前回「ふぐの鰭酒(ひれざけ)」について書いたが、ひれ酒もふぐ料理があってこその話。日本人はこの料理を好み、どこに行ってもふぐ料理はある。
大阪ではてっちり(ふぐチリ)、てっさ(ふぐ刺)などと呼ばれ(ふぐの毒が「あたる」ことからふぐを鉄砲と呼ぶことからきたらしい)、かなり一般に食べられている。広島でも安くて人気のある料理だった。水揚げ量の多い北九州(特に下関)は、こここぞ本場と豪語している。
その中で、私の生まれた大分県臼杵市は、ひそかに「ふぐの本場」を自負している。
それは、ふぐの食べ方が他所とまったく違うからだ。刺身、ちり鍋、雑炊という形は他所と変わらない。違うのはふぐの肝の食べ方である。ふぐの猛毒はその血のなかに含まれており、血を取り除けば毒にあたることはない。一番難しいのが肝の中の血を取り除くことといわれており、その技術さえあれば肝ほど美味しいものはない。
わが故郷では、ふぐ刺を頼むと白身の刺身とともに握りこぶしぐらい大きい肝の塊が出てくる。それをポン酢醤油などにドロドロに溶かして、それに白身の刺身をまぶして食べる。なんともいえない美味しさだ。そもそも白身だけのふぐは、それほど美味しいものではない。むしろかわはぎやひらめなどの方が美味しいぐらいだ。ふぐの美味しさはその白身より肝にあるのだ。どろどろの肝の味でその白身を食べるから美味しいのだ。
その時の酒は何が良いか?
他地のように白身だけを食べるのなら、味は淡白でもあり大吟醸がいいかもしれない。しかし肝にまぶした刺身となると、酸味の利いた山廃純米吟醸がいい。それも無濾過生原酒ぐらいでないと味で勝てない。
そこまでは冷でよいが、ふぐちりの段階になると純米酒の燗酒がよくなる。これも山廃純米のぬる燗がいい。前回、ひれ酒の熱燗について書いたが、熱燗では料理の味がわからなくなり、ふぐの味を味わうにはぬる燗(せいぜい42,43度)がいいだろう。酒の味も料理の味も味わえる限度は45度どまりではないか?
ふぐ雑炊を終えて、なお一口飲みたいというのであれば、きりっとした焼酎にするしかあるまい。わが九州には、それに適した焼酎がごまんとある。
その意味からも臼杵は「ふぐの本場」と自負している。(なお、これについては臼杵に住む三弟が”ふぐを食べるプロ”を自認しているので、何らかのコメントが付いてくるかもしれない。)