■ 第166回直木賞を『塞王の楯』で受賞した今村翔吾さんのデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(祥伝社文庫2021年第20刷)を読み終えた。
**「拙者は折下左門と申す者。主君戸沢考次郎様の命を受け罷り越しました。是非とも当家にお迎えしたい」
源吾が住むおんぼろ長屋に、立派な身なりの侍が使者として訪れた。(中略)
「松永殿のお力が必要なのです」**(13頁)
壊滅的な状態となった出羽新庄藩の火消し組の再生を託された男、松永源吾。組織の一からの立て直し、まずは人材確保から。
主要なメンバーが火消し組に加わってきた経緯がそれぞれ章立てされ、短編として成立するのではないかと思われるほどの密度をもって描かれる。膝の故障を抱えている「土俵際の力士」、軽業師で惚れた女のために借金をしている「天翔ける色男」、引きこもりの天才的な学者「穴籠りの神算家」。
再スタートした火消し組、ぼろ鳶組と揶揄されるような集団でメンバーに加わった彼らがそれぞれの個性、能力を発揮して江戸の大火で活躍するようになっていく・・・。物語の後半は江戸のまちで火災を頻繁に発生させる火付けを探すというミステリアスな展開。
物語の起伏がかなり「増幅」されて描かれているのは、映画にも見られる今時の流れか。
火消し組の頭・源吾を支える妻の深雪はしっかり者、実に魅力的な女性で存在感がある。夫を励ます深雪のことばに涙。このことを追記しておきたい。
作者の応援メッセージを次のように読み取った。ぼろを纏っていたって心は熱く! 人生決して諦めちゃ、いけねぇ。
江戸の消防事情について詳しく書かれているのもうれしかった。
追記:2023.02.01再読