竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌1027から集歌1031まで

2020年10月12日 | 新訓 万葉集
集歌一〇二七 
原文 橘 本尓道履 八衢尓 物乎曽念 人尓不所知
訓読 橘し本(もと)に道踏む八衢(やちまた)に物をぞ念(おも)ふ人に知らそす
私訳 橘の木の下にある道の人が踏み通る八つの分かれ道のように、あれこれと物思いにふけることよ。その相手には判ってもらえないのに。
左注 右一首、右大辨高橋安麻呂卿語云 故豊嶋采女之作也。但或本云三方沙弥、戀妻苑臣作歌也。然則、豊嶋采女、當時當所口吟此謌歟。
注訓 右の一首は、右大弁高橋安麻呂卿が語りて云はく「故(いにし)への豊嶋采女の作なり」といへり。但し、或る本に云はく「三方沙弥が、妻の苑臣に恋して作れる歌」といへり。然らば則ち、豊嶋采女、時に当たり所に当たり口吟し此の歌を詠へりか。

十一年己卯、天皇遊猟高圓野之時、小獣泄走堵里之中。於是適値勇士生而見獲。即以此獣獻上御在所製謌一首  獣名俗曰牟射佐妣
標訓 (天平) 十一年己卯、天皇(すめらみこと)の高圓(たかまど)の野に遊猟(みかり)し時に、小さき獣堵(かき)ある里の中(うち)に泄走(せつそう)す。ここに適(たまたま)勇士に値(あ)ひて生きて獲えらるを見る。即ち以つて此の獣を御在所(おはしますところ)に獻上(たてまつ)るに製(つく)れる謌一首  獣の名は俗に曰はく「牟射佐妣(むささび)」といへり。
集歌一〇二八 
原文 大夫之 高圓山尓 迫有者 里尓下来流 牟射佐此曽此
集歌1028 大夫之 高圓山尓 迫有者 里尓下来流 牟射佐此曽此
訓読 大夫(ますらを)し高円山(たかまどやま)に迫(せ)めたれば里に下(お)り来(け)る鼯鼠(むささび)ぞこれ
私訳 立派な男達が高円山で追い詰めたので、里に下りて来たムササビは、これです。
左注 右一首、大伴坂上郎女作之也。但、未逕奏而小獣死斃。因此獻歌停之。
注訓 右の一首は、大伴坂上郎女の作なり。但し、未だ奏(そう)を逕(へ)ぬに小さき獣死斃(たふ)れぬ。因りて此の歌を獻(たてまつ)ることを停(とど)む。

十二年庚辰冬十月、依太宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍、幸于伊勢國之時、河口行宮内舎人大伴宿祢家持作謌一首
標訓 (天平)十二年庚辰冬十月、太宰少貳藤原朝臣廣嗣の謀反(むはん)し軍(いくさ)を發(おこ)せるに依りて、伊勢國に幸(いでま)しし時に、河口の行宮(かりみや)にして内舎人大伴宿祢家持の作れる謌一首
集歌一〇二九 
原文 河口之 野邊尓廬而 夜乃歴者 妹之手本師 所念鴨
訓読 河口(かはくち)し野辺(のへ)に廬(いほ)りに夜の経(ふ)れば妹し手本(たもと)しそ念(も)ゆるかも
私訳 河口の野辺に仮の宿りをして、夜が更けていくと奈良の京に残した愛しい貴女の手枕をしきりに思い出します。

天皇御製謌一首
標訓 天皇の御(かた)りて製(つくら)しし謌一首
集歌一〇三〇 
原文 妹尓戀 吾乃松原 見渡者 潮干乃滷尓 多頭鳴渡
訓読 妹に恋ひ吾(あが)の松原見わたせば潮干(しほひ)の潟(かた)に鶴(たづ)鳴き渡る
私訳 愛しい恋人を恋しく思う吾、その吾の松原から見渡すと、潮干の潟に鶴が鳴きながら飛び渡って行く。
左注 右一首、今案、吾松原在三重郡、相去河口行宮遠矣。若疑御在朝明行宮之時、所製御謌、傳者誤之歟。
注訓 右の一首は、今案(かむが)ふるに、吾の松原は三重郡(みへのこほり)にあり、河口の行宮を相去ること遠し。若(けだ)し疑(うたが)はらくは、朝明(あさけ)の行宮に御在(おはしま)しし時に、製(つく)りましし御謌して、傳へる者(ひと)誤れるか。

丹比屋主真人謌一首
標訓 丹比屋主真人の謌一首
集歌一〇三一 
原文 後尓 之乎思久 四泥能埼 木綿取之泥而 将住跡其念
訓読 すぎしのちこれを思はく四泥(しで)の崎(さき)木綿(ゆふ)取り垂(し)でに住(すみ)しとそ念(も)ふ
私訳 後になれば、此の場所を思い出すでしょう。四泥の崎で幣を垂らしてお住まいになられた跡だと思い浮かべるでしょう。
左注 右案、此謌者、不有此行宮之作乎。所以然言、勅大夫、従河口行宮還京、勿令従駕焉。何有詠思泥埼作謌哉。
注訓 右は案(かむが)ふるに、此の謌は、此の行宮の作にあらざるや。然(しか)言ふ所以(ゆえん)は、大夫(まへつきみ)に勅(みことのり)して、河口の行宮より京(みやこ)に還らしめ、駕(いでまし)に従(したが)はしめることなし。何そ思泥(しで)の埼を謌に作りて詠(うた)ふことあらむ。

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