歌番号 1055 拾遺抄記載
詞書 延喜御時、南殿にちりつみて侍りける花を見て
詠人 源公忠朝臣
原文 止乃毛利乃 止毛乃美也徒許 己々呂安良波 己乃者留者可利 安左幾与女寸奈
和歌 とのもりの とものみやつこ こころあらは このはるはかり あさきよめすな
読下 とのもりのとものみやつこ心あらはこの巻はかりあさきよめすな
解釈 主殿寮に詰める御用の伴の御奴ども、風流を楽しむ心があるならば、この春ばかりは、朝、桜花散る御殿の庭を掃き掃除するな。
歌番号 1056
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 佐久良者奈 美可佐乃也万乃 加遣之安礼者 由幾止布礼止毛 奴礼之止曽於毛飛
和歌 さくらはな みかさのやまの かけしあれは ゆきとふれとも ぬれしとそおもふ
読下 さくら花みかさの山のかけしあれは雪とふれともぬれしとそ思ふ
解釈 桜花、三笠の山の景色であるなら、雪のように花吹雪が降っても濡れることはないと思います。
注意 山桜の見え方で、山に降る積もる雪と見立てたとしています。正統では三笠、陰、雪、濡れる、の縁語関係で鑑賞します。
歌番号 1057
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 止之己止尓 者留乃奈可女者 世之可止毛 三左部布留止毛 於毛者左里之遠
和歌 としことに はるのなかめは せしかとも みさへふるとも おもはさりしを
読下 年ことに春のなかめはせしかとも身さへふるともおもはさりしを
解釈 毎年のことですが、春の眺めは(桜花の咲くのは今か今かと)急かしいけれど、他方、我が身も年老いて行くとは、気が付きませんでした。
歌番号 1058
詞書 題しらす
詠人 したかふ
原文 止之己止尓 者留者久礼止毛 以計美川尓 於不留奴奈者々 多恵寸曽安利个留
和歌 としことに はるはくれとも いけみつに おふるぬなはは たえすそありける
読下 としことに春はくれとも池水におふるぬなははたえすそ有りける
解釈 毎年に春は来るのですが、池の水に生えるジュンサイ(ねなは)は、摘み取っても摘み取っても絶えず、そこにあります。
歌番号 1059 拾遺抄記載
詞書 三月うるふ月ありける年、やへ山吹をよみ侍りける
詠人 菅原輔昭
原文 者留可世者 乃止遣加累部之 也部与利毛 加左祢天尓本部 也万不久乃者奈
和歌 はるかせは のとけかるへし やへよりも かさねてにほへ やまふきのはな
読下 春風はのとけかるへしやへよりもかさねてにほへ山吹の花
解釈 春風はのどかであって欲しい、八重よりもさらに花びらを重ねて咲き誇る、山吹の花、それを散らすな。