歌番号一二二五
原文 越止己乃毛乃尓万可利天布多止世許安利天万宇天
幾多利个留遠本止部天乃知尓己止奈之比尓
己止飛止尓奈多川止幾々之波末己止奈利个利止
以部利个礼者
読下 男のものにまかりて、二年ばかり有りてまうで
来たりけるを、ほど経て後に、事無しびに、
異人に名立つと聞きしは、まことなりけり、と
言へりければ
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人しらす
原文 美止利奈留万川本止寸幾者以可天可者志多波者可利毛々美知世左良无
和歌 みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
読下 緑なる松ほど過ぎばいかでかは下葉ばかりも紅葉せざらん
解釈 常緑である松、待つことが長く過ぎては、常緑の松と言ってもその下葉だけでも紅葉しないことがあるでしょうか、(私も他の女に目移りすることはありますよ。)
歌番号一二二六
原文 奈幾於无奈与従乃美己乃々知乃和左世武止
天本多以之乃寸々遠奈无美幾乃於本以万宇知幾三毛止女者部留止
幾々天己乃寸々遠々久留止天久者部者部利个留
読下 故女四内親王の後のわざせむとて、
菩提寺の数珠をなん右大臣求め侍ると
聞きて、この数珠を贈るとて、加へ侍りける
原文 志无衣无保宇之
読下 真延法師
原文 於毛比以天乃个无利也万佐武奈幾飛止乃本止个尓奈礼留己乃美々波幾美
和歌 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
読下 思ひ出での煙やまさむ亡き人の仏になれるこのみ見ば君
解釈 亡くなった人が火葬されて、貴方の思い出、その大いなる火で、魂を天に運ぶ煙は大いに勢いを増すでしょう、その亡くなった皇女が仏になることを願い、念仏するこの木の実の数珠を見てください、右大臣の君。
歌番号一二二七
原文 加部之
読下 返し
原文 美幾乃於本以万宇知幾三
読下 右大臣
原文 美知奈礼留己乃美堂従祢天己々呂左之安利止美留尓曽祢遠者満之个留
和歌 みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
読下 道なれるこの身尋ねて心ざし有りと見るにぞ音をばましける
解釈 仏道の仏と成れると念仏する木の実の数珠を、この我が身は探し求め、ここにありますとの、貴方の皇女の弔いへの志があることに会いますと、亡き人を偲んで泣く声は、一層に増してきます。
歌番号一二二八
原文 佐多女多留女毛者部良寸比止利布之遠乃美寸止
於无奈止毛多知乃毛止与利堂者不礼天者部利个礼者
読下 定めたる妻も侍らず、一人臥しをのみす、と、
女友だちの許より戯れて侍りければ
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人しらす
原文 伊川己尓毛三遠者々奈礼奴可个之安礼者布春止己々止尓比止利也者奴留
和歌 いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
読下 いづこにも身をば離れぬ影しあれば臥す床ごとに一人やはぬる
解釈 どこにいても我が身を離れない影がありますので、その影があるので夜ごとに臥して寝る床でも、独り寝ではありませんよね。(でも、日の光の影ではなく、人の影=恋人を持ちなさいよ。)
歌番号一二二九
原文 世武左為乃奈可尓寸呂乃幾於以天者部利止幾々天
由幾安幾良乃美己乃毛止与利比止幾己比尓
川可八之多礼者久波部天川可者之个留
読下 前栽の中に棕櫚の木生ひてはべると聞きて、
行明親王のもとより一木乞ひに
つかはしたれば、加へてつかはしける
原文 志无衣无保宇之
読下 真延法師
原文 加世之毛尓以呂毛己々呂毛加者良祢八安留之尓々多留宇部幾奈利个利
和歌 かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
読下 風霜に色も心も変らねばあ主人に似たる植ゑ木なりけり
解釈 貴方様が求めたこの棕櫚の木は常緑で風や霜にも色変わりしません、そのように貴方を尊敬する私の気持ちも常盤に変わりませんので、その貴方に相応しい植木になるでしょう。