歌番号 1030
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 佐幾之止幾 奈本己曽美之可 毛々乃者奈 知礼者於之久曽 於毛飛奈利奴留
和歌 さきしとき なほこそみしか もものはな ちれはをしくそ おもひなりぬる
読下 さきし時猶こそ見しかももの花ちれはをしくそ思ひなりぬる
解釈 咲いたとき、だからこそ眺めた桃の花、この花が散ってしまうことは残念なことだと思うようになりました。
歌番号 1031
詞書 帥のみこ、人人にうたよませ侍りけるに
詠人 弓削嘉言
原文 也万佐止乃 以部為者可須美 己免多礼止 加幾祢乃也奈幾 寸恵者止尓美由
和歌 やまさとの いへゐはかすみ こめたれと かきねのやなき すゑはとにみゆ
読下 山さとの家ゐは霞こめたれとかきねの柳すゑはとに見ゆ
解釈 山里の住まいに霞が立ち籠っているが、それでも垣根の柳の枝先はその霞の先に見えます。
歌番号 1032 拾遺抄記載
詞書 春、物へまかりけるに、つほさうそくして侍りける女ともの野へに侍りけるを見て、なにわさするそととひけれは、ところほるなりといらへけれは
詠人 賀朝法師
原文 者累乃々尓 止己呂毛止武止 以不奈留八 布多利奴者可利 美天多利也幾三
和歌 はるののに ところもとむと いふなるは ふたりぬはかり みてたりやきみ
読下 はるののにところもとむといふなるはふたりぬはかりみてたりやきみ
解釈 春の野に野老(ところ)を探すと言うけれど、二人が寝るほどの「ところ」は見つけましたか、貴女たち。
注意 山芋を野老(ところ)と言い、その野老と女同士が野合で寝る「ところ」との言葉遊びです。この時代、僧侶は男性同士の同性愛が前提で、その裏返しの背景があります。
歌番号 1033 拾遺抄記載
詞書 返し
詠人 よみ人しらす
原文 者留乃々尓 保留/\美礼止 奈可利个利 与尓止己呂世幾 比止乃多女尓八
和歌 はるののに ほるほるみれと なかりけり よにところせき ひとのためには
読下 春ののにほるほる見れとなかりけり世に所せき人のためには
解釈 春の野に掘りに掘って探してみたけれど「ところ」はありませんでした、まず、世の有り様に逆らうような人のためには。
注意 「よにところせき」は、掛詞よりも単純に「世に処塞き」と解釈しただけの方が良いようです。
歌番号 1034
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 加幾久良之 由幾毛布良奈无 左久良者奈 満多佐可奴万者 与曽部天毛美武
和歌 かきくらし ゆきもふらなむ さくらはな またさかぬまは よそへてもみむ
読下 かきくらし雪もふらなん桜花またさかぬまはよそへても見む
解釈 空を掻き曇らせて雪も降って来ないだろうか、桜花、まだ、咲かない間は雪を枝に花のように見立てて眺めましょう。
注意 和歌の季節感とお約束は梅の花ですが、意表を突いて桜の花です。