
ネットオークションに SONY, 8-301が出品されており説明に世界初のトランジスタ・テレビと記されて
いるのが気になり出品者の方に世界初のトランジスタ・テレビは Philco の H-2010 Safari のことを老婆
心ながらお伝えしたが、各種の書物に8-301が世界初のトランジスタ・テレビと記されているとのお返
事を頂いた。 確かに先月訪れたソニー歴史資料館で流されていたビデオでもその事が語られていたが
一方展示されている 8-301には【直視型】トランジスタ・テレビとして世界初と説明されていた。 こ
れは以前同社広報部に世界初では無いことをお話し、上の様な断りを添えた方が良いとお話したこと
が反映されたと想われる。

H-2010 には2色のバージョンが有るが上下の2台の裏面には本来(その下の)画像に見られる様革製
のフラップ(蓋)が在るのが正しい。 画像に若干見えているのはハーフミラーになっている凹面/拡
大鏡で下に在る、上向きのブラウン管からの画像を拡大しながら前面に反射させている。この虚像を
狭い範囲で観ることになるので実用性は可成り乏しかった。

この機種のデザインを担当した人間はハッキリしており意匠デザインは Emil Harman 、また光学系の設
計は Ernie Traub との記載がある。 尚デザイン・パテント 186,335 は1959年5月19日付けとなっていた。

画像からご覧頂ける様、上部はプラスチック製で下部は革製となっている為若干経年に依る縮みが有る。

記憶の域を出ないが初期のモデルは電池専用機で、後年商用電源でも動作、及び充電が出来る様に
なったと以前何かで読んだ様想われる。

バッテリー・コンパートメントの蓋には トランジスタ化された受信機で、増幅用の真空管は使用され
て無い との記述が在る。 全て半導体で構成されている訳では無く、高圧の整流には整流管5642が使
われているのでこうなったのだろう。






使われているブラウン管は2インチの 2EP4 (Safariのことを記したものの中に1インチとあるのは誤り)
で外形寸法は50φなので実際の蛍光面サイズは一回り小さくなる。電池での動作を考慮した6V/145mA
(6.3V/145mA)と云う通常の1/4程の低消費電力ヒーターが採用されている。 電磁偏向で偏向角は30°。

この機種が発表された当時各種の評価レポートが出たが、画像の歪の少なさは評価されていた。 それ
を実現したのは観測用CRTと同程度の偏向角30°のこのブラウン管にある様想われた。 同時に偏向の為
に必要な電力もCRTサイズ、及び偏向角で決まってくるのでこの様なブラウン管が選ばれたのだろう。

形状比較の為に1インチの1EP1(静電偏向)をそばに置いてみた。

余談だがSONY, 8-301を開発した故 島田 聡さんは東工大、川上研究室時代からラジオ、テレビ関連の雑
誌にテレビの技術的な解説記事を多く書かれており、昭和20年代末から30年代にテレビに携わっていた
人間には広く知られた方で(余談の余談だが島田さんが高校生の時にコンデンサ・スピーカーの特許を
取得したことも知られている)その川上研究室から大森の中央無線に島田さんを結び付たのは日本マク
ドナルドを立ち上げた田さんで、当時米国からの輸入を広く行っていたことから川上研にも中央無線に
も多くの物を収めていた関係と想われる。 島田さんの雑誌に開発状況を発表する姿勢は中央無線から
ソニーに移った後も変わらず(現在では考え難いことだが)当時のソニー上層部は気がきでは無かった
と想われる。これが原因かどうかは定かでは無いが島田さんがソニーのテレビで活躍したのは同社マイ
クロ・テレビの第一世代迄で、その後2色式カラーテレビ関連で氏の名前を見たことは有るが、ソニー
さんでの活躍は聞いていない。
1959年時点では未だ中小企業の域を出ていないソニーが、バッテリーメーカーとしては1920年代に創業
のラジオ、テレビメーカーとしては大手Philco (旧社名 Philadelphia Storage Battery) と略同時期にトラン
ジスタ・テレビを発表したのは確かに快挙と云えるかも知れないが、歴史上の事実は事実として真摯に
受け止める必要がある。(もし1961年末にPhilcoが倒産せず、今も在ったとしたら何も問題は起こらなか
っただろうか? いやただでは済む訳は無い)因みにマイクロ・テレビは特に米国で爆発的に売れ、ソ
ニーだけでは到底生産が間に合わず先の中央無線でも200万台程を製造したと以前2代目社長から伺った。
11月11日 先の出品者の方から丁寧な御返事を頂いた。これまでも気になることが有ると老婆心ながら
とお断りし、この点が事実と異なっているとご連絡したことは何度も有るが、その殆どには今回の様に
丁寧なお返事を頂くことは無かったので久し振りに良かったと想えた。サテ、Safariのレストアをしてか
ら既に10年以上が経過しており通電してすんなり動作して呉れるか疑問だが後で試してみよう。 ただ以
前動作をデジカメで撮影を試みた際可成り苦労したことを思い出した。 多分AF機能を殺せば何とかなる
かも知れないが、虚像に焦点を結ぶと云うことは最近のデジカメでは想定していない被写体と想われる。

10数年振りなので無理は無いが垂直同期が取れなかった。 ただこの問題は取り掛かれば直ぐに直せる。



可成りボケた画像と写っているが実際の画像は左程ボケてはいない(カメランの焦点が合っていない)。


上下の画像は、反射鏡の虚像では無くCRT面を直接写した上下が反転している画像です。

もう一台、黒い方の動作も診てみた。 こちらは同期の問題も無く、この機種としては可成り良好に
動作していた。





しかし視野角?と云うか見える角度は狭い。一応画面サイズは80インチ・スクエア(14インチ相当)と
説明にあったが果たして管面からの距離はどうなのか? 一応2mの所で見た感じは10インチ程度だった。


この機種名で検索すると当時のテレビCMも見ることが出来るが定価US$250.では大型のコンソール・タ
イプが買える金額なので販売は可成り困難だったと想像する(但し可成りの数が売れたことも確か)。