5台目は香川県内の美術館で展示されている絵画作品の一部を構成している8"の白黒テレビ
でメーカーは Westrex Company, Alpine と伺い Riders や Photofact で探してみたが見付らなか
った。 ならばとネットで調べた結果 Radiomuseum の資料の中に1機種 8-P1A (1958) が見付っ
た。 この種のテレビの修理に付きましてはこちらのHP http://www2.odn.ne.jp/~cac55760/ から
お問い合わせ下さい。 *右奥に少し変形が診られたが今回の輸送で発生したものではなさそう。
このメーカー名で他の機種は見当たらず、何とは為しに日本製では無いかと想われた。 それと
云うのも上の文字の書体はWestern Electric、或いは有線通信で同社と業務提携していたNEC
が昔使っていたフォントに酷似していたからに他ならない。
予感は的中し矢張り日本製だった。 CRT(ブラウン管)が生きていると良いのだが!
早速通電してみたが電流が流れない。 どうもヒーター回路が断線している様だった。
調べ始めて間もなく真空管(ダンパー管)が外れていた。 ここを差込んでみたが電流は流れない?
全ての真空管のヒーターを確認し、ブラウン管のそれも確認した。 可笑しい!
しかしNECと記された部品が多い、特にブロック型のケミコンでは通常、日ケミ或いは狐崎、マル
コン等の物が使われることが多いがNECと記された物はNEC製の機器にしか使われないハズ。
もしかしてヒーター回路はコンデンサに依って電圧を落としているのでは無いかと想い始めた。
予想は的中し、直流的には回路は繋がって無かったが交流では電流が流れ動作し始めた。
水平偏向は機能し始めたが、お約束の垂直偏向は機能していなかった。 この辺りで型番8-P1A
がNEC製では無いかとの想いが強くなり手元の回路図集で探してみた。
予感は的中しNEC, 8-P1と殆ど同一と云うことが判明した。 但しこのモデルが発表されたのは昭
和36 (1961) 年11月なので Radiomuseum の1958年より3年遅いが多分1961年が正しい。
1月20日 ペーパーコンデンサの交換に取り掛かった。 一部の部品にデータコードが捺印されて
いたが多くは1962年の物だった。 (画像は明日)
1月22日 一部のペーパー・コンデンサを交換したので通電し動作を診てみた・
一応垂直も可也振れる様になった。 調整の結果映像も(未だ水平同期が取れて無いが)出た。
チューナーのファイン・チューニングのシャフトがチャンネル・セレクターのシャフトと固着していた。
故意に接着した訳では無いと想うが非常にシッカリ固定されていた。
一応水平同期も取れ映像を確認出来る様になった。
今回使ったDVDプレーヤの同期に問題が有る様だったので地デジ・チューナーに切り替えた。
同期の問題は無くなったが垂直振幅と直線性は未だ完全では無い。
サテ今回アスペクト比は16:9と4:3のどちらを採用されるのかご依頼主に伺ってみよう。
1月23日 垂直振幅が不足している問題に取り掛かった。 ついでに昇圧トランスを使わずに済
む様一部電源回路を改造した。 両者とも上手く解決出来たのだが同期が不完全になった。
昨日とは異なるビデオコンバーターを使ったが同期が不完全なのはこれのせいか? 中々手強い!
同期分離の回路を当りたいが何せ回路は2層構造で何とも回路が当れない。 思い切って一度
分解し劣化が想像出来る物を交換するしかないかも知れない。 明日は略1日仕事場を離れる。
今回の機種の元となったNEC、8-P1の電源仕様は100V/50-60Hzだがその電源回路に10Ωを加え
117V/60Hzとしている様だが、この為に昇圧トランスを使うのは何ともエネルギーの無駄使いとなる。
事実10Ωが装着された裏面パネルは可也の温度上昇を伴う。 ただこの10Ωをジャンパーしただけ
ではB電圧は約14V下がるがこれが同期不完全の原因か近々切り分けを試みてみよう。
1月26日 今日の午後ビデオ機器に明るいMさんにお手伝いくことになったのでその前に劣化が
考えられるコンデンサ類の交換に取り掛かった。
この時代の小型テレビの常でシャーシは二層構造となっているので思い切って分解した。
ペーパー・コンデンサの殆どとブースト電圧に関係した電解コンデンサを交換した。
コンデンサ類の交換が功を奏し垂直振幅も十分となり、また同期も安定となった。
2種類のビデオ・コンバーターを使ったが片方では同期が上手く取れなかった。 Mさんが調べてく
れた結果同期が不完全となる方は音声(4.5MHz)信号レベルが高く、またノイズが多く診られるとの
ことだった。 アスペクト比16:9 の信号では垂直偏向の開始位置が上下にズレることが有ったが
この時代の真空管式のテレビでは仕方無さそうとのお話だった。(NHKの国会中継は良好だった)
1月29日 昨日のAWCのミーティングの折にOさんからWestrexはWestern Electricの映画部門との
情報が寄せられた。 また今日はこちらのブログを時々見て頂いていると云う方からプロ用のビデ
オ・コンバーターが安価でネットオークションに出ているとの情報を頂いた。 今回の物が日本仕様
ならそれらの物が使えたのだが。 偶々今日は米国仕様の物を米国に5台発注した。 昔はネット
オークションも毎日可也熱心に眺めていたがこのところは出品を依頼され出す事は時々有るが見
ることは無くなりこんな物が出ていると知人達から知らされることが殆どとなった。
2月3日 一連の作業を終えたので組み上げ動作試験を行った。 先日地デジでNHKを受像してい
た際には垂直方向の不安定さは診られなかったのでこれで良しと考えていたが今日改めて動作
を診てみたが垂直の位置が下の画像の様にズレることがあった。
2月6日 何とも気になったので回路を見直したが同期増幅のグリッドが常に+電位となっており
プレート負荷も2KΩ+3KΩ=5KΩと非常に小さなものだった。 通電しながら各電極の信号が当
れる様エクステンダーを用意し、先ずは同期回路に使われている真空管のgmを診てみた。
映像増幅と同期分離を担っているV5(6AW8A)の5極管部はギリギリMini.Valueだったが3極管部
は6/20と殆ど使えないレベルだった。 次に同期増幅のV4(5U8/5EA8)の3極管部は36/46、5極
管部は19/28と最低値を可也割っていた。
これらを交換した結果状態はドラスティックに変わり、同期は非常に安定となった。
30分程ランニングしてみたが全く問題は診られなかった。
細かいことだがファイン・チューニングのシャフト部分がチャンネル・セレクタのシャフトと固着して
いた為にこの機種に取り掛かった日に割れて仕舞っていたがその部分も直すことにした。
今回ビデオ・コンバーターからの信号しか扱わず3、或いは4CH固定となるのでファイン・チュー
ニングは殆ど使わないが矢張り完全にしておいた方が良いと思い直した。 念の為金属のバン
ドをMさんが作ってくれたがピッタリだった。
2月8日 発送前の最終動作確認を行った。
現在の物の様に安定した動作は望めず、この時代の物には温度上昇と共に再調整が必要となる
水平同期や垂直同期の調整ツマミやファイン・チューニングが用意されている。
2月10日 ご依頼主から無事受け取り動作を確認したが良好だったと実際の画像を添えてご報告
頂いた。 一安心したので久し振りに(普段禁止されている)大好物を食べに行くことにした!