ミャゴラトーリの本年公演(6月6,7,15,16日)は、ドニゼッティの『愛の妙薬』である。娘はこのオペラに随分かかわってきた。昭和音大卒業公演始め何度か出演して歌ってきたし、ミャゴラトーリを設立して最初に取り組んだのもこのオペラであった。だから私にとってもなじみ深い。ただ今回は、岩田達宗氏の演出で、しかもライブハウスで演ずる小劇場オペラであるので、従来のものとは全く違う新しい『愛の妙薬』を観ることができるのではないかと期待している。そこで、特別にお願いして練習風景を見せてもらった。
実にエネルギッシュな練習現場を観て驚いた。岩田氏は自ら演技しながら稽古をつけ、実に細かいところまで指示をし続けていた。指揮をしながらも大声が鳴り響いていた。その様相を観て、私は「オペラは芝居だ」ということを実感した。単にテノールやソプラノが美しい声で歌うだけのものではない。その物語りが伝える何か普遍的なものを、高い演技で表現しようとしているようだ。何を伝えようとしているのだろうか?
農民ネモリーノは地主の娘アディーナを恋い慕うが、アディーナは応えてくれない。そこに現れた薬屋の、「これを飲めばお前の思う人がお前を愛してくれる」というふれこみに騙されて、その妙薬なるものを飲み続ける。妙薬は効果を発揮したのか? 発揮するはずがない。しかし、飲み続けるための金の調達のために軍隊にまで入る、つまり、「命まで懸けた心」にアディーナの心は動く。金でも地位でもない。心なのだ。
惚れ薬の話を、楽しく、大らかに演じながら、愛の普遍性を観衆の中に落とさなければならないのだろう。しかもそれを、歌唱力を通じて伝える芸をオペラというのだろうか? 私にはわからないが、何か崇高なものを表現しようと一丸となっているように見えた。
エネルギッシュな練習風景
メモを取り、大声で指示を続ける岩田氏
自ら演じながら稽古をつける岩田氏