歌番号一二三〇
原文 加部之
読下 返し
原文 由幾安幾良乃美己
読下 行明のみこ(行明親王)
原文 也万布可美安留之尓々太留宇部幾遠者美衣奴以呂止曽以不部可利个留
和歌 やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
読下 山深み主人に似たる植ゑ木をば見えぬ色とぞ言ふべかりける
解釈 棕櫚の木は常緑で風や霜にも色変わりしません、と貴方は言いますが。この山深い庵に住む、その棕櫚の主となる私に似るのですと、植木は仏門の無色界のものと言うべきでしょう。
歌番号一二三一
原文 於保為奈留止己呂尓天飛止/\佐遣多宇部个留川以天尓
読下 大井なる所にて、人々酒たうべけるついでに
原文 奈利比良乃安曾无
読下 なりひらの朝臣(在原業平)
原文 於保為可者宇可部留不祢乃加々利飛尓遠久良乃也万毛奈乃三奈利个利
和歌 おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
読下 大井河浮かべる舟の篝火に小倉の山も名のみなりけり
解釈 嵯峨の大堰川に浮かべる舟の漁りの篝火に照らされ、お暗いと称される小倉の山も姿を見せて、お暗らの山とは名ばかりでした。
歌番号一二三二
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止毛
読下 詠み人も
原文 安春可々八和可三比止川乃布知世由部奈部天乃与遠毛宇良美川留可奈
和歌 あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
読下 飛鳥河我が身一つの淵瀬ゆゑなべての世をも恨みつるかな
解釈 この世の移り変わりの例えとなる飛鳥河、その飛鳥河ではありませんが、我が身一人の気持ちの浮き沈みのせいで、常の人のように貴女との男女関係のことで貴女を恨んでしまうのです。
歌番号一二三三
原文 於毛不己止者部利个留己呂之可尓万宇天々
読下 思ふ事侍りけるころ、志賀に詣でて
原文 与美飛止毛
読下 詠み人も
原文 与乃奈可遠以止比可天良尓己之加止毛宇幾三奈可良乃也末尓曽安利个留
和歌 よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
読下 世の中を厭ひがてらに来しかども憂き身ながらの山にぞ有りける
解釈 世の中を厭う気持ちを持ちながら志賀寺にやって来ましたが、琵琶湖に浮く、その言葉とは違い、私は憂き身ながらも、志賀寺は山中にありました。
歌番号一二三四
原文 知々波々者部利个留飛止乃武寸女尓志乃比天加与比者部利个留遠
幾々川个天加宇之世良礼者部利个留遠川幾比部天加久礼和多利計連止
安女布利天衣万可利以天者部良天己毛利為天者部利个留遠
知々波々幾々川个天以可々者世武止天
由留春与之以比天者部利个礼者
読下 父母侍りける人の女に忍びて通ひ侍りけるを
聞きつけて、勘事せられ侍りけるを、月日経て隠れ渡りけれど、
雨降りて、えまかり出で侍らで、籠もりゐて侍りけるを、
父母聞きつけて、いかがはせむとて、
許すよし言ひて侍りければ
原文 与美飛止毛
読下 詠み人も
原文 志多尓乃美者比和多利川留安之乃祢乃宇礼之幾安女尓安良八留々加奈
和歌 したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
読下 下にのみはひ渡りつる葦の根のうれしき雨にあらはるるかな
解釈 地面の下だけに生えて延ばす葦の根が雨に降られて根が表に出る、私は嬉しいことに雨に降られて密に妻問うことが露見してしまいました、(が、許されて親の許しの妻問いとなりました。)