透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

2021-07-20 | A 読書日記

 『弥勒の月』あさのあつこ(光文社文庫2008年)を読み終えた。

物語はひとりの女が橋から身投げするところから始まる。この橋は『本所おけら長屋』畠山健二(PHP文芸文庫)のおけら長屋のすぐ近く、竪川に架かる二ッ目之橋。おそらく長屋から歩いて1,2分。また、藤沢周平の『橋ものがたり』に収録されている「約束」で、幼なじみのふたりが再会を約束する場所の萬年橋は竪川のおよそ1キロ南を流れる小名木川に架かっている。これは余談。

身投げしたのは小間物問屋遠野屋主人・清之介の妻・おりんだった。ただの身投げではない・・・。背後の闇を追い始める同心・小暮信次郎と岡っ引き・伊佐治。作者はこの3人の主要人物の心理描写に力点を置きながら物語を展開させていく。続けざまに起こる殺人事件。執念ともいえる信次郎の追求によって暴かれる清之介の驚きの過去。意外な結末。

極端に思える人物造形、漂うサイコな雰囲気、ラストの性急な種明かし。ただしこれは好みも関係する、あくまでも個人的な感想。人気作家初めての時代小説だという本作は人気が高く、『夜叉桜』『木練柿』『東雲の途』・・・、とシリーズ化されている。

さて、『夜明け前』の4巻。いや一旦小説から離れて『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震』石橋克彦(集英社新書2021年)を読む。