歌番号 1005 拾遺抄記載
詞書 正月に人人まうてきたりけるに、又の日のあしたに、右衛門督公任朝臣のもとにつかはしける
詠人 中務卿具平親王
原文 安可佐里之 幾美可尓保比乃 己比之左尓 武女乃者奈遠曽 計左八遠利川留
和歌 あかさりし きみかにほひの こひしさに うめのはなをそ けさはをりつる
読下 あかさりし君かにほひのこひしさに梅の花をそけさは折りつる
解釈 お会いして飽きることが無い貴方の残した匂いが恋しく思われて、その代わりとして、梅の花を、今朝、折りました。
歌番号 1006 拾遺抄記載
詞書 なかされ侍りける時、家のむめの花を見侍りて
詠人 贈太政大臣
原文 己知布可波 尓本比遠己世与 武女乃者奈 安留之奈之止天 者留遠和寸留奈
和歌 こちふかは にほひおこせよ うめのはな あるしなしとて はるをわするな
読下 こちふかはにほひおこせよ梅の花あるしなしとて春をわするな
解釈 東風が吹いたらいつものように匂いを立たせよ、我が屋敷の梅の花、主が居なくなっても春を忘れないでくれ。
歌番号 1007
詞書 ももそのの斎院の屏風に
詠人 よみ人しらす
原文 武女乃者奈 者留与利佐幾尓 左幾之可止 美留比止万礼尓 由幾乃不利川々
和歌 うめのはな はるよりさきに さきしかと みるひとまれに ゆきのふりつつ
読下 梅の花雪よりさきにさきしかと見る人まれに雪のふりつつ
解釈 梅の花が雪より先に咲いたけれど、それを眺める人はほとんどいなくて、ただ、雪が降る続いている。
歌番号 1008 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 中納言安倍広庭
原文 以尓之止之 祢己之天宇部之 和可也止乃 和可木乃武女者 者奈左幾尓个利
和歌 いにしとし ねこしてうゑし わかやとの わかきのうめは はなさきにけり
読下 いにし年ねこしてうゑしわかやとのわか木の梅は花さきにけり
解釈 去年に根ごと移して植えた私の屋敷の若木の梅が花を咲かせました。
歌番号 1009 拾遺抄記載
詞書 天暦御時、大はん所のまへにうくひすのすをこうはいの枝につけてたてられたりけるを見て
詠人 一条摂政
原文 者奈乃恵呂者 安可寸美留止毛 宇久飛寸乃 祢久良乃恵多尓 天奈々布礼曽毛
和歌 はなのいろは あかすみるとも うくひすの ねくらのえたに てななふれそも
読下 花の色はあかす見るとも鴬のねくらの枝に手ななふれそも
解釈 花の様子を飽きることなく眺めても、貴方たち、鶯がねぐらにする枝には手など触れてはいけない。