯人だと断定すると、オランダや背後の独仏EUがロシアから報復されかねないので、捜査班はロシア犯人説を採りながら、ロシア軍が犯人だとする明言を避けてきた。 (Dutch Joint Investigation Team Presents First Results of MH17 Crash Probe

だが合同捜査班は、おそらく米国の圧力を受け、しだいに強くロシアを敵視して犯人扱いする傾向をとらされている。だがその一方で、イランだけでなくシリアやリビア、パレスチナ、アフガニスタンなど多くの国際紛争に関して、しだいにロシアの影響力が強くなっている。ロシアや、その仲間である中国の意向を無視して、国際問題を解決できなくなっている。それと反比例して、米国の影響力が低下している(これらはトランプの覇権放棄策の「成果」だ)。オランダや独仏EUなどは今後、ロシアを敵視しろと米国からけしかけられても無視する傾向が強くなる。米国がロシア敵視を強めるほど、独仏EUなどが米国を見放し、ロシアの肩を持つようになる。 

私の説は「だからこそ、米覇権放棄と多極化を狙うトランプは、ここぞとばかりにロシア敵視を強めている」というものだ。トランプの米国が、イラン核協定離脱後、合同捜査班に圧力をかけてロシア敵視を強めさせているのは、欧州諸国に「早く米国に愛想を尽かせ」とけしかける策略だ。今後しだいに、プロパガンダのつじつまが合わなくなり、合同捜査班の主張の矛盾点が露呈し、ロシア犯人説をとり続けられなくなっていくだろう。

米国は、シリアでも似たようなことをやっている。米国は以前から「シリアのアサド政権の政府軍が化学兵器で自国民を殺した」と非難し続けている。以前の記事に書いたが、内戦期のシリアにおける化学兵器使用は、すべて反政府勢力の仕業である可能性が高い。アサド犯人説は濡れ衣だ。米国は、国連系の化学兵器の調査機関であるOPCWに圧力をかけ、アサド犯人説に立脚した報告書を書かせてきた。OPCWには、アサドの後ろ盾となったロシアも参加しており、以前のOPCWは犯人を断定せず曖昧な結論の報告書を出していた。 だが一昨年ごろから、米国からOPCWへの圧力が強まり、OPCWはロシアの反論を無視してアサド犯人説の報告書を出すようになった。最近は、その傾向さらに強まり、誰が見てもアサド軍が犯人でない4月の東グータのドゥーマでの化学兵器使用に対して、米政府や軍産系マスコミがアサド犯人説を喧伝し、ロシアは濡れ衣のアサド犯人説を壊すべく現場の証拠保全に動き、米露のはざまでOPCWは報告書をまとめられない状況に陥っている。

トランプの米国が濡れ衣の敵視策を過激にやり、濡れ衣の被害者であるロシアの言い分の方がどうみても正しい状態になり、米国覇権下の国際捜査機関がまともな報告書を書けなくなり、米国への信用が低下し、欧州などの対米自立が扇動されている。ウクライナでもシリアでも、イラン核問題でも、同様の傾向が拡大している。


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