■ 既に着工してしまったが、私はリニア新幹線は全く必要ないと思っている。このことについては既に書いた。過去ログ 過去ログ2
その中のある記事を私は次のように結んだ。 **もっと速く社会からもっとゆっくり社会への転換。「狭い日本 そんなに急いでどこへ行く」 20年後、リニア中央新幹線は時代のニーズに全く合わなくなってしまっているかもしれない。**
『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか』石橋克彦(集英社新書2021年)を読んだ。リニア新幹線は、要するに今現在2時間半で結んでいる東京・大阪間を1時間で結ぼうというプロジェクト。
著者は「はじめに」で**経済成長を至上とする集中・大規模・高率・高速などの論理から脱却し、分散・小規模・ゆとりなどを大事にする社会**(10頁)がこれから(ポストコロナ)の望ましい社会だとし、リニア中央新幹線を「時代錯誤」だと断じている。我が意を得たり、全くその通りだと思う。
このことについて著者は**今回のパンデミックは後述のように現代文明が必然的に招いた厄災であり、ポストコロナでは私たちの暮らしや社会のあり方を根本的に変えなければいけない。**(173頁)と指摘した後、もう一度繰り返し書いている。
地球の有限な資源による無限な経済成長などあり得ないと、多くの人がとうに気がついていたと思う。それを無視してひたすら右肩上がりの経済成長を目指してきた結果が招いた地球温暖化、地球環境破壊。それが例えば集中豪雨となって日本だけでなく、世界の都市(中国やドイツで発生した大規模な水害が報じられたばかり)を襲っている。新型コロナウイルス禍も自然環境破壊(具体的には森林破壊)などによって未知のウイルスが人間社会に引き出されたことによる厄災だろう。
私はリニア新幹線に社会的な必要性など全くない、という認識はずっとあったが、地震に対する安全性についての懸念はいままでそれ程強く抱いてはいなかった。本書の第1部で、著者(石橋克彦氏は地震学が専門)はリニア新幹線が地震に対していかに危険であるかを詳細に論じている。第1部を読んでリニア新幹線の危険性を認識した。
第1部の章立ては次の通り。
第一章 リニア新幹線とは何か
第二章 地震危険性を検討しなかったリニア計画
第三章 活断層が動けばリニアは破壊する
第四章 南海トラフ巨大地震から復旧できるか
「黒部の太陽」という映画では黒四ダムの建設資材を運ぶための大町トンネル掘削でぶつかった破砕帯との苦闘が描かれている。大量出水のシーンで主演の石原裕次郎は本当におぼれそうになったそうだ。リニア新幹線は活断層の密集地帯のトンネルを走る(*1)。巨大地震、トンネル内で緊急停止したリニア新幹線を大量出水が襲う・・・、こんなシーンをイメージするのは容易だ。
真っ暗な避難路を何キロも歩いて、やっと地上に出られた、と思ったら厳寒の南アルプスだったら・・・。夜の雪山を濡れた軽装で下る・・・、崖崩れ、落石・・・。
たった1時間半の短縮のために・・・。こんなことはパニック映画の世界、現実には起こり得ない、という認識は改めなくてよいだろうか。
*1 **リニア中央新幹線は南海トラフ巨大地震の強震動域および地殻変動域を通り、何本もの第一級活断層をトンネルで横切っていて、地球上で一番危険度の高い地帯に建設されているといっても過言ではない。**(205頁)