歌番号一二四〇
原文 者之女天加之良於呂之者部利个留止幾毛乃尓加幾
徒遣者部利个留
読下 初めて頭下ろし侍りける時、物に書き
つけ侍りける
原文 部无世宇
読下 遍昭
原文 堂良知女者加々礼止天之毛武者多万乃和可久呂可美遠奈天寸也安利个无
和歌 たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
読下 たらちめはかかれとてしもむばたまの我が黒髪を撫でずや有りけん
解釈 私の母親は、このように出家して髪を落とせと、真っ黒な私の黒髪を撫でた訳ではないでしょう。(仏門に入って、親子の縁を切るとはおもってもいなかったでしょう。)
注意 建前での出家した僧侶は、すべての現世の縁を切ることになっています。
歌番号一二四一
原文 美知乃久尓乃加美尓満可利久多礼利个留尓堂計久満乃
末川乃加礼天者部利个留遠三天己末川遠宇部徒
加世者部利天尓武者天々乃知万多於奈之久尓々万可利
奈利天加乃左幾乃尓武尓宇部之末川松遠美者部利天
読下 陸奥守にまかり下れりけるに、武隈の
松の枯れて侍りけるを見て、小松を植ゑ継が
せ侍りて、任果てて後、又同じ国にまかり
なりて、かの前の任に植ゑし松を見侍りて
原文 布知八良乃毛止与之乃安曾无
読下 藤原もとよしの朝臣(藤原元善)
原文 宇部之止幾知幾利也志个无多計久万乃末川遠布多々比安日美川留可奈
和歌 うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
読下 植ゑし時契りやしけん武隈の松を再び遇ひ見つるかな
解釈 植えた時は、私はまたやって来て見ようと誓っただろうか、そのつもりはなかったけれど、この武隈の松を再び遇い見たことです。
歌番号一二四二
原文 布之美止以不止己呂尓天曽乃己々呂遠己礼可礼与三个留尓
読下 伏見といふ所にて、その心をこれかれ詠みけるに
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人しらす
原文 寸可者良也布之美乃久礼尓三和多世八加寸美尓満可不遠者川世乃也末
和歌 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
読下 菅原や伏見の暮に見わたせば霞にまがふ小初瀬の山
解釈 菅原氏の本拠の伏見の里、その言葉の響きのような、臥し見ではありませんが、暮れに庵に臥して周囲を見渡すと、彼方に霞におぼろな初瀬の山並みが見えます。
歌番号一二四三
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人しらす
原文 己止乃者毛奈久天部尓个留止之川幾尓己乃者留多尓毛者奈八佐可奈无
和歌 ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
読下 言の葉もなくて経にける年月にこの春だにも花は咲かなん
解釈 貴女からの言の葉、文への返事も無く過ぎ去った年月ですが、この春だけでも花が咲くように、言の葉、恋焦がれる文への返事があることを願います。
歌番号一二四四
原文 三乃宇礼部者部利个留止幾徒乃久尓々満可利天寸三
者之女者部利个留尓
読下 身の愁へ侍りける時、津国にまかりて住み
始め侍りけるに
原文 奈利比良乃安曾无
読下 業平朝臣(在原業平)
原文 奈尓者徒遠遣不己曽美川乃宇良己止尓己礼也己乃与遠宇三和多留布祢
和歌 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
読下 難波津を今日こそ御津の浦ごとにこれやこの世を憂みわたる舟
解釈 難波津を、今日、やっと見る、その言葉の響きのような御津の浦ごとに見える海を渡る舟、その言葉の響きのような、私はここでこの世の憂みたる世をわたり経(ふ)るのでしょう。