歌番号一二六〇
原文 加部之
読下 返し
原文 武己
読下 むこ(婿)
原文 加寸奈良奴三乃美毛乃宇久於毛本衣天満多留々万天毛奈利尓个留可奈
和歌 かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな
読下 数ならぬ身のみ物憂く思ほえて待たるるまでもなりにけるかな
解釈 物の数にも入らない我が身なので、婚姻の申し込みで断られることに気が重かったのですが、そのような私が、婚姻の申し込みを待たれる身までになったのですね。
歌番号一二六一
原文 徒祢尓久止天宇留佐可利天加久礼个礼八川可八之个留
読下 常に来とて、うるさがりて隠れければ、つかはしける
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 安利止幾久遠止者乃也末乃保止々幾寸奈尓加久留良无奈久己恵者之天
和歌 ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして
読下 有りと聞く音羽の山の郭公何に隠るらん鳴く声はして
解釈 鳴き声でそこに居ると気が付くことが出来る音羽山のホトトギス、さて、貴女はなぜ隠れているのですか、隠れている物音はしていますよ。
歌番号一二六二
原文 毛乃尓己毛利多留尓志利多留飛止乃川本祢奈良部天
世宇可川遠己奈比天以徒留安可川幾尓以止幾多奈計
奈留之多宇川遠於止之多利个留遠止利天
徒可者寸止天
読下 物に籠もりたるに、知りたる人の局並べて、
正月行ひて出づる暁に、いと汚げ
なる下沓を落としたりけるを、取りて
つかはすとて
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 安之乃宇良乃以止幾多奈久毛三由留可奈々美者与利天毛安良八左利个利
和歌 あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり
読下 足の裏のいと汚くも見ゆるかな浪は寄りても洗はざりけり
解釈 葦の生えている浦が汚く見えるように、下沓から足の裏が汚く見えますよ、きっと、浦に浪が打ち寄せて洗わないように、下沓を洗わなかったからでしょうね。
歌番号一二六三
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 飛止己々呂堂止部天三礼者之良川由乃幾由留万毛奈保比左之可利个利
和歌 ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり
読下 人心たとへて見れば白露の消ゆる間もなほ久しかりけり
解釈 人の心はすぐに変わる、例えへてみれば、白露が朝にすぐに消える、その短い間でさえも長いと思うほどですから。
歌番号一二六四
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 与乃奈可止以比川留毛乃可加遣呂不乃安留可奈幾可乃本止尓曽安利个留
和歌 よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける
読下 世の中と言ひつるものかかげろふのあるかなきかのほどにぞ有りける
解釈 これが男女の関係と言うものでしょうか、陽炎がきらめきたつそれがあるか、きえるかほどの、頼りない儚さです。