■ 紀行作家としての宮脇俊三さんの作品ではデビュー作の『時刻表2万キロ』(河出書房新社1978年)が有名だが、私は他の作品も読んできた。北 杜夫の隣の住人ということにも親しみを感じていた。宮脇さんが北さんに隣の土地を紹介した、と何かで読んだ。
以前火の見櫓が出てくる文学作品を挙げたが、宮脇さんの『旅の終りは個室寝台車』(新潮社1984年発行)に収録されている、山陰本線を門司から福知山まで18時間もかかる鈍行列車の旅「にっぽん最長鈍行列車の旅」にも出てくることに気がついた。
以下にそのくだりを引用する。**益田を過ぎるあたりから石州瓦が目立ってきた。光沢のある赤褐色の瓦である。「赤褐色」では言い尽せない、もっと渋くて艶めかしい、いい瓦で、これを見るたびに、ああ石見に来たなと思う。
白い漁船が数隻繋留された小さな漁村がある。石州瓦の家々が軒先を重ねるようにして肩を寄せ合っている。わずかな空地に火の見櫓が立ち、その下で子どもたちが遊んでいる。亡くなった谷内六郎さんの絵を見る思いがする。**(20頁)
宮脇さんも車窓を流れる風景に火の見櫓を見つけることがあったのか・・・。それにしてもすばらしい観察眼。やはり紀行作家の眼は違うなぁ。